高橋の特許室・iii号機 第1章 特許-III
第91回
新しい時代
知的財産権訴訟で企業に求めれる心得
1999年9月20日に東京地方裁判所で差止請求の仮処分決 定が認めれた。申立から1ヶ月も満たない迅速審理でこれまでの 司法の常識を破る早業であります。
裁判官は差止決定書に、「紛争が予想される商品を発売 する時には、企業は事前に十分な法的検討をしておき、もし裁 判になれば違法でないことを示す資料をすみやかに提出すべき だ」と記述しています。今後は、被告が第1回期日に反論資料 を準備せずに出廷した場合、即日結審されることも覚悟が必要 です。
元特許庁長官の荒井寿光氏は、「迅速な裁判という新し い時代が始まった」と評価されております。
なお、弁理士の基本書「特許法概説」でも差止請求する 際には付帯して仮処分の申立をするように書かれておりますが 、本訴で逆転された場合の危険性も述べております(これ弁理 士の常識)。さて、A社とS社の紛争の行方が気にかかります。
第90回
分割出願の効果を享受するための要件
(1) 分割出願時に原出願が特許庁に係属していること
(2) 分割出願の査定時において、分割出願に係る発明が、原出 願の願書に最 初に添付した明細書等に記載されており、且つ分割出願時 における明細書等に 記載 された発明と実質的に同一であること。
但し、分割出願時における明細書等に記載されていない 発明であっても分割 時に補正により原明細書に記載できる発明は、分割出願時 における明細書等に 記載 されている発明として取り扱われる。
(3) 分割出願の査定時において、分割出願に係る発明が原出願 に係る発明と 法39条にいう同一でないこと。
(4) 分割出願時において原出願と分割出願との出願人が完全同 一であること 。
第89回
法29条の2の「特許出願の日」は、現実の特許出願の 日をいう(第2国説 )か、又は第1国の出願日(優先日)をいう(第1国説) か。
結論:第1国の出願日(優先日)をいう(第1 国説・審査便覧)と 解する。
理由:29条の2の趣旨及び優先権制度の趣旨(第1国 出願時に第2国出 願をしたならば得られるであろう効果と同様の効果を与え る)から。
反対説の根拠: 法文上第1国との明記がない。
パリ条約4条Bは、クレーム発明の保護が目 的、全体とすれば従 来は条約違反 をしていたこととなる。
上記根拠は、文理的に過ぎ、またパリ条約 との関係では単に拒 絶理由が拡大 したに過ぎない、と解釈されています。
第88回
法39条協議制(その3)
一方が特許され、他方が拒絶査定確定した出願である場合の の措置について
結論:当該特許を無効とすべきと解する。
理由:後者の拒絶査定確定によって他人の特許 化阻止の利益が与え られれば十分だから。
NOTE:今回の論点は、平成11年改正法による先願 権の取り扱いを考え ていません。
第87回
法39条協議制(その2)
協議命令がないまま双方が共に特許されている場合の措 置について
結論:両者が事実上の協議をし、協議が成立す れば無効理由が解消 する(例えば、一方が権利放棄等)。
無効審判請求有:
-> 審判官:当事者の協議による選 択指示
-> 当事者:一方を選択
-> 審判官:他方を無効審決
第86回
法39条協議制
出願中に協議命令を受けないまま誤って一方が特許 され、他方が未だ出 願係 属中の場合の措置について
結論:両者が事実上の協議をし、協議が成 立すれば問題は解消 する (例えば、出願取下等)。
協議不調の場合は、当該特許は無効とすべき。
実務:現在特許庁のガイドラインによって 、同一人の場合と他 人の 場合に分けて取り扱いを区別しています。
第85回
使用者等が予約承継契約に基づき、従業者等か らいったん特許を受 ける 権利を承継し、これをその後第三者に譲渡し、その第 三者が特許を受けた 場合に使 用者等は法定通常実施権を有すると解することができ るか
結論:法定通常実施権を有すると解する。
理由:法文上35条1項は、上記第三者を除外 しておらず、使用者 等と 従業者等の双方の利害調和を図らんとする同条の趣旨 からもかかるべく解 すべきだ から。
中山説は、これに反対し、特許を受ける権利を承継 した時点で法定通常 実施 権は混同により消滅、その後に第三者に特許を受ける 権利を移転しても譲 受人は法 定通常実施権の存在すら不知の場合があることを根拠 としている。
私見としては、実施を確保したいのであれば譲渡契 約で特約をつければ 足り ると思います。
第84回
大学教員の発明の貴族について
結論:原則として使用者(大学)に帰属さ せないとする取り扱 いが 妥当である。
理由:大学の目的は教育・学術研究の発展 にあるから、かかる 目的 を達成すべく政策的観点から決すべきだから。
NOTE:
大学発明については、近年技術移転機関(Technology Licensing Organization:TLO)を設立し、TLO が特許権の権利管理 団体として発 明者との間に合理的な権利関係を築きあげている 。従って、本論点は もう古い。
第83回
国の業務範囲をどのように解すべきか
結論:当該国家公務員の所属する機関の掌 握範囲に限ると解す る。
理由:企業等における場合と同様に解する と過大となり不合理 だか ら。
第82回
職務発明の趣旨
今日における発明の大部分は企業における従業者の 発明である。従って 、 従業者発明を企業との関係でどのように保護するかは 一企業のみならず国 全体の産 業政策の問題として極めて重要である。使用者の立場 からは民法上の雇用 の原則(民 623条)により従業者の発明は全て労働の成果として使 用者に帰属すべきと 主張でき るであろうし、従業者の立場からは発明は発明者の特 別の能力と努力とに よって初 めて生まれたものであるから、発明に関する権利は一 切発明者に属すべき と主張で きるであろう。従って仮に従業者発明の問題を労使間 の自由な取極に任せ るとすれ ば、労使間のいわば力関係によって左右されるとすれ ば個々の企業毎に、 また時期 によっても区々となり、時には使用者の利益が偏重さ れ、時には従業者の 保護が厚 きに過ぎることになる。そこで法は、使用者及び従業 者が果たすすれぞれ の役割・ 貢献等を比較考量し、産業の発達という公益的立場か ら両者の利害の調整 を図った 。
第81回
特許を受ける権利の承継人は同時に外国特許を 受ける権利をも当然 に承 継したものと解せるか
結論:解せず。
理由:属地主義下、出願権は国毎に別個独 立したものと解すべ きだ から。
第80回
進歩性を否定するためには、その基礎となる事 項は「発明」でなけ れば ならないか
結論:「発明」のみならず、自然法則自体 等でも否定できると 解す る。
理由:法29条2項はその趣旨から、公知事実 中、最も普通である 公知 発明を代表的に例示したものと解すべきだから。
【29条2項】特許出願前に、その発明の属する技術 分野における通常の 知識 を有する者が、29条1項各号に掲げる発明に基 づいて容易に発明で きたとき は、・・・
第79回
事実に反する事項は進歩性否定の根拠となるか
結論:根拠となり得ないと解する。
理由:当業者が事実に反する記載を誤記若 しくは常識に反する 記載 としてのみ認識する以上、根拠として妥当性がないか ら。
第78回
失敗例は、成功例の進歩性否定の根拠となるか
結論:原則として進歩性否定の根拠とすべ きではないと解する 。
理由:失敗例はそれ自身直接発明の基礎となりえな いから。
第77回
事実に反する事項は進歩性否定の根拠となるか
結論:根拠となり得ないと解する。
理由:当業者が事実に反する記載を誤記若 しくは常識に反する 記載 としてのみ認識する以上、根拠として妥当性がないか ら。
第76回
出願当時の技術水準を出願後に頒布された刊行 物によって進歩性を 判断 することができるか
結論:判断できると解する。
理由:出願後の公知事実をもって出願前の 公知事実とするもの では ない以上、何ら進歩性の規定に反しないから。
第75回
進歩性の有無が疑わしい場合は特許すべきか
結論:特許すべきでない。
理由:特許発明の質的低下を防ぐべく真に 独占権にふさわしい 発明 のみ保護すべきだから。
第74回
進歩性における「容易」であるか否かの判断
最終的には審査官等の主観的裁量によるが、以下の 客観的妥当性のある 裁量 による。
発明の実体は発明の構成自体であるから、発明の進 歩性は発明を構成 することの難易によって判断される。
しかし、発明構成上の難易判断が困難である場合は 、発明の目的、効果 を参 酌することにより構成上の難易、即ち進歩性の有無を 判断する。発明の目 的、効果 は発明の構成と密接不可分の関係にあり、従って、構 成上の難易判断が比 較的容易 なることはもちろん、むしろそれによって妥当となる からである。
また、参考的に商業的成功、長期不実施の事実を利 用することもできる が、 発明の成立過程、対応外国特許の存在などは、参酌すべきもの ではない。
第73回
新規性喪失の例外-III
法30条に従って6ヶ月以内に出願すれば新規性があ るとみなされる発明 につ き、発明者がその後出願するまでの間に本規定に該当 しない公表等をした 場合、例 外規定の適用をうけられるか(ex.刊行物発表後、出願 するまでの間の製品 販売)。
結論:例外規定の適用を受けることができ ないと解する(吉藤 )。
法は最初の公知は公知でないと擬制するのだから、 その後の事実による 公知 が初めての公知と解すべきだから(2度公知否定)
cf.
発明者の刊行物発表の後、他人が製品を販売(因果 関係あり)・・・3 0条適用 あり
発明者の刊行物発表の後、他人が製品を販売(因果 関係なし)・・・3 0条 適用なし
第72回
新規性喪失の例外-II
法30条に従って6ヶ月以内に出願すれば新規性が外 国出願人が優先権主 張を しないまま、その発明の特許明細書発行後6ケ月以内 に日本に出願した場合は、法30条の「刊行物に発表 し」に該当するとし て例 外規 定の適用を受けることができるか。
結論:例外規定の適用を受けることができ ないと解する(特許 庁実 務・ 判例)。
法30条にいう「発表」とは特許を受ける権利を有 する者が、自ら発表 せん とす る積極的な意思をもって発表することをいうと解 すべきであり、他人 (長官) の発 表を容認するような消極的な意思の存在だけでは 「発表」といえない から。
第71回
新規性喪失の例外
外国出願人が優先権主張をしないまま、その発明の 特許明細書発行後6 ケ月 以内に日本に出願した場合は、法30条の「刊行物に 発表し」に該当する として例 外規定の適用を受けることができるか。
結論:例外規定の適用を受けることができ ないと解する(特許 庁実 務・判例)。
法30条にいう「発表」とは特許を受ける権利を有 する者が、自ら発表 せん とする積極的な意思をもって発表することをいうと解 すべきであり、他人 (長官) の発表を容認するような消極的な意思の存在だけでは 「発表」といえない から。
第70回
刊行物
出願明細書(原本)自体は刊行物であるか。 [ベルギー特許明細書の例]
結論:刊行物でないと解する(判例)。
理由:刊行物であるための「頒布性」の要 件を欠くからである 。
cf. 出願明細書の複写物は公開性・情報性・頒布 性を満たすため刊行 物であ る。
なお、閲覧、複写用の出願明細書は、学説不一致の ため刊行物であるか 不明 。
note: 平成11年改正法で、いわゆるインターネット のホームページが刊 行物 に含 まれるよう審議される模様。
第69回
新規性(公然実施-III)
発明の実施態様が「譲渡」の場合、「公然実施され た発明」(29条1項2 号) をい かに解すべきか
結論:譲渡の場合と同一視できない。
発明製品の所有権が移転するのではないから、該製 品の分解等を禁じら れる こと がるため
第68回
新規性(公然実施-II)
発明の実施態様が「譲渡」の場合、「公然実施され た発明」(29条1項2 号) をい かに解すべきか
結論:当該発明品が公然譲渡されれば、特 別な事情がない限り 、公 然実 施されたものと解する。
譲渡によって譲受人は、該製品を自由に分解等でき 、譲渡人の内容を秘 する 意図 はないと解せるから。
NEWS: 新特許庁長官:近藤 隆彦(コンドウ タカヒコ)氏就任(長官からのメッセージ)
第67回
新規性(公然実施)
発明の実施態様が「使用」の場合、「公然実施され た発明」(29条1項2 号) をい かに解すべきか
結論:当該発明が公然知られ得る状態で「 使用」されたとき、 初め て公 然実施されたと解する。
例えば、新製品の内部に発明がある場合等において 内容を秘する意図を 有し なが ら公然「使用」する場合があるから。
第66回
方法的記載をした登録請求の範囲と技術的範囲 の考え方(実用新案 )
一般的判断基準
登録請求範囲に記載された方法と異なる方法によっ ても全く同一の形態 が構 成さ れるときは、他の構成要素においても一致する限 り、両考案は同一で ある(最 高裁 )。
方法は考案の要旨の一部を構成しないからである。 (注:形態に新規性 ・進 歩性 が認められるため)
方法要件説
方法要件説とは、方法を構成要件とし、方法が異な れば技術的範囲に属 さな いと するものである。(注:方法的記載を容認する説 )
形状等に対する方法による限定を認めないならば、 出願人に対し当初予 期し ない 過当な保護を与える一方、一般当業者の理解を裏 切ることとなるため 、方法を 構成 要件とする説である。
方法除外説
方法除外説とは、方法的要素は登録請求の範囲から 除外し、その他の構 成要 件が 一致すれば技術的範囲に属するというものである 。(方法的記載を容 認する説 )
方法的記載を除外してもなお新規性が認められると きは、その方法の記 載は 、考 案構成の必須要件から除外するのが相当とする説 である。
方法便法説
この説は、方法を除外すれば考案として完成しない か又は新規性を欠く 場合 に、 方法的記載が、その方法を用いた結果選られる物 品の特性の機械的構 成を技術 手段 として表示したものと解し、これを考案の構成要 素の1つに数えるべ きとする 説で ある。(注:方法に特徴があれば数える/方法に 特徴がないときは数 えない)
方法の間接的保護
方法的記載は、新規な形態を従来の形態と区別する ための便宜上の表現 形式 であ り、その新規な形態が内蔵する効果を他の方法に 比して顕著である限 り、参酌 すべ きとする説である。
例えば、工程に新規性がある結果、それより作り出 された型は新規性を 結う する とする説であるが、現行法では新規性・進歩性を も実体的登録要件と するため 、物 品の形態に係る考案に適用するのは適切でないと 解する。
旧法との対比で論じているので分かりにくいが、要 するに型が異なる/ 作り 易い/ 安い等は進歩性を判断する際には考慮されない ので、型は関係ない よと考えて いる のである。
第65回
方法的記載の是非(実用新案)
結論:原則として、方法的記載はできない 。
理由:
実用新案法の保護対象は、あくまでも物品の形態に 係る考案であり、こ れを 製造 する方法等は形態に係る考案を構成するのに欠く ことができない事項 と認めら れな いからである。
また、方法又は生産方法を構成要件の一部とする物 の考案を認め、進歩 性等 の実 体的要件を判断すると、最終的な物品の形態に進 歩性がなくとも中間 製造過程 の方 法自体に進歩性があるときは、その考案を登録す ることになり、結局 、方法の 考案 を登録することとなる。従って、法は方法の考案 を保護対象としない 趣旨から 方法 的記載は否定すべきものと解する。
但し、考案の構成要件の中に方法的記載があっても 、最終的な物を特定 する ため に必要であって、方法の効果が考慮されるのは物 の考案が製法に反映 して顕著 な効 果を発揮する場合に限り、登録請求の範囲に方法 的記載を含む出願を 消極的な がら 認めざる得ないと解すべきである。
方法を実施した結果得られる特定の形態を、方法の 表現をかりて間接的 に記 載し たものに過ぎないと解することができ、出願に係 る考案の特定や内容 の理解を 容易 にする場合があるからである。
第64回
訂正審判係属中に再訂正できるか
結論:できない。
理由:このような請求書の補正は要旨変更 だから。
第63回
訂正審判と無効審判-II
訂正審判の審決直前で審決の送達前に、訂正明細書 に基づいて無効審判 の請 求を 斥けることができるか
結論:その審決は違法であるが、その暇し自体は訂 正審判の審決確定に より治癒される(判例)。
note: 改正特許法により、無効審判は訂正 請求とリンクしてい るた め、当該論点は消え ました。