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◆フセイン処刑の投げかけるもの
イラクのサダム・フセイン元大統領の死刑が12月30日執行された。1審判決から2ヶ月弱、高等法廷の死刑確定判断からわずか4日後の処刑。その投げかけるものは大きい。
▼時代の終わりをPR
死刑執行は迅速であるだけでなく、印象も強烈だった。イラク国営テレビ局はただちに、執行前後の様子を放映。映像でも死刑を印象付けた。
マリキ政権が死刑執行を急いだのは、死刑判決を巡り混乱が広がるのを避けるとともに、1時代の終わりをPR する狙いがあったとみられる。執行後、首相が「暗い歴史に終止符を打ち、国家建設に前進しよう」と協調したのも、こうした思惑を表している。
さらに、マラキ政権としては法律に定められている手続きを着実に実施することで、イラクが法治国家であることを強調し、政権の執行能力を誇示する政治的狙いも込められていると見られる。
▼予想された反応
国民の反応は、おおむね予想通りだ。フセイン政権下で弾圧されたシーア派やクルド系の多くは、死刑を歓迎。一方、スンニ派住民には裁判の不当性などを批判する声が大きい。
執行直後には、バクダッド市内などでシーア派住民を狙った爆弾テロが相次ぎ、この日だけで100人近くが死亡した。
国際的な反応もおおむね想定の範囲内。ブッシュ米大統領は「公正な裁判だった」と死刑執行を評価する声明を発表した。一方、死刑廃止国の多い欧州は、遺憾の意を表明しつつも、イラクの判断を尊重するとのコメントが多い。死刑が執行された以上、いまさら無用な発言をして混乱を拡大させるような事態は避けたい、との意向が透けて見える。
アラブ周辺国の反応は複雑だ。ただ、裁判の正当性を疑い、反米感情を募らせる動きがあることは無視できない。
▼裁判の歴史的意義
今回の裁判の歴史的な意義は、すでに死刑判決の時に指摘しているので詳細は繰り返さないが、歴史的に極めて重要であり、極めて政治的な裁判であった。この点はしっかり押さえておく必要がある。
(フセイン元大統領死刑判決の意味=2006.11.11
http://homepage2.nifty.com/INCDclub/clm2006/vpHusseinTrial20061111.htm)
元国家元首が人道に対する罪で処刑されたのは史上初めて。この点は画期的であり、歴史的にも重要な事例になる。
一方で、裁判には多くの問題点が指摘される。イラク人による裁判という建前を打ち出しながらも実態は米国主導だったこと。公正な裁判の手続きが維持されたか大いに疑問があること、等々だ。
これに加えて、死刑執行でフセイン元大統領が関わったとされる他の事件の真相究明が、永遠に失われることも、忘れてはならない。
今回の死刑は1980年のドジャイル事件(イラク中部でのシーアは住民虐殺)の罪を問われたもの。しかし、80年代後半のアンファル事件(クルド人虐殺)は裁判の途中で終わる。88年のハラブジャでのクルド人虐殺や91年のシーア派住民弾圧事件は、関与を追及されているが起訴はまだ。90年のクウェート侵攻も、問われることなく終わる。
▼混乱続くイラク情勢
死刑執行がイラク情勢に与える影響は未知数だ。短期的には宗派対立の火に油を注ぎ、治安がさらに悪化するという見方が多い。
ただ、長期的な影響となると意見は割れる。確実なのは、イラク情勢の混迷がなおしばらく続くという認識だ。
(2006.12.31)