◆緊迫続く米金融危機
前週から引き続き、米金融危機を巡り緊迫した状況が続く。
米政府は従来の政策姿勢を大転換し、多額の公的資金投入に踏み込んだ救済策を提案。議会と調整に入った。しかし取りまとめは予想外に難航。大統領選・議会選を1か月強後に控え、納税者に不人気な案に対する政治の抵抗の強さを物語った。
そうしている間も市場は揺れ、破綻の連鎖の波は波は大手銀行にまで及んだ。世界は「金融システム崩壊」の悪夢を振り払えないまま、綱渡りの状況が続く。
▽政策の大転換:公的資金投入へ
前週のリーマン破綻、メリル身売り、AIG支援を受けて、米政府は7000億ドルの不良資産買い取りを柱にした金融救済策を議会に提案した。
これまで自由経済と小さな政府を信奉し、公的資金投入に否定的だったブッシュ政権にとっては、政策の大転換になる。しかも金額は日本円で70兆円以上と半端ではない。
ポールソン財務長官らは、もはや公的関与なしには金融システムは維持できないと危機感をあらわにした。ブッシュ大統領もプライムタイムのテレビ出演で国民に理解を訴えた。
▽調整難航
しかし、議会での審議は予想外に難航している。いったんは運用面などで議会両党の修正を受け入れることで妥協が成立するかに見えた。しかし25日にホワイトハウスで開催したオバマ、マケイン両候補を交えての協議は合意に失敗。当初目論んだ26日までの週内決着は果たせなかった。
土壇場になって抵抗したのは野党民主党ではなく、与党共和党だった。メディアが"House
Republican"と表現する下院の保守派だ。
保守派はもともと政府の介入に批判的。しかも11月の選挙(大統領選と同時)を控え、有権者に不人気な政策を掲げては選挙を戦えない。
政府の救済策は、金融システムを守る目的だが、金融機関を守る側面もある。英Economist最新号の表紙は、"I
want your money"というポールソン財務長官のイラストで飾られた。これが有権者のイメージだ。
共和党は納税者に負担をかけない代替案を準備した(内容は不透明な点が多い)。こうした動きを、マケイン候補は無視できなかったとみられる。
政府・議会はぎりぎりの調整を続けているが、予想外の難航は政治的抵抗の強さを改めて認識させた。
▽淘汰の波
調整難航を見て、市場は荒れた。経営の悪化した金融機関株は、売りが集中。破綻に追い込まれた。
25日には預金量で全米6位のワシントン・ミューチュアルが破綻。JPモルガンチェースが買収した。経営危機の観測と株価下落に預金流出が進展。とどめを差した。
26日には4位のワコビアが身売りの検討に入ったとの報道が一斉に流れた。
淘汰の波は証券会社(投資銀行)、住宅公社から銀行に及んだ。
▽銀証の垣根消滅:業界一気に再編
先立つ21日には投資銀行首位のゴールドマン・サックスと2位のモルガン・スタンレーが持ち株会社に移行すると発表した。これにより両者はFRBの厳しい監視下に入る一方、融資を受けられるようになる。
大恐慌下の1933年制定のグラス・スティーガル法は、銀行と証券の兼業を禁止した。両業界の垣根は1970年代以降の金融自由化以降で徐々に低くなってきたが、今回の完全に消滅する。同時に証券中心にハイリスク・ハイリターンの業務を専業で行ってきた投資銀行という業態は消滅する。
さらにモルガン・スタンレーは22日資本強化のため、三菱東京UFJの出資を受けると発表。ゴールドマン・サックスも23日、75億ドル以上の増資を発表した。ウォーレン・バフェット氏の投資会社などから出資を受ける。
米金融業界は金融危機を契機に、かつてない速度で淘汰と再編の波を受けている。
▽大統領選を左右
金融危機は、11月4日の投票まで1か月強に迫った米大統領選の行方も左右する。
共和党のマケイン候補は24日、救済策がまとまるまでの選挙戦中断と、26日に予定された第1回討論の延期を提案した。共和党内の対立に焦点が当たるのを避ける狙いなどがあったとみられる。これに民主党・オバマ候補は「大統領は同時にいくつもの案件の処理が求められる」と反論。結局討論は予定通り、ミシシッピ州で開催された。
第1回討論は外交・安保を中心テーマにする予定だったが、ほぼ半分が金融危機対策に費やされた。
この問題では与党共和党の党内対立が深刻で、野党民主党の方が「ブッシュ政権の失政」と攻撃しやすい。しかし、情勢は日毎に変化している。不利とみれば土壇場で有権者受けのする政策を打ち出すことも考えられる。
さらにオバマ、マケイン両氏は25日のホワイトハウスでの協議に出席、すでに半ば当事者になっている。無責任な事をいえば自分に跳ね返ってくる。この問題でインタビューに答えるオバマ氏の表情は、いつになく深刻だった。
ブッシュ政権の求心力はすでに低下。大統領候補者や議員は、選挙と危機を両にらみして難しい決断を迫られる。そうした中で未曾有の危機に対応できるのか。米国の政治力が問われている。
▽資本主義の行方
金融危機は、米国や世界の資本主義のあり方そのものに焦点を当てさせた。「金融資本主義の暴走」は批判され、1980年代以降の市場重視主義は曲がり角(終焉)に来たと指摘される。
ブッシュ政権は、忌み嫌っていた「政府の介入」を前面に出す救済策を出さざるを得なくなった。コペルニクス的転換のような案に、共和党保守派は戸惑い、反発する。
ただ当面は規制強化が避けられないとしても、長期的な流れを占うのは難しい。規制だらけでは経済が委縮することを、世界は第2次大戦後の経験から学んだ。英Financial
Timesは27日、"In Praise of free maeket"(自由市場礼讃)という社説を掲載。反市場主義感情の高まりに警戒を示した。
金融危機の問いかける問題は幅広く、深く、そして重い。
(2008.9.27)