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◆インド総選挙の読み方


 インドの下院選結果が発表され、国民会議派中心の与党連合が勝利した。事前予想を大幅に上回る快勝。国民は現政権の改革路線と穏健スタンスを強く支持した形だ。


▼インドの政治地図

 多様な地域・民族・宗教を抱えるインドの政治・政党地図は複雑だが、現在の構図を単純化すれば次の通りだ。

1.国民会議派(the Congress Party)中心の与党連合
 中道左派。会議派はインド独立時の政治運動の中心で、ネルー首相以来70年代までインド政治を事実上支配。冷戦時は社会主義的な傾向が強かったが、冷戦後は経済改革路線に転換した。世俗政党で、支持基盤は各層に広く及ぶ。ネルー→インディラ・ガンジー→ラジブ・ガンジー各元首相と続くガンジー家の存在が無視できない。
 連立与党は地方政党など。
 2004年からのシン政権は経済改革路線を推進。国内政治や外交では現実的・穏健的な政策をとってきた。

2.インド人民党(Bharatiya Janata Party=BJP)中心の野党連合
 中道右派。BJPはヒンズー教至上主義を掲げ、外交的には国家利益を前面に打ち出す傾向が強い。経済は改革路線。前身の政党は70年代、事実上の1党独裁だった国民会議派の腐敗体質を批判する中から誕生。98-2004年には政権を担当した。この際に核実験を実施した。

3.共産党など第3勢力
 格差の是正を重視。共産党は西ベンガル州やケララ州を金城湯池としてきた。
 2004-2009年のシン政権下では、キャスティングボードを握り存在感を発揮してきた。

4.その他少数政党


▼政権基盤強化

 与党連合は選挙前の222から260議席に伸長。会議派は150→206議席と、過去18年で最大の議席を獲得した。逆にBNPは130→116議席に後退。共産党は62→24議席に大幅減少した。
 
 与党はこれまで共産党など第3勢力の協力を得なければ政策運営が難しかったが、今回の勝利で政権基盤が大幅強化された。シン首相は5年の任期満了の後に再選されるが、これはネルー首相以来だ。


▼選挙の争点

 争点の一つが経済問題。好調だったインド経済も、金融危機の影響で先行き不透明感が漂い始めた。格差拡大なも重要な問題だ。
 
 この経済については、与野党とも改革推進を主張。根本的な政策対立にはならなかった。共産党などは格差是正を前面に打ち出した。

 一方、治安や安全保障問で人民党は昨年11月のムンバイのテロの対応が生ぬるかったと政府を批判。対パキスタンなどの外交で断固たる対応を主張した。国内ではヒンズー教文化や生活尊重を訴えた(ただし表向き過激な事を言ったわけではない)。

 これに対しシン首相は、テロ事件では適切な対応だったと弁護する一方、外交面では現実的な対応を強調。宗教問題では「政府は世俗主義に立つべきだ」とBNPを批判した。


▼経済改革・現実路線支持 

 選挙結果を見る限り、国民は格差是正に傾斜することなく、経済改革路線による成長維持を支持した。また外交・治安では与党の現実路線を支持した格好だ。政治家への信頼という観点では、シン首相の実績が信認されたと見ていいだろう。もちろん金融危機の悪影響がまだ限定的にとどまっていることも、与党に幸運に作用した。

 インドは21世紀に入って6-8%の高成長を維持。社会の発展は著しい(発展は今年のアカデミー賞受賞作・Slumdog Millionaire によく映し出されている)。現時点では、シン流の改革路線が支持され、推進力を与えられた。


▼注目点

 もちろん、難問は山積している。世界不況の影響がどの程度で収まるかは不明。予想以上の経済悪化なら、せっかく支持された改革路線もとん挫しかねない。
 外交面では隣国のパキスタン、スリランカの情勢悪化が深刻。それは過激派の台頭やテロの拡大に結び付きかねず、インドにとってもアキレス腱だ。 
 信認高いシン首相も76歳で、5年の任期を務め終えると見る人は少ない。ネルー・ガンジー王朝4代目のラフル・ガンジー氏(ソニア・ガンジー会議派総裁の長男)の入閣、将来の首相就任を予想する声も早くも出ている。


2009.5.17