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◆クリントン訪朝と北朝鮮問題


 クリントン米元大統領が突然訪朝。金正日総書記と会談した。拘束記者2人の解放という"土産"は事前に調整していたものだろう。ただ、会談内容については北朝鮮、米国の説明が大きく異なり、今後への影響も未知数だ。情報を整理する。


▽サプライズの訪問

 今回の訪問は、国際社会にとっても驚きだった。米国の大物政治家の訪朝は2000年10月のオルブライト国務長官以来9年ぶり。ブッシュ政権時代にはなかった。

 元大統領としては1994年のカーター訪朝以来2回目。この時は北朝鮮のNPTからの離脱をきっかけにした第1次の核危機が起きた時だ。


▽異例の歓迎

 空港には政府・議会の幹部が出迎え。金総書記との会談には、北朝鮮政府と朝鮮労働党の幹部が参加。主要国の現職首脳級の扱いをした。

 金総書記とクリントン前大統領が並ぶ写真は北朝鮮国内と世界に配信された。健康が懸念される総書記の健在ぶりをアピールする狙いもあったと、容易に想像される。

 北朝鮮がクリントン訪問を重視した姿勢が、様々な面から伝わってくる。

 この問題ではリチャードソン元エネルギー長官など他の政治家の訪朝も検討された模様。ただ、北朝鮮はあくまで元大統領のクリントン氏にこだわったとされる。


▽異なる見解

 会談を巡る両国の主張は大きく異なる。

 北朝鮮側は、拉致問題に関してはクリントン氏が謝罪を伝えたと主張。また口頭でオバマ大統領のメッセージを伝えられたと強調した。

 会談では核問題や米朝関係などを含む「諸問題を幅広く意見交換した」と、繰り返し主張する。

 これに対し米側は、今回の訪問があくまで私的なものだったと協調。謝罪もオバマ大統領のメッセージも否定する。会談内容については、詳細の説明を避けている。

 それぞれの国が異なる情報を流すのは外交では一般的だし、同床異夢の会談も珍しくない。それにしても、両者の違いがここまで大きいのはそう多くない。


▽危機創出

 北朝鮮はこれまでも一貫して米朝2国間協議の実現を目指してきた。2国間協議で対米関係正常化を実現し、体制の安定を確保。同時に国際社会からの支援引き出しを狙うのが、基本姿勢だ。

 核はそのための重要な材料。状況に応じて危機を創出、相手を交渉の場に引きずり出そうという危機創出外交、あるいは瀬戸際外交は常套手段だ。

 昨年夏、金正日総書記の健康悪化をきっかけに北朝鮮の体制が動揺。核を巡る6カ国協議のも行き詰まり傾向を示した。

 こうした中で北朝鮮は今年に入り、ミサイル発射や6カ国協議からの離脱宣言、再度の核実験などで危機を創出した。3月に発生した米国人記者の拘束も、こうした危機創出外交の一環ととらえるべきだろう。


▽視界は不良

 今回の訪朝は、クリントン政権時代のパイプがまだ機能することを示した。それは確実な成果という指摘がある。

 ただもちろん、北朝鮮情勢はクリントン訪朝で今後の行方が見えてくるほど単純なものではない。

 米国はオバマ政権に代わり、ブッシュ時代の強硬策を前面に打ち出すスタンスを変えつつある。6カ国協議が行き詰る中で、次の手を模索しているのは間違いない。

 しかし、核拡散防止には強いスタンスで臨む。金総書記の健康状況とそれに伴う北朝鮮の今後の体制が定かでないこともあり、様々な可能性を探っていると見るのが妥当だろう。

 一方の北朝鮮は、危機創出外交など不変な部分はある。しかし、そもそも閉鎖社会で情報が伝わってこないし、世界の外交常識で測れない対応が多いのは変わらない。動きは読みにくい。


▽緊張と妥協の繰り返し

 1990年代の最初の危機以来の北朝鮮の核問題を振り返ると、改めて「緊張と妥協の繰り返し」であることが分かる。

 緊張の動きは、北朝鮮によるNPT脱退、核実験、ミサイル発射、交渉打ち切りなど。一方米国はじめとする国際社会の対応としては、経済制裁などで応じてきた。

 一方妥協の動きは、北朝鮮による核開発計画凍結への同意、査察受け入れ、6カ国協議受け入れ。さらには国際社会による制裁解除や経済支援などだ。これが繰り返されてきた。

 今回の訪朝も、こうした大きい流れを踏まえながらとらえるべきだ。足元の動きだけにとらわれると、方向性を見誤る。


2009.8.8