02月
| 『人魚とミノタウロス』氷川透(講談社ノベルス)2002.02出版 |
プロのミステリ作家を目指している氷川は、高校時代の親友で今は精神科で研修医をしている生田の勤める病院を訪ねた。ところがその病院の生田がいるはずの部屋で火災が起き、黒こげの死体が発見された。果たして自殺なのか他殺なのか、それとも偽装自殺なのか...
驚愕のトリックなどは出てきませんが、不可解に見える事件を純粋に論理だけで絞り込んでいく手際は、ある意味職人技で、おもわず唸ってしまいます。
主人公のキャラ設定のせいもあって、事件の解決手法だけでなく、もう地の文も会話も、この本のどこを切っても論理的。金太郎飴かい!ってなくらい。ま、それが面白さや驚き、リーダビリティに貢献するか否かは、また別問題で、異様に丁寧というか回りくどい文体も好みが分かれそう。 個人的には見事にハマリましたが。
「筋が通るとか辻褄が合うだけというだけで、それを結論にしてはいけない。あらゆる可能性を考えてみなければならない。」 これは一部のミステリへの皮肉でしょう。 「ああ、そういう説も有りかな」という程度の解決で終わるミステリのなんと多いことか。
途中、主人公が名探偵の存在意義について悩んだり、登場人物が自分の作中視点の事を語るなどメタ的な要素も顔を出しますが、これらは本筋には一切影響しません。 こういう遊びを面白がれるがどうかでも評価は変わってくるでしょう。 私はこの点は、あまり面白がれませんでした。だって中途半端だし。
えー、参考まで、私のミステリの分類を野球の球種に例えますと次のようになります。
ストレート>ロジック命
変化球>>>新本格系のケレンたっぷりトリックもの
消える魔球>叙述もの
ボーク>>>メタ
この意味では、この本は剛速球のストレートですけど、昨今のミステリ事情からすれば、これは本流じゃないんですよね。哀しいことに。
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| 『眼球綺譚』綾辻行人(集英社文庫) 1999.09出版(親本1995.10) |
7編からなるホラー短編集。でも「ホラー」というジャンルから連想される本能的な「恐怖」は感じませんね 。むしろダークファンタジ?あ、いや、怪談かな。
全体的にさすが手慣れた感じで上手くさばいてますけど、 あまりに直球過ぎる。この著者には、どうしてももうちょっと捻りを期待してしまう。
特に「特別料理」は、ありがち過ぎやしません? 「呼子池の怪魚」は日野日出志が元ネタか? 「バースデー・プレゼント」のパーティでの異様な空気はけっこう好き。
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| 『クリムゾン・リバー』ジャン・クリストフ・グランジェ(創元推理文庫) 2001.01出版 |
アルプスの麓の小さな大学町で発生した、儀式めいた猟奇的連続殺人事件。一方、そこから300キロ離れた小さな町で、10歳で死んだ少年の墓が荒らされ、少年の通っていた小学校も記録の盗難にあう。2つの事件の捜査が交差するとき...
確かにサスペンスとして、良く出来ていると思う。 大胆なストーリとスケール、魅力的なキャラ、今時のサスペンスには欠かせないグロテクスな描写、そして予想外の真相。 現代サスペンスのお手本ですね。 ただし、いかにもハリウッド的なそれで、ノベライズ的な匂いがプンプンしてます。
って言うか、邦訳が出る前に既に映画化されていたわけですけど、主人公の捜査員のキャラがあまりにもジャン・レノそのまんま。 まさか訳者がレノのブロマイドでも見ながら書いたのか?と疑いたくなるほど。
それと、驚愕の真相の件は特に目新しいものではないとは言え、個人的には使ってくれるだけで「小躍りしちゃう」ネタです。 ただ、説得力というか、このネタに真実味を持たせるための「見てきたようなウソ」の書き込みが足りないような。 しょせん荒唐無稽なネタなんだから、冷静に見れば矛盾点や非論理的な点もボロボロ出てくる。 で、そんなのを気づかせない程の高揚感やスピード感を与えるか、 強引に説得するべく用意周到なディティールで塗り固めて貰わないと、 他の部分のディティールがしっかりしている分、浮いちゃってます。
私はもっと上手く騙して欲しいだけなのよ。
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| 『Missing』本多孝好(双葉文庫)2001.11出版(親本1999.06) |
うまい。と思わず唸ってしまった5作収録の短編集。おお、これで新人さんか。
アラスジを書いてもこの雰囲気は伝わらないと思うので省略しますけど、 普通の人達の日常に潜むダークな面も、さらりと書ける才能には唸るしかない。
なにしろ先が読めない。
話がどう転んでいくか最後まで読めないっていうのは、実は私的には大きなポイントなんですけど、 そういう先が読めない作品で、しかも着地した先までしっかり計算されている本は以外と少ないんですよね。 なおかつ文章がこなれていて上手い。 読んでいて非常に心地よい原因は、人間も含めた物事に対する距離感かな、と思う。
ま、そんなに大きな事件が起きるわけでは無いけど、ミステリやホラー的な隠し味まで用意されていて、 私的には至れり尽くせりですね。惜しいのが、デビュー作でもある1個目の話だけ、ちょっと出来が落ちること。それ以外は全て高水準をキープしているって事自体が驚きですけど 。久々に読んでいる間は幸福感に浸れた本。といっても根は暗い話しばかりなので誤解しないように。(笑)
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| 『天使の耳』東野圭吾(講談社文庫)1995.07出版(親本『交通警察の夜』実業之日本社1992を改題) |
交通事故や交通違反に絡んだミステリの連作短編集。
やはり、この人は、悪意に満ちた人とひねくれた結末を書かせたら、常に一定レベル以上を保証してくれます。 ほんと、どの話しも路上駐車や、マナーをわきまえないオバサン、邪魔な若葉マークドライバなどの身近な 問題が発端となって意外な結末にたどり着きます。
特に、走行中の車からの空き缶ポイ捨ては、私も数年前ですけど被害に...また怒りがフツフツと湧いてきた。一緒に乗っていた子供がケガをし なかったのは幸いだったけど、フロントガラスが割れさえしなければ、追っかけてとっ捕まえたかった...ま、追っかけてもこの作品のようなヒ ネた結末にはならんと思うが。 で、そういうのに限ってお座敷車とか外車だったりする。偏見か。
やはり彼の最近の作品に比べると、人間の掘り下げ方が浅いことや、文章の硬さ(ん、これは今もかな(笑))はしょうがないのでしょうけど、 その片鱗は充分すぎるほど見え隠れしてます。
ちなみに、今月、親本である『交通警察の夜』が復刻したらしい。ま、正直言えば私もそれを見て積読本を読む気になったんですけど、けっこうな拾いモノかも。
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| 『「ABC」殺人事件』有栖川有栖・恩田陸・加納朋子・貫井徳郎・法月綸太郎(講談社文庫) |
クリスティの『ABC殺人事件』にちなんだミッシングリンクテーマの文庫書き下ろしアンソロジ。
ミッシングリンクの解りやすい例としては、連続殺人事件の一見無関係に見える被害者達の関連性を探し出すという、ミステリのジャンルの中では 比較的地味なもの。ま、動機探しとも言える。 でもキッチリと決まった時の爽快感は、叙述もののソレに匹敵するんじゃないかな。 ちなみにこのジャンルの個人的なベストは飛鳥高『細い赤い糸』。
さて、一応1作毎のコメントをば。
有栖川有栖の...キッチリと落としてくれるのはさすがだけど、なんかまだ推敲途中のような雰囲気が。
貫井徳郎の...2段オチの最後のオチは、どこかで似たような話しを読んだ記憶が...けど、この長さで、この密度はお見事。
法月綸太郎の...オチがちょっと複雑でカタルシス減少。
その他の...特に語るに値せず。
ま、クリスティの時代はシンプルな謎で充分良かったんでしょうけど、さすがにこの時代、シンプルなソレは既に使い尽くされているわけで、みな さんちょっと捻り過ぎちゃいましたかね。 でも最近の本としては珍しく、コストパフォーマンス的に○。
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| 『21世紀本格』島田荘司責任編集(光文社カッパノベルス)2001.12出版 |
島田荘司が「21世紀に相応しいと言える本格ミステリを!」との執筆依頼状を送り、それに応えた7人+編者による短編アンソロジ。
●響堂新「神の手」
近未来バイオホラー。手堅いけどカタルシス無し。
●島田荘司「ヘルター・スケルター」
構成がシンプルなぶん、カラクリが透けて見えちゃってますが、あの歴史的事実に結び付ける大胆さというか 怖いモノ知らずさ加減は、さすが御大。でも、あれはストーリーテラーとしての巧さであって,本格ミステリ的 な驚きじゃないでしょ。
●瀬名秀明「メンツェルのチェスプレイヤー」
ロボットによる殺人テーマ。やはり手堅いけど、ま、オチより途中の哲学的思弁が中心となる話。 小技はけっこう効いてる。
●柄刀一「百匹めの猿」
最先端(っぽい)知識要素(っていうかイメージ)をちりばめてはいるけど、フォーマットは古典的なミステリのそれ。 相変わらずのギュウギュウ詰めの印象。 でも「百匹めの猿」理論は、もっとダイナミックに面白い使い方を希望します。
●氷川透「AUジョー」
文体と、言い訳というか異様に親切な近未来の状況説明が面白い。 そしてその特異な状況での論理のもて遊び方が好み。
●松尾詩朗「原子を裁く核酸」
読者の殆どが知らないような、もしくは作中で情報として与えられていない知識を事件の核心に使うのは、共感を得ることが困難なので止めましょ う、という典型的な例。
●麻耶雄嵩「交換殺人」
唯一、最新の技術や知識を導入していない作品だが、本格ミステリとしてのロジックが美しい好短編。 探偵役とワトソン役の関係が「先鋭的」ってことなのか? ちなみに最後の一行の意味を誰か教えてくださいませ。
●森博嗣「トロイの木馬」
依頼状に最もストレートに応えたといえるハイテクホラー。 用語説明(うんちく)の省略具合が潔い。
単に先端知識のうんちく語りなら、そういう専門書を読んだ方が効率的なわけで、いかにミステリと有機的に結びつけるか、が技量だしセンスって もんでしょう。 そういう意味で成功しているのは瀬名秀明と森博嗣かな。 ま、最先端となると,どうしてもAIとバイオになっちゃうのは、しょうがないか。 「ミステリ」という観点からは麻耶雄嵩のがダントツですね。 でも一番保守的な作品が一番面白いとなるとこのアンソロジの意味って...
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| 『海神(ネプチュ−ン)の晩餐』若竹七海(講談社文庫)2000.01出版(親本1997.01) |
時は満州事変が勃発し、世界中が大きく動き出そうとする、まさにその時。 当時随一の豪華客船「氷川丸」でアメリカに渡航する本山は、あのタイタニックから持ち出されたという幻のミステリ短編原稿を巡る不思議な事件 に巻き込まれる...
10日間の船上でのみ繰り広げられる舞台といい、思考機械シリーズで有名なフュートレル(日本ではフットレルという呼称が一般的だが...) の未発表原稿といい、私好みの要素がてんこ盛りで、ページをめくる手がサクサク進みます。 ま、本格ミステリ的オチは限りなく薄味ですけど、小技がけっこう効いてますので不満は感じませんでしたね。
...ん?で、結局この本での「事件」って何だったんだろ。 10日間ドタバタ大騒ぎした割には、結局大きな事件は何も起こっていなかったような気が。 ま、当時の時代背景と豪華客船の旅の雰囲気を楽しめれば良し、で、ちょっと不思議な謎もオマケで付いてるよ、ぐらいの楽しみ方がしっくり来る 本。
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| 『笑うふたり』高田文夫(中公文庫)2001.09出版(親本1998.06) |
聞き上手日本一、もしくは合いの手を入れさせたら日本一とも噂される筆者と、東京お笑い界の重鎮達との対談集...っていうか、単なる飲み屋 でのダベリ程度のもんですが、そこはそれ、けっこうなテンションを見せてくれます。 伊東四朗、三木のり平、イッセー尾形、萩本欽一、谷啓、春風亭小朝、青島幸男、三宅裕司、立川談志といったラインナップも壮観だが、 伊東四朗の凄みと、談志の相変わらずの支離滅裂さ加減を味うだけでも読む価値が有る(かも)。 ま、「昔のお笑い界は良かったねぇ」的な回顧録のようになってしまっているのはしょうがないにせよ、 東京の笑いは、やはり関西勢(吉本)の面白さとは違い、「照れ」が重要なポイントであるという私の持論が 、これを読んで立証された。って、そんな立派なもんかい。べらんめぇ。
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| 『ガリバー・パニック』楡周平(講談社文庫)2001.08出版(親本1998.07) |
千葉の九十九里浜に突如身の丈100mの巨人が出現する。しかも黄色いヘルメット、「熊田工務店」と縫い取 りされた作業服、足には地下足袋を履いた、どこから見てもただの土木作業員の巨人の出現に、日本全体が右 往左往する。
と、まあ、タイトルそのまんまの発端。 薄井ゆうじ氏のような寓話的な持って行き方をするかと思いきや、巨人の出現以降はやたらリアリティ溢れる 展開を見せる。
官僚や政治家は言うに及ばず、広告代理店、建設業界、製薬業界まで巻き込んでの、私利私欲に満ちたオマヌ ケぶりは、多少デフォルメされているとは言え、多分こんなもんでしょう。 作者の書きたいポイントも、この「右往左往」ぶりに有るとは思うけど、展開があまりにもスムーズ過ぎるよ うな。
つまり、ストーリーが全て予想できる範囲内でしか動いていないんですよね。 私はこういう本を勝手に「飛ばし読み可能本」と呼んでいます。 ま、現実なんてそんなもんさ、と言ってしまえばそれまでですけど、エンターテイメントとしては 及第点はあげられません。
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| 『真夜中の犬』セルジュ・ブリュソロ(角川文庫)1998.10出版 |
えー、一言で言うと「ホームレス達が高層マンションの壁面を登って、管理人に叩き落とされる話」 どう?、変でしょ。
「ホームレスが、彼らの所属する底辺から抜け出すために、上り始める」って書こうかと思ったけど、それじ ゃ「単なる良い話」に聞こえるし、ね。
オチも、やはり英米の作家とは違う。 あ、作者は「フランスのスティーブン・キング」と呼ばれてるらしい。誰がそう呼んでるのかは知らないが。 はたして、そう言われて本人は嬉しいのだろうか。
一応、無理に分類すれば冒険&サスペンス小説だと思うけど、この奇妙な空気は、いかにもフランスミステリ 。(舞台はアメリカだけどね) こういうのが有るからフランスミステリは侮れない(だから、誰も侮っていないっちゅーに) でも、フランスミステリを読んだことの無い人にとっては、特有の「掴み所のなさ」は戸惑うかも。
リュック・ベッソンあたりが映画化したら見てみたいな、っと。
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| 『時の扉をあけて』ピート・ハウトマン(創元SF文庫) 2000.04出版 |
危篤の祖父を見舞った少年を一目見るなり、殆ど面識の無いはずの祖父は驚愕の表情を見せ激昂し、それが元で死んでしまう。 そして遺産として残された屋敷で、少年は五十年前の世界へ繋がる隠された扉を見つける...>
これは一応、時間テーマSFです。ただ、主人公の内面的な葛藤やなんかの心理描写がお話の中心で、 この舞台設定もそれを語りたいが為に準備されたようなもの。 パラドックスや理論なんぞのSFらしいセンスオブワンダーを期待して読むと肩透かしを食らいます。 はっきり言ってSF読みには物足りないでしょう、この程度のパラドックスネタは。
でも、そういうのを期待しなければ、小説として充分読み応えが有ります。ま、かなりヘビーなたぐいで、胃にズッシリときます。
アルコール依存症の父親と母親の関係、行った先の時代描写(第二次世界大戦やベトナム戦争)に 辛さと悲しさが目一杯詰まってます。もうゲップが出ます。 やはりこういうタイムトラベル話には『夏への扉』の爽快感や、『グリンプス』やフィニィの切なさ、ノスタルジィの方が合うと思う。 もちろんバクスターやベンフォードなんかの理論重視のハードSFはまた別腹として。
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