自由律俳句




<その一>  
  


何かいるのか猫が見つめる空間


鈴の音と足音だけの猫が棲む家


窓辺のピアノに黒猫が眠る


子連れの猫がのんびり散歩


ノラ猫になつかれる


眠り続ける猫のノミ捕り


猫のために働いている


背中で寝ている猫の重み


猫といっしょに夕涼み


ふたを開けたら黴がビッシリ


愚痴を聞かされ続けるデート


積乱雲が夜空にひろがる


互いに知らぬ裏切りの夜


風紋の上を駆けていく


沈む夕陽を見ながら逝く


今年もすずめが巣を作った


無縁仏の墓石に紋白蝶


緋色の海に花筏


月下に散る花の影


闇に消えるうすばかげろう


ひとり生き残り訥々と語る


嫁ぐ姉を黙って見てた親父と俺


蓮華草摘みし田も今はアパート

 



 


<その二>  
  


三次会の後の記憶がない


目覚めぬまま逝った友の写真


小さくてもカマキリ


古いキネマの中に父がいた


ここは人生の袋小路と闇が呟く


虚無が澱んで花の夜


この道で本当に良かったのか


息を潜ませ隠れんぼ


異教徒の連れ合いと折衝する法事


聞覚えし賛美歌を口ずさむ


誕生日まであと三日の命日となる


穏やかな風景の過去には凄惨


追悼の曲が復興の町に流れる


水琴窟の響きに耳を澄ます


疲れたとだけ書かれた遺書


写真を撮って殺されて


あなたと別れて深海魚になる


雲ひとつないのに朧な青空


撮って振り向くと撮られてた


友の死をワイドショーがネタにする


理由を探しては喧嘩した日々


エレキギター弾く兄たちの情熱


泣きながら草笛を吹く


 


  


<その三>  
  


未来に絶望したのに生きている


涙こらえて電話した夜


タンスの陰に干からびたゴキブリ


あなたの指がなにかを言いかけてる


歪んだ横断歩道に踏み出す


自販機の多さが気にならぬ夏


刺青ある乳房に乳児の手


春の波間に少年の骸


ふたりの恋は砂の城


遠き異国の地へ涙す


わが手には何もない


夏に三つ星を眺める


北斗の星がひとつ見えない


天の川も干上る街の夜


別れ話のBGMが植木等だった喫茶店


重油の残る浜を歩いた


何ひとつ語れぬ実父との再会


世界征服の夢を持ってた小学生


まだかと云われ哀しくなる不妊症


少年のうなじに汗


交差点に花添える園児たち


赤飯炊いて暗黙の夕餉


鬼灯持ちてもののけの宿


橋の向こうを故郷と呼べず


 




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