国際ニュース・カウントダウン
国際ニュースを切る
◆北朝鮮「核実験」の衝撃:論点の整理
北朝鮮が核実験の実施を発表、世界に衝撃を与えた。核拡散懸念の拡大、東アジアの不安定化など影響は大きい。北朝鮮の真意など不透明な点も多く、展望は読み難いが、情勢を冷静に整理してみる。
▼事実関係:分かっていることと分からないこと
北朝鮮が核実験実施を宣言したのが10月3日。その6日後の9日に核実験実施を発表した。
>>核実験の規模・成否: なお不明だ。世界各地で観測された地震派の大きさは異なり、爆発規模の推測は最大・最大で10倍もの開きがある。こうしたことから、「実験は失敗だった」との観測も消えない。本当に核爆発だったのかという疑問もあったが、14日になって実験から出たと思われる放射線が観測された。
>>再実験: 核兵器の開発では何度か実験を繰り返すのが通常。北朝鮮も、核実験継続の意図を示している。ただ、実際にいつ、どんなタイミングで行うかは不明だ。
▼北朝鮮の意図
北朝鮮の真意は不明だが、多くの専門家は2点を指摘する。
>>瀬戸際外交: 1つは米国を2国間交渉に引き出すための「瀬戸際外交」の一環という側面。米ブッシュ政権は北朝鮮との2国間協議を拒否。先の金融制裁発動は、北朝鮮経済に大きな打撃を与えたといわれる。北朝鮮はこうした事態を打開し、米国を2国間協議に引き出すためにこれまでも「瀬戸際外交」を展開してきた。今回もその一環という見方だ。
>>体制維持に核カード: もう1つが体制維持の点に各カードを持ったという指摘だ。北朝鮮が最も恐れているのが、米国の攻撃による体制の崩壊。イラク戦争でフセイン政権が崩壊したのを目にして、その感を強めてたのは確実だ。同時に、米国が核保有国を侵略したことはない事実を改めて認識したはずだ。核カードを持つことで、体制維持とこくさいてき発言力の拡大を狙ったとしても、不思議でない。
北朝鮮は「核開発の権利を有する」ということ以外は公表していない。
▼世界の安全保障への影響
実験は世界の安全保障を揺るがしている。懸念を大きく分ければ、核拡散の拡大の恐れ、そして東アジアの不安定化だ。
>>核拡散懸念: 世界はソ連崩壊後の混乱期も、核の拡散を何とか食い止めてきた。現在世界で核兵器を保有しているのはP5(米ロ中英仏)とインド、パキスタン(イスラエルも核保有の可能性)。しかし近年、核のブラックマーケットの存在が明らかになるなど拡散懸念が高まっている。
北朝鮮が核保有国となれば、紛争を抱える小国への輸出が懸念されるほか、ブラックマーケットなどを通じテロリストの手に渡る危険も高まる。しかも北朝鮮という国自体、長期的に見れば体制崩壊の可能性がある。
北朝鮮の核実験で、イランが核開発(同国は平和利用と主張)への意欲を強めることも容易に想像できる。核拡散のリスクの度合いは、従来とは比べ物にならないほど高まると認識すべきだ。
>>NPT体制の揺らぎ: 第2次大戦後、世界はNP(核不拡散条約)体制の下に核を管理してきた。P5のみに核兵器の保有を認める不平等条約だが、これが機能してきたのは他に良い代替案がないことや、核の平和利用に関する恩恵をP5以外の加盟国に与えてきたためだ。
しかし、冷戦終了後この体制は揺らいでいる。90年代にはインド、パキスタンが核実験を実施し保有国となった。そのインド、パキスタンに対し米ブッシュ政権は原子力協定に合意。核保有を容認する姿勢をみせ、北朝鮮やイランなどとの「2重基準」を露呈した。
国際社会は96年、NPT体制強化のためにCTBT(包括的核実験禁止条約)に合意したが、核大国米国を含む国の批准の遅れから、10年経っても発効していない。このため、大国エゴへの批判が強まっている。
北朝鮮の実験は、核不拡散を支える国際的枠組みの間隙を突いた面もある。
>>東アジアの不安定要因: 核実験とそれに伴う非難や制裁などで、関係国間の緊張感が高まるのは必至。中朝関係もギクシャクするだろうし、融和(太陽)政策で築いてきた南北朝鮮の対話のチャネルも細くなる。民間交流も弱くなる。
東アジア各国は地域安定のため、対話・交流のパイプを太くし、信頼醸成(confidence building)を目指している。その建設には時間がかかるが、壊すのは一瞬だ。今回の核実験はそれに当たる。
▼安保理決議の意味と効果
>>国際社会の決意: 北朝鮮非難の安保理決議はわずか1週間でまとまった。伝統的に北朝鮮の立場を擁護してきた中ロも非難決議に加わった。これは国際社会の強い懸念の表れであり、明確なメッセージになった。
>>制裁の効果=カギ握る中国: 安保理決議は禁輸の拡大(大量破壊兵器に関係する物資やぜいたく品を禁輸)、一部金融資産の凍結(大量破壊兵器に関連するものなど)、必要な場合の臨検措置などを定めている。
その効果がどこまで出てくるかについて、多くの専門家は中国がカギを握ると指摘する。中国は北朝鮮の最大の貿易相手国であり、国境を接する。米国の実施した金融制裁(北朝鮮のマネーロンダリングなどに関わっていたとされるマカオの銀行の資産凍結など)が効果を示したのも、中国が協力したためと見られている。
臨検については、実際に米国がどこまでやるかなど不透明。しかし実施した場合、不測の事態が発生する可能性はいつでもある。
>>北朝鮮の反発: 北朝鮮は決議に強く反発している。長期的に制裁がボディーブローのように効いてくるという見方もあるが、直ちに北朝鮮が政策を変える可能性はまずない。やはり決議が求めている6カ国協議への復帰についても、何も明らかにしていない。
▼各国の反応と今後の対応
安保理決議では迅速に団結した国際社会だが、これで北朝鮮が核を放棄したり、開発を断念する事はありえない。中長期的に軍事と外交的手段を組み合わせた粘り強い対応が必要だ。だが、その具体策となると意見は割れる。
>>冷静な反応、割れる世論: 実験後の周辺国の人々は、比較的静か。韓国ではデモもあったが小規模。90年代の危機の時のように、非常食のまとめ買いに走るような姿もない。
各国の反応は様々。もちろん北朝鮮の行為を批判する点では変わらない。しかし、こうした事態を招いた理由として、米国の責任を大きいとする声も目立つ。特に韓国の世論調査は、北朝鮮より米国の責任を大きく見る結果になった。
マーケットの反応も比較的静かだ。有事のドル買いは申し訳程度に進んだのみ。株式も活況で、NYダウはま前週に続いて最高値を更新した。危機を消化しきれず、材料外にしているというのが実情のようだ。
>>意見百出: ブッシュ米大統領は、当面軍事ではなく、外交的に対応すると発言した。しかし米政権は当然ながら、あらゆるシナリオの研究を進めている。その中には先制攻撃から、2国間協議に応じるものまで含まれているはずだ。
米国内の議論は強硬論化から話し合い重視まで、それこそ意見百出、百家争鳴という表現がふさわしい状況だ
>>迷う中韓: 隣国の中国、韓国は迷う。伝統的に北朝鮮の友好国だった中国は、実験自制の要望を無視される形になり、メンツを潰された。胡錦涛政権はとしても金正日政権の行為は受け入れがたいが、その体制崩壊は地域的な混乱を招き、回避したい。バランスの取り方に腐心している。
韓国は金大中政権以来の融和'太陽)政策が、裏切られた形。盧武鉉大統領が実験発表後、太陽政策の修正をにおわす発言をするなど、揺れている。
▼世界にとっての北朝鮮リスク
北朝鮮と金正日総書記の行動は読み難い。世界の常識で計り知れない行動を取る一方、計算高い現実主義者の面ものぞかせる。一方、北朝鮮という国が一種のテロ国家の性格を帯びていることも事実だ。ラングーンでの韓国閣僚爆破事件や、拉致事件がそれを物語る。
そうした国が核保有国になりつつある。世界はこうした現実と直面している。
(2006.10.15)