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◆医療保険制度改革と米社会


 米医療保険制度改革論議が山場を迎えた。オバマ大統領が9日、上院両院の合同会議で演説、改革実現に向けて強い意欲を示した。一方反対派は12日、ワシントンで反改革の大規模抗議デモを展開するなどキャンペーンは熱を帯びている。

 議論は米国民や産業の利害構図や政府に対する考え方、社会文化を反映している。また、現代社会における政府のあり方や自由な経済活動と規制の関係、社会的公正に対する考え方、オバマ大統領の政治力の行方などを左右しかねない。影響は甚大だ。


▼異例の議会演説

 米大統領の議会演説は、通常年初の一般教書演説のみで、この時期の演説は異例。改革実現への危機感と、強い意欲の表れだ。大統領は「実行の時だ」(The time for bicking is over. Now is the time for action)と強調した。

 演説のポイントは以下の通りだ。

1.改革の目標について、(1)無保険者の解消(2)民間保険加入者の保護強化(3)医療保険の支出の削減、と改めて明確にしたこと。
2.無保険者向けに新たな創設する制度は、民間保険を圧迫するものでないと強調したこと。
3.改革コストは10年間で9000億ドルと説明したこと。
4.財源については不明確な点が残り、増税には触れなかったこと。


▼1丁目1番地の課題

 医療保険改革はオバマ政権が内政の最大課題として位置付けているテーマ。大統領選の時から改革実現を公約に掲げており、政権の存在理由にもかかわりかねない問題だ。

 米国は先進国では例外的に公的医療保険がなく、企業単位の保険や民間のみ。企業の破綻や失業などに伴い保険資格を失う人も多く、無保険者は4000-5000万人存在する。

 その民間保険も様々な理由をつけて保険金を支払わないケースも多い。

 また、本来期待される民間の効率的運営が実現しない面も多く、米国の医療費のGDP比は主要先進国中最高だ。

 制度の欠陥が指摘されて久しいのに、既得権者に阻まれて改革が実現できないで来た。


▼序盤戦
 オバマ政権は当初、夏休み前に改革の大筋をつける目論みだった。しかし複雑な利害関係の調整が進まず、秋以降に持ち越しになった。
 議会の下院では、委員会レベルで与党民主党の改革案が採択させた。しかし本会議や上院での審議はめどがつかない状況だ。


▼利害対立

 改革に対する反対意見は根強い。野党共和党や、既得権を侵される医療、製薬業界が反対するのは当然として、中産階級を中心とする一般国民のアレルギーも強い。最近の世論調査では、国民の半数が反対という結果も出ている。

 反対の理由として挙げられるのは、まず財源問題。10年で9000億-1兆ドルというコストを負担するためには、結局は増税が欠かせないという見方が強い。オバマ政権はムダの削減や医療関係業界の負担増などで対応すると説明するが、具体的数字を提示し、国民の理解を得るを説明するには至っていない。

 大きな政府に対するアレルギーが予想以上に強いという事情もある。12日の反対派の集会でも、「大きな政府反対」や「民業圧迫反対」のプラカードが目立った。これは米国の社会土壌でもある。

 反対派はこうした国民感情も踏まえ、「公的な保険で不法移民も救うのか」などとキャンペーンを繰り広げる。


▼妥協模索

 オバマ政権は必死のキャンペーンを繰り広げる。9日の演説に先立つ夏休みシーズンには、大統領が各地で集会を開催。反対派デモのあった12日もミネソタで集会を開催し改革への理解を求めた。

 妥協の姿勢も見せている。議会演説では民間保険を圧迫するものでないことを強調。内容で多少譲歩しても、改革法案を成立させる姿勢を見せている。英Economist誌は「中道の改革」(centrist reform)と解説する。


▼影響多大

 医療保険改革の行方は米国内の問題にとどまらない。議論の行方はオバマ大統領の政治力を大きく左右する。求心力低下→大統領の権威低下となれば、今後の世界情勢にも影響する。

 医療制度改革についてみれば、米国は制度の中でも特異な制度を維持してきた。米国とともに自由経済の先頭を走るといわれる英国の場合、医療制度は国営・無料が原則(有料の民間医療を選択することはできる)。米国の対極に立つのだ。

 そもそも資本主義が曲がり角に立ち、パラダイムが変わろうとしている時期。米国の医療モデルが変われば、世界の経済制度を考える上でも重要な事例になる。


2009.9.13