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膝立の天王ザクラ久々のソロツーリングだ。 秩父街道というのは秩父から雁坂峠(現雁坂トンネル)を越えて笛吹川沿いに甲府まで道を指すのだが、物の本によれば、窪平から分かれて鍵懸峠、太良ヶ峠を越えて武田氏館へと通じる裏街道があったらしい。それが、本ツーリングのサブタイトルにもなっている「旧秩父裏街道」である。 旧秩父裏街道は武田信玄の軍事上秘密道路とも言われていて見所も多いと聞く。それに今日は夕方にも雪が降るとの予報もあったので手軽に走れそうなこの場所を選んだ。後で聞けばこの冬一番の寒さだったそうだが、そんなこととはつゆ知らず、まだ陽も明けぬ道を東京駅目指して進んでいく。 塩山駅に降り立ったのは09:45頃。バイクを組み上げた後は県道38号「塩山勝沼線」で窪平に向かう。窪平まではコンビニエンスストアやスーパーも豊富で食材の入手にも困らないが、窪平から県道206号「塩平窪平線」で塩平方面へと向きを変えると部落ばかりが続く。 この県道206号、窪平から牧平まで部落が続く割になかなかの勾配である。平均すれば8%にも満たないのだろうが、時折現れる急勾配の坂に足の消耗は激しい。道の脇には鼓川が流れていたが、河岸工事で無惨にも両岸が削り取られた景色に胸も痛む。ところが牧平から県道を離れ赤芝方面へ続く道を走れば、古い作りの家屋、所々凍結しているが道の脇には赤芝川、と、様相がいかにも田舎道らしい雰囲気にうつり変わる。やがて膝立までバイクを進めるとそこには見事な幹を持つ桜の樹が立っていた。 「膝立の天王ザクラ」である。 |
| 以前、タレ込みルート「石神峠と彼岸桜」で紹介した彼岸桜と同じ種類のものらしい。立て掛けられている看板によれば根回り7.2m、樹高14.7mと立派なもの。花期は4月20日頃ということで、その頃であれば見事な花を咲かせる事だろう。 |
鍵懸の関と脇に伸びる廃道天王ザクラから少し先を進むと、目的の一つである「鍵懸の関跡」に到着する。 旧秩父裏街道の赤芝地内にあった鍵懸の関所跡。武田信玄の時代には、雁坂口の北国防備上要所の関所とされていたそうな。本来なら今日の行程とは逆の「武田館(甲府)〜積翠寺〜太良ヶ峠」を経て鍵懸の関を通るのが当時のルートだったらしく、これには一寸残念な思い。 関跡は平成三年に復元したものらしいが礎石は当時からのものらしく、ひとり「そんなものか」と納得していた。四阿もあったが、休憩も漫ろに脇に伸びる旧道を押していく。 ところが少し進むと薪を持った地元の人が降りてきた。「先に進めますか」と尋ねると 「○×△☆◎人も歩いていかん◇■▽☆藪っこぎで◎△◇£@¢」・・・? 方言がきつくて半分くらい意味は解らなかったけど、要約すると「この先は人が歩かない手付かずの藪コギだから止めた方が良い」ということらしい。 藪コギなのは多少覚悟していたが、地元の人が止めた方がいいという位だから相当酷いのだろう。軟弱な筆者であるから、地元の方の忠告に従って赤芝部落の先に伸びる林道(旧道)を使って切差と鍵懸峠を目指して上っていく。 |
鍵懸峠からの展望しかし静かな林道だ。ぶどうの季節を過ぎたせいなのか、それとも今にも雪が降ろうとしているせいなのか解らないが、鍵懸峠までは人どころか車にも会わなかった。聞こえてくる音も自分の呼吸のみ、それに加えて赤芝部落から鍵懸峠までの勾配が緩いせいもあって、一人静寂の中のツーリングを楽しんでいた。 ピークらしい箇所にさしかかると路面が未舗装に変わる。だがこれも数十メートルばかりなので気にする程の事はない。ここから更に進むと景色が一気に開け、道は下りへと変化していた。道に標識はたっていないが、どうやらここが鍵懸峠のようである。 だが残念ながらこの峠に休憩できそうな場所はなかったが、次の太良ヶ峠までは200m下ってから300m登り返すということもあり道を下りながら休憩兼昼食を取れそうな場所を探すと、50m位下った道端にチョットしたスペースがあり昼食と相成った。 50m下っただけで震えが止まらない。太陽も雲の後ろに隠れてから随分たったせいか気温が下がっているようだ。サイコンの温度計は−1℃で、いつ雪が降り出してもおかしくない状況の中水炊きを作っていく。最後はうどんで〆たものの、食べ終えると途端に身体が冷えだす状況に長居もできず、再び林道を下り始めた。 |
太良ヶ峠。奥はガスって見えないが甲府盆地下りの寒さで太良ヶ峠へ登り返す前に体力を随分消耗してしまった。ボトルの水を一口飲もうとすると入り口付近は既にシャーベット上になっていて、改めて気温の低さに驚愕する。ダウンヒルは面白いが、こう寒いとチョット考え物である。それともう一つ驚いたのが太良ヶ峠への登りの勾配だ。残り300mなどとタカをくくっていたが、これがどうしてどうして。10%は楽に越すような所であった。 アプローチを始めると先刻まで身体は冷えていたが再び首の回りから汗が噴き出していく。この気温だと下りの寒さよりも登りの暑さの方が個人的にはマシだと思うが、さすがにこの勾配はキツイなあ。 でも唯一の救いが時折見える展望だ。甲州では低いと言っても太良ヶ峠の標高は1050m、今の標高が900mを過ぎたあたりだから、ヘアピンをクリアーするたびやまなみの展望を小枝の隙間から覗くこともできる。 やがて道は水ヶ森林道と甲府方面からの道が合流する三叉路へと到着した。視線を南の方へ向けると、開けた甲府盆地が目に飛び込み、道は要害温泉へと下っている。ここが太良ヶ峠だ。 ふう、と息をついて休憩と思ったものの、登りでかいた汗が急激に冷やされていく。それに先刻から気になっていたが、白いものがチラホラと降り始めてきていた。そう、心配していた雪である。降る、という表現よりは風に吹かれて舞っている、という感じであるが、これでゆっくりしている暇はなくなった。写真だけ何枚か撮り、要害温泉と甲府方面への帰路を急ぐ。 |
| 序盤は道幅が狭く落石もいくつか点在、それにヘアピンの連続であったがそれさえ気をつけていれば問題ない。だが、道が要害温泉に近づこうとした矢先、道幅と路面が急激に変化する。車が一台通れればやっという狭さの道幅、それに舗装路とも非舗装路とも取れないガレた路面には苦労させられた。正直、道を間違えたのでは?と不安にさせられる位だ。しかも10%近い下りの勾配とあってブレーキを握る手への負担が大きい。もしフォールディングバイクかロードバイクなら、押して歩かなければならないだろう。 荒れた道は要害温泉まで続く。普通なら立ち寄り湯ができる所でも探す所だが、下りで寒い、荒れ地で手が痛い、と酷な状況にとてもバイクから降りる気になれなかった。要害温泉からは路面も復帰し安定して走って行けたが、護国神社や信玄の墓を回る観光の車も多く甲府まで一気に走り抜けた。 甲府駅に着いたのは14:00頃と、いつになく距離も走行時間も短めのツーリングとなった。だが旧秩父裏街道に纏わる場所をノンビリ見ながらノンビリ走るのもたまにはいいもんだ、と、中央線の座席でビール片手に思いに耽る。 車窓から雪が降っているのも見えていたが、まさか、この雪が東京駅まで着いてくるとは思いもしなかった。 |