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◆イラク戦争5年と世界


 イラク戦争開始から20日で丸5年が経った。情勢は依然混迷が続き、国家再建の展望は見えないまま。戦争を主導した米国の威信は揺らぎ、世界秩序の先行きを見えにくくしている。イラク戦争5年を、イラクの現状と米国の変化、そして世界の安全保障への影響という観点から振り返る。


▼5年間の成果:混乱と国家分裂

 ブッシュ米大統領は20日の演説で、イラク戦争がサダム・フセイン政権の脅威を排除し、世界にとって役立ったと強調した。しかし、識者の間では「失敗だった」という評価が一般的だ。

 ブッシュ政権(および追随した英ブレア政権など)がイラク戦争に踏み切ったのは、フセイン政権が大量破壊兵器を保有し、世界の安全保障の脅威になっていたという理由による。同時にイラク民主化を大義に掲げた。

 戦闘については直ちに終了し、その後短期間に治安の安定と民主化を実現できるというシナリオを描いていた。

 しかし、現実はシナリオと全く異なる展開になった。大規模戦闘終了宣言の後、治安は安定しないばかりかむしろ悪化。米軍をはじめとする外国部隊への攻撃が拡大し、シーア派とスンニ派の宗派抗争が勃発した。連日のようにテロが発生し、イラクは内戦状況に陥った。

 これまでのイラク人の死者は8万-20万人と推定される。国外への難民と国内避難民はそれぞれ約200万人と、人口の約20%に当たる。

 とりあえず選挙は実施され、政府はできた。しかし政争が続き、当事者能力は限定的だ。国家はシーア派とスンニ派、クルド人それぞれが支配する地域に分かれ、事実上の分断国家になった。開戦時に言われた「パンドラの箱を開けることになる」という警告が現実化した格好だ。

▼誤算

 イラク情勢がここまで混乱した背景には、米国の大いなる誤算があった。

 米国は開戦時、サダム・フセイン政権を打倒すればイラクに解放者として迎えられることを期待していた。それが短期間での情勢安定や民主化の根拠になっていた。しかし現実は全く逆。イラク人は米軍を、解放者ではなく占領者として受け止めた。

 後に明るみに出た事実によると、米国は事前に占領政策をあまり詰めないまま戦争に踏み切った。イラクの情勢分析を単純化し、複雑な宗派や民族対立、知己いに根強い反米感情などををほとんど分析していなかったと専門家は指摘する。

 大量破壊兵器は発見されず、戦争の大義は損なわれた。アブグレイブ収容所などでは残虐行為が明るみに出た。結果、イラクやアラブ人の反米感情は当然のように高まった。それが一層の離反につながり、誤算を大きくした。

 誤算のつけは、ブッシュ政権に重くのしかかっている。イラクで死亡した米兵の数は4000人を超え、政権の支持率は低下。2007年後半にはレームダック化が隠せなくなった。

 コスト負担も重い。イラク戦争前にラムズフェルド国防長官が予想した戦費は、500-600億ドルだった。現実には月間120億ドルの戦費がかかり、2007年までのコストは4000億ドルに達した模様だ。経済学者のスティグリッツ氏は最近、イラクとアフガニスタンで総計3兆ドルの戦費が必要になるという予想を発表した。財政赤字の拡大を通じ、米経済にの行方に重くのしかかっている。

▼イラクの現状:若干の改善、見えない展望

 ここに来て、情勢は若干の改善を示してきたとの見方が強まっている。イラク国内で発生するテロや死者の数は、2007年には1か月2000-3000人程度だったが、最近は数百-1000人レベルに低下した。米軍の死者も減少している。

 数字低下の理由は、まず米軍の増派が挙げられる。2007年初めの増派による警備強化と軍事作戦の変更で、バクダッドなどのテロは減少した。力による予防が、ひとまず功を奏した格好だ。これに加え、シーア派内の反米強硬派のサドル師支持派の一方的停戦宣言や、シーア派とスンニ派、クルド人のすみ分けの進展などが被害減少に結びついたとの見方が多い。

 ただ、何かきっかけがあれば衝突が再燃する状況に変わりはない。イラク人による治安維持部隊の育成は遅々としたままで、時期の見通しも立たないまま。米国を中心とする外国部隊がいなくなれば、事態が急速に悪化してもおかしくない。

 事実上の分断国家に陥ったことで、政治統治の仕組みや経済再建のシナリオは極めて描きにくくなった。不透明要因は、引き続き多い。
  
▼米国の権威失墜

 グローバルな視点から見てもう一つ重要なのは、イラク政策の失敗が米国の威信を大きく失墜させたことだ。ブッシュ政権はイラク政策にとらわれ、国際社会で他の重要政策にコミットできない状況。地球温暖化や北朝鮮の核開発など重要な問題で、ほとんどイニシアティブを示せない状況だ。ロシアや中国は米国の足元を見るかのように、自国の主張を強めている。

 21世紀の世界は、対テロ戦争やイスラム圏との共存、核の拡散防止、環境問題など重要な問題に直面している。こうした問題に世界が対処するためには、超大国米国の役割は欠かせない。その米国が権威と自信を必要以上に失ったら、世界にとっても深刻だ。

 共和党のマケイン、民主党のオバマ、クリントンの米大統領有力候補は、イラク政策の転換を訴える。ただその具体像と信頼性は、なお曖昧模糊とした状況だ。


(2008.3.22)