◆AIG賞与スキャンダルと米金融危機対策
総額1700億ドル(約17兆円)以上の公的資金を受けたAIGが、幹部に多額の賞与を支給したことが発覚。AIGへの批判はもちろん、オバマ政権への信頼性を揺るがしかねない問題に発展している。
▼政権にも批判
事件が15日メディアの報道で発覚すると、当然のことながらAIG批判の嵐が巻き上がった。世間はもちろん、政治家や政権関係者も非難合唱の輪に参加。リディAIG会長を招いた18日の米下院公聴会では、グリード(貪欲)、高慢などの言葉が飛び交った。
世間の批判は、支給を防止できなかったオバマ政権へも向かった。ボーナス支給を防止する機会があったとすれば、AIG支援を決めた救済法制定時。その時に事態を予見できなかったガイトナー財務長官への批判が集中し、野党共和党からは辞任を求める声も上がっている。
オバマ大統領はたびたび会見を開催。今回の事態について「怒り」を表明する一方、財務長官については「いい仕事をしている」と擁護。国民の理解を求める。ただ、釈明調の印象はぬぐえず、国民の支持率も低下し始めた。
議会は支給ボーナスの70-90%を課税する法案を可決。「納税者のカネが多額ボーナスに使われるのは許せない」という世間の批判のに応えようと努める。しかし、支給の合法性や、高度なデリバティブの知識をもった人材流失防止とのバランスなど複雑な問題を抱えている。事態鎮静化は一筋縄ではない。
米金融救済は、複雑かつ関係者の利害が対立する。このため、予期しない事態が連発するのはある程度織り込み済みだった。それでも今回のようなスキャンダルが起きると、改めて唖然とする。
▼ボーナス文化の矛盾
スキャンダルは、金融危機対応に関し多くの課題を改めて提示する。
第1に今回の金融危機を引き起こした米金融界のボーナス文化。1980年代以降、米金融界は金融工学を駆使して少額の資金を元に多額のおカネを動かす仕組みを発達。この金融バブルの中から利益を生み出してきた。
それを遂行する人材をつなぎとめてきたのが、多額のボーナスだ。金融バブルが破裂し、これまで水面下に隠れていた社会の伝統的価値観とボーナス文化の矛盾が、一気に表面化した格好だ。AIG以外にも、政府管理下にある住宅公社のファニーメイやフレディマックなどでもボーナス支給問題が表面化しようとしている。
第2に、米金融救済の対応が場当たり的であり、ループホール(抜け穴)が多いこと。金融のプロと言われたガイトナー財務長官が、救済法案策定時に今回のような事態を想像できなかったのはどうしてか。スタッフが十分にそろっていないという指摘もある。今後も、こうしたループホールが出てくるのは不可避と見た方がいい。
▼オバマ政権の信頼問われる
第3に金融規制や資本主義のあり方を巡り、米国内で価値観の対立が根強いことだ。金融危機で市場万能主義はさすがに勢いを失った。しかし、政府の役割と市場機能をどこでバランスさせるべきか、金融規制をどこまで、いかに行うべきかなどでは、様々な意見が噴出し、百家争鳴の状態だ。欧州などを加えた国際的な意見の違いはさらに複雑だ。
AIG賞与問題への批判も、社会の常識やモラル面からのものがほとんど。それは感覚的にもっともだが、金融危機はもっと複雑なところに根ざしている。落とし所の見えない展開になっているのもこのためだ。
第4に、政治への信頼だ。金融危機のように難しい問題に対応するためには政治への信頼不可欠。2か月前に発足したオバマ政権への信頼と期待値は非常に高く、これが米国にとっても世界にとっても、金融・経済危機克服の最大の安心材料になっていた。
今回のスキャンダルは、信頼性に対する大きなテスト。オバマ政権の危機管理や政策対応、世論説得の能力が問われている。信頼性が大きく傷つくとすれば、米国や世界の将来にとって大きな懸念材料になる。
2009.3.22