第9話

別れ際の言葉通り、ビセンテは休みの前になると電話をしてきた。
エバの警戒を解くためか、二人きりで会うこともなく、大抵は
電話だけ、もしくは何人かで出かける、と言うような事が続いた。
<エバの家・居間>
電話の音:リーン・リーン・リーン・・・
エ バ :(電話を取って)「もしもし」
ビセンテ:(少し緊張して)「すみません、ビセンテです。」
エ バ :「ビセンテ!こんばんわ」
ビセンテ:(安心した様子で)「あぁ、エバ?こんばんわ。
     休みが決まったので・・・またどこかへ
     みんなで出かけませんか?」
エ バ :「いつですか?」
ビセンテ:「今度の週末。土曜、日曜と休みが取れました。」
エ バ :「私、土曜日は家族と出かけることに・・・」
ビセンテ:「では、日曜日でいいですか?みんなには僕が連絡しておきます。
     どこか行きたい所はありますか?」
エ バ :「いいえ。みんなに任せますわ。」
ビセンテ:「じゃぁ、決まったらまた連絡します。」
エ バ :「ありがとう。お待ちしています。」
電話を置くエバ。自室へ戻り、カレンダーに印を付ける。
エ バ :「(始めはビックリしたけれど・・・ビセンテって本当に
     真面目で礼儀正しい人よね。警官だけあって、正義感も
     強いみたいだし・・・忙しいだろうに、休みが決まったら
     電話をくれて、どこかへ出かけて・・・いい人よね・・・)」
<約束の日曜日・川の畔>
     声をかけた仲間達と一緒に、川の上流へ釣りに出かけたエバ達。
     男性陣は、昼食用の魚を釣ろうと頑張っている。
友人B :(待ちくたびれた様子で)「あの調子で大丈夫かしら?」
親友A :「あやしいわねぇ。お昼ご飯抜きだなんて、ごめんよ。」
エ バ :「一応、缶詰は持ってきたけど・・・今出したら、怒るでしょうね。」
     少し離れたところから、男性陣をうかがい
     顔を見合わせて笑う3人。
ビセンテ:(大きな声で)「釣れたぞー!火を起こしておいてくれないか。」
エ バ :「わかったわ!・・・ねぇ、バーベキューのセット、どこだったかしら?」
親友A :「あ、降ろすの忘れてるわ。車の中よ。」
エ バ :「じゃぁ、私取ってくるわ。木ぎれを拾っておいてくれる?」
友人B :「OK!」
車に向かって走り出すエバ。
火をつけるための木ぎれを探しにいく、親友Aと友人B。
友人B :(エバが離れていくのを確認して)「ねえ・・・あなたなら
     知ってるでしょ?エバとビセンテって、つき合ってるの?」
親友A :「え?・・・あぁ、えっと・・・まだ、そんなんじゃないみたいよ。」
友人B :「そうなの?このところ、たいてい一緒に遊びにくるじゃない。」
親友A :「でも、まだ二人っきりで出かけたことはないって。」
友人B :「相変わらずなのね、エバって。それとも、まだニコラスの・・・」
親友A :(鋭い調子で)「その話は止めて!・・・その話は、私たちの前でしないで。」
友人B :(むくれたように)「・・・ごめん。」
少し不満そうな友人B。エバとニコラスのことを、いまだに
口さがない噂話にされるのは、耐えられない親友A。
親友A :「(ニコラスがもう、戻らないとしたら・・・ビセンテのこと、
     どうするつもりなのかしら、エバ・・・)」
エ バ :(少し離れたところから)「ねぇ!見つかったー?」
親友A :「うん!これだけあれば、何とかなるでしょー?」
集めた木ぎれを、頭の上にかざす親友A。火を起こし
男性陣が釣ってきた魚を焼いて、楽しいひとときを過ごす・・・
<帰りの車の中>
友人達と別れ、二人っきりになったエバとビセンテ。
最近は、ビセンテが家まで送って帰るのが習慣になっている。
エ バ :(楽しそうに)「川で魚釣りなんて、何年ぶりかしら。
     小さい頃に家族と行ったきりだったわ。」
ビセンテ:(嬉しそうに)「楽しんでもらえたようで、良かった。」
ハンドルを握りながら、微笑んでいるビセンテ。
しばらく、何かを思案した後、意を決したように口を開く。
ビセンテ:「あの・・・来週の金曜日の夜なんですが、時間はありますか?」
エ バ :「えぇ、大丈夫だと思いますけど。何か?」
ビセンテ:「昨日、上司からミュージカルのチケットを2枚もらったんです。
     予定が入ったので代わりに行かないかって・・・」
ビセンテが何を言いたいのか、すぐに察したエバ。
2枚だけのチケット・・・エバは、素直に今の感情を口にした。
エ バ :「ミュージカル!演目は?何時からですの?」
パッと表情が明るくなるビセンテ。
ビセンテ:「7時からです。学校まで、お迎えに上がりますよ。」
エ バ :「じゃぁ、校門のところで。」
ビセンテと出かけることが増えて、次第に心の傷が
癒されつつあることに、気づき始めているエバ・・・
ミュージカルを見に行った日を境に、エバとビセンテは
二人きりで出かけることが多くなった。
<1年後>
ビセンテと電話をしているエバ。
ビセンテ:「しばらく休みが取れそうにないんだ。すまない。」
エ バ :「仕方ないわ。大事な事件なんでしょ?」
ビセンテ:「そのかわりと言っちゃなんだけど、
     取れたよ。例のオペラのチケット。」
エ バ :「ホントに?!」
ビセンテ:「他の部署の上司なんだけど、オペラ好きの人がいてね。
     その人に頼んでみたら、探してくれたんだよ。」
エ バ :(ちょっと意地悪そうに)「その日は休めるの?」
ビセンテ:(苦笑しながら)「何があっても休むよ」
エ バ :(優しく)「事件が起こらないことを祈ってるわ」
ビセンテ:「おっと、もう戻らないと・・・じゃぁ、また。」
エ バ :「えぇ。気をつけて」
電話を置くエバ。なかなか予定が合わず会えない日が続いても
ビセンテは必ず電話をしてくる為、今は、それすらも楽しみに
感じているエバ。
エ バ :「オペラか・・・いつもの服装でもいいかしら?」
笑みを浮かべながら、自室に戻るエバ。クローゼットから
洋服を取り出すと、ベッドの上に並べてみる。
エ バ :「(そうだ、この服に合わせたバックが確かあったわね・・・)」
クローゼットの上の棚を、ゴソゴソと探し出すエバ。
箱の一つを動かした拍子に、別の箱が落ちる。
中身があたりに散乱する。
エ バ :「あーん、、やっちゃった!・・・あら、これ・・・
     大学時代の成績表じゃない。ゼミの資料まで・・・」
     こんな所に入れてたのね、私ったら。」
散らばった箱の中身を集めながら、思い出にふけるエバ。
落ちた拍子にバラバラになった写真立てを拾い上げる。
そこには1枚の集合写真が、入れられていた。
エ バ :「(これは・・・確か、みんなで撮った写真。)」
懐かしい顔ぶれの中には、親友Aやビセンテの同僚も
写っている。もちろん、ニコラスも・・・
目をとめて、ジッと見つめるエバ。
エ バ :「(ニコラス・・・今、どうしてる?・・・)」
胸が痛むような気がして、服の胸元を握りしめるエバ。
外れた写真立ての足をつけると、横にあったベッドの
サイドテーブルの上へ置いた。
落ちた箱を片づけ、クローゼットの上に置き直す。
そして再び、洋服選びに戻るエバ。鏡の前で服を
組み合わせて選ぶうちに、笑顔が戻ってくる。
しかし、そのニコラスに再会することになろうとは
エバは知る由もない・・・     

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