◆オバマ演説と政権1ヶ月
オバマ米大統領が議会演説を行い、政権の施政方針を示した。景気対策や長期的な成長戦略を示し、米国再生に向けて国民を鼓舞した。1月20日の就任から1ヶ月強の間に、新政権は矢継ぎ早に政策を打ち出し、動きは迅速だ。何が変わり何が課題になっているのか点検する。
▼施政方針演説
演説は議会で上下両院議員を対象に行ったが、実際には国民向けのメッセージ。通常年の一般教書演説(新大統領就任の年にはない)に相当するものだ。
大統領は米国が直面する問題の深刻さを隠すことなく説明。米国民にも「長期的繁栄よりが短期的利益を追求するような生活をしてきたと」反省と自覚を促した。その上で、米国は再建できると呼びかけた(このメッセージは演説の冒頭に近い部分で明確に示されている)。
具体的政策については、まず短期的課題として景気対策と金融救済に言及。景気対策ではすでに何度も表明している「2年間で350万人の雇用創出」を改めて強調し、公共投資の役割や減税効果を訴えた。
金融は救済策の詳細より、危機の深刻さと救済が不可欠な事情を説明。公的資金の使用については「いかに不人気か承知している」と素直に語った上で、「銀行を救うのではなく人々を助けるのだ」と理解を求めた。難しい中身はなく、自身と政権への信任を求めるトーンだ。
一方、長期的成長戦略は、エネルギー、医療、教育の3分野を重点分野として明確に示した。省エネ産業の育成や地球温暖化対策の充実、医療改革、教育の拡充などを具体的な例を交えてかなり詳しく説明した。
演説は経済が中心で外交政策への言及は限られていた。その中でもイラクとアフガン政策の転換や中東問題への取り組みに言及。また国際協調重視の姿勢を示した。
演説の特徴を挙げれば、就任演説の基本的トーンを踏襲しながら経済政策中心により具体的な内容に踏み込んだこと。国(米国)が随所に顔を出していたこと。分かりやすい言葉で語りかけたこと。前政権の政策と理念を(直接的な批判というより)否定し米国民にパラダイムの変換を求めたことなどだろう。
米メディアの評価は割れる。リベラルなワシントン・ポストなどが前向きな受け止め方だった一方で、保守派の米Wall
Street Journalは具体的中身が伴わないと批判するなど、立場の違いが出た。ただ、海外では英Financial
Timesが「良い演説」(A nice speech)と評するなど(その上で具体策の策定と実行を求めている)、期待交じりの好意的なトーンが多い。
▼矢継ぎ早
演説と呼応する形でこの週、オバマ政権はいくつかの重要決定を打ち出した。
26日には予算の基本方針を発表。2009年度の財政赤字が1.7兆ドルになるとの見通しを示した上で、金融安定への公的資金枠追加や医療保険強化への基金創設などを提案した。27日にはイラクからの撤退計画を発表。また、大手金融機関シティ・グループを事実上政府管理下に置くことを決めた。
いずれも第1級の国際ニュース。米国と世界が激しい速度で動き、それに新政権が迅速に対応するスピード感が伝わってくる。
▼盛り沢山の1ヶ月
政権発足から1ヶ月強の重要な動き振り返ると、以下の通りだ。
>演説・コミュニケーション
・就任演説(1.20)米国再建、新たな責任の時代などがキーワード
・議会演説(2.24)施政方針を説明
・週末ラジオ演説で国民にメッセージ
>金融危機対策
・金融安定化策発表(2.10)財務長官が発表。資金注入、不良資産買取り計画など。
・当局の緊急声明(22日)信用不安払拭に追加資本注入の用意など
・大手行の資産の厳格査定(ストレステスト)開始(2.25)
・シティ・グループ救済第3弾(2.27)実質政府の管理下に
>景気対策・経済政策
・景気対策法案(2.13議会可決、2.17署名・成立)
7870億ドル
・予算基本方針発表(2.26)
・排ガス規制強化の大統領令(1.26)加州の規制など承認。環境政策転換
>外交
・グアンタナモ基地の捕虜集要所の閉鎖指示(1.22)
・中東和平、パキスタン・アフガニスタンの特使指名(1.22)
・イランとの対話に意欲(2.9)
・アフガンに1.7万人増派発表(2.17)
・イラクからの撤退計画発表(2.27)
>政治情勢など
・ダシュル厚生長官候補が辞退(2.3)。野党共和党との対立表面化。
新大統領が最初の100日に新政策を打ち出すのは常だが、オバマ政権の動きは特に急だ。中でも金融危機対策と景気対策は待ったなしで、矢継ぎ早に新政策やメッセージを打ち出している。外交も遅滞なく、前政権の政策を転換する決定を下している。1か月強の間の急激な変化と緊張感が伝わってくる。
▼焦点
政権の政策に評価を下すのは、もちろんまだ時期尚早だ。現時点で言えることは、レームダック化身動きが取れなくなっていた米国が、新政権下で急速に動き出したこと。就任当初の熱狂は失われたものの、国民の支持と期待値はなお高いこと。「最初の100日」が過ぎないうちに野党共和党との対立が色々な局面で表面化し始めたことなどだろう(特に政府の介入の度合など、両党の基本哲学が異なる問題で)。
もう一つ、重大な失敗はまだない。それが表面化したときの危機管理能力も、今後の焦点になる。
2009.2.28