◆オバマ候補決定の意味
米大統領選民主党の大統領候補にバラク・オバマ上院議員(46)が決まった。米2大政党で黒人が大統領候補になるのは、建国以来230年余の歴史で始めて。その歴史的・文化的な意味は極めて大きい。
▼異例の予備選
今回の民主党の予備選は、従来の常識からすると異例ずくめだった。第1に有力候補者の顔ぶれ。選挙戦は女性のヒラリー・クリントン上院議員と黒人のオバマ上院議員の争いになり、エドワーズ元上院議員をはじめとする白人男性は早々と脱落した。これまで43人の大統領が全員白人男性だったことを考えれば、いかに異例かがよくわかる。
選挙戦の長期化も異例だった。2月のスーパーチューズデーでも方向が見えず、全米50州の投票が終わる6月までもつれ込んだ。民主党では夏の党大会まで進んだ1972年以来だ。
こうした異例の予備選は、政治ドラマとしてみれば見どころ満載だった。
予備選前の大本命はヒラリー・クリントン上院議員。しかし1月のアイオワ州党員集会でオバマ候補が勝利し、ヒラリー有利の流れを変えた。続くニューハンプシャー州予備選ではヒラリーの涙の復活。その後スーパーチューズデーでの未決着、2−3月のオバマブーム、大票田州でのヒラリーの勝利と続いた。計5か月の混戦となったが、オバマ氏が2−3月以来のリードを守り切った格好だ。
この間、オバマ氏恩師の過激な白人批判ビデオな、誹謗中傷合戦、党則違反で代議員ゼロとなったミシガンとフロリダ州の扱いをめぐる駆け引き、混戦長期化を狙う共和党党員による偽装投票など話題には事欠かなかった。そのせいもあり、予備選投票者数は史上最高を数えた。
▼オバマ勝利の要因
オバマ氏勝利の理由は、すでに色々分析されている。
持ち前の演説力やカリスマ性は言うに及ばない。そうした個人的な資質をさて置くとすれば、最大の要因は、「変化」を前面に出した選挙戦略だろう。
イラク政策の泥沼化で米国民のブッシュ政権に対する支持率は史上最低レベルまで低下。米国民はブッシュ政権からの変化を渇望している。オバマ氏は一貫して「変化」(Change)を訴え、変化の体現者としてのイメージを植え付けることに(少なくともある程度)成功した。
同氏は上院議員1期目で、まだワシントン・インサイダーの批判をしやすい立場。イラク戦争開戦にも賛成していなく、ブッシュ政権批判に無理はない。こうした点を訴え、有権者の心をとらえた。
選挙戦でも、これまでにない方法を取り入れた。インターネットを活用し、草の根の若い有権者を選挙戦に取り込んだ。政治献金も、従来の大口献金者中心からネットによる小口献金中心に変えた。予備選中盤でオバマブームが盛り上がったこともあり、献金額は最終的にクリントン候補を上回った。
「勝者総取り」でない予備選の仕組みをうまく利用した、巧みな選挙戦術も見逃せない。
クリントン氏が伝統的な民主党の支持基盤を押さえ「経験」をPRした。これに対するオバマ氏のキーワードは変化であり、インターネットであり、非伝統的な支持者だった。
米保守派の評論家のパット・ブキャナン氏が評した「クリントンは昨日、オバマは明日」は、そうした特性を言い得ている。エドワード・ケネディ上院議員はオバマ支持を打ち出した時、「この選挙は未来についてのものであり、過去についてではない」と述べた。
▼米社会の変化
しかし、そうしたオバマ氏の資質や戦略も、米国社会の変化なしには受け入れられなかったはずだ。
1776年建国の米国で奴隷制が廃止されたのは87年度の1863年。その後、黒人に対する法的な人種差別が禁止されるまでには、さらに100年を要した(1964年の公民権法施行)。それから44年が過ぎた。(ちなみに女性賛成感が認められ、女性に対する法的差別がなくなったのは1920年)
もちろん、差別はまだ色々なところに残る。経済的に黒人や有色人種が実質的な差別を受けているのは否定しようがないし、社会・文化的差別も消えない。
それでも、差別がだんだん弱くなっているのも間違いのない。黒人をはじめとする有色人種で、政治家や企業トップ、専門職など社会的に影響力の大きい地位に就く人は着実に増加している。ブッシュ政権の国務長官は。2人とも黒人だった。
肌の色を超えた結婚は急速に増加。これが人種融合に寄与している。人々の意識の中にある差別意識はなかなか消えなくても、少なくとも責任ある地位にいる人が、公の場で差別発言をすることは許されない社会になった。
▼社会・文化的意味
すでに米国では閣僚のほか、最高裁判事や下院議長にも黒人や女性が就任している。しかし、大統領となると重みが違う。
オバマ候補選出で、米国は黒人大統領受け入の準備ができたことを示した。たとえ当選しなくても、その社会・文化的、歴史的意義は極めて大きい。
オバマ大統領誕生となれば、後世の審判を仰ぐことなく「歴史的な大統領」になる。米国民の心理面の変化など、今後の米社会への影響も計り知れないだろう。
(2008.6.8)