俳 句




少年記  
 


少年の日の空映す天象儀



思い出は絵日記の中いつまでも



胸のうち添削されて戻りたる



照れもせず好きだと叫ぶ巣立ちの日



好きなのに傷つけあって春の雪



少年の肌を被いし春ショール



かまくらやファーストキスの面映さ



少年はまどろみのなか猫柳



春風や三葉虫の夢を見し



少年の踊りが誘う春の闇



朧夜の少年たちが喪に服す



春めいて少年抱きし暖かさ



少年の細き指先風光る



恋心気づかぬままに春の海



少年の笑顔見た夜星流る



少年の叫びが消えた壁を見る



梅の香や少年の弾く夜想曲



少年の悔し涙や春深し



胸を裂くアルトサックス花吹雪



少年の闇に潜みし阿修羅かな



逃水や少年の日の一人旅



裸にて転がる少年夏の浜



チャリンコのダイナモ唸る朧月



涼風に後押しされてキスの味



たった今終わった恋に蝉時雨



冬銀河撃ち落としちゃえ涙ごと



雑踏の中にいるけどひとりきり



草いきれ奥に作りし秘密基地



白い息ゴジラの気分味わいて
 



寒の月  
 


寒の月蒼き世界に影ふたつ



野良猫の後ろ姿や秋深し



静かなる冬の山小屋月独り



風渡る賽の河原に冬の月



初雪や地震の痕を隠しゆく



満月をともに歩みて秋遍路



縦走の形見となりしオルゴール



裏通り夜風に吹かれ猫の恋



初孫の微笑む写真茄子の馬



閉め出され途方に暮れし寒昴



曼珠沙華ゆれる河辺の地蔵尊



野良猫が夏の夜空を駆け抜けし



ふるさとは冬の三日月夢の風



それぞれの想いを乗せて花筏



披露宴笑顔のままで泣く夜かな



敦煌の風吹き荒れし螺旋かな



君去りてコルトレーンのサックスかな



碁敵の四十九日や春浅し



巡礼の鈴の音かすか春浅し



春風や猫の背をなで歩み去る



春の雪パサリパサリと傘を打つ



ミニ雛は目を細めたる招き猫



春の夜やノイズまみれの短波聴く



三度目の死を感じて初桜



最近は蛇使い座の女です



ノラ猫や雪崩轟く昼下り



風狂や盃持ちて軽き夜



春深し捨て猫の声気にやみて

 


冬日向  
 


会話すらままならぬ恋手で紡ぎ



日溜りやノラ猫の子らまどろみし



黄昏や道に迷いて八重桜



手作りの盃持参花宴



声のない叫びを残し卒業す



つづら折り散りゆく花の子守唄



チェンバロの音が跳ねてる春の宵



街灯のちらつく路地に花の塵



春眠や猫の枕となりはてし



香水の匂い攻め合うエレベーター



雷鳴や烏鷺の戦い煽りたる



胃カメラを呑む苦しみや春の雲



にょっきりと月光浴びて葱坊主



戦時下に地図から消えし町の春



帰らざる子らの銅像立ちつくす



生き延びし月日の果てや感無量



草笛がなかなか鳴らぬ家路かな



夏海や堕天使たちの夢の跡



縁側に置かれたままの写真集



風鈴の音も鳴らない昼下り



青梅の転がる床を猫ダッシュ



たった今終わった恋に蝉時雨



トラウマになるやも知れずカマドウマ



似顔売りノラ猫相手に冬日向



ほのぼのと猫の昼寝や冬日向

 
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