第2話
その次の週、エバとニコラスは講義を一緒に受けた。
他の共通科目も共にするようになると、休憩時間や食事を共にすることも増え、
その変化は誰の目にも明らかだった。
<校内のカフェテラス>
カフェテラスでエバと友人がお茶を飲んでいる。
親友A :「エバ、来週の土曜日のクリスマス・パーティー、どうするの?」
エ バ :「どうするって・・・もちろん、行くわよ。」
親友A :「あら、ニコラスとデートじゃないの?」
エ バ :(少し照れて)「ど、どうしてよ」
親友A :「だって、クリスマスイヴよ!恋人同士なら、ふたりっきりで過ごす方が
イイんじゃない?」
エ バ :「私とニコラスは・・・そんな関係じゃないわ」
落ち着きを取り戻そうとするかのように、ゆっくりと紅茶を飲むエバ。
親友A :「どこが『そんな関係じゃない』なのよ。毎日、あれだけ一緒にいて、
どこが恋人同士じゃないって言うの。」
エ バ :「だって・・・だって、申し込まれてもいないのに恋人同士な分けない
じゃない。」
半ばあきれ顔でエバの顔を見る親友。親友を見て、気恥ずかしそうに目をそらすエバ。
親友A :「エバ、この間のパーティ、ニコラスと一緒に来たわよね?」
エ バ :「えぇ。」
親友A :「アレで何度目?」
エ バ :「えっと・・・5度目、ううん、6度目かしら。」
親友A :「パーティがあれば必ず送り迎えしてくれて、ダンスのパートナーを
つとめて、それでも恋人同士じゃないって言うの?」
エ バ :「だって!・・・好きだとも、つきあってくれとも言われたことないわ。
恋人同士だなんて、そんな・・・ニコラスは、私のコトなんて、何とも
思っていないわよ。」
友人の追求に、苦笑いするエバ。
親友A :「じゃあ、あなたはどうなの?」
エ バ :(びっくりして)「え?」
親友A :「ニコラスのこと、どう思ってるのよ。前に言ったでしょ?彼、競争率
高いのよ。あなたもニコラスも何とも思っていない同士なら、みんな
遠慮しないわよ。」
エ バ :「私は・・・いい人だと思ってるわ。」
親友A :「そんな一般論を聞いてるんじゃないの。男としてどう思うかって
聞いているのよ!」
エ バ :(ドギマギしながら)「男としてって・・・」
親友A :「んもう!じれったいわね!好きなの?恋人になって欲しいって
思ってるの?」
エ バ :「そ、そんな・・・」
思わぬ問いつめに、応えに窮するエバ。今までこの手の話には縁がなかっただけに、どう答えていいのかにさえ迷ってしまう。
親友A :「エバ・・・控えめでおとなしいのがあなたの良いところだけど、
場合によりけりよ。ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃいけない
ときもあるの。別に、怒ってるんじゃないのよ。ただ、あなたと
ニコラスを見てて、少なくとも私から見てて、よ。ニコラスはあなたの
ことを恋人だと思って、大事にしてくれてると思うわ。それならあなたも、
ちゃんとそれなりの意志表示をするべきじゃないの?」
エ バ :「それなりの意志表示って・・・?」
親友A :「彼を好きなら、好きだって。恋人になりたいんだって。言われて
なかったら、自分から言えばいいじゃない。」
エ バ :(目を丸くして)「そんな!自分からなんて・・・」
親友A :「じゃぁ、何の意志表示もしないまま、ニコラスに愛想尽かされて、
他の女に取られてもイイのね?」
エ バ :「だって、ニコラスの気持ちも・・・」
親友A :「だ・か・ら!ニコラスの気持ちなんて、周りから見ればハッキリしてる
わよ!気づいてないのは、エバ。当のご本人のあなたくらいなモンよ!」
あまりにもキッパリと言い切られて、困惑を隠せないエバ。ニコラスと自分のことについて、全く
考えなかったと言えば嘘になるが、そんなことはあり得ないと頭の中で否定し続けていたのだ。席を立って黙り込んでしまったエバに近づき、肩に手をかけて優しく話しかける友人。
親友A :「エバ。勇気、出してごらんよ。大丈夫だから。怖がってちゃ、
何にも答えは出ないよ。」
エ バ :「・・・」
親友A :「好きなんでしょ?ニコラスのこと。そばにいたいんでしょ?」
コクリとうなずくエバ。それを見て、友人は微笑む。
親友A :「頑張れ!」
まるで憑き物を落とすかのように、友人は強くエバの肩を叩いた。その痛みが、エバにはとても心地よく感じる。
<その日の午後・校内の並木道>
授業が終わって、一緒に教室を出たエバとニコラス。
ニコラス:「どうしたの、今日は。授業中もボーッとしてさ。ノート、取り損なってた
だろう?見るか?」
笑いながら、エバの頭をポンポンと叩くニコラス。いつもなら、なんと言うことはない、その笑顔にドキドキする、エバ。
エ バ :「あ・・・うん。ちょっと・・・あ、あのね、ニコラス。来週の土曜日のこと
なんだけど・・・」
ニコラス:「来週の土曜日?あぁ、クリスマスイヴだよな・・・どこか、行きたい所でも
あるの?」
エ バ :「あの・・・ほら、ゼミのみんなでパーティするって言ってたでしょ?」
ニコラス:「あぁ、あのパーティ・・・行きたいの?」
あまり嬉しそうでない返事に、戸惑うエバ。出来るだけニコラスの顔を見ないようにして、話を続ける。
エ バ :「ううん、あの・・・その・・・行こうかなって返事したら、ニコラスとデートじゃ
ないのかって言われて・・・その・・・恋人同士なんだから、二人っきりで
クリスマスを過ごすんじゃないのか、なんて・・・イ、イヤよねぇ、恋人同士
だなんて。そんな・・・私たち、そんなのじゃないのにね。みんな、何を
勘違いしているのかしらね。」
必死で平静を装いながら、笑いを交えて話すエバ。ふと、黙り込んでいるニコラスの方へ目を向けると、バツの悪そうな顔をしている。何か話そうとするが、言葉が続かないエバ。しばらくの沈黙の後、ニコラスがつぶやく。
ニコラス:「俺達・・・つきあってたんじゃないのか・・・」
エ バ :「え?」
突然の言葉に、足を止めるエバ。数歩先でニコラスも立ち止まる。顔はうなだれたままだ。
ニコラス:「そうか・・・なんだ、オレの思いこみだったのか・・・オレはてっきり、
君も俺のことが好きでつきあってくれてるんだと思ってた・・・なんだ、
違うのか・・・」
エ バ :「ニ、ニコラス?」
ニコラス:「いや・・・ほら、パーティの送り迎えで家まで行って、オヤジさんや
オフクロさんにも挨拶しただろ?このところ、ずっと一緒に過ごしてたしさ。
だからもう、てっきりその気なんだって・・・」
エ バ :「ちょ、ちょっと待って、ニコラス!」
ニコラスの前に回り込んで、向き合うエバ。ニコラスの言葉の意味を確かめるように、顔をのぞき込む。
エ バ :(ゆっくりとかみしめるように)「私たち・・・恋人同士なの?」
ニコラス:「オレは・・・オレはそのつもりだった。そのつもりで、君とつきあってた。
でも、君にその気がないなら・・・迷惑な勘違いだよな。」
自嘲するかのように笑いながら、ニコラスはエバから目をそらす。自分の言葉が、とんでもない
誤解を生んでいることに気がつくエバ。
エ バ :「ち、違うわ、ニコラス!そうじゃないの。私、あなたのことが好きなの!」
いま聞いた言葉の意味が分からないと言うような顔で、エバの顔を見つめるニコラス。エバはあわてながら、言葉を続ける。
エ バ :「今まで一度もあなたから『つきあって欲しい』とか『好きだ』とか、言われた
ことなかったから、あなたは単に優しくしてくれてるだけだって・・・
そう思ってたの。あなたがそんな気持ちでいてくれたなんて、私、ちっとも
気がつかなくって・・・」
そこまで言うと、自分の言ったことが急に恥ずかしくなって、エバは言葉に詰まった。耳どころか、爪の先まで赤くなっているような気がして、恥ずかしさに身をすくめるエバ。不意に、ニコラスが笑い出す。
ニコラス:「ハハハ・・・そうか、そうだよな。オレ、言ったことなかったよな。そうか・・・
いつも笑って一緒にいてくれるから、言わなくても解ってくれてるんだと
思いこんでて・・・そうか・・・クスクス・・・エバ、気が付いてなかったのか。」
おかしそうに笑い続けるニコラス。誤解と緊張が一気に解けて、笑顔を取り戻すエバ。
エ バ :「もう!そんなに笑わないでよ。私、彼女に言われてから、
ずっと気になって・・・」
ニコラス:(笑いながら)「そうだよな。ノート取り損なうくらい、悩んでたんだよな。」
思い違いだと解って、ニコラスも余裕を取り戻している。からかわれて恥ずかしいやら、悔しいやらで、プイとすねてみせるエバ。
エ バ :(頬を膨らませて)「もう!知らない!」
ニコラス:「ごめん、ごめん。ハッキリ言わなかった、オレが悪かった!
じゃぁ、改めて・・・」
ピッとシャツの襟もとを直して姿勢を正すニコラス。落ち着いたゆっくりした声で、エバの目を見つめて言った。
ニコラス:「オレとつきあってくれないか、エバ。」
