第6話

     ニコラスの故郷を訪ね、再会を果たしたエバ。ささやかながら
     幸福な時間が二人に流れる
     騒ぎ声と共に、先程の子供たちがドッと教会の中へ押し寄せてきた。
子供たち:「ほらぁ!やっぱりニコラス兄ちゃんの恋人だったんだ!」
子供たち:「あー、抱き合ってるー!」
     驚いて子供たちの方を振り返るニコラスとエバ。
子供たち:「お姉ちゃん、泣いてる!ニコラス兄ちゃんが泣かしたぁ!」
子供たち:「ニコラス兄ちゃん、その人、恋人なんでしょ?」
子供たち:「ねぇねぇ、お姉ちゃん。どっから来たの?ホントにお兄ちゃんの恋人?」
     次々と囃し立てる子供たちに囲まれる、ニコラスとエバ。
ニコラス:「こら、静かにしろって。ほら、騒ぐな!」
子供たち:「ニコラス兄ちゃんが照れてるー!照れてるー!」
ニコラス:「こら、大人をからかうんじゃない!」
     ほほえましい姿に、思わず笑みがこぼれるエバ。その様子を見ていた
     リカルドが近づいてくる。
リカルド:(手を叩き鳴らして)「ほーら、おまえたち、これ以上騒いだら、
     今夜のメシは抜きだぞ!そら、行った、行った!」
子供たち:「えー!もっと聞きたい〜!」
リカルド:「お客様に失礼だろ!ほら、みんな奥へ戻れ!」
子供たち:「はーい・・・」
     物足りなさそうに子供たちが引き上げていく。ニヤニヤと笑いながら
     二人に近づいてくるリカルド。
リカルド:「まったく・・・今夜は大騒ぎだな。」
エ バ :「ごめんなさい。私が急に来たから・・・」
リカルド:「いいんだよ、あんたのせいじゃないさ。それより・・・どうするんだ?
     ニコラス。」
ニコラス:「どうするって・・・」
リカルド:(おかしそうに笑って)「おまえ、動転してるな?彼女だよ。今日の
     列車には、もう間に合わないぜ、たぶん。」
     慌てた表情でエバを見るニコラス。微笑んでみせるエバ。
エ バ :「もし・・・ここに泊めてもらえるなら、ありがたいんだけど。」
リカルド:「俺たちは構わないけど・・・汚いからなぁ、ここ。」
     申し訳なさそうな顔で、頭をかくリカルド。
     しばらく考えていたニコラスが、口を開く。
ニコラス:「いや・・・エバには村の隠れ家の方へ行ってもらうよ。」
リカルド:「俺たちは別に・・・」
ニコラス:「彼女は、俺たちの仲間じゃない。ここにいて、秘密警察に誤解
     されたら困るのは彼女だ。」
エ バ :「ニコラス!」
ニコラス:「エバ・・・俺たちに深く関わらない方がいい。君のためだ。君は
     村に来て列車に乗り遅れ、村の空き家で一晩過ごした・・・いいね。」
     エバの目を見て、真剣に諭すニコラス。その真剣さに、エバは
     自分の知らないニコラスを見たような気がした。
エ バ :「・・・わかったわ。」
ニコラス:(リカルドの方を見て)「俺も一緒に行くから、こっちは頼む。」
リカルド:(ウィンクして)「OK。任せとけって!食事はどうする?」
ニコラス:「向こうにも備蓄が少しあっただろう。あれでいい。」
リカルド:「せめてパンくらい持って行けよ。取ってくる。」
     扉の方へ向かうリカルド。扉の影にいるリリアナに気づく。
リカルド:「リリアナ!焼きたてのパン、取ってこい。ニコラスと彼女の分と
     2人分な。おいしそうな所、持ってこいよ!」
     口をとがらせたまま、小さくうなずくと奥へ駆けていくリリアナ。
     後ろ姿を見ているリカルド。
リカルド:「あいつ・・・彼女を見つけたとき、銃を向けてたんだよ。スパイ
     じゃないかって・・・キツク叱ったから、まだふくれてやがる。」
ニコラス:「しょうがないよ。ここに近づくヤツには気をつけろって、言い
     続けてきたからな。エバとはいえ、あいつには気になったんだろう。」
エ バ :「そうよ。怒らないであげて。私がいきなり近づいたんだもの。
     怪しまれても仕方ないわ。」
     微笑みながらエバを見るリカルド。
リカルド:「ありがとう。あんた・・・ホントに優しい人だな。ニコラスから
     聞いてた通りだ。」
ニコラス:(慌てて)「リカルド!余計なこと言うなよ。」
リカルド:「照れんなって!・・・あ、パンが来たな。ほら、持ってけよ」
     リリアナが持ってきたパンの袋を受け取り、ニコラスに渡すリカルド。
     リカルドの影から、リリアナはジッと二人を見つめている。その視線に
     気づいて微笑みかけるエバ。プイッと背を向けて、走り去るリリアナ。
ニコラス:「じゃぁ、行って来る。明日の朝には戻るから。」
リカルド:「そんなに慌てんなって!ゆっくりして来いよ。久しぶりの再会だろ。」
ニコラス:「すまない・・・。じゃぁ後を頼む。」
    エバを正面扉の方へうながすニコラス。リカルドの前へ進み、
    改まった調子で礼を述べようとするエバ。
エ バ :「本当に、ありがとう・・・リリアナちゃんにも、よろしく。」
リカルド:「あぁ。あんたも気をつけて。」
ニコラス:(正面扉の方から)「エバ!」
     扉の方へ駆けていくエバ。扉を開けるニコラス。
     オレンジ色の夕陽が差し込んでくる。
エ バ :(リカルドを振り返って)「子供たちにも、よろしく。」
リカルド:「あぁ。ありがとう!」
    扉の外へ出るニコラスとエバ。微笑みで送り出すと
    リカルドは扉を閉め、カギをかけた。
ニコラス:「急ごう。ここは日が暮れ出すと早い。村に明かりはないからな。
     大丈夫か、エバ。」
エ バ :「えぇ。平気よ。」
    村への道を急ぐニコラスとエバ。真っ赤な夕陽が村を照らし出している。
    村へ着くと、1軒の民家に入るニコラス。遠慮がちに、後に続くエバ。
ニコラス:「大丈夫だよ、入っておいで。」
    なにやらゴソゴソと、棚の中を探っているニコラス。続いて中に入り
    扉を閉めると、所在なさそうに立っているエバ。
ニコラス:「ちょっと待ってくれ、今、ろうそくを出す・・・あ、悪いけど
     その辺の窓の格子戸、閉めていって。明かりが漏れるとまずいから。」

    言われたとおり、窓の格子戸を閉めていくエバ。数本のろうそくに
    火をつけ、そのうちの一つを持って、2階へ上がっていくニコラス。
    明かりに照らし出された室内は、思いの外、きれいに片づいている。
    なかなか降りてこないニコラスが気になり、2階へ上がるエバ。
    天窓からの明かりとロウソクを頼りに、室内を片づけているニコラス。
エ バ :「何してるの?・・・手伝うわ。」
ニコラス:「あぁ、もうイイよ。ちょっと埃っぽかったから・・・今夜は
     ここで寝て。あまり、寝心地は良くないかも知れないけど、
     野宿よりはマシだと思うから。」
    階下に降り、棚から缶詰などを取り出し、食事の用意をするニコラス。
エ バ :「ここは・・・?」
ニコラス:「今はもう、この村にすんでいる人間はいない。生き残った人たちも
     みんな近くの村へ移ったんだ。でも、家財道具を取りに来たものの、
     日が暮れて帰れなくなる人や、残った家に盗みに入るヤツがいるから、
     ここで監視のための寝泊まりなんかができるようにしてあるんだ。」
エ バ :「そうなの。」
     手際よく、缶詰などを開けて食事の用意をしていくニコラス。
     テーブル周りを片づけるエバ。ワインを見つけ、グラスに注ぐ。
     持ってきたパンをかじり出すニコラス。
ニコラス:(少し笑って)「でも・・・まさかここで、君とこんな風に過ごす
     ことになるとは思わなかったな。」
エ バ :(微笑んで)「ほんとね。」
ニコラス:「街は・・・みんなは変わりないか?・・・親父さんや、オフクロさんは。」
エ バ :「みんな元気よ。変わりないわ。・・・確かに、前よりは秘密警察なんかが
     動き回っているみたいだけど、大きな騒動はないし・・・」
ニコラス:「そうか・・・」
     何か考え込むニコラスを見つめるエバ。
ニコラス:(視線に気づき)「あ、イヤ、すまない。そういうつもりじゃ
     なかったんだけど・・・」
エ バ :(微笑んで)「わかってるわ。・・・それより、あの教会は・・・?」
ニコラス:「戦いの途中で、親を亡くしたり、はぐれたりした子供たちを
     つれて帰っていたら、ああなったんだ。このところ、さすがに人数が
     増えてきたんで、どこかの孤児院にちゃんと引き取ってもらおうって
     ことになって、それでオレとリカルドが来たんだ。」
エ バ :(少し悲しそうな顔で)「そうなの・・・。」
ニコラス:「俺たちが、一緒にいて守ってやれるならいいんだが・・・ちょっと
     いざこざがあってね。ここには戻れそうになくなったんだ。」
エ バ :「どこかへ・・・行くの?」
ニコラス:(フッと笑って)「元々いたゲリラグループ内で、分裂騒ぎがあってね。
     新しいグループの参謀に引き抜かれたんだ。と言ってもリーダーが
     前に話した俺の知り合いでさ。いい年なんだ。だから実質、オレが
     取り仕切っててさ。血気ばしった若い奴が多いから、まとめるのが
     大変なんだよ。」
エ バ :(興味深そうに)「ふーん・・・」
ニコラス:(おどけたように)「おっと、これじゃ愚痴になるな。」
     笑って、話を逸らそうとするニコラス。ニコラスの気持ちを察して、
     それ以上の質問は避けるエバ。風の音だけが聞こえる。
エ バ :「・・・いい所ね。」
ニコラス:「え?」
エ バ :「この村。私、ブエノスアイレスで生まれ育ったから、こんな所まで
     来たことなかったの。のどかで・・・いいところだわ。」
ニコラス:「あぁ・・・いい村だった。みんな、優しい、気のイイ奴ばかりで・・・」
     昔を思い出したのか、目に涙がにじむニコラス。
エ バ :(慌てて)「あ、ごめんなさい。思い出させて・・・」
ニコラス:(微笑んで)「謝ることはないよ。君にも会わせたかった。もっと、
     ・・・きれいで、穏やかだったこの村を、見て欲しかったよ。」
エ バ :「えぇ・・・」
     簡単な食事が終わりに近づく。
ニコラス:(席を立って)「片づけたら2階へ行こう。あまり明かりをつけていると
     怪しまれる。2階なら、月明かりで十分明るいから。」
エ バ :「わかったわ。すぐに片づけてしまうわ。」
     手際よくテーブルの上を片づけ、ワインの残りとグラスを持って
     2階へ上がる二人。天窓から差し込む月明かりで、ロウソクが
     なくてもよく見える。窓に近づくエバ。
エ バ :(格子戸に手をかけて)「開けてもイイかしら?少しだけ、外を
     見てみたいわ。」
ニコラス:「あぁ、イイよ。ちょうどそこからなら、草原が見えるだろう。
     明かりを消したら開けていい。」
     ロウソクに息を吹きかけるニコラス。暗くなるのと同時に、格子戸を
     開けるエバ。月明かりに照らされた草原が、目の前に広がる。遠くの
     山陰まで、ハッキリと照らし出されている。
エ バ :(景色に見とれて)「・・・きれい・・・」
     エバの後ろにそっと立って、一緒に外を眺めるニコラス。
     しばらく無言のまま、景色を眺める二人。
     出窓部分に腰を下ろし、ワインをつぐニコラス。注がれたグラスを
     両手で持って、月明かりにかざしてみるエバ。
ニコラス:(グラスを手にとって)「再会を祝して・・・」
 二人 :「乾杯。」
     時間が、するすると数ヶ月前へ逆行していく。
     学校にいた頃の話に花が咲き、笑いが漏れ、
     優しい時間が流れる・・・
     自分のグラスにワインを注ごうとして、瓶が空になっている
     ことに気づくニコラス。
ニコラス:「1本、空けちまったな・・・もうそろそろ、休んだ方がいい。
     明日は早い。そのベッドを使っていいから。」
     空き瓶とグラスを片づけようとするニコラス。
エ バ :「あなたは・・・?」
ニコラス:「オレは、下に寝袋があるから・・・平気だよ。屋根があって
     寝袋があるだけ、いつもよりマシさ。でも、君はそういうわけには
     いかないからな。それに・・・」
     空き瓶を振って、おどけてみせるニコラス。
ニコラス:「今のオレじゃ、なにをするかわかんないしな・・・じゃぁ、
     おやすみ、エバ。」
     そういって、出窓から立ち上がるニコラス。その腕をつかみ
     引き留めるエバ。
エ バ :「待って。お願い・・・ここにいて。」
     少し驚いたようにエバを見つめるニコラス。引き止めた腕に
     額を押し当てて、うつむいたままのエバ。
エ バ :(小さな声で)「お願い・・・どこにも行かないで・・・
     今夜だけでも・・・一緒にいて。」
ニコラス:(諭すように)「エバ。」
     しがみついた腕に、さらに力を込めて引き止めるエバ。
エ バ :「お願い・・・」
     腕に込められた力に、エバの思いを感じるニコラス。グラスを置き
     エバの方へ向き直ると、そっと壊れ物を扱うように抱きしめる。
ニコラス:(愛おしそうに)「エバ・・・」
     そっと唇を重ねる二人。月が静かに、二人を照らし出している・・・

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