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◆オバマ大統領就任と米国・世界


 米国の第44代大統領にバラク・オバマ氏が20日就任した。初の黒人大統領はそれだけで歴史的。しかも世界的な経済危機の中で米国のリーダーシップ回復への期待が高い時だけに、新大統領への期待は異常なほどに大きい。就任式と演説から、オバマ政権と米国・世界の行方と課題を展望する。


▼歴史的な就任式

 就任式はとにかく歴史的だった。ワシントンには200万人近い人々が集まり、新大統領の就任を祝った。
黒人は19世紀後半まで奴隷として使われ、半世紀前でもなお公然と差別されていた。その黒人大統領の誕生は、米国の持つダイナミズムを改めて感じさせた。効果的な演出も手伝い、米国には高揚感が漂った。


▼就任式の映し出したもの

 就任式は、色々な点で米国社会の特徴や抱える課題を映し出した。

 新大統領登場の際の紹介は、「バラク・H・オバマ」。ミドルネームのフセインを意図的に避け、イスラムに対する米国民の微妙な感情を反映した。

 祈りをささげる牧師には、同性婚反対運動を進めるキリスト教福音派のウォーレン牧師を起用。保守派への配慮を示した。

 式典では平和裏な権力の交代を(peaceful transition of power)繰り返し強調した。

 大統領宣誓は聖書に手を置いて実施。就任演説も、他の参加者のスピーチにも「神のご加護を」(God bless you)が入った。オバマ大統領は他宗教・他文化の尊重を強調したが、米社会がキリスト教中文化であることを改めて印象付けた。


▼就任演説のメッセージ

 オバマ大統領の就任演説は約20分。内容には大統領の問題意識、目指すもの、コミュニケーションの手法と能力などが凝縮されている。演説の筋立てを箇条書きで示せば、おおむね以下の通りだ。

(1)危機の認識と克服の呼びかけ、ブッシュ時代との決別
・危機意識の確認=経済危機、2つの戦争
・原因は強欲と無責任。さらには新時代に備えた選択をしなかった我々の責任==>ブッシュ時代との決別。国民に責任自覚要求
・米国再建の呼びかけ=克服は容易でないが可能。根拠は米国の力、建国以来の人々の努力。

(2)経済危機への対応
・経済再建の具体的構想=雇用対応と共に新しい成長の基礎。具体的に新インフラ、IT基盤、技術振興、新医療システム、環境技術。
・政府の役割・経済原理=大きい政府か小さい政府かではなく機能する政府。市場経済は大事だが監視も必要。

(3)外交政策
・安全か理想かの選択を拒否。国際協調を強調==>ブッシュ時代の善悪2元論、単独主義否定
・具体的課題として、イラク撤退、アフガン、核拡散、地球温暖化。
・テロとは断固戦う姿勢を明示。
・多様性と対話を尊重=多様性は米国の強みと。イスラム社会と相互尊重の対話を呼びかけ。

(4)米国民への呼びかけ
・世界が変わる中で米国も変わる必要がある。
・米国民に自覚と責任を求める=(ケネディとの類似性)
・新しい挑戦のために古い美徳の価値強調=正直さ、勤勉、勇気、公正さ、寛容性、好奇心、忠誠心、愛国心
・未来への責任=米国の歴史の例を引きながら。


▽キーワード
 演説のキーワードを挙げれば、米国再建(remaking America)、新たな責任の時代(New era of responsibility)、世界ともに変化( For the world has changed, and we must change with it)などだろう。
 NT Timesの分析によると、使用単語で多かったのは、nation, America, people, work, generartion, worldの順。イラク戦争開始後のブッシュ大統領2期目はfreedomが最多だった。歴代大統領の演説でも、nationが多いのはよくあることだ。
 NYTは初代ワシントン大統領以来の就任演説使用語を分析しており面白い。次のアドレスでアクセスできる。
http://www.nytimes.com/interactive/2009/01/17/washington/20090117_ADDRESSES.html


▽特徴
 ポイントをまとめれば、(1)ブッシュ時代との決別を明確に宣言し、米国再建を訴えたこと(2)経済危機と外交問題克服へのへの決意を強い意志で表明したこと(3)米国人に変化と新たな責任を求めたこと、などだ。
 政策課題への取り組みは極めて具体的。経済対策は、単に失業対策ではなく未来の成長につながる新インフラ、IT基盤、技術振興、新医療システム、環境技術に集中投資すると明言。特に環境では、太陽や風力、土壌を活用して自動車や工場を動かすと例示した。
 外交ではイラク撤退、アフガン、核拡散、地球温暖化を特に重点課題として例示。国際協調と対話の重要性を強調し、特にイスラム圏に対話促進のサインを送った。
 一方でテロ(平和を望まない勢力)には断固たる姿勢で臨むと宣言。硬軟両面の現実的な姿勢をうかがわせた。


▽伝統的価値と未来志向
 新時代への変化を求める一方で、米国の伝統的価値観に重きを置いたのも特徴。米国建国の精神、米発展の歴史を繰り返し、米国の潜在力を強調した。それにより、国民の自信回復と国民融和を促した。
 ブッシュ時代の政策は具体的批判こそしなかったものの、明確に決裂を宣言。同時にその選んだ国民にも責任と自覚を求めた。
 歴史に残る一節があったとは言い切れない。しかし演説は格調高く、大統領の読み上げも間の取り方がうまかった。内容的および演出を見ると、リンカーン、ルーズベルト、ケネディを意識しているようにうかがえる。

▼世界の期待
 新大統領に対する米国民と世界の期待は大きい。
 メディアはほぼ好意的な姿勢で報道。NYTは「オバマ宣誓、危機局面の国家は祝福」(Obama takes oath, and nation in crisis embraces the moment)と報じ、英Financial Timesは社説で「オバマの成功は世界にとって必要」(World needs Obama to succeed)と論じた。
 中国や南米のメディアもほぼ前向きに受け止め、中東はイスラム圏への対話呼びかけに期待する。
 ブッシュ時代に米国の信望は大きく失墜した。しかし米国のリーダーシップなしに世界は動かない。金融危機は、それを改めて認識させた。
 大統領交代を受け、世界は新時代の訪れに期待する。就任演説は、その北位置を一層高めた。

▼難問山積
 新政権は早速動き出した。就任早々、ブッシュ政権の人権軽視の象徴的存在だったグアンタナモ収容所の閉鎖を決定。イラク撤退計画の策定指示した。中東和平とアフガン・パリスタン問題では特使を任命。金融危機と景気対策は内容の取りまとめに拍車をかけている。
 政府関係者、議会関係者らとは精力的に協議。欧州主要国や中東諸国首脳との電話会談も積極的にこなし、すでにフル稼働だ。 
 もちろん経済危機克服とイラク、アフガンを中心に難問は山積。短期間での成果は限界がある。それでも、米大統領以上に期待できる人物は、地球上にいない。
 最初の100日は、野党共和党やメディア、国民とも蜜月関係が続き、思い切った対応ができる期間。世界は高い期待値を持って、新大統領のお手並み拝見となる。

2009.1.24