第5話
ニコラスからの連絡が途絶えて、3ヶ月。エバはニコラスの故郷を訪ねる決心をした。
その故郷でエバを待ち受けていたものは・・・
<丘の上の教会へ続く道>
正体不明:「手を挙げろ!」
突然の声に、身動きできないエバ。数m背後では、拳銃の撃鉄を
上げる音がする。
正体不明:「両手をあげるんだ!ゆっくりとだ!」
言われるまま、両手を上に挙げるエバ。額に汗がにじむ。
正体不明:「ようし。そのまま、ゆっくりとこっちを向け。ゆっくりとだ!」
ゆっくりと、後ろを振り返るエバ。銃口がこちらに向けられている。
数m離れたその先で、拳銃を構えていたのは・・・
エ バ :「あなたは・・・!」
振り返ったエバの目に飛び込んできたのは、以前、ブエノスアイレスに
ニコラスを迎えに来た少女・リリアナだった。
リリアナは銃を構えたまま、鋭い目でエバを睨みつける。
リリアナ:(脅すように)「ここで何をしている!何しに来たんだ!」
エ バ :「リリアナちゃん・・・」
構えた銃を、下ろそうとはしないリリアナ。返答に詰まるエバ。
張りつめた空気が流れる・・・
リリアナ:(エバを見据えて)「・・・ニコラスに・・・会いに来たのか?」
エ バ :(目を見開いて)「ニコラス・・・ニコラスがここにいるの?!」
リリアナに駆け寄ろうとするエバ。そのエバに向かって、
銃を構え直すリリアナ。
リリアナ:「動くな!・・・質問に答えろ。何しにここへ来たんだ。」
エ バ :「村へ・・・亡くなった人に、花を供えに来たのよ。ニコラスの
家族も亡くなったって、聞いていたから・・・」
リリアナ:「・・・それだけか?それだけのために?」
エ バ :(うなずいて)「えぇ、それだけよ。」
リリアナ:「じゃぁ、なぜここへ近づいた!」
エ バ :「それは・・・前に、この教会の写真を見たことがあったの。
ちょうど村の広場から見えたから、ちょっと寄ってみようと・・・」
不信そうな顔でエバを睨み付けるリリアナ。相手がリリアナとわかり、
次第に落ち着きを取り戻すエバ。
エ バ :「本当よ、リリアナちゃん。それより、ここにニコラスが・・・」
リリアナに近寄ろうと、足を踏み出すエバ。その足下に銃弾が撃ち込まれる。
驚いて身を引くエバ。
リリアナ:「動くな!・・・まだ、あんたが政府軍のスパイじゃないって、
決まった訳じゃない。」
エ バ :「?!」
息詰まるような緊張が、二人の間を駆け抜ける。この身が危険に
さらされていることを、改めて肌で感じるエバ。不意にリリアナの
後ろの草むらから。人影が現れる。
男 :「どうしたんだ、リリアナ。」
リリアナ:「兄さん!この女が・・・」
兄と呼ばれたその男も、肩から銃を下げている。エバは反射的に
両手を挙げた。男は、リリアナの視線の先にいるエバを、頭から
つま先までじっくりと見た。
男 :(いぶかしげに)「あんた・・・もしかして・・・エバ?」
エ バ :(驚いて)「・・・えぇ、エバです。どうして私の名前を・・・」
男 :(ニッコリ笑って)「やっぱりそうか!こら、リリアナ!銃を下げろ。」
リリアナの銃口を下に向けさせると、男はエバに近づいてくる。
思わず後ずさりするエバ。
リカルド:(笑って)「怖がらなくていいよ・・・って言っても、信じてもらえないか。
妹が、こんなコトしたんじゃ。ほんとに、心配いらない。俺はリカルド。
あんたのことは、ニコラスから聞いてる。」
エ バ :(おそるおそる)「ニコラスから・・・?」
リカルド:(笑顔を絶やさず)「あぁ。あんたの写真も見せてもらった。俺は
ニコラスとは親友なんだ。だから、絶対にあんたに危害は加えない。」
リリアナ:(後ろからリカルドの手を引いて)「でも、兄さん!この女が政府軍の
スパイじゃないって保証は・・・」
リカルド:(リリアナを振り返り)「馬鹿野郎!ニコラスの大事な人だぞ。
そんなわけ、あるか!それとも、おまえはニコラスが選んだ人間を
信じられないって言うのか?」
リリアナ:(ちょっとふくれて)「そんなことは・・・ないけど・・・」
リカルド:(エバの方を振り返り)「ごめんよ、ほんとに・・・みんな気が立っててさ。
ついつい、知らない人間は疑っちまうんだ。でも、俺は信じてるから。
あんたがスパイなわけ、ない。」
エ バ :(微笑んで)「ありがとう。」
リカルド:(リリアナの頭をおさえて)「ほら、おまえも謝れ!」
リリアナ:(ふてくされながら)「・・・ごめんなさい・・・」
微笑みながら、首をすくめるエバ。その様子を見てホッとするリカルド。
リリアナは、リカルドの後ろでふてくされている。
リカルド:「それで・・・どうしてここへ?」
エ バ :「あ・・・ちょうど、村までお花を供えに来て、この教会を写真で見たことが
あったから、それでこっちへ足を伸ばしたの。」
リカルド:「そうか・・・よく見えるもんな、あの村からは。」
エ バ :(おそるおそる)「あの・・・ニコラスは、ここにいるの?」
リカルド:(微笑んで)「あぁ!今はいないけど、すぐに戻るよ。なんだ、知ってて
来たんじゃないんだ。」
ニコラスがいると聞いて、パッと表情が明るくなるエバ。
対照的に、ふくれっ面を続けているリリアナ。
リカルド:「とにかく、ここじゃなんだから、教会へ行こう。夕方にはニコラスも
戻ってくるよ。」
リカルドにうながされ、教会への道を歩き始めるエバ。
後をついてくるリリアナ。
エ バ :「あの教会に・・・みんなで?」
リカルド:「いや・・・あの教会は基地じゃない。キャンプ・・・まぁ今は、孤児院って
言った方が近いかな。メンバーの幼い家族や、戦闘で村で親を失った
子供たちが暮らしてるんだ。20人くらいかな。時々、俺やニコラスや、
他のメンバーが様子を見に来るんだ・・・あんた、運がいいよ。ニコラスが
ここに来るのは、久しぶりなんだ。」
エ バ :「そうなの・・・」
静まり返った教会へたどり着く。正面扉の前で待つように言われ、
リカルドとリリアナは教会の裏へ回った。エバは教会の前から村を
見下ろしていた。やがて、正面扉が開く音がする。
リカルド:(扉を開けながら)「ごめんよ、待たせて。この扉は内側からしか、
開かないんだ。いつもは危ないんで、締め切ってるから・・・」
エ バ :「ごめんなさい、わざわざ・・・」
リカルド:「いや。大切なお客様に、汚い隠しドアから出入りさせたんじゃ、
申し訳ないからね。さぁ、どうぞ!」
聖堂の中へ足を進めるエバ。小さな教会だが、きれいに掃除されている。
リカルド:「ここで待ってて。ニコラスが帰ってきたら、すぐに知らせるから。」
エ バ :「えぇ。ありがとう。」
聖堂の真ん中辺りの椅子に腰を下ろし、周りを見渡す。ふと、目のすみで
何かが動くのをとらえる。
目を凝らしてみると、何人もの子供が椅子の陰に隠れて、エバを
のぞいている。子供たちの方へ向かって微笑みかけるエバ。それに気づき、
子供たちへ近づいていくリカルド。
リカルド:(たしなめるように)「こら、のぞき見するんじゃない!向こうへ行ってろ
って言っただろう。大事なお客様なんだからな。」
子供たち:「だってぇ・・・」
リカルド:「だってじゃない!ほらほら、向こうへ行くんだ!」
子供たち:(すねたように)「ちぇー!つまんないの。」
思ったより大勢の子供たちが現れて、奥へ続くドアへ消えていく。
後ろから追い立てるリカルド。子供たちが奥へ行くのを見届けて、
エバの方を振り返る。
リカルド:「ごめんよ。若い女の人は珍しいから・・・俺、ニコラスを探してくるよ。
あいつ、飛んで帰って来るぜ!」
エ バ :(笑って)「ありがとう」
ドアの向こうへ消えるリカルド。一人、聖堂の中に取り残されたエバ。
窓に近づき、そっと外の様子をうかがう。教会の裏の方を見ると、
先ほどの子供たちが畑仕事をしているようだ。笑い声も時折、聞こえる。
村の方をうかがうと、人気のない静けさがおおっている。村の向こうへ
太陽は移動し始めている。
エ バ :「(どうしよう・・・このままじゃ、列車に乗り遅れるわ。でも、
ここにはニコラスが・・・)」
振り返って、ゆっくりと祭壇へ近づくエバ。中央にはキリスト像が、
祭壇の横にはマリア像が飾られている。祭壇の前に跪き、
静かに祈りを捧げるエバ。
エ バ :「(どうか、ニコラスが無事でありますように・・・。あの子供たちが、
二度と戦渦に巻き込まれませんように・・・)」
どれくらい、祈っていただろう。突然、奥へ続くドアが勢い良く開いた。
肩で息をしながら飛び込んできた人物と、見つめ合うエバ。
ニコラス:「エバ・・・」
エ バ :「ニコラス・・・!」
駆け寄って、抱き合う二人。しばしの抱擁の後、改めて
エバの顔を見つめるニコラス。
ニコラス:(信じられない様子で)「帰る途中でリカルドに会って・・・
急いで戻ってきたんだ。まさか、君が本当にここへ来ているなんて・・・」
エ バ :「村を・・・見に来たのよ・・・ここへ来たのは・・・本当に・・・偶然で・・・」
うれし涙がこみ上げてきて、言葉が途切れがちになるエバ。そのまま、
ニコラスの胸に顔を埋める。
エ バ :「良かった・・・あなたが無事で、本当に良かった・・・」
ニコラス:「エバ・・・」
再び、堅く抱き合う二人。その様子を、リカルドは扉にもたれながら、
笑顔で見守っている。そして・・・その扉の陰からは、リリアナが
二人を見つめていた。
