06月
| 『QED式の密室』 高田崇史(講談社ノベルス)2002.01出版 |
密室で、遺体となって見つかった「陰陽師の末裔」。 果たして、桑原崇の推理は事件を謎解くばかりか、時空を超えて“安倍晴明伝説”の秘密にせまる...
いやーブームですね安倍晴明。(ん?もう下火か。飽きっぽいぞ日本人) ま、それは置いとくとしても、作者は様々な歴史上の蘊蓄と現代の殺人事件を絡めたシリーズを書いている訳ですが、さすがに安定してるので、差し出される「トンデモ説」に安心して身を委ねられる...が、残念ながら今回は、巻末の参考文献のうちキモとなる1冊(晴明のでは無い)を読んだ事が有ったので、全然驚けませんでした。上手く要約してるとは思うけど。
...という事はなにかい?今までの作者の本も、別に作者の捻り出した大嘘って事ではなく、その筋では学説として常識、もしくは参考文献そのまん ま引用だったけど、その道には暗い私が気づかなかっただけ、って事?
それに、こうもネタが被っちゃうと、やはりプチ京極の印象が強まりますね。 ま、京極がこの世界に戻ってくるかどうかは微妙ですが。 そう言えば密室の方のネタも「京極のデビュー作」とかぶってないかい?これって。
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| 『私が彼を殺した』 東野圭吾(講談社文庫)2002.03出版(親本 1999.02) |
ま、有名過ぎるんで今さら書くのもアレですが、本格ミステリとしての解明部分はこの本には有りません。 つまり最後まで読んでも犯人は解りません。 犯人を特定するのに必要な伏線は全て書かれているので、読み込めば解るはず。というミステリです。
容疑者は3人。
袋とじになっている解説にかなり詳しいヒントが有るので、そこまで読めば殆どの人は見当がつくでしょう。
ちなみに自慢するわけではないが、私は本文読了時点で犯人、つまり犯人を特定できる箇所(伏線)が解りました。 (んー、確かにちょっと得意げになったかも(笑))
ただ、この本は「雑誌掲載」「ノベルス」「文庫」という経路を辿ってるわけですが、その都度伏線が親切になっているらしいので、 文庫で当ててもそんな偉くはないらしい。 別に偉くなりたい訳でもないけど、実際、ラストの解明直前まで説明してくれるヒントは、親切過ぎるかな。 かと言ってノベル版や雑誌を手に入れてまで確認するほどの事でもないかな、と。
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| 『館という名の楽園で』 歌野晶午(祥伝社文庫)2002.06出版 |
ミステリに出てくるような「館」に住むことが夢だった男が、ついにその夢をかなえた。 そして旧友達を招待し、それぞれが殺人者、被害者、探偵役になって行なう「殺人推理ゲーム」を提案する...
ま、トリック的に言ってしまうと、もし短編で使ったら「おお!」と唸るが、いまさら大長編でこれがメインで使われたら 「おいおい」と突っ込みたくなるレベル。かな。 そういう意味では、例の書き下ろし中編400円文庫のこれにはギリギリセーフってところでしょうか。 ま、作者の初期作品にはこれ以下のレベルのも有るけど(笑)
でも、なぜ最後はこんな中途半端に哀しいオチにせんといかんのか、理解不能。
遊ぶなら最後まで遊びましょう。
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| 『ブラック・エンジェル』 松尾由美(創元推理文庫)2002.05出版(親本1994.08) |
やっと手に入れた、カルト的な人気を誇るロックバンドの幻のファーストアルバムを聞き進むうち、その中の曲「ブラック・エンジェル」が流れる と、いきなり「黒い翼の天使」が現れて、一緒に聞いていたサークルの仲間の一人を殺して消えてしまう...
と、ま、発端はファンタジかオカルトっぽい出だしですけど、殺された「理由」を調べて行く過程はミステリのそれですね。 もちろん現実的な理論による結末は有りませんけど、天使に関する「ルール」の解明や、殺された理由には筋の通った答えが示されます。
ま、ファンタジというよりはSFかな、やはり。 というより、西澤保彦が書いてもおかしくないネタかも(笑)
ただ、そのルールに「本当の自分探し」的な意味合いを持たせて、青春小説として成立させてあるあたりは、西澤保彦には無理でしょう。
ま、ベルベットやドアーズ、ボウイなど、あまりマイナーに走らず適度にメジャーなロック小ネタも適度に良い感じで。
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| 『盤上の敵』 北村薫(講談社ノベルス)2001.10出版(親本1999.09) |
末永が帰宅してみると自分の家の回りにパトカーが集まっていた。 逃走中の強盗殺人犯が彼の家に逃げ込み妻を人質にとったらしい。 そして善と悪の攻防がチェスをメタファとして進められる...
今までの作品でも日常に潜む「ちょっとした悪意」はチラチラと見え隠れしていたけど、 ここまで悪意に満ちた絶対悪とも言える人物が出てくるのは、この作者の本にしては珍しい。あー、唯一かな。
コアだけを取り出せば、伏線もしっかり張られて、どんでん返しも鮮やかな本格ミステリなんですが、 むしろ作者が得意とする「ほのぼの」モードと、人間の心を全く感じさせない登場人物の共存が新鮮かも。 ただ、妻の回想シーンは確かに哀しい話しなのでしょうが、それを堪能するにはボリュームが足りず、ちょっとそのバランスが居心地悪い。
チェスのメタファは、「ミステリは人間が描けていない。事件解決に向けてコマのようにただ動くだけ」 という批判への当てつけでしょうが、それ以外の意味はあまり無いような。
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| 『タイムスリップ森鴎外』 鯨統一郎(講談社ノベルス)2002.03出版 |
ま、あらすじはタイトルそのまんま。
森鴎外が殺人者に襲われ、はずみで現代の渋谷にタイムスリップしてくる。 そこで知り合った今時の女子高生達とモリリン(笑)は、殺人者の正体と過去に戻る方法を推理していく。
なにか気楽に読める本ということで、手にしたけど、いやー拾いもんですよ。これ。 本好きなら思わず「ニヤリ」とする子ネタが満載だし、女子高生達との絡み具合(もちろんイヤらしい意味では...ない)や、鴎外が現代に順応していく過程なんか、軽いとはいえ読ませます。
で、明らかにされる殺人者の正体は、ここまでこじつけだと、いっそ潔いくらいで、トンデモ具合が微妙に好き。 鯨統一郎は作品毎にバカミス度が上昇中で見逃せないぜ、旦那。 ま、SF的解決は御愛敬ということで。ね。 でも作中のラップは、リズム的にもライム的にも、ちょっと無理しちゃいましたね。
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| 『400年の遺言』 柄刀一(角川文庫) 2002.05出版(親本2000.01) |
400年の歴史を持つ浄土真宗妙見派の京都・龍遠寺。その庭で庭師が首を切られ謎の死を遂げる。 事件の背後に隠された庭園の謎とは...
歴史上の謎と現代の殺人事件がリンクする、という作者お得意のパターンもデビュー以来3作目ともなると、さすがにこなれている。 一種の館モノとも言える庭園の秘密が徐々に解き明かされ、あぶり出される殺人事件の真相、 そしてもう一方では松本清張ばりの警察による地味な捜査による犯人の絞り込み。 この2つが平行して書かれやがて交差する、この融合がまずまず成功している。
謎の中心は「聖アウスラ修道院の惨劇」の逆パターンで、ありがちだけど好きなネタなので、もう許しちゃう。
それよりなにより、謎のオンパレード! 相変わらず「盛り込み過ぎ!」と突っ込みたくなるほど。 長者番付上位に来る作家連中なら、この本で使われているネタで5冊いや10冊は書けちゃうぞ。うーん、貧乏性だな。
ただ、これだけ複雑な機械的トリックを文章だけで理解しろ、ってのもねー。 一応作中に何枚か解説図は出てくるけど、それを上回る謎の数々だし(笑)
作者の初期特有の堅い文体は相変わらずで、すんなり頭に入ってこない部分もあるし。 それと、視点が移りすぎ。 新本格以降のミステリへのバッシングである「人間が描けてない」という批判に呼応するかのように、 執拗なまで主要登場人物の掘り下げをしているけど、それの弊害って気もする。
最後に明らかになるお涙頂戴シーンは...すまん泣けませんでした。 だってとって付けたような印象なんだもーん。
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| 『マレー鉄道の謎』 有栖川有栖(講談社ノベルス)2002.05出版 |
マレー半島を訪れた有栖川と火村を待ち受けていたのは、あらゆる隙間がガムテープで目張りされた密室殺人事件だった...
こてこての本格ミステリ。それ以上でも以下でもないな。
ま、小説として見た場合のいろんな突っ込みどころは「本格」ゆえ、もちろん目をつぶりましょう。 ロジックの展開、そして伏線の拾い方もさすがです。 でも、こじんまりとし過ぎてないかい?
ま、後書きにあるように作者が目指したのがカー、クイーン、クリスティの融合だとしたら、 古典的な謎解きとしてこれはこれで成功していると思うが。 でも、肝心のトリックも「赤川次郎の某初期作品」の焼き直しだしな。
ま、もともとこの作者とはあまり相性が良くないとは言え、新本格1.5世代の作者がこの程度で満足されていては、 なんか寂しいぞ。オジサンは。
マレー鉄道が舞台の、時刻表トリックじゃなかった事だけが救いか。
余談ですが、これを書いていて「目をつぶり」か「目をつむり」かで、ちょっと悩みました(笑)
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| 『弥勒』 篠田節子(講談社文庫) 2001.10出版(親本1998.09) 課題図書 |
洗練された文化と人類の宝ともいうべき仏教美術を誇るヒマラヤの小王国、パスキム。 かつて同国を訪れ、その美しさに惹かれていた新聞社の事業部員永岡は、パスキムで政変が起こり美術品の破壊が行われているらしいという情報を 得るが、元々それほど注目されている国ではないうえ、クーデター政権により外部への人や情報の流出が極端に制限されているらしく、ほとんど内 部の様子が解らない。意を決した永岡は不法入国をしてパスキムに向かう...
まさかとは思いますが、アラスジから連想して勘違いする人がいるやもしれませんので言っておきますが、これは船戸与一のような冒険小説ではありません(笑)
確かに「宗教とは何か」「人の幸福とは何か」を考えさせられる大作だとは思う。
国全体から見ればほんのごく1部に過ぎない都市に富が集中し、それ以外の国民は貧困する生活、 という図式は、全国津々浦々までプチ東京と化して平和ボケしている日本人からすれば、 リアリティが感じられないどころか、究極の「空想の産物」でしょう。 そしてこの話はモデルが有るとは言え、全く架空の国が舞台であり、 つまりシミュレーションである。
私にはここがしっくり来なかったですね。 もちろんシミュレーションを否定してしまえばフィクションは成り立たないわけですが、 作者の責任逃れのような気がしてならないんですよね。 確かに圧倒的(内容的にも、量的にも(笑))そのボリュームに感嘆はするが、正直、 この本から作者の何らかのメッセージを汲み取ることは出来なかった。 何らかの警告なのか。それとも、ただただ作者の力業を楽しめば良いのか。 それともマジで作者は、クーデタ首謀者が目指した「原始共産主義的ユートピア」のシミュレーションを書いてみたかっただけなのか(笑)
それと気になるのは、日常生活の小さな出来事も、人の生き死に係わる大きな出来事も、常に同じ抑制された文体で進められるので、全体的にメリハリが無いというかフラットな印象を受けること。 ただ、これは1個人の人生の中で日常も生死も、もっと上の視点から見れば同じレベルの出来事であり、優劣など無い、という作者の意図とも思え る。 作者の力量が有れば、大袈裟な文体による、お涙頂戴的な要素満載の感動巨編に仕上げることもできたはず。
それと、主人公の優柔不断な性格...って言っても、もちろんこれが私も含めた平均的な日本人の反応はとは思うけど、もう少し自己中心的、つ まり小悪人にするか、正義感溢れる人物にするか、どちらかに振った方がエンタテインメントとしては、正解でしょう。 でもこれってエンタテインメントかな...微妙だな。
ま、主人公の囚われ人としての悲惨な生活描写を共感しながら読めれば、それはそれでOKなのかな。 その点は私もけっこう楽しめたし。
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| 『クロスロード・ブルース』エース・アトキンス(角川文庫)2000.12出版 |
「キング・オブ・デルタ・ブルース」ロバート・ジョンソンが死の直前に録音した「幻のレコード」と彼の死因を巡る物語。
主人公は元プロフットボール選手の大学講師で、皮肉屋で、気の利いたセリフがてんこ盛りで、すぐ女と寝て...という、「おいおい」と突っ込 みどころ満載のコテコテのハードボイルドのそれだが、そういうベタさをすんなり読ませる訳が良い。 久々に読み終わるのがもったいなく感じた。
ロバート・ジョンソンは、ブルース素人の私でさえベスト盤は持っている程の神様ですが、 彼の生半可ではない人生の断片をさらりと知ることができるのも嬉しい。 どーしてもマジな伝記とかは重すぎるしね。
ま、やはりどーしてもこういう音楽ネタには点が甘くなってしまうのはご勘弁願いたい。 しかし、さすがアメリカの大学には「ブルース史学科」ってのが有るんですね。ほぉ。
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