仲井戸“CHABO”麗市  『TIME』   ●東芝EMI TOCT-24872 2002.10.9
1.青空ラグ(inst.)
2.I Feel Beat (麗蘭)
3.たそがれSong (麗蘭 with 河村”カースケ”智康)
4.夏に続く午後(麗蘭)
5.悲しみをぶっとばせ!(CHABO BAND)
6.Song for Bobby(with たつのすけ)
7.Feel Like Going Home(with たつのすけ)
8.TIME-時の昼寝-(inst.)
                 
【BONUS LIVE TRACKS】
9.時代は変わる(麗蘭)
  〜2001.12.30 京都磔磔にて収録
10.大切な手紙(Solo)
  〜2001.10.9 渋谷AXにて収録
11.ハレルヨ(ONE NITE BAND)
  〜2002.3.20 新宿 PIT INNにて収録

●produced by 仲井戸麗市
●expect 2〜4 produced by 麗蘭

2002年10月9日、自身の52回目の誕生日に併せてリリースされた仲井戸“CHABO”麗市待望のニューアルバムだ。前作の「My R&R」が出たのが99年の1月だから、BOXセットを除けば、CHABOにとって3年半ぶりのスタジオアルバムということになる。
「TIME」は一言で言ってとても意欲的なアルバムだと僕は思う。これからのCHABOの活動の中でも、ある種のキーになるアルバムとなるのではないかと、そんな予感さえするのだ。それは、CHABOがこのアルバムでこれまでのアルバムでは見られなかった新しいアプローチをとっていたり、「TIME」というタイトルに象徴されるように、“今しかできないこと”や“今この時代に演っておかなければならない曲”を残すことによって、今の自分からまた一つ階段を駆け上がろうとする強固な意志を持っていることが強く伝わってくるからである。

まず、今回のアルバムの大きな特徴は、誰もが指摘するであろう、ソロ・CHABO BAND・麗蘭という3つの活動形態をすべて取り込んだという点だ。これについてCHABOは「Player」誌の2002年12月号で“どれか一つでやる明確なヴィジョンが、今回は自分の中で持ち切れなかった”と語っている。このインタビューでCHABOはいくつも注目すべき発言をしているのだが、その中で2000年に出した4枚組BOXセットのことに触れ、“自分と向き合うことができて良い面もたくさんあったんだけど、反面自分の限界も見えてきてしまった。作品を書く力、プレイヤーとしての限界も見えてしまった。”…みたいなことを言っているのだ。それ以外に、“今後に向けての自身の活動を考えた時に3つのどれを選ぶべきなのか、そんなことも探していた時期だった”なんて発言もある。
つまり、CHABOはBOXセットを出したことで現時点での自分の限界を見てしまったのだ。それは勿論、僕らが見れば充分に作品として成り立っているレベルのものではないかと想像するのだが、誰よりも自分に厳しい表現者であるCHABOは、それでは満足できないのだろう。そして、これまでのように活動パターンを一つに絞り込んだアルバムを作るだけでは何かが足りないと考え始めたのではないかと思う。その結果が、今の自分の活動パターンをすべて収録し、トータルにアルバムとしての幅を持たせるということだったのではないだろうか。

また、歌詞もちょっとこれまでのCHABOとは違う試みがいくつか見られる。例えば「song for Bobby」なんか、これまでのCHABOにはあまり見られなかったタイプの歌だ。これはBobbyというストリート・ミュージシャンと、それを見つめる同世代の男とのちょっとした物語。CHABOが外国人の名前を使った歌を作ること自体とても珍しいのだが、この曲で注目したいのは、歌を一人称ではなく誰かの名前を借りて書いているという点だ。こういう視点で曲作りをする人は海外のミュージシャンにはけっこう多くて、例えばブルース・スプリングスティーンなんかが得意としている歌の作り方だが、これまでのCHABOにはこういう歌はあまり見られなかったのではないだろうか。歌の展開も情景を淡々と描写しながらも、聞き手にじわりとテーマを沁み込ませる深さが感じられる。曲を聴いてると頭の中に映像が浮かんでくるのも、やっぱり映画好きのCHABOならではのセンスだろう。こういう視点で詞を書き始めたCHABOの今後の展開が楽しみだ。

ボーナストラックとして、DATで録った音を殆ど加工せず、一見無造作に思えるほどの状態でアルバムの後半にぶち込んだというのも意欲的なアプローチだと僕は見る。少なくとも、アルバムを聴いた人は、誰一人あの3曲をボーナス・トラックだとは思ってないはず。あのライブ音源3つはこのアルバムの中で重要なパートを占めており、大きな存在感があると思う。
特に2001年渋谷でのソロライブから録られた「大切な手紙」は圧巻だ。ティーンの頃からR&Rをやり続け、そのマジックを信じているCHABO自身が、かつての同士と同世代に宛てた一つの大切な手紙。この曲には近年のCHABOの歌のテーマ、ミュージシャンとしてのCHABO自身のスタンスがあますことなく織り込まれていると思う。CHABO自身、この曲が生まれたことでアルバムを作れるかもしれないという気持ちになったと語っているが、確かにアルバムに収められた曲は、どれも「大切な手紙」にめられたCHABOの思いが、それぞれの“TIME”に、…言ってみれば、「今」「時代」「過去」「時の流れ」といった言葉に形を変えて息づいていると感じるのだ。

「悲しみをぶっとばせ!」というビートルズの曲みたいなタイトルがつけられたトラックは、このアルバムで一番ロックっぽい楽曲。“生きてゆくことはぶざま”だけど“何より尊い”ということを高らかにシャウトする。これが自分の両親に向けて言うような形で歌われた曲であるというところが深いと僕は感じる。これって、歌詞をよく聴いてみると、ティーンエイジャーの頃はむしろ両親から言われるようなことを上の世代に逆に言う形になっている。以前ライブで演奏された「ひととき」なんかもそうだけど、最近のCHABOの曲には、両親(特に父親)が登場するものがしばしば見受けられるようになってきた。CHABOもライナーノーツで書いてるけど、この歌の隠れたテーマは、時の流れの中で親と子の関係が逆転してしまったことに対するなんともいえない感慨、どうしても生じてしまう解り合えなさなのではないだろうか。
実は僕、これはかなり自分にとっても痛い部分なんだな…。こういうテーマをあえてロックっぽいプレイで“爆発”しようとしたCHABOの気持ちが、僕にはよくわかる様な気がするなあ。

その他にも、CHABOが珍しくマーティンを手にした「青空ラグ」や「TIME-時の昼寝-」はとても美しい旋律の曲で心惹かれるし、打ち込みに生身のパーカッションが絡みがスリリングな“今”の麗蘭を堪能できる「I Feel Beat」、いかにも蘭丸らしいカラフルなギターが聴かれる「たそがれ song」など、凝縮されたプレイがぎっしり詰まっている。プレイ的なことは素人の僕が語るのは控えるけど、ちょっと聞き慣れない変わったチューニングを使った曲なんかもあり、そういったことにもCHABOの新しい次元への意欲を感じる。

正直に言うと、実は僕、初めて「TIME」を聴いた時には、肩透かしを食ったような、ちょっと物足りない感じを抱いてしまったことを告白する。
それは、このアルバムの、3つの活動形態をすべて収録していることが、どうしてもBOXセットを連想させてしまって、それと比べると単純に1パターンごとの収録時間が少なくて今ひとつのめり込めない感じがしたからだと思う。歌詞がシンプルすぎて、かえって思い入れを抱きにくいような気がしたことも確かだ。しかし、何度も何度もこのアルバムを聴きこむにつれ、このアルバムに収められた曲のどれもが、これまでのCHABOの楽曲以上にリアルな時代感を持っていることが感じられるようになってきて、それがどういう形態で演奏されているのかはあまり気にならなくなってきた。恐らくCHABOは、このアルバムのレコーディングの時点では、自分の楽曲のテーマをどう表現したいか、その表現方法をとるには3つのうちどの形態を使うのが一番適切かということを考えながら曲を収録していったんじゃないだろうかと僕は思う。つまり、最初から3パターンありきだったBOXの時に対して、今回は最初に楽曲ありきだったというところが決定的に違うのではないだろうか。

何度も言うようだけど、1枚のアルバムに活動パターン全部の演奏を詰め込んだのも、歌詞がシンプルに普遍的になったのも、ここ1年以内というとてもレアなライブをそのままぶちこんだのも、それはCHABOにとってすべて“今やるべきこと”“今演っておかなければならない歌”だったのだ。その試みは見事に成功している。「TIME」に入ってる曲は、TVのニュースを見たり、日々の暮らしをおくりながら聞き込んでいくとどんどんリアルな響きが増してくるようなものばかりだ。
「TIME」は、そういった意味でトータルアルバムと言ってもいいぐらい、隅から隅までCHABOの時代認識が息づいている、21世紀に相応しい名盤だ。


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