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佐渡のお土産を渡しにアマンダスポーツへ行った際、「よしおかさん向きのルートがあるのよ」と、美直穂さんから坤六峠の事を紹介されたのが今回の旅の始まりだ。 坤六峠のことは NewCycling誌やツーリングマップルでも知っていたが、峠の景観が悪いという事を知っていただけに今ひとつ食指の動かない所であった。だが「坤六峠からの下りが凄く楽しくて。今の時期なら紅葉も綺麗だと思うし」と紹介されたらじっとしていられる筈もない。 過労や膝痛で体調は最悪だが、さっそく水上周辺の地図を取り出し出発の準備を始める。 |
奈良俣ダムで撮影水上駅に降り立つと姿は見えないが利根川峡谷の水流の音がする。でも、なんとなく朝から不機嫌。 紅葉目当てのハイカー達に混じり、バイクの組立を終えた所で今日のルートを地図上で確認。美直穂さんから教えて貰ったルートは「水上駅〜坤六峠〜平川〜花咲峠〜沼田駅」と、二つの峠を越えるというもので、当初はこのルートを走ろうと思っていたが、よく考えてみると時間的に厳しいかもと思い始める。 水上駅から坤六峠までは33kmで1100mの標高差を登らなければならない。しかも坤六峠から沼田駅までが50km強にして花咲峠の標高差が500mと、日暮れまでに沼田駅に帰ってこれるか正直自信がない。沼田周辺は街灯が少なく真っ暗なためナイトランは極力避けたい。そこで坤六峠への到着時間と体調によっては「水上駅〜坤六峠〜老神温泉〜椎坂峠〜沼田駅」や「水上駅〜坤六峠間の折返し」というサブルートを選択することも念頭に置き水上駅を後にした。 水上駅から国道291号を湯桧曽川の上流に向かって走ると県道63号「水上片品線」への分岐まで来ることができるのだが、この時点で既に両足に痙攣が生じる。走れないというほどではないが、この状態で峠までの道程を走りきれるかどうか。 この分岐以降、坤六峠までのほとんどが登り勾配である。だが紅葉シーズンということもあって車の数は一向に減らず、車を意識しながら登らなければならないのは精神的に辛い。栗沢三叉路まで走っただけでも嫌気がさしていたが、ここで「照葉郷への近道」という看板が目に入る。 このまま県道を進むと藤原湖をかすめて宝川温泉へと行けるが、道が藤原湖を避けるよう大きく迂回しているため距離が嵩む。逆にこの近道を使えば距離を短縮できるが登りは必至だろう。何分か考えた挙げ句、近道を選んだが待っていたのは藤原トンネルまで続く車の渋滞である。 「なんだろう?」と思いつつトンネルまで来ると「トンネル内修復工事中」の看板、そして通行を規制する信号機。トンネル内で片側車線かよ!。しかも歩道まで工事の看板とか機材が置いてあって塞がっている。結局、最後尾の車についてトンネルを抜けたが、後ろから車がくるかどうか気が気でなかった。 トンネルを抜けると道は下りへと変化し、県道63号に復帰すると同時に宝川温泉への分岐に出る。この分岐には売店があるのだが、坤六峠までの道は長く補給ポイントを逃したくはなかった。湯ノ小屋温泉へと向かう前に飲料水の確保を行う。 この先、湯ノ小屋温泉までは勾配がややアップする。道の左右にある木々は殆どが緑だが、チラホラ黄色や赤いのが混じってきて景色はよくなってくる同時に左には湖面が現れる。どうやら湯ノ小屋温泉の入り口である奈良俣ダムに到着したようだ。周囲の木々は三分の一程度が赤くなっているが、それを撮影しようとする観光客と路上駐車の多さにイライラ感がつのる。もっとも、湖面の美しさだけは際だっていたが。 奈良俣ダムの写真はこちら |
木の根沢を照葉郷にて撮影ダムを通過すると道は一度水辺から離れ、山菜・キノコ直売所を幾つか過ぎると景色が山の中へと一変する。そして、道がいつしか木の根沢を流れる笠科川に沿って走るようになると、ここからが照葉郷になる。高度を稼ぐほどに木々が赤みを増してきてようやく峠道らしい様相を見せはじめるが、道幅が狭くなる場所やブラインドカーブなどでは渋滞が所々できていて思うように進めない。 まったく、一車線分くらいの幅しかないS字カーブばっか作るからこうなるんだよ、坤六さん(この道を造るよう働きかけ坤六峠の名前の元にもなった群馬県元知事)。このストレスの溜まる状態に恨み節の一つも観光客へ吐きたいところだが、行楽シーズンと分かって来ているコッチも悪いのかと半ば諦め腹をくくる。 ところが照葉郷を抜けて道幅が拡くなったのか、車が水上方面へUターンしているからなのか知らないが車がグッと減ってきた。前や後ろをそれ程気にしなくても走れる状況に安心したのか、途端に腹が空いてきたので木の根沢に降りて飯の支度を始めた。 今日のメニューはソーセージとキャベツのビーフコンソメ煮。名前は凄そうだが、JALから貰ったビーフコンソメスープをバーナーで暖めて具を煮ただけという手抜き料理で、今回初めて作るメニューとあって味付けが薄くいま一つであった。味の決め手はキャベツの水気、そんな反省をしながらの約一時間程度の食事であったが、時間をとりすぎた感もありさっさと峠を目指す。 進むほどに右に見える渓谷は深さと険しさを増している。あれほどいた車も今は少なく、景色をゆっくり眺めるのと同時にいくつもの滝を通り過ぎていくのはなかなか楽しい。やがて道幅は再び狭くなり角度のあるヘアピンへと続いていくが、どうやらここからが坤六峠への本格的な登りのようだ。 |
坤六峠へと続くヘアピンの途中現在の高度は約1000mと峠まではあと500m。ペダルを回す毎に高度は増え続け、周りの木々の種類が高山性のものに変わってくる。同時に気温も下がり続けサイコンの温度計は12℃を表示した。木々の葉は赤よりも黄色の方を多くつけていて、秋というよりは初冬の雰囲気を醸し出している。 勾配は決してキツくない、だだ距離がある。坤六峠の手前にある九つのヘアピンを一つ、二つとクリアーしても峠らしい頂がまだ見えてこない状況に気も萎えるが焦らずに高度を稼ぐ。三つ目のヘアピンを過ぎたところからは路肩の所々に枯葉が積もっていて、気が付けばその上をわざと通って感触を楽しんだりしていた。ただ水分補給の為に枯葉の中で立ち止ると、漕ぎ出す時は後輪をズルっと滑らせたりもしていた。 6つ目のヘアピンを過ぎた所でイベントがあったが、紅葉と枯葉の中での登坂はこのまま坤六峠まで続いていく。9つ目のヘアピンを過ぎ、最後の、そして短いが直線的な道をクリアするとそこが坤六峠だ。その峠の第一印象はといえば、景観悪ぅー、この一言である。 背の高い木々や笹などに覆われてしまっていて、あまり長居したいという気を起こさせない。到着時刻が13:10と余りにもノンビリ登りすぎたこともあり、早速下りの準備にかかった。ウィンド・ブレーカーを着込み、グローブをゴア・ウィンドウ・ストッパーのものに変更して坤六峠を後にした。初めうちはRのキツいワインディングが続く。だがこの道では登坂時よりも見事な紅葉が拡がっていて、ブレーキレバーを握りっぱなしの状況にもめげず楽しく下っていける。 ワインディングが続いた後には直線的な下りの繰り返し。30,40,50,60,70km・・・とメータは上がり続けてメーターを見れる状況にないが、周りの紅葉・景色と相まっての下りは本当に楽しい。やがて崖の下には片科川が織りなす渓谷が拡がり、道の勾配は落ち着きを取り戻していた。 坤六峠の前後に拡がる紅葉の模様はこちら しかし、ここからの道程は決して面白いモノではなかった。 |
坤六峠からの下りの途中、笠科川を撮影ここから道は県道401号・国道120号となり、次はこれを使って花咲峠への分岐である平川へと向かう。下り勾配の道ではあるが全般的に道幅が狭く、おまけに鎌田からは日光(中禅寺湖)からの観光客が沼田方面へ流れるため長い渋滞になっていた。 渋滞の脇を通りたいが、道幅が狭くてそれもままならない。その為に平川へ到着したのが15:30と予定より大幅に遅れてしまい、日暮れまでまでに沼田へ着くことが難しくなってきた。ここから花咲峠を越えるのか、国道上にある椎坂峠を越えるのか、二つの峠の勾配など知る由もないが、ゆっくり選んでいる時間はない。結局は椎坂峠を選んだが、この決断が失敗したと分かるのに時間はそうかからなかった。 午前中は良かった天気だが、今は空に雨雲らしき黒い雲が拡がっている。平川から少し走っただけでポツポツと来たが、路面は既に濡れていて飛沫が上がる。こんな時だけは泥除け(マッドガード)への欲求も高まるが、普段「雨の日は自転車に乗らん」と豪語している手前、用意には付け難い。それにこんな話をしたら「自転車には泥除けを付けなアカン」と へっとこさん から突っ込まれるのは必至だ。 進むほどに雨足は強くなり、周りがどんどん暗くなっていく状態に手持ちのライトとリテールランプの光量不足が否めなくなってきた。そんな悪条件の中、椎坂峠への登りが始まる。前後の車を気にしながらのツーリングは精神的に辛い。かつ対向車のライトがかなり眩しく、これが花咲峠ならもう少しマシだったのかもしれないとも考えたが、現時点では既に手遅れだ。 ともかく必至になって登り続け、轟々と灯りを付けているオルゴール館と共に椎坂峠へ着いたときは「この暗さで下れるか?」と不安な気持ちで一杯になった。濡れ鼠になっている以上、施設に入って休むという気にはなれない。タオルでサングラスに付いている水滴を拭き、休憩もしないまま沼田市街へと下る。手持ちのライトがいくら明るいと言っても、車のそれには敵わない。登りであれ程邪魔だった車のライトだが、今は道を照らしてくれるぶん助かっている。 沼田駅に着いたのが05:10。まさかこの時間でこれ程まで暗くなるとは思わなかったが、ずぶ濡れになった身体とバイクを拭き、家路へ向かうための準備と汽車を待つ。 身体をあたためる為に駅構内の売店で多めの酒類を買い込んでから汽車に乗り込む。そしてビール片手に今日一日を振り返ると、花咲峠から椎坂峠へのルート変更、紅葉目当ての車の混雑、悪天候、そして一日中つきまとった膝痛など、消化不良なツーリングであったことは否定できない。走り終えてこんな気分になったのも久しぶりだが、坤六峠が冬季閉鎖になる直前にもう一回くらい来てもいいかな、と思いつつ、制作中の「もう一台の赤」に思いを馳せていた。 |