◆カラジッチ逮捕が映す旧ユーゴ情勢
ボスニア紛争の戦犯とされるラドバン・カラジッチ被告が逮捕された。13年の逃亡生活。長いヒゲなどで変装し、医師としてベオグラードで働いていたという話は、スパイ小説か映画のよう。逮捕劇は、いくつもの視点を投げかける。
(1)冷戦後の清算まだ=混乱続くセルビア
冷戦後に解体した旧ユーゴの中で、セルビアは最も混乱を引きずっている国の1つだ。コソボ問題は依然紛争の種。2月のコソボ独立宣言は当然のように認めてないが、セルビアとして局面打開の手があるわけではない。
国内政治的には、民族主義派と親欧米派の対立が続く。経済は90年代からの国際制裁などで低迷したままだ。
クロアチアやスロベニアではほぼ完了した冷戦後の清算が、まだまだ終わっていない。
(2)EU加盟目標
混乱が続く中でも、国の将来を考えた場合、EUとの協調という選択肢以外にないという意見が増えているようだ。
2月の大統領選は、「コソボの独立宣言が間近」という情勢だったのにも関わらず、親欧米派のタディッチ氏が再選した。5月の総選挙も事前予想を裏切って親欧米政党が勝利し、6月に親欧米政権が発足した。
EUはコソボ独立問題での譲歩などを条件に、経済支援などを打ち出している。将来的にはEU加盟の可能性をちらつかせる。これが、状況によっては「切り札」になっている。
(3)なお根強い民独主義派
とはいえ、民族主義派は根強い。
カラジッチ氏が13年も逃げおおせたのも、広範な支持者がいたからこそ。警察にも内通者がいて同氏に協力していたとされる。
こうした人々の間でカラジッチ人気は根強い。ボスニアにおいてセルビア人勢力は人口的に少数派だったが、それにもかかわらずイスラム教徒やクロアチア人勢力と同等(あるいはそれ以上?)の形で新国家の枠組みを作った。これはカラジッチ氏の功績、という見方も根強い。
旧ユーゴ法廷が主張するようにカラジッチ戦犯論は、欧米では常識だ。しかしセルビアでは(EU加盟に将来をかける人も含め)そう簡単には受け入れられない。
(4)情報機関
国際政治事件には情報機関の役割が極めて重要だが、今回の逮捕劇でも米英の情報機関が協力したとされる。そのハイテク技術も、現代の国際情勢を左右する重要な要素になる。
(5)時間軸
冷戦が終了してはや19年。1991年に始まったユーゴ解体も17年を経た。コソボ紛争からも10年を経過した。
時間とともに既成事実が次々にできているが、感情のしこりを解きほぐしたり軋轢を収めたりするのにはなお長い時間が必要だ。
セルビアがEUとの協力強化を目指す上で、今回の逮捕の1つの節目になりえる。ただ、物事は10年単位の時間軸で見る必要がある。
(2008.7.26)