トップルートバイクリンク特 集囁 き


2002年 08月 11日(日) 福島県

御霊櫃峠を行く


峠脇の高台から甲府盆地と御霊櫃峠を望む

■始点 ■終点
JR東北本線 郡山駅 JR東北本線 郡山駅
■走行区間・距離
郡山駅〜(県道6号 郡山湖南線)〜多田野〜(御霊櫃峠市道)〜御霊櫃峠〜浜路〜(県道9号 猪苗代湖南線)〜館〜(日山源田林道)〜山田原〜多田野〜(県道6号 郡山湖南線)〜郡山駅 72km



郡山駅に停車するSL磐梯・会津路号(C57-180)

郡山駅前でサイコンの温度計を確認すると、朝10時の時点で既に37度を指すという状況に
「人肌※37度は温燗だけでエエっちゅうの」
とグチるが、コレで涼しくなるなら何の苦労もいらない。駅前でバイクを組み立てているだけで噴き出してくる汗に郡山の気温が尋常じゃないことを改めて悟る。

走るか、走らざるべきか・・・スタート地点からこんな「無謀な環境下」とは。第1の「賢者の選択」ポイント※物は言い様でギブアップの俗称の出現にこの先が思いやられる。

郡山市街を走り出すとこの印象は更に強くなる一方で、照り返しと車の熱気で体感温度は40度位に思えた。そのせいか御櫃峠林道と日山源田林道の分岐である多田野に到着するまでの長かったこと、
「俺は何をやっているんだろう?」
と突然沸き上がった疑問に自問自答すら出来やしない。




多田野から御霊櫃峠市道※全舗装化に伴い林道から市道へ昇格に入って改善されたのは車の交通量だけ、サイコンの温度計は39度と下がるどころか改悪。

日陰もなく、周りの景色に目を向ける余裕すらない現状に登るという行為がただただ辛い。こんな経験はバイクに乗り始めてから初めての事で、北の湯温泉を過ぎてからはしんどくなる前に日陰へ入って水分補給と身体のクーリングを繰り返すようになる。

今日は2本の保冷ボトルを持ってきていて1本を飲料水用に、もう1本を身体の冷却用に当てている。保冷ボトルの水で濡らしたタオルを首筋、後頭部、肘・膝関節に当て、頭には水をかけ気化熱で冷やすことで身体の外と中から冷やそうというのが目的である。

・・・が、これで熱中症を防げるとはコレッぽっちも思っちゃいない。瞬間的に気力が復活したように思えても走り出せばそれは「気のせい」だと気付かされるし、「やらないよりはやった方がマシ」というレベルに過ぎない。

道は緑に挟まれた九十九折れに入っても日陰は少なく、青い空を恨めしく見上げるたび出て来る溜め息に第2の「賢者の選択」ポイントに入ったことを自覚した。脳裏にはギブアップした時の言い訳が這い回り始め、その機会が無いかと模索する様は今考えても不甲斐ない限りだ。





御櫃峠林道から猪苗代湖を望む

標高700mを過ぎた辺りから見え出す郡山市街にも自分の反応は驚くほど鈍い。普段なら何枚か写真を撮るところだが日向では足を止める気すら起きなかった。

そんな苦しい状況下で登り続け、ふと頭上を見上げると大きくうねった幾つかの九十九折れと電波塔が出現する。峠がそこにあるのは見当が付いていたがペースは全く上がらない。

春や秋なら絶好のツーリングルートも今はただの地獄。「来る時期を間違えたか・・・」と半ば泣きを入れながら最後のスパートをかけるが、到着した峠は意外にも喧噪にまみれていた。

安積山へのハイカーやお盆の観光客等だろう、予想以上の人と車の多さに肩を落とす。加えて峠からのロケーションが芳しくなく、峠脇の高台へ徒歩で登ることを余儀なくされたことも疲れを倍加させた。

御霊櫃峠の別カットはこちら




だが登るにつれ吹く分水嶺の風が火照った身体を冷やし、遠くに見え出す猪苗代湖と郡山に心が洗われる。ここまで景色を振り返ることがなかったから余計そう感じさせるのかもしれない。

熱中症に怯えながらのツーリングもようやく報われた気分。この休憩が効いたのか体力は大分回復したようで、これなら猪苗代湖を経由し日山源田林道を回れるという手応えを自分で感じていた。

御霊櫃峠から猪苗代湖までは路面状態の良いブラインドカーブとストレートの繰り返しで気分良く下れると思いきや、下るほどに対向車線の交通量が増えてきてどうにも落ち着かない。おまけにセンターラインを大きく超えて登っていくような車も多くヒヤヒヤさせられる事も少なくなかった。

更に驚いたのは猪苗代湖と県道9号に出てからである。猪苗代湖に沿って湖岸を走るこの道は行楽客と車でごった返していて路肩もへったくれもない片側車線のような状態に、お盆とは言え呆れ果てる。湖面を見てもヨットやボートやらジェットスキーやらで夏の湘南のような有様、車の熱気と照り返しがもの凄く、こんな所に長居は無用と足早に日山源田林道へと向かうことにした。





御霊櫃峠を下った時点から「マズッたなぁ」と失敗の様相を既に見せていたが、日山源田林道からは緑に覆われた落ち着いたムードへと変貌する。日陰の少なさは相変わらずだが、猪苗代湖のあの有様に比べれば天国のようだ。

砂地と砂利目のダートが続き、タイヤ、特に後輪が浮いてしまう。部分的に点在する急勾配の所ではそれが顕著に現れ、浮いた路面に後輪がズルッとスリップしてしまう程だ。そんな路面に難儀している折り、林道のピーク方向から
ドッゴーン
と爆発にも似た乾いた音が響き渡る。すぐ上を見上げると林道のピーク辺りに入道雲がニョキニョキッと伸び、それに向かって一筋の太い閃光と乾いた爆発音が何度が繰り返される。更に
ドッゴーン
と空気を伝う振動が分かるほどの大きさの雷が落ち、これには流石に足が震えた。頬を伝う空気は湿り気を帯び始め、閃光が走る度に帯電したようなピリピリ感を伴う。

「雷で死んだら千葉さんに申し訳が立たんなぁ」※アマンダの店主とか「残った仕事をどうしよう」※一応仕事はしていますと頭の中はパニック状態に陥るが、それもその筈、今乗っている700Cはヤング率80トンのカーボン※炭とカイセイのラグ※鉄の組み合わせという、雷にとって格好の的なのだ。

なんか目的地を目指すというよりも生きて帰ることが主目的になってきたが、御霊櫃峠を下った時点で撤退という選択肢はもう無くなっている。この林道には身を隠す場所も無い、なら先に行くしか無い、と、こう言えば格好いいが少々ヤケ気味だ。

バイクを押した方が早い場所では押し、乗った方が早い場所ではバイクに跨って上を急ぐ。とりあえずピークを過ぎればなんとかなるだろうと思っていたが、ピークを越え雷を背にしながら砂利目のダートを下るのは心底怖い。

急ぎたいが後輪が滑り、バイクが轍で跳ねて思うようなハンドリングができないのも恐怖感を倍増させる。雷と追いつ追われつの繰り返し、しかし眼前に舗装路が見え始めると雷も勢いを弱め少々の安堵が広がった。それと同時に緊張が取れたのか、冷や汗が滝のように噴き出し肩が小刻みに震えていた。

郡山市街に入ると先刻とはうって変わって広がる青空に安心し、東北自動車道の手前にある郡山温泉に立ち寄ってから郡山駅へ戻ることにした。しかし風呂上がりにビールを飲みながらテレビを見ていると激しい雷雨で福島〜黒磯間の汽車が止まっていると速報が流れる。

事実、郡山駅に着いてみれば東北本線は最大で70分ほどの遅れが出ていて黒磯からの接続電車乗り継ぎに支障が出るという始末であるが、こちらは青春18きっぷの強みを生かし、ホームの外に出ては酒屋のビールと缶詰で時間を潰す。

そして「今日のルートは初春か初冬だよなぁ」と一日を振り返りつつ車中の人になると記憶は上野駅までワープしていた。上野駅はいつもと変わらぬ喧噪と熱気を見せ現実に戻ってきたことを知らせるが、果たしてこの夏にあと何回ツーリングに行けるのか、それを考えるとチョット気が重かった。※この一回で終わりでした