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◆イラク新政策と世界
ブッシュ米大統領がイラク新政策を発表した。従来政策の誤りを認めた上での決断は、2万2000人の増派。しかし、イラク安定のシナリオが示せたわけではなく、出口戦略も描けないままだ。
新政策はブッシュ政権にとっては「展望なき賭け」といえるだろう。そして、世界とってはイラク情勢は依然展望の開けない状況が続く。
▼増派の選択
イラク新政策の発表で画期的だったのは、従来のイラク政策で誤りを認めたこと。大統領は全ての責任は自分にあると明言した。その意味では、2003年のイラク戦争開始以来の節目になる。
しかし、政策の方向そのものを大きく変えることはなかった。
昨年11月の中間選挙の敗北以来、ブッシュ政権は新政策を巡り議論を重ねた。増派よりむしろ縮小を主張する意見もあった。ベーカー元国務長官ら超党派グループが12月にまとめた報告書は、2008年にも主力部隊の撤退が可能と指摘して出口作戦にこだわり示し、周辺国のイランやシリアとの対話を求めた。
しかし大統領が選択した決断は、こうした声とは逆の増派だった。治安の悪化しているバクダッドや西部のアンバル州に2万2000人を増派し、治安回復を目指すという内容だ。従来の「米軍の力による治安回復」に、あくまでこだわった。
一方、イランやシリアとの対話は否定したばかりか逆に両国を非難。超党派グループの提案を無視した格好になった。
▼展望なき賭け
新政策を巡る評価はもちろん一様でないが、楽観論はほとんどない。
米ワシントンポストは、米軍の死者を増やす一方で安定化実現の可能性は低いと批判。NYタイムズも混乱を次の政権に押し付けるだけと手厳しく論じた。英フィナンシャルタイムズは、新政策はイラクでの勝利をもたらさないと分析した。
英Economistは「大統領の最後の策」(The President's last throw)という記事で、失敗の上塗りをするだけか?(Is he just reinforcing failure?)と皮肉っぽく報じた。
これまでイラク戦略を担ってきたアビゼイド司令官(イラク・アフガン戦略責任)やイラク駐留軍のケーシー司令官は、議会証言などで2万人程度の増派はほとんど役に立たないとの認識を公言した。民主党議員の多くは、縮小→出口作戦の模索を主張する。Economist誌は、大統領はほとんど孤立している(almost alone)と指摘した。
イラクでの米兵の死者が3000人を超え、米国内では「ベトナム戦争のような泥沼化」の懸念が大きくなっている。2008年大統領選を巡る動きでもイラク政策は最大のテーマで、主要候補者の主張は、当然ながら大統領に批判的だ。
ブッシュ大統領にとって新政策は、レームダック化を避け、後世の悪評を免れるための大きな賭けになる。
▼描けぬシナリオ
バクダッドを中心にした現地情勢は、悪化の一途をたどっている。シーア派とスンニ派の宗派対立は激しさを増し、毎日100人近くの死者が出る状況。イラク国民も、バクダッドを自由に歩き回れない状況だ。「内戦」という表現が使われる頻度は、急速に増えている。
ブッシュ大統領は増派により短期間で戦闘集団をたたき、11月に全ての州で治安権限をイラクに移譲する目論見だ。しかし、かえって混乱を拡大するだけとの見方もある。
シーア派では、強硬派のサドル師グループの民兵が対スンニ派戦闘の先頭に立つ。そのサドル師グループは、マリキ政権を支える有力基盤。ここに戦闘停止や武装解除を求め、場合によっては抑止することが可能か、という疑問に明確に答えられる人はいない。
米国とマリキ政権の立場の違いも、先のフセイン元大統領の死刑執行などで表面化している。
▼不透明続くイラク情勢
不透明な状況の中で比較的はっきりしているのは、新政策がイラク情勢打開の切り札になることは現状ではまず期待できない、という見方。イラクの混乱は、内戦化や国家分裂のリスクを抱えながら続き、世界の安全保障を揺るがす震源地であり続ける。そう考えるのが妥当だ。
そして超大国米国は、残り任期2年を切ったブッシュ政権の弱体化が進み、当面、世界におけるリーダーシップの低下は避けられないように見える。
(2007.1.24)