11.バキについて
〜板垣マジックの真実、そしてバキの楽しみ方〜

 

 はじめに
 
 最近(と言うより、大分前からだが)バキが何かおかしい。
第二部の最凶死刑囚編になってからと言うもの、妙な方向に向っている。
そう感じているのは私だけではないはずです。
かつて最大トーナメント編をやっていた頃は、一試合一試合が実に面白く、「どっちが勝つんだ?」、「次はどうなるんだ?」と、ワクワクし、手に汗握りながら読んでいたものですが、最近ではそんなこと全くと言っていいほどなくなってしまいました。
確かに、長期連載のせいで、読者である我々の目が肥えてしまい、ちょっとやそっとのバトルでは驚かなくなったということも要因のひとつかもしれません。
しかし、それを考慮したとしても、最近のバトルはあまりにずさん過ぎるものがあり、「なんだかなあ」と思えてしまうことは否めません。
では、どうしてこうなってしまったのでしょうか?
思うに、それはこの作品のキャッチフレーズである「予想は裏切り、期待は裏切らない」を過剰に意識してしまったからではないでしょうか?
なぜなら、最近の展開を見るに、「予想は裏切り」と言う部分は当てはまるとしても、「期待を裏切らない」かと言うとそうでもないからです。
実際に、「まさかこれで終わりじゃないよな?」と思ってたら、それで終わりだったという、あまりにあっけない試合展開が幾度となく描かれました。
こうなってくると、作者の板垣氏は読者の予想の裏をかくことばかりに邁進し、肝心の内容についてはさほど力を入れてないのではないか?とすら思えます。

 しかしながら、そんな展開を何度も目の当たりにしながらも、毎回騙されていると言うのもまた事実であり(少なくとも私は騙されています。騙されていない方、すいません)、このまま毎回板垣氏の掌で踊らされ、予想を裏切られていたのでは癪に障ります。
そこで、今回私は、なんとかこの
板垣マジック(便宜的に、読者の予想を裏切るこの板垣氏の手腕をこう呼びます)を破る手立てはないものかと思案したところ、この板垣マジックにはある法則が隠されていることに気付きました。
それは実に大胆かつ巧妙な手口であり、漫画好きな人ほどハマリやすいという恐るべきものでした。
例えれば、マークシートの試験において、あたかも正解のような間違った選択肢をいくつも並べるようなもの…。
しかし、何も心配はいりません。
これからご紹介する2つの法則さえ知ってしまえば、板垣マジックなぞ恐るるに足らずです。
それでは、早速この悪魔のような板垣マジックを解き明かしてご覧にいれましょう。

 

 

 1.板垣マジックの法則1.常識的に考えて正しいと思えるものが正しい
 
 これは一見当たり前のことのように思えますが、漫画を読んでいる時と言うのは極めてこの感覚が著しく低下してしまうものです。
と言うのも、多くの漫画においては、明らかに実力差があるにも関わらず、努力・友情・根性・怒り・潜在能力の開花等で大逆転劇が繰り広げられることは日常茶飯事であり、
大半の読者もそれに慣れきってしまっているものだからです。
加えて、それまでのストーリー展開や伏線等から、大まかなストーリー展開と言うのは大抵の場合、予想の範疇であり、そのほとんどはお約束の範囲内に収まりますので、読者が予想だにしない突拍子もない展開等と言うものはあまりお目にかかれるものではありません。
 しかし、この作品においては別です。
そしてそのことが最もよく表われている事例が、愚地克己です。
では、この法則を踏まえた上で、彼のことをちょっと振り返ってみましょう。

  

ケース1.愚地克己

 今でこそ、中途半端なヘタレキャラと言うイメージが強い彼ですが、当初は「空手を完成させた男」「空手会のリーサルウェポン」と、それはそれは大層なもてはやされ様でした。
そして実際に、以前バキが大苦戦した夜叉猿の子供、夜叉猿Jrを苦もなく倒し、また養父である愚地独歩が武者修行時代、引き分けで決着のつかなかった、ビル・ライレーの愛弟子にして師を越えたと言われるローランド・スタスにも圧勝する等、その実力を如何なく見せ付けてくれました。
加えて、試合に対する思想の違いから、バキと対立。
さらに、お互い勝ち進めば準決勝であたるという、これ以上ないと言う程2人の対決のお膳立ては整っていました。
こういう場合、普通の漫画なら両者は準決勝で戦い、白黒はっきりさせることでしょう。
しかし、この作品は違います。
ここまで、愚地克己と言うキャラを掘り下げ、なおかつ主人公のバキとも絡ませておきながら、哀れかな。
愚地克己は準々決勝にて烈海王にまさかの惨敗を喫してしまうのです。
まさに、漫画におけるお約束的な展開を全く見せ付けない思い切りの良さ。
とは言え、この展開を全く予想できなかったわけでもありません。

それと言うのも、克己に圧勝した烈海王。
このキャラの強さと来たら、人智を超えるものがあり、当初より「こんな奴にこいつ勝てるのかな?」という思いも少なからずあったからです。
 しかし、これまでの克己の描かれ方、バキとの因縁、そして漫画におけるお約束的な展開等から、我々の目は曇り、常識的に考えれば烈が勝つのは当たり前にも関わらず、それが分からなかったのです。
実際に、私はこの作品を全く知らない2人の友人に、試合直前までの愚地克己と烈海王、2人に関するエピソード2話(烈海王のは老人が「最強の格闘技は中国拳法」と言う&打岩の話、愚地克己のは彼が5歳の頃、サーカスで象と力比べして勝ったり、ライオンを手なずけたりして、独歩の養子になる話)を見せ、「どっちが勝つと思う?」と尋ねたところ、2人とも「やっぱ中国拳法の方が強いんじゃない?」と答えたことから、この作品内においては、常識的に考えてこっちが強いと思えた方が勝つと思って間違いないと思います。

 しかし、これだけではちょっと弱い気もするので、ダメ押しにもう少し事例を紹介したいと思います。

ケース2.劉海王VS範馬勇次郎

 齢百を超える老人なれど、現役海王にして烈の師でもある劉海王VSご存知、バキの父親にして地上最強の生物、範馬勇次郎の興味深い一戦。
この好カードには、「もしかしたら、かつての愚地独歩戦のように、久々に苦戦する勇次郎が見られるかも」と多くの読者が期待を寄せたが、蓋を開けたら案の定いつものように勇次郎の圧勝だった。
これもある意味、当然と言えば当然の結果だったと言えましょう。
しかし、我々がなぜ劉海王の善戦を予想し、期待したのかと言えば、1つは彼が海王だということ。
2つ目は烈の師匠だと言うこと。
そして3つ目は、試合前に劉と烈が謎の余裕を見せていたということです。
それは彼らの会話に露骨に表われています。
では、その2人の会話をご覧ください。

烈: 彼(勇次郎のこと)の参戦は栄えある 我 中国武術史―――――――
未曾有(みぞう)の一大事件かと………………
劉: 質問の答えになっていないが…… それほどの実力の持ち主ということかな
烈: 例えるなら…大国が仕掛けてくる近代兵器による武力に対し――――――
我々 拳法家が素手のみを武器に戦うことに似るかと……
劉: ならばもとより結果は見えているではないか
烈: はい 我 中国武術の圧勝かと……

 以上が2人の会話なのですが…うーん、なんとも頭の悪い会話してますなあ(笑)。
そりゃ負けるわ。
勝負以前の問題ですわ。
しかし、我々はこの2人の根拠のない自信に見事に騙されてしまったのです。
当然、この余裕の根拠等それ以後全く示されておりません。
 つまり、この件も常識的に考えれば、素手で近代兵器に勝てるわけないし、そんなボケたこと言ってる百歳を超える老人があの勇次郎に勝てるはずもないわけで、結果は一目瞭然なのです。
それにも関わらず我々の目が曇ってしまうのは、海王だとか、烈の師匠だとか、そういったことにとらわれ過ぎるからなのです。

ケース3.毒に侵されたバキ

 柳龍光VSバキ。
一度は敗北を喫したものの、恋人の梢ちゃんとやっちゃったバキはなぜか急激にパワーアップを果たし、柳はおろか、途中参戦したシコルスキーすらも圧倒します。
しかしながら、この戦いにおいてバキは柳の毒手をもろに食らってしまいました。
大丈夫なんか?なんともないんか?
と思いつつも、特にこれと言った症状は出ないままバキはその場を去って行きました。
このことから、バキに毒手が通じなかったのは、これも範馬の血によるものなのか?と勝手に納得していたところ、それから数週間後、驚くべき光景が飛び込んで来たのです。
そうです、バキが痩せこけて憔悴しきっているではありませんか。
これを見た時、私は思わずずっこけてしまいました。
「やっぱ効いてたんかい!」というツッコミと共に。
これも今までのケースとは若干毛色が違うものの、常識的に考えれば極めて当然だという例の一つです。 

 

 

 2.板垣マジックの法則2.「勝負あり!」の判定はまず覆らない
 
 最大トーナメントや擂台においては、試合形式で行われるため、審判が存在します。
そして、その試合内容によっては彼らが判定を下すことも少なからずあります。

そして、一旦「勝負あり!」が宣告されたら最後、この判定はまず覆りません。
唯一覆ったケースは、バキVSズール戦のみです。
しかしながら、ここまではっきりとした統計?があるにも関わらず、我々は「えっこれで終わりってわけじゃないよね?」と思っては、毎回裏切られてしまいます。
前述した、烈VS愚地克己も然り。
最近では、ドリアンVS楊海王、マホメド・アライJr.VS範海王がこれに当たります。
ドリアンVS楊海王については、これでもかっ!と言うほどドリアンが一方的にやられてしまいました。
そのあまりのふがいなさに、「そうだ、これはきっとドリアンの催眠術なんだ」と思ったものの、当然そんなことはなく、もちろん判定が覆ることもありませんでした。
マホメド・アライJr.VS範海王についてもそうです。
2勝1敗で迎えた、日米軍VS中国連合軍の第四試合。
中国連合軍にとっては崖っぷち。もう後がありません。
そんな状況に加え、範海王が勇次郎の息子ではないかという憶測がまたもや我々の目を曇らせ、終始優勢に試合運びをするマホメドに対し、範が勝つ等と言う、今思えば愚にもつかない展開を想像させたのでしょう。
結果は案の定、一方的な範の惨敗。
我々はまたもや予想を裏切られたのです。

 

 

 3.予想を裏切られないために…。そしてバキの楽しみ方とは
 
 
さて、いかがでしたでしょうか?
今までご紹介した事例を振り返ってみるに、常識的に考えればどれもなんと言うことはないものばかりであるものの、漫画と言うメディアの表現法がいかに我々の目を曇らせるかと言うことも十分お分かりいただけたことかと思います。
板垣マジックとはすなわち、漫画の表現法を最大限に利用し、読者の正常な思考を麻痺させるものなのです。
それゆえ、この作品において予想を裏切られないようにするためには、あくまで常識的に考え、それを素直に受け止め、かつ、それまでのストーリー展開や経緯等を一切考慮せず、また、意味ありげなシーンやセリフ、伏線だと思われるものに惑わさせれず、完全に無視することが必要です。

 しかしながら、そうすると、例えどんな展開になろうとも「ふーん、やっぱりね」と、あるがままをただただ受け止めてしまうだけの味気ないものになってしまう恐れがあります。
ゆえに、この作品においては、敢て予想を裏切られることで、「これで終わりかい!」とか、「そのまんまやんけ!」と、ツッコミながら読むと言うのが案外正しい楽しみ方なのかもしれません。
どちらのスタンスを取るか…。
それは各々の判断にお任せします。