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とある週末明けの月曜日。折角の休日だったというのに受験勉強で潰してしまい、精神的な休養を取れぬまま学校へ足を運ぶ早苗は、いつもの見慣れた廊下を通り教室へ入って見ると、すぐにその空間の異変に気づいた。仲の良い友達同士がそれぞれかたまって何か話し込んでいるが、いつもとは顔つきが違う。笑い声さえ一つもない。
空気を察して早苗は小声で陽子に話しかけた。
「おはよう、どうしたの?何かあったの?」
「………昨日ね……香奈が部屋から消えたらしいの……」
「えっ、消えたって家出?じゃないよね…まさか!誘拐?!」
「それが………………」
陽子の話によれば、金曜日の夜、仕事や接待で遅くまでかかった両親は、香奈の部屋の明かりがついていたため勉強をしていると思いそのまま床に就いた。ところが、朝になっても部屋から出て来ないので母親が起こしに行ったら、そこには誰もいなかった。辺りを見回しても物色された形跡はなく、ただ机の上に古びた赤いノートが置いてあるだけだった。
それを、聞いた早苗は一言いった。
「陽(あきら)…怪しくない?香奈、ストーカーされてたし」
しかし、そこにいた香奈の幼馴染である美紀は、早苗の話など聞かず、何かに怯えるような表情のまま黙り込んでいた。
間もなくホームルームが始まり担任の先生が香奈の件を説明しだした。何か情報があれば教えて欲しいというような内容だったが、早苗は美紀の怯えた顔を思い浮かべながら考えていた。
(何故美紀はあんなに怯えていたのかしら。何か知っているに違いないわ)
放課後、早苗は美紀を誘った。
「美紀っ!ケーキ食べに行こうよ!」
「えっ、部活はいいの?」
いつも誘う側の美紀が驚いた。
「美紀さあ。私に何か隠してるでしょ。ちょっと話そうよ!」
「………ぅん。私も早苗に話したい事があったの。」
「そう。じゃ、とりあえず駅前のバロックに行こうよ!」
早苗は店に入って注文をするなり美紀に問いただした。
「ねぇ、美紀どうしたの、今日様子が変よ。何か香奈の事で思い当たることでもあるの?隠さず全部話して。誰にも言わないから!」
「本当?本当に誰にも喋らないって約束してくれる?」
美紀は早苗に念を押すように早苗の目を見た。
「うん!約束する。私を信じて!」
早苗の強い口調に促されるように美紀は重い口を開いた。
「実は香奈がいなくなる前の日に2人で一緒に帰ったの。最近、香奈が元気なかったから何か気になって。それで話を聞いたら、この間のテストの成績が悪くて、両親にものすごく怒られたらしいの。ほら、夏に彼氏が出来たでしょ。」
「そういえば、香奈。夏休みはデートばっかりしてたもんね。」
「そう、それでね。高校受験が終わるまで彼氏に会うどころか外出禁止ってお父さんに言われてて、すごく落ち込んでたの。」
「香奈のお父さん厳しいからそれ位の事は言ってもおかしくないね。」
「うん、……。でも大事なのはここからなんだけど、その途中で神社に寄って2人で合格祈願をしたの。よく見ると、賽銭箱の横に古びた白いノートが置いてあって……。」
「えっ!ノート?」
「うん……」
「そのノートに何か書かれてたの?」
「ノートには、参拝に来た人達の願いが書いてあって、私は気にせずに帰ろうと思ったら、香奈が持って帰るって言い出して……。そしたら……次の日……。いなくなった話を聞て、ずっとあのノートが……」
「えっ?!それだけ?」
早苗は肩の力が抜けてしまった。
「それだけって、早苗。だから、香奈がいなくなったのは絶対にそのノートの祟りが……」
美紀は本当に怖がっていて、結局最後まで言い終わらないうちに泣き出してしまった。
学校の成績も優秀で、いつも自分が頼りにしていた美紀が『祟り』に何か動揺している姿を見て、早苗は少しだけ優越感のようなものを感じた。
「美紀、そんなことある訳ないでしょ。祟りなんて。
「そうかな…………。」
「そうよ!きっと彼氏のところに行ってるんだよ。香奈のことだから、しばらくすれば戻って来るよ。はい、涙拭いて。」
早苗は美紀にハンカチを差し出しながら言った。
「紅茶、冷めちゃったじゃない。」
2人は顔を見あわせて笑った。
ノートを持ち帰った日の香奈は、美紀と別れて帰宅した後、そのノートを居間で読んでいた。そして、香奈自身もそこに自分の願いを書いてみた。
しばらくして、母親が仕事から帰ってきた。
「ただいま、香奈、居るの?」
「うん、何?」
「お母さん、まだお客さんのところに行かなくちゃいけないから、晩御飯は外で何か買って済ませてくれる?お父さんも今日は外で食べてくるらしいから。」
「ん、わかった。じゃあ何か買ってくる。」
香奈は母親からもらったお金を持って近所のコンビニへ出掛けた。
一方、母親は洗濯物を取り込み、また出掛ける仕度をすると、台所に置きっぱなしのケーキの入った箱の事を思い出し引き返した。居間のテーブルの上には香奈が書いたページが開かれたままの状態で置いてあったため、母親がそこに目を落とした。
「やっと勉強する気になったのね。」
ほっとした母親は、台所から持ってきたその箱をテーブルの上に置いて仕事に出掛けた。
香奈はお弁当を買って帰ってくると、居間に置いてある白い箱に目がいき、早速その箱を開けてみた。
「あっ!イチゴショートとチーズケーキだ。」
ノートを置いていった時にこの箱はなかったため、母親が私にくれたのだろうと思い、自分のノートとその箱を持って2階にある自分の部屋に向かった。そして、部屋に入るとノートは机の上に置き、お弁当より先に大好きなチーズケーキを食べ始めた。
「うまーい!」
あまりの美味しさに、そう呟いたその時である。閉め忘れた窓から入ってきたそよ風が、机の上に置いたノートを一枚一枚めくり始め、調度香奈が願いを書いたページでめくり終えた。
『付属第一高校に受かりますように 香奈』
そして、そのページの隣にはこう書かれていた。
『香奈 帰ったら食べなさい 母より』
次の瞬間、平穏に満ちたこの町の片隅で、一冊の白いノートが一人の女性を食べ始め、みるみると赤色に染まっていくのであった。
このノートの裏表紙には、こんな事が記されている。
【使用上の注意をよく読んでお使い下さい】
【このノートは、あなたの願いを叶えます】
END
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