10月
| 『本格的 ― 死人と狂人たち』 鳥飼否宇(原書房)2003.09出版 |
綾鹿科学大学数理学研究科のうだつの上がらない助教授・増田は、異常な興奮状態に陥ると天才科学者に変態し、人間の行動は全て数学で表せるという持論でこれまで数々の論文をものしてきたという。 その彼がフィールドワークと称する「覗き」、その最中に殺人事件が発生し、あろうことか自分が容疑者にされてしまう...
学者を主人公にした3作+おまけからなる連作ミステリ短編集。
●「変態」:数学ネタ(ギャグ)と主人公の変態ぶりにはそこそこ笑えますが、そんだけ。ネタとして黄金螺旋は嬉しいけど、使うのならもっと有意義に使っておくれ。映画「π」の変態バージョンかよ。
●「擬態」:ま、それが面白いかどうかは別として、職人技とも言える伏線に感心はします、ただ、昆虫などの擬態の講義(=ウンチク)は面白いけど長すぎてだれます。ま、そこが引っかけとも言えるが。
●「形態」:クローンネタの使い方も中途半端だし、なにより偶然に頼り過ぎ。ま、これも意図的なのは解るけど。
企ては面白いし、凝っている。おまけに「本格ミステリ」へのアンチテーゼ的な試みもある。
でもいまひとつ突き抜けるものが...これはこの作者の今までの本全てに言えることだけど、構成パーツは面白いんだけどいまひとつカタルシスに結びついてこないんですよね。 才能を注ぎ込むベクトルが少しだけズレてるのか。もしそれが意図的にだとしたら...目的が解らん。ただヘソが曲がってるだけか。
でも、ブレークスルーは近いぞ。多分。
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| 『アイデンティティ−』 スティ−ヴン・ピジック(ヴィレッジブックス)2003.10出版 |
豪雨のため陸の孤島と化したモーテルに閉じこめられた11人。 不穏な雰囲気のなか、第一の殺人が起きる。 コインランドリーの中で彼女の首はガラガラと回っていた。 それを皮切りに次々と殺人が起きるが、どの死体も消えていく...
ちょうど今公開しているサイコミステリー映画のノベライズですけど、いやー、久々にオチでぶっ飛ばされました。
実は普段手にしないノベラスを手にしたのは、翻訳が柳下さんだったからなんですけど、 その訳のおかげもありノベライズ臭さも無く、これはミステリとしても一級品でしょう。 (ま、ミステリの前にバカが付くし、怒りだす人がいる事は想像に難くないが)
出だしはアラスジに書いたように、いわゆる「嵐の山荘モノ」ミステリのまんまですけど、 日本や英国のそれとは雰囲気が異なり、キャラ(これがちゃんと11人描き分けできている!)のおかげでアメリカのロードムービーのような 雰囲気が新鮮。
なにより、このオチ。
実はあからさまな伏線がバッチリなので、かなり手前で予想ついたんですけど、 待ち受ける真相を思うとニヤニヤ笑いが止まらず、それが明かされた時には「どっかーん」です。
欲を言えばもう少し長くても良かったし、ラスト(エピローグ)はちょっとありがち過ぎ。
もし映画の方も見る予定があるなら、出来れば映画を見てから読んだほうがいいと思うけど、映画だと怒る人がもっと多いだろうな。(私はこれから見る予定です。とほほ)
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| 『そのケータイはXX(エクスクロス)で』 上甲宣之(宝島社)2003.05出版 |
温泉旅行に出かけた「しより」と愛子がたどり着いたのは、薄気味の悪い祭りが行われている山間の小さな温泉郷だった。 野外の温泉に入り宿に戻った「しより」が、押入れの中で鳴っていた誰のものかわからない携帯電話に出てみると、モノノベと名乗る男から驚くべき話を聞かされる。 今すぐその宿から逃げ出さないと、彼女は片目、片腕、片脚を奪われ、村の「生き神」として座敷牢に監禁されてしまう運命だという。 そして「しより」の周りで村人達が怪しげな動きをはじめ、温泉に残った愛子にも危険が迫っていた...
日本独自の因習系ホラーに、ジェットコースターサスペンス並のスピード感と異様なテンションを持ち込んだサスペンス。
(かなー。一番読後感が近いのは「望月峯太郎」かも)
携帯電話だけで繋がった「しより」と愛子、2人の視点の交差のさせ方も考え抜かれていて凝ってます。
(「底抜けエアライン」に似たようなネタが有った気もするが気のせいかもしれん)
ま、文章はアレだしツッコミ処は多々有るけど、キャラ設定や背景など色々と努力した形跡は見られるし、
(でもいくらなんでもあの民俗学的ウンチクは浮いてるでしょ)
いかにも『バトロワ』以降という文体は、マンガしか読まない活字離れ世代に「小説って難しくはないよ。ほら、これなんか読みやすくてマンガの絵が無いヤツみたいでしょ」 と紹介するのがふさわしいかと。
(同じ系統の『リアル鬼ごっこ』と比べたら文章力は段違い、というか、比較されたらこっちの作者が怒るか)
ただ、なんだかんだバタバタしたあげくに結局「そのまんまかい!」という真相は...ウラのウラをかいたのか。
「第一回このミス大賞」最終候補作。
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| 『暗黒大陸の悪霊』 マイケル・スレイド(文春文庫)2003.10出版 |
カナダ騎馬警察主催のパーティのさなか、巡査長クレイヴンの母親が自宅で惨殺されていた。 唯一の物証が示す犯人はクレイヴンだった。 彼自身の出生にまつわる暗い秘密とは。そして「暗黒大陸の悪霊」に操られる殺人者“邪眼鬼”とは誰なのか...
カナダ騎馬警察サーガともいえるシリーズの5作目。 今回の話のコアはシンプルなサイコ・サスペンス。
そして、ラスト1行で明かされる真相には確かに驚かされるし、とても好きなタイプのオチ。(鬼畜系です。はい、すみません)
ただ、これだけの話を、相変わらず体力勝負かよ!と突っ込みたくなるほど、なんでここまで厚く長くせにゃならんのか、私には理解できん。
本来なら物語りに奥行きを与えるべきウンチクや、平行して描写される19世紀ズールー戦争の戦闘場面、そしてシリーズ過去作のエピソードなどが、 ただ事実を並べているだけで捻りもなく、「衝撃」のラストにたどり着くまでが正直しんどい。そしてその「しんどさ」を忘れさせてくれるほどの衝撃さではない。
「人種差別」というデリケートなテーマを、ありふれた「ヒューマニズム」的な視点をバッサリ捨てて展開しているのはユニークだけど、 それとクレイヴンの出生に係わる(トマス・H・クックばりの)重く哀しい背景との扱いがチグハグな印象を受けるし、 中盤の法廷シーンや取って付けたようなアクションシーンも中途半端だし、本来なら削られるべきエピソードでしょ。
これは覆面作家チームによる合作という形式の弊害なのかな。
ま、前作はホラーと本格ミステリの融合を目指して見事に自爆してしまったが、 好き嫌いは有るだろうけど作者が目指した(と思われる)「異形な小説」という目的は達していたわけで、 せめて今回も自爆でもしていれば、それなりに記憶に残る作品になるんでしょうけど、 単に「全体のバランスが悪い」という印象しか残らないのはツライとこ。
ま、このシリーズの初期作もけしてバランスが良いとは言えなかったけど、軸だけはブレていなかったわけで、ここまで拡散しちゃうとねー。
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| 『ネジ式ザゼツキー』 島田荘司(講談社ノベルス)2003.10出版 |
30年間の記憶が欠落している男の治療に当たったミタライ博士は、 男の書いた1編の奇妙な童話から、記憶の奥底に隠れていた驚くべき事実を導き出す...
筋少の曲名みたいなタイトルだが、御手洗シリーズ書き下ろし本格ミステリ。
カウンセリングをしながら、童話中の比喩や固有名詞から背後に隠されている事実を推測していく『九マイルは遠すぎる』パターンとも言える前半は、とにかくその推論の飛躍度といいウンチクの出し方といい、お見事。
そして五里霧中な状態から有る程度謎が絞り込まれ、とある過去の事件の解明に乗り出す後半は、さすがにテンションが落ちるが、 虚実の取り混ぜ方や異形な死体(首と胴体が雄ネジと雌ネジになっていた!)などギミック満載で、 このミステリと奇想とのバランスは全盛期に近いぞ。(あえて言えば最も読後感が近いのは『水晶のピラミッド』かも)
ま、奇想と真相の落差というか、トリックはこんなもんでしょうし、 相変わらずODAなど社会派的な問題提起も有るが、これは中途半端かな。
贅沢を言っちゃいかん。
最先端の「脳科学」とビートルズの曲をモチーフにするというパターンは、 『21世紀本格』での「ヘルタースケルター」からの延長線上だけど、 御大は着実に進化している。
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| 『ノルンの永い夢』 平谷美樹(ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)2002.11出版 |
SF新人賞を受賞したばかりの作家・兜坂亮は、受賞作が天才数学者・本間鉄太郎の「高次元多胞体理論」なる独自の時空論に酷似している事を指摘され、 第2次大戦下のドイツで消息を絶った本間をモデルにした小説の執筆依頼を引き受ける。 そして取材をすすめる兜坂の周囲で、公安調査庁が不気味な活動を始める。 いっぽう1936年のドイツ。学術都市ノルンシュタットを訪れた若き日の本間は、 自ら考案したドーム状建造物の建築費用を捻出するために、ゲーリングに接近していくが...
時間SFとナチス。うーむ、この2つが組み合わされたら読まざる得ないでしょ。
脳内での座標変換によるタイムトラベルというアイディアも含め、 特に驚愕するような架空理論や展開は無いけど、2つの時代がやがて1つになり交錯し微妙に揺らいでいくあたりは、 ま、やはり小松左京や(かつての)山田正紀を彷彿とさせる懐かしき日本SFの王道ですね。
文体は硬過ぎですけど安心して読めます。 ま、そのぶん古くさいとも言えるわけだが。
惜しいのは、主要登場人物たちの行動を追うのに精一杯という印象で、 歴史上では計画段階で頓挫し実現されたなかった都市「ゲルマニア」の描写や、 未来からもたらされた歴史の教科書がアメリカの戦後政治に影響を与えていたくだりなどは SFの醍醐味であり、そこらへんのエピソードをもっと膨らませて欲しかったかな。欲が無さ過ぎ。
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| 『ファントムの夜明け』 浦賀和宏(幻冬舎)2002.12出版 |
元恋人の失踪、明らかになる幼くして死んだ妹の死因と自らの出生の秘密、そして運命付けられた能力の覚醒。連鎖する悲劇の果てに待っていたのは...
とても淡々としたホラー。
そして衝撃的なラストのどんでん返し。
主人公・櫻井真美が「サイコメトリ」能力を図らずも身につけてしまったのは、 この事実を知る為だったのでは、と考えると余りにも哀しい。
ただ、ラスト直前のエピソードは、あまりにも強引というか都合が良すぎて、 それまでの静寂感さえ漂う怖さから興ざめしてしまい、 そのラストのショッキングさを半減させてしまっている。もったいない。
ま、怖さも哀しさも中途半端になってしまったとは言え、 この作者の本としては破綻もなくカッチリまとまっているけど、 (他のがゲテモノ過ぎるのか) この作者にはもっと「トンデモなさ」を期待する自分がいたり。
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| 『ドクター・ハンナ』 戸梶圭太(徳間書店)2003.07出版 |
外科医の石月畔奈は、オペの技術は天下一品、しかも誰もが振り向く美貌の持ち主。 カッコイイ男となら誰とでも寝て、相手の体をメスで傷つけることにエクスタシーを感じる。 そして飽きればポイ。それでも奴隷志願の男は引きも切らない。 そんな怖い物無しのハンナは調子にのり、病院内の天敵ともいえる内科医・藤井を罠にはめ廃人にしてしまったために、 内科医業界に君臨する藤井一族と全面戦争に突入する...
相変わらずのパワーとスピードとはじけ具合。
話の転がる先は「意外」を通り越して、私の想像力をはるかに超えてますけど、 作者の最近の他の本に比べると壊れ方がスマートというか、読者に媚びを売った壊れ方かな。 それに、おいおい、最後に反省しちゃうのかよ。と。
ま、連載されていた「週刊アサヒ芸能」にふさわしい壊れ方というか(笑)
もはや読者は置いてけぼりで、書きたい事だけを書いた『CHEAP TRIBE - ベイビー、日本の戦後は安かった』を先に読んじまったせいもあるけど、 この本はどちらかと言うと、ひと皮剥ける前のまだ涅槃の境地に達する前のトカジという印象。
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| 『月の扉』 石持浅海(光文社カッパノベルス)2003.08出版 |
那覇空港でハイジャック事件が発生し、三人の犯行グループが乳幼児を人質に取って乗客の自由を奪った。 彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている不登校児童の教育キャンプのリーダー 石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。 緊迫した状況の中、機内のトイレで乗客の死体が発見される...
前作でも、警察を介入させずに事件を捜査する閉鎖状況を上手く作り上げていたが(というか見所はそこだけだったような)、 本作ではその技は更にパワーアップされ手が込んでいる。
ただ、この機中の殺人事件の真相は、確かにとてもロジカルに導き出されるけど、ま、オマケ程度のもんで、 この事件の為だけにここまで舞台に凝るのかよ!的なもん。
そして実は最後にもう一つ事件が起こるのだが、こちらは動機が前代未聞でしょう。ま、イッちゃってます。 作者が本当に書きたかったのもこっちの事件でしょうし。
ただねー、この最後のネタをやりたいだけだったらハイジャックという舞台を準備する必要は無かったんですよね。 ま、その2つを綺麗に繋げているので違和感はないし、タイムリミット・サスペンスとして充分に楽しめましたけどね。
乗客の一人でもある探偵役は、なんかシリーズ化されそうな雰囲気。
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| 『コウノトリの道』ジャン・クリストフ・グランジェ(創元推理文庫)2003.07出版 |
秋にアフリカに渡り、春、欧州に戻るコウノトリがなぜか今年はかなりの数が帰らなかった。 その調査に発つ直前、青年ルイは調査依頼主の無惨な死体を発見する。 東欧、中東、アフリカ、行く先々でルイの遭遇する残虐な殺人。 コウノトリの渡りの道に何が隠されているのか?...
『クリムゾン・リバー』の作者のデビュー作サスペンス。
死体の発見状況の異様さやグロテクスさなど、『クリムゾン・リバー』で炸裂した作者の特徴は既に備えているし、 その真相のスケールといい意欲は買うけど、力が入り過ぎかな。
様々な「謎」を盛り込んで物語に奥行きを与えているのは良いんですけど、 欲張りすぎて力量を越えてしまったんでしょう、 それらを結びつけるために「偶然」に頼ってしまっているのがツライ。
コウノトリが帰らなかった謎に絞ってシンプルにしても充分だったと思う。
その前にまず、主人公が調査旅行を続ける動機が不明確なので、なかなか物語に入り込めない事の方が致命的か。
ま、事件の背景にヘロインが出てくると「またか」と思うけど、 (この話で重要なキーとなる)ダイヤモンドが登場してくると、とたんに007のような荒唐無稽な話しに思えてくる。 ま、私にとってダイヤはそれほど縁遠いモノということかな。 かといってヘロインが身近ということではない。
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