◆米ゼロ金利と世界経済
米FRBが実質的ゼロ金利を採用、量的緩和政策を正式に表明した。市場の事前予想を超える思い切った判断は、金融危機と経済悪化への強い危機感の表れだ。世界の経済と政策は従来の常識が通用しない未踏の領域に入った状況で年を越す。
▼未踏の領域
米FRBが16日の公開市場委員会で採択した決定は、市場の事前予想を超える大胆な内容だった。
金利は、FF金利の誘導目標(政策金利)をそれまでの1.0%から0-0.25%に引き下げ、実質的なゼロ金利政策を採択した。ゼロ金利は無論、誘導目標に幅をつけるのも初めて。英語ではnearly
zeroという表現だ。
同時にFRBのバランスシートを高い水準で維持すると表明した。国債やCPなどの買い入れを通じ、市場に資金を大量に供給し続けることを意味する。すでにFRBは金融危機後こうした運用を実施し、資産は2007年8月の8700億ドルから現在は2.2兆ドルへと倍以上に増えている(増加分のほとんどはCPや社債など従来買い入れが少なかったもの)。こうした「量的緩和政策」を公式表明した。
金融政策の運営目標は金利から資金量に変わった。量的緩和政策を採用した面では2000年代初頭の日本と同じだが、手法は異なる。
また、景気回復と物価安定のために「あらゆる手段を動員する」(FRB
will employ all available tools to promote
the resumption of sustainable economic growth
and to preserve price stability)と表明。恐慌回避とデフレ防止への強い意思を示した。
▼評価は分かれる
決定に対する評価は複雑だ。共通しているのは、今回の判断を「歴史的」(英Financial
Timesなど)と位置づけ、未知の領域に入ったという認識を示していること。FTは「海路のない水域に深く進んだ」(moved
deeper into uncharted waters)と表現した。
ただ、その先の評価となると難しい。米WSJ紙は"Bernanke
goes all in" (バーナンキは全てを賭けた)と社説を掲載。ポーカーで全てのチップを賭ける行為に例えながら、あまり効果が期待できないわりにリスクが大きいとやや批判的な論調を掲載。これに対しFT
は「賭け」(Bernanke is taking a gamble)としながら、他に方法はないと擁護する姿勢も見せた。メディアの論調も、未知の領域であるが故にか、歯切れがいいとはいいかねる。
発表を受けて為替市場ではドル安が急進展した。一方、株式市場ではNYダウが大幅反発したが、市場の大きな流れが変わったという感じではない。
▼非常時の経済
ブラウン英首相をはじめとする各国政治リーダーや、今年のノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン教授らは、現在の経済を異常時と強調。そのようなときには非常時の経済政策が必要と主張する。
主要国は9月以降、金融機関の破綻防止や景気対策に大量の公的資金を投入。巨額の財政赤字に目をつぶる政策を進めた。平時では決して考えられない財政規律無視の経済運営だ。
FRBの決定は、金融政策面も「非常時モード」に変わったことを印象付ける。
▼足下の世界経済動向
その「非常事態下の世界経済」を簡単に描写すれば、▽金融危機がなお続き、▽実体経済の悪化が急速に進展し同時不況入りした、という状態だろう。12月以降の動きを中心に足下の主な動きをまとめると以下の通りだ。
(1)マクロ経済
‐世界同時不況: 日欧米の先進国はすでに4半期ベースでマイナス成長に陥り、景気後退局面に入った。中国、インドなど新興国も減速。2009年の経済は先進国はマイナス成長、世界全体でも0%台になりそうだ。
‐経済データ悪化: 11月以降の経済データの悪化は凄まじい。主要国の鉱工業生産、設備投資、消費などのデータは軒並み過去最大級の悪化。自動車販売、住宅着工など2ケタ以上のマイナスだ。米11月住宅着工は前年比19%減で過去最低水準を更新した。欧州の11月の自動車販売は26%減。悪化はなお進みそうだ。
‐雇用: 雇用悪化は11月ごろから加速した。米国の11月の雇用者数は53万人減少。失業率は今年10月の6.5%から来年は7.5%に上昇しそう。欧州でも失業率が急速に上昇、スペインは来年15%に達する見込み。
‐物価: 米国の11月の消費者物価は前月比マイナス1.7%となり、物価下落に転じた。ユーロ圏の11月の消費者部下J交渉率は前月比1.1ポイント減の2.1%。焦点はインフレ懸念からデフレ懸念に変わっている。
(2)産業・企業
‐負の連鎖: 全世界的に業績悪化→事業計画の縮小・人員削減の負の連鎖が続く。トヨタショック(業績大幅下方修正、事業計画縮小)、ソニーショック(1万6000人の人員削減)など目白押し。
‐倒産リスク: 有名企業の破綻が目立つ。ポラドイド、ウールワースなど金融危機でとどめを刺された。目下の最大焦点は米自動車産業の救済論議。破綻となれば影響は計り知れない。
‐貸し渋り: 金融機関から十分な融資を受けられないケースも、各国で目立ち始めた。資金調達支援も政策課題になっている。
(3)金融システムと金融機関
‐金融機関: 大手金融機関が相次ぎ破綻に直面した9、10月ほどの緊迫感はないが、経営悪化、危機表面化はくすぶり続ける。金融機関の赤字決算も続く(前週はゴールド・マンサックスとモルガンスタンレーなど)。
‐損失処理: 欧米の金融機関が住宅ローンやCDS関連などで処理した損失額は、昨年以来1兆ドルになる。しかし、損失額全体の3分の1程度に過ぎないとの見方もある。山場を越えたとはとても言えない。
‐公的支援: 政府・金融当局は資金供給、公的資金による国有化、預金の保証などを通じ、ここの危機が金融システムの破綻に及ばないよう支援体制を維持している。前週はアイルランドが追加支援策を発表した。9−10月の学習を生かしている。
(4)マーケット
‐株価: 株価は年初来、日米欧で50%程度、新興国では50−80%程度下落した。なお反転の兆しはなおない。
‐為替: 10−11月は金融危機の異常な環境下でドル高が進んだ。米企業やファンドが自国通貨のドル確保に走ったことなどが影響した。12月に入り、ユーロ高が進展。目下強含みはユーロと円だ。材料になるのは金利差や経済条件、決算対策のための特定通貨確保(上記の例など)など様々。いずれにしろ、不安定(volitile)な状態が続く。
‐原油: NY原油先物は12月19日に一時1バレル=32ドル台まで低下。7月11日の147ドルから5か月で4分の1に下がり、イラク戦争前の状況に戻った。
‐信用収縮: 世界の株価式の時価総額は、ピーク時の半分に相当する30兆ドルが失われた。資金は安全資産に逃避。信用収縮が進む。
(5)経済政策・公的部門の状況
‐財政赤字拡大: 米国の財政赤字は2008会計年度(08.9まで)に4550億ドルと過去最大を記録。2009会計年度は最初の2か月ですでに4000億ドルと凄まじい勢いで拡大している。GDP比は08年度が3.2%。09年度はどこまで拡大するか注目だ。過去GDP比で最大は83年の6%。EUは財政規律のGDP比3%以内が、向こう2年は例外になる情勢。
▼視界不透明
世界経済は視界不良の状況が続きそうだ。
最も懸念されるのは、経済が底割れし恐慌に陥ること。大恐慌時には、米国の場合GDPが3分の2以下に減少。失業率は25%に達した。社会不安から第2次大戦が発生した。各国政府や金融当局が非常時モードで対策に努めるのも、こうした事態を何としても回避するためだ。
最悪の事態を回避できたとしても、経済悪化がしばらく続くのは確実。IMFは来年早々、経済見通しを下方修正する。楽観的な見通しでも、経済回復は来年後半以上だ。
9月のリーマン・ショック以来、世界はアイスランド危機、マイナス成長への転落、シティ・グループ危機、米自動車業界危機など色々なショックに見舞われた。来年も同様のショックを覚悟すべきだろう。
2008.12.20