こぶし



夏場の時期になると思い起こす事があるんですよ。

それは大学時代の事だったんですけどね。

いや「恋愛」話とかじゃないんで、そっち方面を期待している人は御免なさい。


って事で、大学時代の友人の話なんですが、仮に「M」としましょう。

そのM君とは、大学で知り合った友達なのですが、

始めはかなり仲がよかったんです。

ええ、一緒に合コンとか行く程にそりが合っていましたから。

でも大学時代って4年もあるんですよね。

性格の不一致とでもいいましょうか?

元来「おちゃらけキャラ」な俺と、元来「生真面目」なMとでは、

なんとなく亀裂が入り始めたんです。

Mは俺の事を「調子のいい野郎」って思い始めましたし、

俺はMの事を「ノリの悪いつまらない奴」って思い始めたんです。


そうすると心の距離なんて離れるもので、

今までつるんでいたのが一緒に行動しなくなったんです。

一緒に行動しなくなったって言うのは語弊がありますが、

率先して二人では行動をしなくなったと言った方が正しいかも知れません。

大学ですし、回りに共通の友達も沢山居る訳ですから、群れてつるむ事はありました。

嫌々ながらに顔を合わせる事はありました。

けれど、それがかえってお互いのイライラを募らせる原因となったんです。


ちょうど8月の終わりぐらいだと思います。

友人達数人と、群れて遊んでいたんですよ。

そして夜になって、多少のお酒は入っていたかもしれません。

きっかけは本当に下らない事でした。

友人の何気ない一言におちゃらけた俺に対して、Mが切れたんです。

「ふざけるな!!」

そう言って殴り掛かってきたMに対して、俺も普段からの苛立ちで

返したんです。そう、拳という表現で。

人気の少ない民家の路地裏で、殴り合う馬鹿二人。


さすがにこれはまずいと感じた、回りの友人達が割って入ってきました。

捕まれ引き離されても、興奮覚めやらぬ二人の馬鹿。

再び取っ組みかかろうとする二人を引き離して、それぞれに説得が入ります。

以外にも俺とMとの険悪さは表面上は隠していたんで、回りの友人達は

一体何事なのか?と驚いていた様なんです。


そして引き離されて、説得されると段々と冷静になっていく頭の中。

すると同時に口の中でジンジンとする痛みと、鉄臭い血の味。

晴れ上がった頬、真っ赤に染まった唇、血に染まったシャツ・・・。

そこには、見るも無残な俺とMが居ました。

そしてその場は、再びMと会話する事無く帰されました。

友人達が気をつかってそうしたんです。


そして数日後、再びMと出会う事があったんです。

回りの友人達はさすがに気を使いましたが、あえて

「二人にしてくれ。」

とお願いして、Mと二人で話をしたんです。

今まで、Mが俺に対して気に入らなかった事。

今まで、俺がMに対して気に入らなかった事。

ええ、そりゃもう全て。

お互いの腹の中を全てさらして、話合ったんです。

もう既に殴り合っている訳なんですから、今更気をつかう

必要なんて全然無かったんです。それはMも一緒だと思いました。


そんときは、お互い笑い合うなんていう青春ドラマ見たいな

展開までは至らなかったんですけど、お互いの「わだかまり」って

奴がほんの少しだけ、ほどけた気はしました。


〜そして卒業の季節〜


元々地元だった俺と、地方から出てきて実家に帰るMが居ました。

「卒業して別れ別れになっちゃうけど、頑張れよな。」

「ああ、お前もな。」

そう言って握手をしている二人が居ました。



多分あの時に殴り合っていなければ、こうはなって

居なかったんじゃ無いかって思います。


全ての暴力を、肯定する気はサラサラありません。

一人対多数とか、完全に立場が違う上での暴力とかはやはり最低だと思います。

けれど同じ立場の人間同士、特に男同士なら

「殴って分かる」って事がゼロでは無いと思うのです。

確かに怪我をしますし、痛い思いもします。

けれどあの時に口の痛みは、未だに俺の中でいい思い出となっています。



「友人と殴り合う」そんな行為とは皆無な社会人になって、

少しだけあの「馬鹿な喧嘩」を懐かしいと思い起こす事があるんです。



夏になると特に・・・。


 

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