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◆米金融危機と世界


▽世界の風景一変

 米金融危機で世界が震撼した1週間だった。

 週明けの15日未明、米投資銀行(証券)4位のリーマン・ブラザースが破産法を申請。米史上最大(負債総額6130億ドル)の破綻に陥った。同じ日、同3位のメリルリンチはバンク・オブ・アメリカへの身売りを発表。翌16日には米政府が保険最大手AIGを事実上管理下に置く救済策を発表した。

 いずれの会社もサブプライム問題で大幅な損失を出し、財務内容が悪化。株価急落で資金繰りが苦しくなり破たんや救済に追い込まれた。英国では不動産融資の多いHBOSをロイズが救済合併した。

 リーマン・ショックを受けて市場は混乱。市場金利は急上昇し、株価は急落した。中銀による大量の資金供給などでかろうじて連鎖破綻→金融システムの崩壊を食い止めた格好だ。しかしもちろん、不安は消えていない。

 大手金融機関がバタバタと破綻する動きは、さながら10年前の日本の金融危機を思わせ、世界は米国発金融恐慌の不安に怯えた。

 投資銀行は米経済繁栄の象徴として就職人気でもトップクラスだった。その花形産業の上位5社のうち3社が、わずかな間に独立企業として消えた(3月にはベア・スターンズが破綻)。職を失いダンボール箱を抱えて退社するエリート社員の姿が全世界に放映され、世の急変を印象付けた。

 米WSJと英Financial Timesはリーマン破たんの翌日の16日、奇しくも「世界は終わったわけではない」という同じ表現を使って社説を掲載した。こんな表現が出てきたのも、世界が地獄の入口を見たからこそ。世界の風景は、1週間で急変した。


▽見えぬ先行き

 事態が緊迫する中で関係者はギリギリの対応を重ねた。リーマンを巡っては12-14日にNYにポールソン財務長官やガイトナーNY連銀総裁、民間金融機関トップらがNYに集まり対応策を協議。企業分割による救済案なども俎上に上がったが、ポールソン財務長官はモラルハザード回避の観点から公的資金投入を拒否。結局、破綻へと進んだ。一方、AIGを巡っては金融システム全体への影響を考えた末に、政府管理下での保護を決定。結果的に180度異なる対応となった。

 米政府・当局の対応について、専門家の間ではやむを得ない判断という見方が多い。しかし、2重基準という批判は否定の仕様がない。市場は疑いの目を凝らして政策を見詰める。

 市場が動揺する中、米FRBや欧州中銀などは大量の資金を供給。動揺を抑え、資金不足からくる連鎖破綻などを抑え込んだ。財政規律などには構っていられない状況だ。

 さらに米政府・FRBは金融安定策を相次いで発表した。空売りの防止、貯蓄性の高い短期投資信託MMFの保護など矢継ぎ早だ。

 もともと米国では、金融機関の救済に公的資金(納税者のおカネ)を使うことには拒否反応が強い。公的資金投入がなければ金融不安解消は無理、という意見は早くからあったが、政治的に踏み込めなかった。

 3月のベア・スターンズ破綻時の救済や9月の住宅公社救済も、せっぱつまった状態に追い込まれた末の決定。対応は後手後手に回ることになった。

 19日のMMF保護などの決定に際しても、ブッシュ大統領は公的関与をなるべく避けたがったと伝えられる。これに対しポールソン長官は、無策の結果大恐慌を招いたフーバー大統領の2の舞になると説得したと報じられる。それだけ危機感は深刻ということだ。

 次の焦点は金融機関の不良債権(toxic assets)の買い取り機関の創設。米政府は原案を作り議会に近く提示した。しかし、調整は簡単ではない。危機対応の先行きはなお視界不透明だ。


▽パラダイムの転換

 歴史的にみれば、今回の金融危機は米国経済政策とパラダイムの転換点となる可能性がある。

 1980年代以降、米国は市場重視と規制緩和を旨とする経済政策を推進してきた。この土台の上に、金融分野では90年代以降、急速に証券化(Securitization)が進展。経済グローバル化の中で、ハイリスク・ハイリターン型のビジネスが世界に広がっていった。

 しかしサブプライム問題の表面化で、そうしたシステムの持つ脆弱さが露呈された。金融は逆回転を始め、システムの危機に直面している。

 そうした問題点が今回、ピークに達した感がある。米政府は公的資金投入を含む関与を迫られ、中長期的にも規制緩和から再規制へと流れが変わる可能性がある。英Financial Times紙は、「規制緩和の時代の終わりのように見える」と書いた。

 政治思想史的には、米政権は冷戦後を通じて市場経済と民主主義の拡大を掲げてきた。しかしイラク戦争の失敗などで、両者が歩調を合わせて実現するほど世界は単純でないことが明白になった。

 経済思想史的にも、金融危機のもたらす影響は大きい。


(20080920)