国際ニュース・カウントダウン
国際ニュースを切る
◆ビル・ゲイツ引退の意味
過去10数年、世界で最も有名な経営者といえば、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長だっただろう。そのゲイツ会長が、2008年にマイクロソフトの経営化いら完全に手を引き、引退すると表明した。現在50歳のゲイツ会長は、2008年時点では52歳だ。
▼パソコン革命の旗手
マイクロソフトは色々な意味で、1980-90年代のIT革命(パソコン中心の革命の時期)の主役であり、象徴だった。
パソコンの基本ソフト(DOSやWindows)で圧倒的なシェアを確保し、世界標準を確立。マイクロプロセッサーのインテルとともにIT産業の覇権を握った(Wintelという言葉がキーワードだった)。
1975年の創業から20数年で時価総額は世界1となり、「世界で最も優良な企業」にも何度も選ばれた。
これだけでも「世界最強の企業」と言うに十分だが、他の企業と次元が異なったのはその影響が経済分野のみならず、社会や文化にまで及んだ点だ。
ゲイツ会長はIT革命の旗手として一挙手一投足が注目され、著書はベストセラーになった。「ビル・ゲイツの面接試験」(How Would You Move Mount Fuji?: Microsoft's Cult of the Puzzle)など、マイクロソフトやゲイツ会長を材料にした本が数え切れないほど出た。これも、マイクロソフトが世界の文化に多大な影響を与えるようになった現実の反映だ。
当然ながら、政治や経済政策とも当然ながら無関係ではいられない。米国やEUと当局との独占禁止に関する係争は、業界標準となった後には宿命的なものになった。
▼世代交代
近年、IT革命の中心はパソコンからネットに移り、その旗手はグーグルやヤフーに移行しつつある。そんな局面でのゲイツ会長の引退表明について、世界のメディアはIT革命の「世代交代」と分析した。
それはその通りだろうが、マイクロソフトは依然IT業界最強の優良企業。今後も大きな影響を維持していのは間違いない。新しい主役に擬せられるヤフーなど新興企業が、マイクロソフトに代わる「業界標準」や「時代の象徴」になるかどうかはまだ不透明だ。
明らかになっていることは、マイクロソフトが産業史の年表上で、スタンダード石油やフォード、GM、IBMと同列に位置づけられるであろうことだ。そしてグーグルやヤフーがそうなるかは、まだ分からないことだ。
▼慈善事業の文化
それにしても、ゲイツ会長が今後、慈善事業に活動の中心を移すというのはいかにも印象的だ。ゲイツ会長の先達として産業史に名を残したカーネギーやロックフェラーのように、ビジネスで得た巨万の富を慈善事業に使うのは米社会の伝統。背後には、キリスト教文化や米社会の仕組みなど歴史・文化上の蓄積がある。これは欧州でも似ている。
成功した経営者が40歳代や50歳代でビジネスを引退するのも、欧米ではそれほど珍しいことではない。米港ではサン・マイクロシステムズ共同創業者のビル・ジョイ氏も2003年に48歳で退社している。
そうした背景があるだけに、欧米メディアの報道にゲイツ会長引退に対する「驚き」はない。英Financial Timesは通常ニュースに加えて、「今週の主要記事」のトップ・ストーリーとしても伝えたが、見出しは事実を伝える極めておとなしいもの。慈善活動中のゲイツ夫妻の写真ばかりが目に付いた。
重要なニュースは、ジャンルを超えて現代社会の様々な面を映し出す。ゲイツ会長引退のニュースが伝えたものも、多岐に及ぶ。
(2006.6.18)