表の観光ガイドはあんまりにつまんない。そう思いませんか?
そこで、当社は適当に選んだ町の住人に自分たちの暮らす町について、ご自身の言葉で紹介していただくことにしました。どうぞ生のフクオカの姿をご堪能ください。
---Arthur Chang the prducer of Fukuoka-Walkthrough
| ハカタ・ダウンタウン |
博多湾沿岸
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| フクオカ南部、西部 |
| フクオカ近辺 |
李吉三---屋台経営者(2017- )
ハカタ生まれのハカタ育ち。2035年、愛国心を表明するため若気のいたりで軍に入る。2037年のカリフォルニア出動に参加。帰国後予備役となり調理師免許取得。2042年より「屋台小料理よぞら」の老主人を手伝う。2050年、同屋台を引き継ぎ、「よぞら」の三代目店主となって今日にいたる。 |
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最近もきなくさいうわさは聞きますがね、あたしがこの店に見習いで入ったころはそりゃあもうヤクザの戦争が激しくってね。店の前で3人立て続けに射殺される、なんてこともありました。犯人のやくざはそのままうちの店にきましてね、警察が来るまで焼酎をちびちび飲みながら亡くなった赤城さん・・・当時のマスターとなにごともなかったみたいに世間話をしたもんです。あたしも戦争から帰ってきて間がなかったもんで、ちょっとやそっとのことじゃ動じない自信はあったんですが、こればっかりは真似できんなぁ、かなわんなぁ、と思いましたよ。 まあ、そんなことはそれからこっち、さすがにありませんでしたが、そのヤクザや赤城さんと同じ人種は何人もうちのベンチで見かけたもんです。目というか、背中というか、まとっている空気がサラリーマンのお客さんと全然違うんですわ。いやもちろん、いつもそういうお客さんがいる、ってわけじゃありませんよ。いつもは普通のお客さんばかりです。中にはあそこのでっかいインテリジェントビルの奥にいるような秘書のお嬢さんもいて、それはそれなりに楽しいお話をきかせていただけます。 中には歓迎できない客もいます。酔っ払ったほかのお客さんの懐を狙うやつとか、飲みすぎのお客さんを送り狼しようとする手合いです。みかじめはらってる組にそういう店の評判を落とすようなちんぴらをなんとかしてくれ、とお願いしても完全にいなくなったりはしない。こまったものです。 蛇頭? ああ、違いますよ。そういう仕事は日本語が堪能でないといけない。人間ってな変なもので同じ言葉をしゃべる相手には気を許しがちなもんです。蛇頭の中国人やくざたちではつとまりません。まあ、彼らに借金のある日本人かも知れませんがね。うちの店に来る中国人のお客さんはまっとうな商社の人間か、官僚で紳士的な人ばかりです。中には酒癖の悪い人もいますがね。蛇頭のやくざたちは空港のほうのカワラで飲んでると思いますよ。 いろいろしゃべっちまいましたが、あまりのみ過ぎず、お帰りにはあまりさびしい道を一人でゆかない。これだけ気をつけていただければ実はこのあたりはかなり安全ですよ。どうぞいらしてくださいね。 |
鈴木淳子---もぐり医者(2025- )
出身地不明。首都圏の大学で医師の資格を取得したらしい。2055年頃より看板なし口コミのみ、保険なしの鈴木クリニックを開業。当局の目をかわすため、少なくとも3度、診療所を移転する。もぐり医者にしては腕は確かで信望も厚い。医術のほかに魔法の心得もあるらしく、患者のふりをしてやってきた強盗が返り討ちにあったこともある。
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この町はいい町だよ。時々わたしのカネとついでにカラダを狙うバカがいるけどね。むかしちょっと住んでた新宿自由区にちょっと似てるけど、あそこよりのどかだね。まあ、カワった人たちにとっちゃあっちのほうがいいかも知れないな。あっちはいっつもぎらぎらしてるけど、カワり者だからって住むところを決められるわけでもないし、カネさえあればカワってようとカワってなかろうとあんまり関係ないからね。こっちに比べりゃ、差別なんてないも同然だ。 おっと、話がそれちまったね。この町の話だった。あはは。 わたしは医者だ。それももぐりだ。だからわたしのところにやってくる患者について話そう。 一番多いのは不法滞在の外国人、それにカワった連中だね。カワった連中といっても見かけはカワってないように見える。そう、つまり外見をいじってカワってないように見せるのが仕事ってことさ。まあ、ものには限度があるからお断りする客もいるけどね。最近はナノマシンのいいのが出てきて、外見調整までやってくれるらしい。ばかっ高いのが玉にキズだけど、金持ちの客なら調整することもある。不法滞在の外国人の場合は、まあ普通の医者と同じようなことをするのさ。中には重態の子供を連れて来るカネのない母親もいる。たいていは手遅れだ。こういう患者は一番診ててつらいよ・・・本当に。かわいそうな身の上でカネをもっていないからただ、なんてわけにはいかないから余計にね。 あとは普通の病院にかかれないロクでなしどもの治療かな? 指を落としたヤクザの手当ては軽いほうで、はらわたのはみ出した患者を汚い手で乱暴に運んできといて助けないとただじゃすまんと脅すたわけどももいる。何か事件が報じられたすぐ後に、危険な裏仕事を請け負う連中がやってくることも珍しくない。 最近はその手の患者が増えてきてる。早めに看板にして屋台でいっぱいって日がへってきているのはやっぱり最近のきなくさい噂のせいかな? このへんでそれでは少し目立つから、そろそろまた移転しようと思っているところ。 |
幕の内弁当---(2038- )佐賀県出身。高校卒業後、帝国国有鉄道に入社。現在はハカタ駅勤務の駅員。 |
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本名は勘弁してくれ。トシも適当だから、俺がどの駅員かさぐるのは無駄だ。 ハカタ駅にはさまざまな列車がつく。なにもリニア・新幹線だけがハカタにつく列車じゃない。そして列車を使ってさまざまな人間が移動する。うさんくさいのもいればどこにでもいる人間もいる。普通電車やリニア・新幹線以外を利用するやつだっている。一番あきれたのはコンテナに住み着いていた不法入国者たちだ。改造したコンテナに20人ばかりが詰め込まれて、そのまま大阪に輸送されようとしていたらしい。しかし、船の中で別のコンテナに出入り口をふさがれたらしく、コンテナの中は本当にひどいことになっていたよ。生きていたのはまだ十を少し過ぎたばかりの女の子一人だけだった。完全に頭がおかしくなっていたけど。 終電が終わって明かりを落とした駅の近辺も妙だ。もう、貨物列車や回送列車、それに軌道保守用の車両しか動いていないのに道端に座り込んで何か待ってる連中がいる。貨物列車にもぐりこもうとするのならともかく、彼らには彼らなりの何かの用事があるんだろう。時々、くぐもった破裂音が聞こえることもある。駅と軌道に被害を与えない限り、警備の連中は知らんふりだ。 軌道保守工事は大きなものは列車の運行が終わった後にやる。そのときの人足はたいていメタヒューマンだ。夜勤でホームを見回っているときには、よくオークやトロールをのせたトラックがレールの上を走って通り過ぎていくのを見る。あの連中への報酬は最低で、しかも力があるので下手な工事機械を使うより便利らしい。ただ、中には技術を身につけた熟練工のメタヒューマンもいるらしく、夜の人目を気にしない場所では結構おしゃれをしているのを見た。噂では、保線課のぺーぺーはそのような熟練メタヒューマンには頭が上がらないらしい。 ああ、あと何か忘れていないかな? いっぱいあるが、一つひどく気になることがあ。年に1,2回は全駅員が駅舎にこもって1時間は出ていけないという夜がある。このとき駅のホームに出ていいのは、本社からやってきたじいさまばっかりだ。みんなひどく緊張していて、このことについて聞けばどんなに上機嫌なときでも酔っ払っているときでもきつい顔になってしらをきる・・・俺がそれを知るときはくるんだろうか。 |
安心屋---フィクサー(2032- )
出身不明。経歴不明。顔も本名も不明。少なくとも三人のスタッフを使うカワラの切れ者調達屋。 |
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オーケイ、こんなもんでチャラにしてくれるってんだったら喜んでうたってやるぜ。 このへんは騒音問題ですっかりカワラ化しちまった。ふきだまりよ。掃除したくてたまんない連中はいるが、掃除しても騒音のせいで価値の出ないこんな場所に手を出して赤字になくのがオチってもんだ。それがいやなら空軍に出て行けという勇気をもたなっくちゃな。 だがまあふきだまりにゃあふきだまりの価値があるってもんよ。ごちゃごちゃしているせいで人でもモノでも隠すにゃおあつらえむきだ。おまけに人間ってなきれいごとだけじゃできちゃいねえ。あとは目はしさえ聞けばいくらでも商売の余地はある。影の仕事の口入れから非合法品の手配、つきぬ需要の性のサービス。もちろん、気をつけないといつ命からなにから奪い取られることにならんとかぎらん。そうならないためにも油断はできねえ。商売敵はいくらでもわいてくるし、日本人でないやつは特に死に物狂いなやつが多いからな。評判とそいつを維持する実力は落としちゃあいけねえ。 商売のしかただって、俺みたいに頭がよくないとできないものばかりじゃない。影の仕事のプロもいれば情報を盗んで売るやつもいる、ふきだまりには実にいろんなスキルをもったやつが集まるよ。たいていはわけありだがね。 カワラで怖いのは火事だ。なんせ違法建築というか、適当に建てただけのものからここがカワラになる前からある古い建物までごちゃごちゃしているからな。おまけに火がかかっちゃせっかくの財産もぱーになる。俺もカワラの表通りぞいに何軒か飲み屋や飯屋を持っているからこいつは本当に深刻な問題だ。だから・・・笑うなよ・・・カワラは実は消防団が一番しっかりしているんだ。火事になったら、たとえ撃ちあいしていたとしても中断して協力して消化しなきゃなんねえ。「天水桶」とかいて適当な間隔でおいてある消火器を盗むやつは1ブロックと逃げる間もなく頭を焚き火に使っている灯油缶につっこまれる。誰が言い出したわけでもないんだが防災の日には消火訓練までやってる連中もいる。・・・だから笑うなって。 カワラで死んだ場合は後の始末は楽だ。形見分けと称して知り合いでもないやつが全財産処分してくれる。死体は排泄物や生ゴミと一緒に処分だ。埋葬? カワラで死ぬようなやつに墓参りする人間がいるかね? せいぜい髪のひと束なりを故郷に持ち帰れるようとっておくのが関の山だろう。 まあ、カワラで生まれ、育った人間にはそっちのほうがあたりまえなんだがね。 |
李小姫---ジャーナリスト (2041- )
上海生まれ。元傭兵でジャーナリストの父と女性兵士であった母の間に生まれた。首がすわると同時に彼女は父とともに中国およびアジア各地を転々とし、2055年に父がフクオカに腰を落ちつけるまでに実に23回の転居を体験した。母は2047年に西安であって以来、消息不明。2057年、父親が暗殺されるが、その後をついでジャーナリストになることを決意。若年ながら入魂のルポルタージュ「車輪の下--難民とやくざと大企業」および「どんたあく--祭の風景--」を世に放ち、現在3本目の取材中。
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父が殺された時、私はたった16でした。それまでは天神のはずれにある父の古びたスタジオがすまいでしたが、父とともにそのすまいは失われました。このカワラにくらすようになったのはそのとき以来です。 みなさんは、カワラの住人というとどんなイメージを持っているでしょう? 隙を見せれば何かを盗もうとする泥棒のような印象をもっているのではないでしょうか? それは間違ってはいません。貧すれば鈍すと日本のことわざにある通り、貧しさや偏見による差別が彼らの心根を卑しいものに貶めているのです。生きるか死ぬかの瀬戸際に泥棒呼ばわりを恐れるゆとりがあるでしょうか? しかし、同じ「持たざるもの」であれば、カワラの住人はむしろ親切な人たちになります。カワラに移り住んですぐのころ、私も何度か売れ残りをいただいたりしたものです。なにしろそのころ私が住んでいたのは倒壊寸前、というより既に半壊した木造アパートでしたから。 それは罪滅ぼしと、本気だと信じようとしたせいで真摯な情にあふれた不思議に心地よい親切でした。本当に貧しい人になると、メタヒューマンでさえ仲間扱いです。 本当のことを言えば、カワラにも貧富の格差はあります。16の私が移り住んだ場所はスラムとよんでさしつかえないような場所でした。20の私が住んでいるのは同じカワラでもちゃんとしたマンションとなんとかいえそうなところです。家賃が安いために、こういうマンションに住むカワラの外の人も最近は増えているそうです。私に売れ残りの食べ物をわけてくれたあのおばさんは、今なら私に唾をはきかけるでしょう・・・。 カワラの人間を一番嫌悪しているのは、実はカワラの人間です。カワラの人間ほどおたがいに同情や嫉妬や軽蔑や罪悪感を抱きあっている人たちはいません。みなさんがカワラの人たちに抱く先入観や印象は誤っていません。でも、それは自分たちの拡大された姿であるということは覚えておいてください。 |
ヤス---ヤクザ (2035-2061)広島出身。高校時代よりヤマウチ組系の組事務所に出入りし、20で杯を受ける。兄貴分とともに2059年にフクオカにやってきて新しい組の構成員となるも、このインタビューの後、路上で銃撃されて即死。享年26歳。 |
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おやっさんからもらったシマを見た時はびっくりした。なんでこんなぴかいちの場所を・・・と思ったら案の定というか地元のヤクザから奪いとらなきゃいけないらしい。世の中、甘くないと思ったよ。 まあ、いろいろやったよ。表の顔をつぶしては客足が引いてここに店をもっている兄弟分の組からもたたかれる羽目になるのは見えていたから、もっぱら裏路地でね。 よその店の売れっ子ホステスを引き抜こうとしたら、相手の組もうちの組もまんまと利用されるだけされて本人が逃げた、なんてこともあったな。あんときはもうちょっとで指をつめなきゃならなかった。 おまえら、やくざはすぐにきったはったすると思ってるだろうが、それは違うからな。そんなことしてたらあっというまにヤクザがいなくなってしまうぞ。いくら俺たちでもそうバカじゃない。話し合いで解決できるものはちゃんと話し合う。気合は必要だがな。 おかげさんでようやく俺もでっかい店を一つ任されるようになった。きなくさい噂はずいぶん出ているが中洲に限って銃撃戦はないと思ってくれ。女もすぐ食い物にすると勘違いしているようだが、それも違う。もうすぐ広島から高校時代からずっと苦労かけてきた女房とガキがやってくるんだぜ。俺が呼び寄せたんだ。ガキと一緒に風呂にでもはいって少しは父親らしいことをしようかと思ってるんだ。銃撃とか女を食い物とか、そういう商売をだいなしにするようなことをしない何よりの証拠だろ? |
西雄三---バーテン (2016- )
経歴不明。本名不明。中洲のバーを転々として自分の店「クリサンサマム」を構える。 |
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中洲は歓楽街。確かにそうですね。でも、日本では本当に重要なことは酒席で決まることのほうが多いんですよ。私も多くのお客様を見てきました。重大な決定をする立場のかたは、とても責任感が強く、そして少々気の小さな方が多いようです。酒の席で、おたがいの腹の中をうちあけあって、そしてお酒の力を借りてやっと決断に踏み切ることができるんです。これを悪くいう人もいらっしゃいますが、思いますにこれはまことに真摯に仕事に取り組んでいる結果ではないかと思います。そのようなことばかりではないだろうって? それは私の口から申し上げることはできません。 しかし、酒場といえばどうしても女性と切っては切れません。私の店はいまでこそ傷心の女性がお酒で自らを慰める姿にふさわしいところですが、過去に私が仕事をした店の中には高級娼婦のいる店もありましたし、なんといってもホステスのいるお店が多うございました。 私は仕事をしたことはありませんが、接待、あるいは売春する側が男性である店もちらほらとございまして、これが結構もうかっているそうです。いやはや 仕事がらか、私、店のはねたあとなどにそういう女性の愚痴というか身の上話というか、まあそういう話の聞き役をやっておりました。実にま、いろいろな女性がいます。カワラ出身で親もそうであったから水商売しか知らない女性もいれば、男にだまされ借金を背負ったところから這い上がってきた女性もいます。稼いだお金をホスト遊びで散在している金銭感覚の麻痺してしまったひともいました。ヤクザの経営する店ではそれ専門のヤクザがそういう女性を巧みに食い物にしているのを見ました。中州の女性はそれでも上のほうなのですから、場末のほうとなると、どれほど悲惨かわかりません。噂ではカワラなどの中国ヤクザの経営する店では大陸で買い集めた少女たちに売春までさせているといいます。 しかし不思議なことに、一歩ネオン街へと出て見れば、ヤクザも酔漢もそんな女性たちも、みんな包み込んでどこか祭りのような強さと力を感じる場所・・・借金を背負った人が月給の大半をまきあげられつつこき使われているラーメン屋で背負った人生の陰をおしかくして自分を装ったホステスが夜食をいれている、猥雑というより奇妙な神聖ささえ感じるそういう街ですね、中州は。 |
君田まり---マヌカン (2040- )コクラ出身。売り場にたちつつファッションデザイナーを目指し研鑚中。 |
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わたしは天神に住んでいるわけではないので、昼間、それに夜の浅い時間の天神しか知りません。 天神というと親不孝通りや西通り、おいしいお店やおしゃれなお店がたくさん並んでいます。人気のない店はすぐに消えて、新しい店ができます。お休みの日にそういうお店を探してまわるのは本当に楽しいですよ。 楽しいといえばお祭り! どんたくや山笠の時には博多の町全体がなんだか不思議な雰囲気に包まれます。日常とは違うなんだかわからないうきうきするような気持ち。こんなにお祭りで盛り上がる町はほかにはないんじゃないかな。天神はいつもにぎやかだけど、お祭りの時には本当にどこからやってきたのかわからないたくさんの人たちがそぞろあるいています。 でも、そんな天神も夜になってくるとまた雰囲気が変わってきます。夜と昼は違う世界だというのはわかるのだけど、夜の天神はなんだか少し怖いところです。屋台村の賑わいはいいんです。そこから離れた閉じたシャッターばかりのあたりに夜になると出てくるあの人たちは、どこから来るのかしら? ナンパ目的でうろうろしている男の子たちがひどい目にあったという噂も聞きます。夜の天神の裏通り、あんまり迷い込まないほうがいいと思います。 |
かんなぎ悟---路上詩人 (2000- )
出身地不明、自称高貴な家柄の生まれ。天神を徘徊するホームレス。時々、壁や道に自作の詩をスプレーやペンキでかきつける。前衛的だがかなりの達筆。 |
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ぬくぬくとした家、万が一の蓄え、心を癒す家族、そんなものはオレにはない。オレを守るものは何もない。今日は生き延びても明日はみじめに死ぬかも知れない。オレはいつも自分をこの非情の世界にさらしてきた。つまらない思いにとらわれている暇などない。だからオレは都市の声を聞く。あさるゴミ箱の中に誰よりも早く変化を読み取り、寒暖の変化を身に刻んでこの町が世界の一部であることを感じ取っている。 天神は華やかな町だ。だが、それは汚泥の沈殿しただけの上澄みの清らかさに過ぎない。ここに集う人間は魚だ。視界をさえぎる汚濁を嫌って集まった魚だ。だが、上澄みは上澄みに過ぎない。決して清らかな水ではない。だが、人間というものはそういうところではいきていけないのだ。見かけの清らかさとほどほどの穢れこそ人間という魚の好むものなのだ。 そうだな、こんなことがあった。これはまったく最近のことなのだが、テーグというコリアンパブの裏口で残り物をあさっていたところ、黒服の体格のよい男二人が店の女の子を取り押さえて連れ出すのにいきあった。よく見ればまだ若い娘で、おそらくは未成年であったろう。だが、その娘がそのように拉致された理由は未成年だからではない。黒服の男たちはコリア語で「お嬢様」と呼んでいたのだよ。あの娘もそういう穢れにひかれて集まってきた一人なのだろうなぁ。 よく無事だったとな? このテーグという店は国籍を問わずいろいろうさんくさい人物が出いりする店でね、精霊の加護をかけておかなかったらオレもどうなったかわからんかったよ。 |
米沢信二---役人 (2010- )公務員一家の次男として博多に生まれる。当人も一時別の道を志すも結局公務員となり地道に務めてきた。現在、福岡市のさる課の課長。 |
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東京の臨海新都心を真似したんですかなあ、ここ、那の津のオフィス街には福岡市庁と福岡県庁の合同庁舎のほかにも政府の諸官庁の出張所、公社の社屋、公共事業をもっぱらとする企業の営業所、それに海軍の事務所と倉庫、陸軍の連絡事務所、空軍の通信施設なんてものが集まっています。私が子供の頃にはこのへんには工場とか給食センターとかバスの車庫とかいったものばっかりだったのに、ずいぶん変わったものです。 しかし三方が海であるために警備が厳重になったのはありがたいやら迷惑やら、です。庁舎の上がなぜか市営住宅になってまして、ここに住む若い連中はいいのですが、私のように郊外にマイホームがある人間は何か事件があって封鎖されてしまうと出勤が遅れたり、帰りが遅くなったりするんですよ。 |
笠原美香---海軍将校 (2023- )長崎出身。2048年民間会社より転職で海軍入りし、2年間の訓練教育を受けた後、主計将校任官。主な仕事は物資の調達と需要の調査。 |
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海軍将校、といっても民間の資材・物流部門とたいしてかわりません。戦時にはもちろんですが、平時であろうと物資の調達と分配の無駄を極力なくすことが肝心です。市、および県の役人はこの地区の厳重な警備が自分たちを守るためと勘違いしているかも知れませんが、それは勘違いです。と、いってここにある倉庫の中身を守っているわけでもないんです。ここの倉庫には弾薬や武器、整備用の消耗品などはありません。倉庫の中には衣服、食料、日用品、酒保で売るゲームソフトやシムセンスといったものだけです。問題は、それらの物資の流れです。これこそ我が海軍の活動の予定や現状を暗示する貴重な情報であり、この福岡の地で太平洋沿岸の諸国の諜報部がほしがる情報なのです。この情報は何も電子情報やハードコピーだけで流出するものではありません。専門家による観察でも読み取られる危険があるんです。 そのすべてを防ぐことはできないでしょうが、知られても困らない範囲に抑制することは重要です。そういうわけで、この地区の警備は厳重なんです。 私がこんなことをしゃべって大丈夫かって? ふふ、こんなことは知りたい人はもうとっくに知っていることばかりですよ。 |
匿名希望---某国外交官 (2030- )経歴秘密。某国の外交官として福岡に何年か住んでいる。 |
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この町の住人は祭りが好きで、祭りとなるとなんとも異様な盛り上がりを見せる。私の故郷も祭りはにぎにぎしくやるものだが、日本の祭りはなんともあらあらしく・・・野蛮だ。こんな祭りの好きな連中が侵略国家を作るのもまあ不思議ではないと思う。 さて、この町がアジア諸国との接点であるという以上、国家間の腹の探りあいの舞台になっていることは当然であろう。外交官や大使館のスタッフでにはほとんどいないが、地下に潜ったメンバーや一時スタッフには犠牲になったものもいる。だが、それは領事館の近辺では決しておこらないことだ。直接行動に出るスタッフと、領事館につなぎをつけるスタッフは別なのだ。そしてこの近辺は優秀な警察官を配置して監視と問題の予防につとめている。実のところ、わがほうの影のスタッフを容赦なく虐殺する警察も、ことが国際問題にならぬよう時には事件そのものをもみ消すほど気を使っているのだ。われわれがスキャンダルになってほしいと願う事件まで・・・。 |
富田松蔵---警察官 (2017- )神奈川県出身。2035年、高校卒業とともに警察官に採用される。英語が堪能であったため、2038年にカリフォルニアの治安維持のため派遣された警察官の一人に若くして選ばれる。その後、語学の才能を活かしてスペイン語、中国語、コリア語と習得してゆき、海外に通訳をかねて頻繁に派遣される。2059年、国内勤務の希望がかなえられて最後の任地であるフィリピンより帰国。以後、外国領事館の多いこの界隈の警邏をしている。 |
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国内はいいですなあ。いやあ、実にのんびりしている。このあたりも領事館が多く、スパイの類のうさんくさい人の出入りが見られます。しかし、いきなり車で通りすがりに射撃するとか、爆弾テロで車ごと誰かをふっとばそうとするとかといった事件がさっぱりない。年に一つかそこら、身元不明の死体が池をさらったときに出てくるくらいですか。 自分の仕事は治安維持であって防諜活動ではありませんから、うさんくさい人の出入りがあったからといって職務質問以上のことはできません。防諜については別に公安部の専従スタッフがいて、いろいろ監視しているようですな。 もみけし? とんでもない。このあたりは本当に静かで安全です。騒がしいときといえば何がしかのポリクラブがどこかの領事館に抗議行動をとったときくらいですか。 だからといってわれわれが油断しているわけではありません。もし、ここで何事か事件を起こそうというのなら・・・そのときは日ごろの訓練の成果を味わってもらうことになるでしょうな。 |
浜田市子---主婦 (2029- )大阪出身。女子大卒業後、シアワセ社員の夫と見合い結婚。息子一人娘一人の家庭を築く。夫の福岡赴任にともない2059年、能古島のシアワセ・タウンに入居。趣味は社交ダンスとスケッチ。 |
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とても風景のよい島で、これが全部会社のものとは信じられません。子供たちを学校に送り出し、家事を一通り済ませるとどこへ自転車で出かけてもスケッチするものにことかかないんですよ。おまけに会社の警備のかたがしっかり警邏しているおかげで安全ですしね。月の一度は福岡の町にも行くんですが、なんだかあそこはあんまり気を緩められなくって・・・。 町の雰囲気もノスタルジックっていうんですか? 私も知らないような昔の風情に作ってあって、なんだか落ち着きますし、でも古臭いのは外見だけでみんな最新の中身をもっていて昔そのままの不便はございませんのよ。 子供たちの教育にしても、学校の先生は厳しくしつけてくださいますし、不良の子は警備のかたがきちんと正してくださいますから、おかしな音楽に染まる心配もありません。 ・・・まあ、それだけのことをしてもらえるだけの仕事を夫がしていてくれるせいなんでしょう。夫のストレスはそれはもう見ていて痛々しいほどですから。夫はやめたいとぼやいていたこともありますが、やめた人でいいことのあったという噂は聞いたことがありません。夫も本気でやめる気はないようです。こんなちゃんとした生活、そうそう捨てるわけにはいかないですものね。 |
清田聡---暴走族 (2043- )福岡出身。高校中退。バイク店で見習い工員をしながらバイクを愛する仲間とチームを組む。 |
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いや、俺、別にここの住人ってわけじゃないんだけど。ただここをよく仲間とつるんで走ってるだけで。・・・え? それでもいいって? うーん。じゃあここについて知っていることといえば、他にも俺たち同様に走ってる連中がいるってことと、その中には仲のいいのもいれば、どうも顔を合わすと喧嘩ってのがいるってことかな。それと、時々おまわりが網をはっててバイクを壊され、怪我をさせられ、おまけに罰金と称して金まで巻き上げられるやつがいることかな。 俺たちは純粋にバイクでかっとばすのが好きなんだけど、喧嘩する仲のチームの連中もきっとそうなんだろうけど、なんでか後悔しか残らないような喧嘩になってしまう。人間って悲しい生き物だね。喧嘩してるところをおまわりにとっつかまって、どっちも散々小突かれ、殴られてぼろぼろになってるのに留置場でやっぱりつかみ合いになったりする。どうしようもないよね。喧嘩に鉄砲を持ち出したやつもいるらしいけど、そうなったらもう俺は走るのやめるよ。 おまわりはだいたい月末とか年末とか足らないノルマを埋めるために取り締まりをやるからまだわかりやすいんだが、冷やかすのに命がけな場所がある。途中にあるどこかの会社の研究所さ。ここの警備システムはいかれてて、噂じゃ、構内に乗り込んで一周してやろうとしたチームが全員ミンチにされたそうだ。本当にふっと全員いなくなったチームもあるからあながちうそじゃないんだろう。ときどき、そこにごつい装甲車に守られた車が出入りすることもあって、この装甲車が殺すつもりとしか思えない速度でぶつけにきたりするもんだから、思わず道を譲ってしまう。あれをなんとかやっつけてやりたいよ。 |
Michael Woodland---研究職 (2018- )シアトル出身。MIT&Mを卒業後、いくつかの企業を研究者として転々とする。専門は覚醒魚類の生理学。2057年よりソニー・バイオテクスに籍をおき、福岡研究所でさるテーマについて研究を続けている。 |
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福岡はいいところだね。魚は豊富でおいしいし、にぎやかなお祭りはあるし屋台のメシはおもしろくてうまいし、なんといっても地元人の気性がいい。まあ、難をいえばよくも悪くも日本帝国の一部だってことかな。 うちの研究所のあるあたりについていえば、昼はなかなかいい。こういう細い半島ってのもおもしろくていいね。夏はいろいろ遊べるし、冬は冬で釣りとかいろいろできる。ただ・・・ちょっと夜がね。ゴーギャング、というにはかわいらしい連中がぶいぶいいわせてうるさくて仕方ないや。なんでこんなところに集まってくるんだろうね。 |
たたら玄内---メタヒューマン自警団員 (2016- )出身不明。年齢的には「カワった」トロール。旧団地のメタヒューマン隔離区域の自警団を勤める。 |
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自警団、ゆうてもな、外から入ってきた人間の悪さから仲間を守るんやない。手を出したらえらい目にあうのはうちらや。しょうがない、そういう人間を仲間の暴行から守って外まで送り出したり、はいってこんように頼んだり、警察ややくざに引渡しを命じられた仲間を見つけ出してつれてくのが仕事や。うらまれとる。いっぱいいっぱいうらまれとる。せやけどしかたない。そうせんとほかの仲間がもっとひどい目にあう。みんなもわかっとる。そやからせめてうちらをうらむんや。仕方ない。うちらカワったもんやからな。 ここにはいくつもコミュニティがあって、それぞれリーダーがおる。自警団はそのリーダーが選ぶ。普通のやつにはつとまらん。普通でないやつでもそう長くはやっとれん。仕方ない。おれもそろそろ引退かもしれん。 ここにくらしとるやつは大体貧乏や。中には上手に金かせいどるのもいる。エルフとか人間の基準で見られる女はよう売春やっとる。夜鷹や。曖昧宿の近くで客をようひいとる。つかまったら不法滞在の外国人の夜鷹よりひどいめにあうけど、踏み倒されることも珍しくないけど、てっとりばよう稼げるからみばえのする女は大半がやっとる。中には意地をすてん骨の太いのもおって、どんなきつい仕事やってもこれだけはやらんのもおる。尊敬されとるが、そういうのでも時々盗みをやる。しょうがない。死にそうなほど貧乏なんやから。そういうのを捕まえて処罰するのも自警団の仕事や。処罰ゆうても盗んだかねをできるだけ取り戻してみんなの前で尻たたきやけどな。トロールでないかぎり、トロールの尻たたきはきついで。いくつたたくかはリーダーが決める。目にあまることをやった身内を死ぬほどたたかせたリーダーもおったな。リーダーもつらい仕事や。しょうがない。 え? うちらが暴動おこさへんかって? それで今までどんだけ殺されたか。わしらは弱いもんなんや。ちょっとくらい武器もったかて帝国にはかなわへん。しょうがないわな。自警団は少しでも仲間を守るためにつらいこともやらんとあかんのや。 まあ、リーダーにはリーダーの考えもあるのやろうけど、うちらは知らんほうがええとおもとる。 |
山田誠---人足手配師 (2000- )元建設会社社長。メタヒューマン福祉局よりメタヒューマン労働力の募集と割り当てを請け負っている。 |
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カワった連中に仕事を斡旋するのが仕事じゃ。取り分は折半はなんぼなんでも、なので四六くらいでとっとる。それでもなあ、仕事を回してくれるお得意さん相手の「営業費」でかなり消えてしまいよる。カワった連中が不満に思うとるのは目を見ればわかるが、仕事がなけりゃ話がはじまらんゆうことをわかってもらわんとなあ。 このへんにすむのはカワった連中にかかわる仕事をしとるか、安い家賃しかはらえんもんか、昔からすんどってはなれる気にならん年寄りばかりじゃ。カワラとそうかわらん。カワったやつらはカワったやつらで貧すれば鈍すというか、よく仲間うちで揉め事おこしとるよ。理由を聞けばつまらないことが多い。それで時には命を落とすんじゃからなんともはや。 ただの、連中の全部が貧しいわけじゃあない。何らかの特技を持ってるグループがあってな、そいつらは夜明け前に人足を集めにいっても誰も出てこんし、人間の屑に目をつけられんように表向きつつましい格好をしとるが、連中だけの場所はかなり豪華にしとるらしい。仲間入りするにはなんかきつい試練を果たすか嫁入りせんといかんし、新しい仲間を増やすよりは家族に特技を継承してゆくほうが好みらしい。じゃけん、そこの誰かに嫁入りしたものの、子供が産まれん女は追い出されたりしよる。たまにできの悪い子供もおん出されると聞いたことがあるの。 まあ、特技ゆうても鉄道工事の技術とかそういうもんじゃがな。 そういうもんをもたんもんは、安い賃金でいやなきつい仕事をするか、体を文字通りきりうるか、身をひさぐしかないんじゃ。このへんのカワってない男どもにはたいてい一人から多いやつには五人くらいカワった女のめかけがおるが、これは食い物にしよるというより頼まれて面倒を見ているに近い。うちにも頼まれて囲った女が二人、下男が二人、それに孫の子守りの女の子が一人おるが、別にそんなにようけおらんでもええ。ちゅうか、へらそうとすると悲しそうな顔をするし、身うちの誰かの面倒を見てくれと逆に頼み込んできよる。長いこと雇うとると情もわくし、そろそろ隠居してもちょっといいところに移りたいのにまったく難儀なこっちゃ。 |
水無瀬たかのり---市民運動家 (2022- )岡山出身。逮捕暦七回、実刑判決二回、市長、町長など小規模自治体の長に立候補三回。公安のブラックリストに間違いなく記載済み。カワラの住民の権利を守るために福岡西部のカワラ再開発に対し反対運動を起こす。 |
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この無秩序な場所こそ人間の住むところだ。帝国に見捨てられた人々がようやくここまで築き上げた、そのささやかな生活の場を福岡市と帝国は奪おうとしている。この許しがたい驕慢と愚行を今度こそはおしとどめねばならない。 今日も身寄りのない老人が何十年もくらしてきたささやかな住まいを追い出された。市は反対する彼を拉致し、ナチ収容所のような施設に押し込んだ。若いものにははしたがねだ。彼らはカワラの人間をものごいか何かと思っているようだ。 このカワラは福岡でも歴史のあるカワラだ。その長い歴史を、帝国の圧制の前に吹き消させてよいものだろうか? |
初瀬信孝---土木作業員 (2042- )福岡出身。というかまさに福岡西部のカワラ生まれのカワラ育ち。現在はカワラ再開発の作業員をしながら各種資格の取得を目指している。 |
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毎日取り壊してるのがガキの頃から知ってる自分の街だってのはわかってるさ。でもな、もうここはカワラじゃないんだ。いや、いまだにカワラ気分でくらしている年寄りやよそもんがいるのは知ってるさ。でも、ここが本当にカワラなら俺が高校まで通ったのはなんなの? 子供のころにはもうここには派出所もあったし、たいていの家の親はちゃんと決まったところで仕事をしていた。確かにまだ戸籍のちゃんとしてない家も多いけどね。 治安がよくないのも認める。カワラだったせいであんまり夜は安全といえないところが多いし、食い詰めたやつは盗むしかないからね。だから、再開発はわたりに船なんだ。市も立ち退きについては結構払ってくれるし、俺とかはこうやって働き口があるし。だいたい、とことん国に逆おうって酔狂のほうが少ないんだ。 そんなことより俺には夢がある。再開発が終わるまでに稼いで資格をとってもう少し食いつないで、そうやって石にかじりついてでもいつか実現したい夢がな。 |
桐生沙耶香---工員 (2034- )東京の町工場の娘に生まれる。父親の工場が買収され、ミクロの工作精度の腕を持った父が福岡に招聘されたため一家して九州に移住。妊娠をきっかけに20の年に高校時代の同級生であった夫と結婚。一時主婦となるが夫が事故で仕事のできない体となったために工員となって一家を支える。今では父譲りの腕前の熟練工員。 |
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同情は無用だよ。そんなものにはうんざりしてるんだ。なんせ旦那が身障者ではきっと体が渇いてしかたないだろうなんてゲスなしたごころをもった男どもがしょっちゅういいよってくるからね。あんたもその同類かい? あたしゃ今の境遇に不満はないね。自分の腕一本で旦那と娘を食わしてるんだ。悪くない気分だね。ちょいと困るとしたら、機械油と金屑の臭いの野郎どもに混じってはたらいてるもんだから、すっかりガラが悪くなっちまった。最近は仕事の後に立ち飲み屋でモツ煮込みつっつきながらバカな話をするのが楽しみになっちまってね。まあ、生まれが上品でもないからそりゃあしかたないか。あはは あたしゃそれで帰るけど、独身の男どもはやつら目当てにうろうろしてるカワった女どもを買いに行くか、入れ揚げている女のいる飲み屋に流れていくけどね。ケツの毛までむしられるバカも珍しくないや。 まあ、橋の近くはそんなだけど、まちなかのほうはもう少しこぎれいで、そういうとこには最近フチがつぶれて入れ替わった工場の連中がいたりする。なんかこう、あまりあたしらのようなのと接触したがらない、社畜なやつらだ。あの工場も何をやってるのやら・・・警備がやたら厳重になったってきくしね。 こんなあたしでも休みの日は子供と一緒に旦過の市場に買い物にいったり、駅のほうの百貨店にしゃれた服の一つも探しにいったりするんだ。油にまみれて仕事してるからって悪いわけじゃない。結構さ、このコクラっていい町だよ。 |
はたらくおじさん---陸軍兵士 (2035- )
経歴秘密。大宰府駐屯の機械化師団の戦車兵。 |
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機械化師団、といっても旧式の52式軽戦車が1中隊と54式戦車が1大隊いるほかは普通科師団と大差ない。来年には最新式の61式戦車が配備されるという噂もあるがどうだか。どっちにしろ、全車両交換とはいかんだろう。まあ、その前に俺のちっと時代遅れになったリグをアップグレードしとかんといかん。・・・リグを埋めているのにいつもは手を動かさなきゃいかんと言われ、自分の足で走らなきゃいかんと強制されるところが軍隊なんだが。 うちの師団がここに腰を落ち着けているおかげで、大宰府は二つの顔を持っている。一つは基地の門前町として場末な遊び場とそれにふさわしい人間たちの集まった町、もう一つは昔ながらの学問の神様、大宰府天満宮の門前町。こっちのほうも基地に負けずおさかんだ。なにせ受験社会は今も昔も変わらないからな。おみくじの結果が気にいらないとむきになって引きなおす学生もいる。門前のみやげ物屋は相変わらず激しく競争している。兵隊の俺がいうのもなんだが、ずいぶん平和な眺めだ。だが・・・あの中から企業や役人の上のほうが出るのかと思うと少し情けないがね。 基地の町としての問題は、まあ若くてエネルギーをもてあました兵士による不祥事とか、武器や物資の横流しとか、天満宮門前の住民の抗議とか、そのへんかな。訴訟とか苦情とか不祥事の後始末を専門にする部署もあるんだよなぁ・・・。噂じゃ、もみけしや問題になる前に秘密裏に処理するために裏仕事のプロを雇うこともあるらしい。軍隊ってのは強力だがむやみに動くわけにいかないのが難点だしね。 |
きよたか---宮大工見習 (2044- )島根県出身。家族旅行で宗像を訪れ、宮大工のわざに感動を覚える。中学卒業後、反対を押し切り、ほとんど無理やりに宮大工加藤康郎の弟子となる。 |
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修行に入って二年。修行はきびしいが、師匠のわざを間近で見れるのはやっぱりいい。その師匠もまるっきり伝統の技ばかりでなくたまにはハイテク製品を使うと知ったときには幻滅しかけたが、その使い方を見たとたんにそんなものは消えてしまった。安直な使い方じゃない。あれは真似しろといわれてできるものじゃない。伝統を守るというのはもしかしたら俺の思っていたのと少しちがうんじゃないかと思ったね。 宗像の町は昔に比べるとずっと緑が多くなっているらしい。さびれているわけじゃない。何せ沖にはこの静かな町を唯一騒がせる空港があるんだ。空港と福岡の町をつなぐチューブ(この中をリニア推進の列車が往復している)ぞいにはさすがに多少は現代的な風景があるが、そこを離れればもうこのあたりは静けさに包まれた・・・聖域だ。朝のぴんとはりつめた空気の中でその日の営みを始める時、家では絶対になかった静かな高まりを感じる。師匠のわざを目にし、空いた時間にあまった材料でどうやればできるのか試行しているうちにぽつり、ぽつりと技術が身につき始めるのを実感するのはどういえばいいのかわからない充実感だ。 聞けば宗像のこの風景、空気は寺社庁いやその上の宮内省の指導によって宗像市がだんだんに築いてきたものだそうだ。噂では転入に無言の制限があって、住める人間を選んでいるとかいないとか・・・ま、これは飲み屋の酔っ払いの言ってたことだけど。 でも、ここが一種の聖域だというのは間違いないと思う。 |
すみれ---魔女 (2035- )
国定公園の不法居住者の一人。エルフ。魔法を使うという噂があり、管理事務所が賞金をかけているが捕まえようとして成功した者はいない。 |
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むかし、テラ・ファースト崩れの男があたしに向かって歯のうくような賛辞をやめてくれといってもえんえん並べ立てたことがあったよ。これを読んでるあんたもその手合いだったら、そんな幻想はさっさと捨てて大人になりなさい。 野外で自然とともに暮らしているといえば、都会で文明に囲まれて暮らしている人間は理想郷のようなくらしを思い浮かべるのだろうけど、現実はそんなあまったるいもんじゃないんだ。いってみれば、あたしらは都会でないところにいるだけの浮浪者にすぎないんだからね。少々プライドを犠牲にすれば食い物が豊富な都会とちがって、こっちは本当に大変さ。賞金やら勝手な思い込みやらで変なやつさえこなけりゃ、もちょっと便のいいところに定住したくてたまんないよ。冬を越し、春を迎え、夏を過ごし、秋を楽しみ、また冬を迎える。秋はいい。どんぐりやあけびや食べるものが結構ある。でも冬をしのぐのは本当に大変だ。あんた、誰のぬくもりもないような場所で一人で凍えて死を間近に感じたことがあるかい? あたしを知る男の中にはあたしのことを淫売だとさげすむやつもいる。でもね、あたしは生きてる証がほしいだけなんだ。この山の中で隠れ住むメタヒューマンの連中もみんな思いは同じさ。だから相手を選ばずまぐわったりする。子供も三人生んだ。育ったのはやっと一人だ。今は隠れ里で他の女たちと隠れ住んでるが、大きくなったら福岡にでも出稼ぎに出すさ。まあ本人次第だけどね。 男たち、それにあたしのように魔法などの特殊な能力を持った一部の女は隠れ里が見つからないように周りの危険なところで時には飢えながら見回り、食料を集め、一部は子育てする女たちに届けている。共同で子供たちをささえないととてももたない。自然は豊かだというけどとんでもない。文明というものを使ってようやく自然から豊かさを取り出せたんだよ。 じゃあ、そこを出ていけばいいんじゃないかって? ・・・ふん、あたしにゃ意地があるからね。でも子供に苦労はさせたくないんだ。 |
岩石砕蔵---トンネル警備隊員 (2029- )ドワーフ。経歴不明。田川の地下鉱山のトンネルパトロール。 |
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この鉱山にゃあ、もうろくなもんがでんと思われとった。なにせ、のこっとる石炭の質はろくなもんじゃないし、ましな石炭があってももう石炭の時代でもないからな。 だがな、覚醒とともにここはお宝の山となったんじゃ。何がって? 屑石炭がじゃよ。忘れちゃいまいな。石炭ってのは大昔の植物よ。もう死んでるもんだが、覚醒とともに本当の姿を取り戻しよった。ただの屑石炭であったものが、価値のある植物の化石になったとこういうわけじゃ。その中にはただの石ころと思われとったものが実は光を放つ水晶だった、という具合に魔法関係の材料としてはまったくもってお宝の山ときたもんだ。ほうぼうの廃鉱で同じことがありそうなもんだが、ここの地下には特別それが多かったようだの。どうも魔法の力のものすごく高まった時代のものらしい。 そういうわけで、わしらは古い機械を直して鉱山にしとる。もちろんわしら単独の力じゃない。この鉱山は表向き、レンラクとシアワセの合弁会社のもちものになっとるし掘った宝の納品先も主にそこじゃ。かわりに最新式の送風機やらなんやらをつけてもろうとる。 そうこうしよるうちにな、わしらしか知らん通路とか増えてきて、ある日、見つけたんじゃよ。 なにをって? 超古代の遺跡。石炭のないところにあったから炭田だったころには発見もされんかったんだろうのう。そこはたくさんのもんが長いことこもれるようにできた地下の空洞じゃった。それが見つかったおかげで、わしら送風機を止められても1年かそこらはがんばれるようになったというわけじゃ。ヒューマンでなければ日本人でないという帝国の支配しとる地上よりなんぼ居心地ええか。 地上の企業とはいろいろ交渉してだんだんにわしら生活向上させとるところよ。けど、このわしらの国の秘密をやつらに知られるのはまずい。あっちゅうまにひねりつぶされるわ。 そういうわけでな、わしとか警備担当のもんがコーポの密偵とか新しいお宝とか探してトンネルをパトロールしとるわけじゃ。時には試掘もしながらの。 |
岩倉弥助---汚染物処理係 (2034-2061)オーク。ふとしたことで逮捕され、イトシマに送り込まれてから汚染物質の除去作業に従事。このインタビューの2週間後に急死した。 |
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道具は手で使うものばっかりだ。手でやるのが確実だからと自分だけケムスーツに呼吸装置の監督がいいやがる。俺たちも一応ケムスーツを着て、ポケット線量計を胸にさして作業しているが、ケムスーツは穴だらけかきはぎだらけ、ポケット線量計の針はふりきってそのままにしてある。これで被曝してないといったらうそだろう。 イトシマ半島は閉鎖されてずいぶんたつ。昔はしゃれた工房だったらしい家があちこちで廃屋になっていて、そこに俺たちのような作業員が適当に散らばって勝手にすんでいたりする。別に作業をしなくてもいいが、そうすると食い物も着るものものもらえない。被曝するのはいやだが食い物はほしいやつは強盗になって仲間を襲ったりする。あんまり度のすぎるやつは封鎖線から兵隊がやってきてどんっ、だ。死体はそのへんに放置される。仲間だから埋めてやれというわけだ。だがそんなやつを埋葬してやるやつなんかいないから、強盗野郎の白骨がそこいらにころころしていたりする。死んでしばらくは奇形の犬が腐りかかった腕や指をくわえて走っていく姿を見ることもある。 汚染した場所のいっさいがっさいをコンクリートブロックで固めてつんでおくだけの作業にどれだけの意味があるかわからない。多分、意味はないんだろう。雲の上ではここの後始末を最終的にどうするか、もうずっと堂堂巡りを繰り返しているという。 そしてまた俺たちの仲間がひっそりと死んでいくんだ。 |
以上。おしまい。
※戻りたいときはブラウザのボタンで戻ってくれ
また何か特集を組むときはシャドウトークで知らせるから期待してまってくれ
(いまんとこ、街のゴシップベスト10あたりかな。希望があったら聞かせてくれ)