尾瀬の賛歌−1

水芭蕉の尾瀬
昭和40年代後半の1月1日、ナイターに兄とスキーに行って足の骨を折って、新潟県妙高病院に入院していた。そんなある日 共同部屋で雑誌などを見ていたら、金箱君と山崎君が訪ねてきた。
「足の調子どうだね」
「5月の連休後には退院出来そうだな」
「服神さん 足も治りそうだし今年は尾瀬に行こうぜ!」
と乗り気充分に話しかけてきた。
「湯本さんも是非尾瀬に行きたいと張り切っているからな」
「ちょっと自信ないなー」
「まあまあー お膳立てはこっちでするから 任しておいて!」
「それまで充分静養しててくんない」
雪解けの姿が
病院の窓辺から
あの山この山にやって来た
足の痛みもとれぬのに
病院の仲間と近くを散歩して
春の風を受けながら
道端の草花の香りと共に
野山の風が吹いてきた
山の裾野に雪形を残して
ロマンを誘い かけていく心
野山の道を夢で歩いて
遠い尾瀬に思いふける
5月連休後病院に別れを告げて、会社の寮に帰って来た。寮の仲間と退院祝いにウイスキーにコーラで割って一杯会を開いた。6月の第一土日に決めて尾瀬に参加するメンバーもトントン拍子に決まっていた。尾瀬に一所に行って困ったことなどがあった場合は小生がアドバイスをする形で行く事にした。
ほろ酔いのさかなに
尾瀬を咲かせて
あの人この人誰が行く
夢の揺りかごのように
思案にふけりて
春の若葉が眩しく光る
足の痛みを感じながら
仲間とさらに酔いつつ
尾瀬のさかなが
また一つまた一つと
一輪の花びらがゆれる
6月の始め金曜日の夕方参加者16人で4台に分乗して須坂市を出発した。菅平を越えて鳥居峠・長野原を過ぎた当りで休息をとり、沼田を過ぎて戸倉の分枝で4台到着するのを確認して鳩待峠へと走った。
戸倉スキー場の分枝でも車を止めて後ろを見たら4台来ていたので橋を渡って幅の狭いガタガタ道を走らせて鳩待峠に1時ごろ着いて車を降りて確認したら、一番後ろの車が違っていた。
「あれ この車違うじゃないか」
「鳩待峠へどう走って良いかわからなかったので、丁度鳩待峠の話をしていたので着いてきました すみません」
と彼らは目的地に無事に着いてホッとしていたが、1時間も待っても最後の1台が来なかった。他の人達を車で仮眠をさせて、金箱君と愛車で探しに戻った。
戸倉では4台確認していたので、多分富士見下当りに居るだろうと予測して車を走らせて夜明けに着いたら、江口君や岡田君達が出発の仕度をしていた。
「おい なにやってんだ!」
「あんまりこないから 出発するとこさ」
「鳩待峠じゃないぞ!」
「すみません」
と岡田君が誤りながら、全員車に戻り鳩待峠へもどった。
寢ている人を起こしたりして、仕度して朝の7時頃山ノ鼻へと下った。小生は登より下りの方が右足に負担がかかるのか痛さを我慢して元気そうに歩いていたが、少しビッコをひきながらであった。
朝露で濡れて石など滑り易くスカートに簡単な履物姿で歩いて転んだのか足に血をにじませている人がいた。観光バスでやって来た人達で、観光気分で来ているスカートや背広姿はこの尾瀬に相応しくない行動が見られる。

誰もが行きたい尾瀬
遥か遠くの高き湿原に
静かに横たわる尾瀬ヶ原よ
言われるがまま
誘われるままに
バスに乗って
自動車に乗って
町で歩く姿のまま
尾瀬の空気を吸って
豊かな身と心を求めるのか
感じるまま
思うがままに
男と女の出会いも
咲き誇る草原のはるかな自然も
尾瀬に吸いよせられる魔力に
酔いしれて歩きさまよう
憧れの尾瀬ヶ原
湿原の花々を心で飲み込むがいい
「おーい 一周してくるぞ」
と山ノ鼻に着いて所々に残雪が残る姿を眺めながら、水芭蕉が咲き誇る湿原を一周して散策をした。
湿原に残る残雪に清き水の流れに映える水芭蕉を眺めながら木道を歩いて写真を撮りながら道草をしながら龍宮を通り過ぎて下田代十字路に着いた。
岡田君と小生が小屋に泊まるため受け付けをしようと小屋に行ったら満員で泊まれないと言われてしまった。手分けして全部の小屋に聞いて回ったが駄目だったので、テントや毛布を借りてキャンプ場で手分けして4張りのテントを張り始めた。
「おーいどうやって張るんだ」
「張った事ないんか」
「まあまあ・・・」
と言い合いながら見よう見まねで張り終えた。女性達も文句も言わずに手伝いながら、食事は弁当を頼んでなんとか急場を脱した。
前の日の夕方出発しているので疲れているのか、張ったテントに早速入って寝る人もいた。
一つのテント内に集まりビールやジュースで乾杯して、夕方まで賑やかに過ごした。ある人は寝不足と疲れから寢てしまう人、ある人はウイスキーを持って他のテントに挨拶回りをしに出かける人、また下田代十字路の銀座通りに足を運ぶ人もいた。
夜の風とともに流れ漂う
ほろ酔いの下田代十字路に
春の祭り気分に千鳥足
あのテント訪ねて
山の天狗話に花咲かせて
お隣のテントに
「こんばんわ」
「どうぞどうぞ」
打ち解けて尾瀬の花
眠りにつく者も
今日の歩いた木道の憩いの
睡魔に誘われて
テント内に横たわる
夜もふけゆく夜空に
尾瀬に来て星々が
輝き光り矢を下田代十字路を照らす
朝弁当を食べてから、テントを撤収して段小屋坂を通って尾瀬沼に向かった。尾瀬沼の周辺に残る残雪を踏んだりしながら右沿いを歩いていたらそのまま行ってしまった。
「おーい道が違うぞ」
「右の残雪帯を登って行くんだ」
「雪があるだけだぞ 良くわかるな」
と言いながら引き返して残雪を登って、大清水平を通り皿伏山を過ぎて白尾山の当りで小さな池の回りの草原に腰掛けたらお尻が濡れてしまった。

「なーだ 草の下びっしょりだぞ」
と何だかんだと騒ぎながら一時を小さな池で戯れて富士見峠に着いた。
小さなお池さん
小さなお池さん
可愛いお池さん
雪が溶けて
お池になったのかな
虫さんもまだかな
草花もこれから
伸びて咲くのかな
俺達はやって来たよ
黄色い声で話す子も
お池に集まり
咲かせるお話を聞いてね
お邪魔虫かな
優美な燧ヶ岳を
池に映して
賑やかなお池さん

疲れた様子も見せずに尾瀬ヶ原と尾瀬沼が見渡せる、アヤメ平を越えて木道から泥まみれの道を歩きながら鳩待峠に着いた。
尾瀬に春が来る 人が来る
湿原に漂う霧に包まれながら
大空の青い空を浴びて
華麗に豊かに春が来た
訪問者を迎える水芭蕉
何処からともなく聞えて来る
小鳥の鳴き声に草花も耳を傾ける
雪解けの真水を蓄えて
上田代に映える至仏山
尾瀬沼にくっきりと映る燧ヶ岳
誰もが憧れて登る山々に
湿原の広がりに魅せられて
虜になる尾瀬ヶ原
楽しき想い出を胸にしまい
別れてもまた行きたくなる
遙かなる尾瀬の春の香り
尾瀬に行きたい人達を集めて、尾瀬にやって来て楽しき日々も束の間の想い出となった。小生の山仲間もまた来年も尾瀬に行こうと・・・囁く声が尾瀬に谺していた。
追記
来月にこの続きの「尾瀬の賛歌−2」を載せますのでご愛読をお願いします。