第1章 特許-I
1999.07.31
公然実施除外説
- 先使用権は、特許出願前の秘密実施者に対してのみ認めるべきで、公然実施者に対しては認めるべきではないと解すべきか。
- 結論:公然実施者に対して認めるべき。
- 理由:公然実施しているのであれば特許無効審判(123条)を請求すれば足りるとする公然実施除外説は、先使用権者の事業継続を認める制度趣旨に反するから。
1999.07.30
先使用権の移転
- 特許権成立前の先使用権者の地位は移転できるか。
- 結論:移転できると解する(判例)。
- 理由:先使用者は、将来の実施権者たるべき地位にあるから、先使用権者と同様に保護されるべきだから。
1999.07.29
先使用権の結果物
- 先使用権を有する者が製造した物を第三者が使用し又は販売することは適法であるか。
- 結論:適法であると解する。
- 理由:通常実施権の効力は、許諾実施権であると法定実施権であるとを問わず、同じであり、実施権者の実施行為は権利侵害となり得ないから。
1999.07.28
先使用権の援用
- 先使用権者の注文を受けた第三者が先使用権者のためにのみ特許品を製造し、これを全て先使用権者に納入した場合、その第三者の実施について先使用権を援用できるか。
- 結論:援用できる(判例)。
- 理由:社会通念上、合理的な範囲だから。
- 一方、援用できないとする主張もある(吉藤)。いわゆる「一機関」が成立すれば援用できるが、本問の場合、一機関の成立のための3要件具備の内1つは具備するが、他の要件について明らかではないから。
- [参考] 「一機関」の成立要件
- 1)権利者と実施者との間に工賃を払って製作せしめる契約の存在
- 2)製品について原料の購入等についての権利者の指揮監督
- 3)製品を全部権利者に引渡し、他へ売り渡していないこと
- 本問では、3)についてのみ具備している。
1999.07.27
共有権利の訴え
- 共有権利者のうちの1人のみが提起した審決取消の訴えは適法か。
- 結論:不適法な提訴と解する(最判s.55)。
- 審決は権利の共有者の全員に対し合一に確定すべきものであるから。
1999.07.26
先使用に基く通常実施権
- 特許出願の際、先使用者が実施をしていた態様又は設計の変更をしても、特許発明の技術的範囲内の変更であれば、先使用権の範囲内の行為として認められるか。
- 結論:認められると解する。
- 制度趣旨が公平経済説とすれば、法79条の「発明の範囲」を文理に忠実に解すべきだから。
- 一方、認められないとする実施態様説を根拠とする従来の判例や学説が存在するが、これは、先使用者は特許出願の際の態様を引き続き実施できれば足り、また先使用権制度は特許制度を利用しなかった者を保護する例外的制度であると主張するものである。従って、法79条を極力狭く解していた。
- なお、法79条の「発明の範囲」とは、該実施態様等から出願時の技術水準に照らし、当業者が自明に把握できる技術的思想の範囲をいう。
1999.07.25
審理範囲の解釈
- 審決取消訴訟において、審理判断することができる対象(審理範囲)は、審決の理由に示された事実に限定されるべきか否か。
- 結論:原則として限定されるべきと解する。
- 例えば、審決において引用された刊行物を別個独立の関係にある刊行物を訴訟上新たに引用して審決取消しの理由にすることが、許されないのが通説である。
- 即ち、民事訴訟に類似した審判手続の構造と性格から審決取消訴訟においては、専ら当該審判手続きにおいて現実に争われ、且つ審理判断された特定の無効原因等に関するもののみが、審理の対象とされるべきだからである。但し、審判手続において審理判断されていた刊行物を補強する関係にある刊行物であれば、提出は許されると解する。
1999.07.24
審判請求書の請求人又は被請求人の追加又は変更は要旨変更となるか。
結論:要旨変更と解する(実務)。
1999.07.23
訂正審判請求の一部認容、一部棄却の審決ができるか
- 実務:できない。
- 訂正審判請求は、訂正明細書のとおりの訂正を求める一つの請求であるし、一部認容を認めると、勝手に訂正明細書を作成するに等しいから。
1999.07.22
実質上、特許請求の範囲を拡張するとは
- この問題は、請求範囲の記載のみによって示される区域を限界とし、表現上、いやしくもこれより一歩でもはみ出すことができないとする意であると解するのか、表現上、それよりはみ出すことがあってもこれを実質上同一、つまり均等と認められる限り差し支えない意であると解するのか、何れをとるかである。
- 結論:表現上、いやしくもこれより一歩でもはみ出すことができないものと解する。
- 理由:特許請求の範囲と技術的範囲は同一ではなく、特許請求の範囲は技術的範囲の基礎である以上、均等論によってこの基礎を広げることは、次第に技術的範囲を拡げる結果を招き、著しく妥当性を欠くからである。
1999.07.21
実質上、特許請求の範囲を変更するとは
- 訂正審判制度の趣旨に反しない限り緩やかに解すべき。
- 即ち、「実質上、特許請求の範囲を変更」とは、特許権の効力の及ぶ限界内の変更をいうと解するから(吉藤)。
- 従って、減縮後の発明の目的・効果が減縮前の発明の目的・効果と異なる場合は、変更されたことになる。
1999.07.20
クレーム解釈-III
- 発明の詳細な説明に実施例として記載されているものであっても、これを特許請求の範囲とすることが許されない場合があるか。
- 結論:原則として許されない場合はないと解する(従来、実務大勢、吉藤)。
- 反対説:周知構成要件の付加などで是非が分かれるが、改正法により新規事項追加ができない以上議論のよちはない。新法にて判例を期待する。
1999.07.19
クレーム解釈-II
- 特許請求の範囲と発明の詳細な説明とに広狭がある場合に発明の詳細な説明に基いて特許請求の範囲を拡張することができるか。
- 結論:許されないと解する(従来、審・判決)。
- 理由:法70条の趣旨から
1999.07.18
クレーム解釈-I
- 発明の詳細な説明からみて誤記であることが明らかな場合のクレームの拡張は許されるか。
- 結論:許されないと解する。
- 理由:36条5項、70条の規定からかかるべく解さなければ、特許請求の範囲の表示を信頼する第三者の利益を害し不当だから。
- 反対説:発明の詳細な説明に基いて訂正しても「実質上拡張」に該当しないので、許すべきとする説。
- コメント:上記解釈は共に、改正前のものであり、ボールスプライン事件(最高裁判決)から発明の本質で侵害か否か判断している均等論が適用される場合もある。また、訂正審判においては、新規事項の追加は否定的にならざる得ない。
1999.07.17
一事不再理
- 係属する審判請求が2つあり、一方についてのみ審決がされ、その審決が確定した場合、他方の審判請求を一事不再理の規定により不適法とすることができるか。
- 結論:できると解する(判例)。
- 理由:一事不再理の規定の趣旨から、無効審判請求が認められなかった場合の同じ手続きを繰り返す煩雑を回避する必要がある。また、矛盾審決の発生を防止するため。
1999.07.16
送達日の解釈
- 拒絶査定の謄本の謄本の送達があった日の「送達があった日」とは?
- 結論:拒絶査定の謄本を現実に送達した日と解する(送達日説、審判便覧)。
- 送達は、発送時にあったものとみなすことができると解する(発送日説)。
-
- 理由:送達の証明方法の配慮が基本的に欠けていない点から、民訴上(特190条で準用)の郵便による送達が行われたと解すべきだから。
1999.07.15
選択発明は利用発明か
- (選択発明の全てを利用発明とすることの是非)
- 結論:一般的に利用発明ではない。
- 理由:先ず、選択発明は一実施態様に過ぎないから本来特許性がない。そして、選択発明に特許性があるとすればその部分は先願発明における発明未完成部分であるから両者は別発明である。何れの発明も特許性があるとすれば、互いに異質の効果を有し、目的物を異にする場合に限られるから両者は別発明である。但し、選択発明の全てについて利用関係を否定することは、不当に基礎発明の保護を制限するから、選択発明の内容によって判断すべき問題である。
- 選択発明とは、構成要件のうちの全部又は一部が総括的概念で構成されている先願発明に対し、その上位概念に包含される下位概念であって先願発明に記載されていないものを構成要件として選択した発明をいう。
1999.07.14
要旨共通説の是非
- (思想上の利用発明であるとされた後願発明は、先願発明の要旨”構成要件”の全部をそっくり具備する必要があるか否かが問題となる)
- 結論:先願発明の要旨(全ての構成要件)を含み、さらに別の技術的要素を付加する必要がある。
- 理由:72条は、68条本文により各発明の特許権者が有すべき専用権相互間に生じる重複を、先願優位の原則に基いて調整し、後願の特許権を先願の特許権に従属させる為に設けたからである。
- 従って、利用関係は、後願発明を実施することがそのまま先願の特許発明を実施することになる場合にのみ生じる。
- 但し、形式上のそっくりの付加であっても、付加により有機的一体性が失われるときは利用発明でない。例えば、「A+B」の先願発明に対し、「A+B+C」の発明は必ずしも利用発明とならない。
1999.07.13
ダブルパテントの場合、後願の実施には先願の特許権者の実施許諾を要するのか
- (後願の特許発明が先願の特許発明と同一の場合において、後願の実施が制限されるかが論点)
- 抵触を利用の一種と解することの是非、勿論後願が無効にされる前の状態を前提とする
- 結論:許諾を要すると解する。
- 理由:先ず、利用発明についてすら実施許諾を要するのであるから、同一発明については当然に許諾が必要である(抵触は利用の一種に過ぎない)。
- 次に、80条(中用権)の規定は、同条に規定する要件を具備する後願抵触特許のみを対象とするに過ぎず、後願抵触特許発明には当然自由に実施できるとするのは不合理と考えるから。
- 最後に、後願特許権者が実施できないとすることは、後願特許の無効を判断するものではなく、単に先願特許権との関係において権利行使が制限されるだからである。
- さらに、反対説では72条は利用発明のみについてお規定である以上、同一発明の特許が無効とされない限り、68条に従い自由に実施できるというものである。さらにまた、80条(中用権)の規定もこれを前提として初めてその趣旨を理解できるからである。
note:
東芝事件、300万アクセス達成
1999.07.12
利用発明の論点
利用関係は、先願発明の技術的思想を利用しなければならない関係にある場合にのみに限るべきか
- (発明を実施する上において、先願発明そのものを実施しなければならない関係が生じるものも含めることの是非)
- 例えば、物の発明に対する、その物の製造方法の発明の場合、発明の利用とは思想上の利用か、実施上の利用かが論点となる。
- 結論:発明を実施する上において利用(実施)しなければならない関係が生じるものも含むと解すべき。
- 理由:発明の思想上、先願発明を利用すべき関係にある後願発明は利用発明であることは勿論であるが、72条に対応して設けられた92条の趣旨からみて、これに限ることは不当だから。
1999.07.11
判定制度は改正すべきか否か
- 1)準司法機間として特許庁が本来の業務と区別しにくい観点類似の業務サービスを行うのは好ましくない
- 2)外国における立法例のように裁判所から要請があった場合に限って鑑定を行う義務を負うとすれば足りる。
- 3)従前の確認審判制度を復活し、予防的・消極的確認を求める場合に限り、当該審決は当事者を拘束するものとする。
- 4)手続きを簡略化すべきである。例えば、審判官単独性にする。単なる鑑定だから
- 5)判定の結論に対する不服申立手段を認めるべきである。
- という意見があります。
1999.07.10
判定は対象物が特許請求の範囲に属するかどうかの判断に限られるか
- 例えば、方法の発明に対し、係争対象物が101条の間接侵害の対象となる「のみ使用する物」である場合に判定請求できるか、否か
- 結論:できると解する。
- 理由:判定制度を広く技術的にみて権利侵害になるか否かを判断する制度と考えるから。
1999.07.09
判定請求に利害関係を必要とするか
- 結論:必要と解する(吉藤)
- 理由:国が制度として判定を設けている以上、制度趣旨に応じた利害関係が必要であると解すべきだから。従って、請求の利益がない判定請求は却下される。例えば、当事者の一方が現に実施しておらず、将来も実施する意思がないことを明らかにしている場合等が該当する。
- 特許権者のいわゆる自問自答形式の判定請求も認められる場合がある。
- 消滅した特許権についての判定請求も認められる。特許権消滅後であっても損害賠償請求される場合があるから
1999.07.08
「侵害されるおそれ」は客観的に明らかなものでなければならないか
- 結論:侵害の準備行為が完成していることが必要と解する。
- 理由:侵害品の所持は「おそれ」に該当する場合が多く、客観的に明らかである限り過去の侵害事実がなくとも「おそれ」があるのに対し、過去の侵害事実をのみをもって「おそれ」に該当するとは認定できないから。
1999.07.07
権利者自らが実施していない場合は、侵害者が得た利益をもって、権利者の損害額と推定できるか
1999.07.06
特許権が共有の場合の取扱い
- 差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求は、共有者の一人が単独で請求できると解する。
- 理由:共有に係る特許権の侵害訴訟では、無体財産の合有的性格から、その訴訟も固有必要的共同訴訟であると解することもできるが、共有者の一部脱落が他の共有者の不利益となることや、差止請求権は保存行為であるから各人で請求できると解するのが合理的である。また、損害賠償請求、不当利得返還請求は保存行為に止まらず、処分行為的性格を有するが、各人の持分権に基き請求可能と解する。不可分債権(民428条)に準じると解すというよりも、特許権はそもそも可分債権であると解する方が合理的だからである。
1999.07.05
不当利得返還請求権と損害賠償請求権とが競合した場合の論点
- 結論:権利者が任意に選択して何れか一方を請求することができる。
- 理由:両者は立法趣旨を異にするものであるから、一方の請求が認容されたときに他方を取り下げれば足りるからである。
- 注)不当利得返還請求は、侵害者の故意・過失を要件とせず、消滅時効も損害賠償請求の3年より長期の10年であるから、損害賠償請求の消滅時効後であって、侵害者に故意・過失がない場合に使用する意義がある。
note:
知的財産権の判例が最高裁判所で公開されています。
1999.07.04
専用実施権を設定した場合の特許権者には、訴権があるか
- 結論:訴権がある。よって正当権原なき第三者の実施を排除できる。
- 理由:法文上、規定はないが専用実施権及び独占的通常実施権の設定によって第三者に対する特許権の効力が制限されるものではないからである。
- コメント:理由になっていないようですが、法77条2項には「特許発明を実施する権利を専有する」と書いてあるので、ここで排他権まで専有させていないよと解釈し、通説となっています。まあ、裁判沙汰にでもなれば両者共同で提訴するのが得策でしょう。専用実施権者単独で敗訴すれば、その既判力により特許権者が不利益を被るから論点となるのです。
1999.07.03
通常実施権者、特に独占的通常実施権者は不法行為に基づく損害賠償請求ができるか
結論:独占的通常実施権者には不法行為に基づく損害賠償請求が認められると解する(民709条)。
理由:独占的通常実施権は独占できる点に意味があり、その独占性が不当に害された場合には不法行為が成立するからである。
いわゆる独占的通常実施権とは、契約の相手方以外には実施許諾しない旨の特約付き通常実施権が設定された状態と考えることができる。また、設定者の実施を留保しない完全独占的通常実施権と、その実施を留保した不完全独占的通常実施権が考えられる。
1999.07.02
通常実施権者、特に独占的通常実施権者は差止請求ができるか
- 結論:独占的通常実施権の状態では、正当な権原なき第三者の実施を排除することは出来ない。
- 理由:独占的である旨の登録が出来ず、一般的な通常実施権と同様に、排他性は認められないからである。但し、所謂債権者代位権(民423)に基づき、設定者である特許権者に代位して行使することは認められると解する。特許権者が侵害の排除義務を負う一方で、侵害者は差止請求されることを予定しているからである。
note:
弁理士制度100周年記念切手購入しました。(1シート1,600円也)
1999.07.01
特許法上の発明において問題となる発明
- 特許を受けることができるか否か、特許を受けることが出来るとすれば、その範囲は何処までか等につき問題となったものに、動植物及びコンピュータプログラムに関する発明があります。
(1)動植物に関する発明
- 既存の品種を生産する方法の発明は、一般の発明と特に異なる点がないから発明を構成し得る。例えば、車海老の養殖方法
- 一方、新品種自体の物の発明は、創作性・反復性に疑問があり、発明を構成されないとされてきたが、近年、反復可能性がある創作である限り、特許を受けることが出来るとする。例えば、ガン遺伝子治療のためのマウス
(2)コンピュータプログラムに関する発明
- 一般に、自然法則を利用したものでないから発明を構成しないとされてきたが、機械の制御プログラムなどは、制御方法に技術的な特徴があり自然法則との因果関係があれば方法の発明として成立する。近年の改正特許法では全体として自然法則を利用している限り、発明を構成すると運用されており、ハードウエア資源を利用して表現されている物も発明を構成すると運用されている。要はクレームの表現で発明か否か判断しています。
note:
7月1日は弁理士の日です。弁理士制度100周年記念行事があります。
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