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◆金融危機後1年の世界経済


  リーマン・ショックから1年を経過した。金融危機→深刻な不況へと進んだ世界経済はマイナス成長に落ち込み、GMの破綻など平時では想像もできない事が続発した。しかし、懸念された1930年代のような大恐慌に陥ることはなく、最悪期脱出の見方も広がってきた。世界経済を改めて振り返り、整理してみる。


▼1年間に起きたこと

 金融危機後の主な出来事をまとめると次の通りだ。

(1)世界経済
・世界経済の実質成長率は2008年の3.1%→2009年は-1.4%に落ち込んだ。先進国は2-7%の大幅減(日米欧は2008年7-9月期以降マイナス成長が続いた)。
・2009年1-3月期を底に悪化に歯止め。最悪期は脱したとの見方が広がっている。
・中国はいち早く回復。4-6月期は7.9%の成長を実現した。
・失業率は悪化が続く。米欧では近く10%を超え、失業率2ケタ時代になる。

(2)市場
・株は金融危機以降急速に下落した。2009年3月頃を底に回復の兆しが出てきた。
・回復が早いのは中国などで、上海株はすでに1年前比40%上昇した。
・日米欧はまだ危機前の水準を回復していない。
・石油などの商品も下落→回復に向かった。 

(3)金融機関・金融システム 
・米国ではリーマン、AIGなどが破綻。地銀など金融機関の破綻が続き、2009年はすでに90行以上が破綻した。
・住宅金融公社(ファニーメイとフレディマック)、シティ・グループなどが多額の公的資金で支えられて息をつないでいる。
・欧州ではアイスランドの3大銀行などが国有化。英RBSなどが実質国有化された。スイスのUBSなどには公的資金が投入された。
・ゴールドマンサックスなどが普通銀行に転換し投資銀行は消滅。金融の再編が進み、業界地図は一変した。
・世界の金融機関の不良債権は4-6兆ドルと推定される。処理済みはまだ3分の1程度とみられる。
・米銀の業績は数字上4-6月から回復している。ただし会計処理上の要因などもあり、経営の中身が改善したとは言い切れない。

(4)産業
・GM、クライスラーなどが破綻。
・世界各国を通じ、企業は大幅な人員削減やリストラを推進している。
・各国政府がで低燃費車への買替補助など支援プログラムを導入。産業を支えている。


▼政策の推移

(1)金融支援

 米国や欧州の政府・当局が取った政策を整理すると、まず金融機関・金融システムの救済が行われた。具体的には(1)市場への大量な資金供給(2)破綻した金融機関の国営化(3)経営悪化した金融機関への公的資金投入(4)外貨準備の枯渇など資金繰り悪化した国への国際的な資金供与--などで、2008年末くらいまでに最初の山を超えた。この間、三菱東京UFJによるモルガン・スタンレーへの出資など民間での救済・再編も進んだ。

(2)景気対策
 各国は税制支出や減税などで消費刺激策や公共事業を打ち出した。中国はGDPの10%を超える4兆元の刺激策を発表。4月のロンドンでのG20首脳会議時の発表では、20カ国の総額は5兆ドルになる(ただし、真水部分はずっと少ない)。このうち、上記の自動車買い替え支援など平時では考えられないような政策を打ち出した。

(3)産業の直接支援
 産業への直接支援も推進。米国は破綻したGM、クライスラーに多額の支援を実施する一方、自動車部品など周辺産業にも支援策を打ち出した。


▼最悪のシナリオ回避  

 金融危機発生当時に最も懸念されたことは、金融システムの崩壊→世界経済が大混乱に陥り、1930年代の世界恐慌再来となること。1年経ち、その懸念は小さくなった。

 金融システムは何度か崩壊の危機に直面したが、各国当局の大量の資金供給や国有化、公的資金投入で何とか食い止めた。今、そのリスクは格段に縮小した。

 実物経済の影響も深刻だが、世界恐慌時とは比べるべくもない。恐慌時に世界のGDPは30%前後縮小し、米国の失業率は25%に達した。今回は、先進国のGDP縮小は5-7%程度だし、失業率は10%超のレベル。はるかにマシだ。


▼回復期待と出口作戦
 ここにきて、回復への兆しが出ている。

 世界経済は1-3月を底に最悪期を脱したという見方が広がっている。日本やドイツ、フランスの4-6月のGDPは前期比プラスに転じた。8月の米国自動車販売は約2年ぶりにプラスになった。

 株価や商品価格は3月ごろを底に上昇。企業はリストラ一色のモードから、次の成長をにらんで新規投資に踏み切る動きが出てきた。

 もちろん先行きは不透明だ。

 金融機関の不良債権はまだ3分の2が未処理のまま。実体経済の回復も、政府の消費支援などに支えられたものも多く、自律的回復にはなっていない。ボタンを掛け違えれば、いつまた経済が悪化し景気の2番底になってもおかしくない。

 経済政策を平時のものに戻す「出口作戦」はまだ時期尚早という意見が、主要国当局の間では強い。

 米国や英国などはGDPの10%を超える政府支出を実施。財政赤字は膨らんだ。将来のインフレ懸念などにつながる。しかし、副作用への配慮を考えるまでの余裕はまだない。


▼金融:中規模の改革?

 今回の危機の引き金になった金融制度の改革や金融規制を巡っては、様々な議論が重ねられた。その結果、いくつかの改革が実現した(される)が、世界の金融の仕組みを抜本から変えるようなものにはなっていない。

 世界恐慌の後、米国では銀行と証券業務を分離するグラス・スティーガル法が導入された(1999年に銀証分離は廃止)。

 今回の規制・ルールの見直し(議論)は、自己資本規制の強化、各国の監督体制の強化、短期志向の是正を目指す報酬制度の改革などを含む。いずれも重要なもので、今回の危機の温床となった高リスク経営、短期志向の経営は幾分是正されるだろう。しかし、全体の仕組みを変えるのではなく技術的なもの。グラス・スティーガル法のように大ナタを振るって仕組みを抜本的に変えるものではない。

 その技術的な規制論議も調整は容易ではない。

 24日からのピッツバーグでのG20首脳会議では、高リスク経営や短期志向経営の温床となった金融機関経営者の報酬問題や、新たな自己資本規制がテーマになる。しかし金融立国維持を目指す米英と独仏の意見の相違などがあり、調整は一筋縄でない。


▼いたちごっこ

  米国や英国では、金融の自由な活動が経済を活性化しそれが冷戦後の経済発展に貢献してきたという認識が根強い。市場重視派は「角を矯めて牛を殺すなかれ」と規制強化をけん制する。

 すでに米金融機関では(公的支援を受けている機関も含め)高額報酬復活の動きも出てきた。

 オバマ大統領は15日、ウォール街での演説で「過去の教訓から学んでいない」と批判したのも、こうした動きを苦々しく思っているためだろう。

 これとは別に、金融のグローバル化が進み実効性のある規制が難しくなっているという事情も無視できない。

 いずれにしろ、新たな規制が導入されても金融機関はすぐにループホールを見つけて新たな金儲けの手段を探すことになるだろう。

 金融の規制論議といっても、制度としての決着点を見つけるものではなく、動的なプロセスの一環としてとらえるべきだ。新たな規制が、早くも新しいバブル発生の根を内包していることも忘れてはならない。


▼世界と資本主義の変化 

 そうはいっても、長期的な時間軸でこの1年の変化を眺めると、資本主義は変わった。

 1980年代以降の新自由主義は、明らかに曲がり角を迎えた。大手金融機関やGMが国有化され、経済は国家の支えなしには声明を維持できない状況になった。

 市場経済への支持がなくなったわけではなく、なお「市場経済しかない」という見方が一般的だ。しかし、「市場に任せておけば長期的にうまくいく」という盲目的な市場信奉はもうない。それは世界観にかかわる問題で、たとえ金融規制で大きな枠組みの変化がなくても関係ない。

 不況を機に古いビジネスモデルがいくつか崩壊し(GM、シティなど)、代わって新たなビジネスへの挑戦が台頭したこの1年の間にグーグルが新OSを発表。マイクロソフトとヤフーが提携し、ツイッターが大きく普及した。自動車メーカーはエコカーの開発・販売を強化している。

 変化の芽は、新聞のトップ見出しに報じられないところに出ている。


2009.9.19