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◆パキスタン大統領辞任の影響

 パキスタンのムシャラフ大統領が辞任した。2月の総選挙後の政局混乱が1つの節目を越えるが、辞任により同国情勢が安定するとの期待はほとんどない。むしろ、米国と協力して「対テロ戦争」を進めてきた大統領の退任で、イスラム過激派の活動拡大→アフガン情勢の一段の悪化を懸念する声が消えない。イスラム圏唯一の核保有国である同国の動揺は、世界の安保を揺るがしかねない。


▼米国の朋友

 ムシャラフ大統領の辞任は、反大統領は主導の議会による弾劾が不可避になったと判断したため。パキスタンでは2月の総選挙で、反大統領派の人民党とパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML−N)が勝利。大統領の実権は大幅に後退していた。今回の辞任で、同国は9年ぶりに民政に戻る。

 大統領は99年にクーデターで権力を掌握。9.11後は対テロ戦争で米国と協力を強めた。欧米にとってアフガニスタンの治安維持には隣国パキスタンの協力が不可欠で、同国はテロ戦争の「最前線国」と位置づけられてきた。

 米国はムシャラフ政権に多額の経済支援を実施。2001年以降の6年間は高度成長を遂げてきた。


▼米戦略の挫折

 しかし、ムシャラフ政権は国内で対過激派対策などで強硬姿勢を採用。2007年にはイスラマバードの神学校に立て篭もった過激派を武力制圧した。その後、大統領再選を目指して異を唱える最高裁再長官を解任、非常事態を宣言し、国民の批判も強まった。

 こうした事態を打開するために、ムシャラフ大統領は亡命中のブット人民党総裁(元首相)との協力を模索。米国もムシャラフーブットによる新米欧体制の維持を支援した。

 しかし昨年待つのブット氏暗殺でこうした戦略は挫折。今年2月の総選挙では大統領派は大敗し、パキスタン政局は反大統領派主導になった。

 軍人出身のムシャラフ大統領には、汚職に明け暮れた同国体制の改革を目指していた面もある。しかし、志を果たせず退場することになった。英Financial Timesは「理想主義者の失敗」(Idealist who failed to live up to billing)と評した。


▼深まる混迷・見えぬテロ対策

 同国政局は新局面に入るが、混乱が一段と深まる懸念がある。連立政権は反大統領で結束していたが、辞任後は勢力争いが必至。すでに大統領に解任された裁判官の復職や、新大統領選出を巡り争いが表面化している。

 もっと深刻なのがテロ対策だ。連立政権は前大統領の対テロ強硬姿姿勢から、過激派との対話を重視する方向に転じている。しかしそれでテロがなくなる見込みはなく、むしろ過激派の勢力拡大の懸念がある。21日には首都近郊でイスラム過激派によるテロがあり、60人が死亡した。

 汚職体質の批判が抜けない民政政権が軍を把握できるのかという心配もある。


▼国際社会の懸念:アフガン情勢と核拡散

 パキスタンが重要なのは、同国の混乱が国内問題にとどまらず、国際社会に甚大な影響を及ぼすことだ。

 アフガニスタンではここにきて、タリバンが攻勢を強めている。パキスタンがタリバンの補給基地になっているというのは国際的な常識。その取締りができないのなら、アフガン情勢改善はおぼつかない。

 核保有国のパキスタンが揺らげば、核拡散の懸念も強まる。そうなれば、世界の安全保障にとって深刻だ。 


▼見えぬ「次の手」

 米国はポスト・ムシャラフの戦略を描ききれていない。ライス長官はムシャラフ大統領退任にあたり、過去の業績を賛美したコメントを出したが、「次」に向けた発言は控えている。欧州も同様だ。

 英Financial Timesは大統領辞任で「不確実性がさらに高まった」(Musharraf departure heightens uncertainty)と報じた。これが世界の共通認識だろう。


(2008.8.22)