新刊旧刊とりまぜて、なんでもありの柏木の書棚です。


ファンタジーの扉をあけて その2
   ダイアナ・ウィン・ジョーンズの世界

2009.3.23 ぼくとルークの一週間と一日・魔法!魔法!魔法! 追加

2007.7.26 海駆ける騎士の伝説 追加

2003.2月作成

目 次

魔法使いハウル  ハウルの動く城 大魔法使いクレストマンシー
私が幽霊だったとき・九年目の魔法 ダークホルムの闇の君・グリフィンの年
魔法使いになる14の方法 いたずらロバート
マライヤおばさん 七人の魔法使い
時の町の伝説 星空から来た犬
呪われた首輪の物語 花の魔法、白のドラゴン
魔空の森ヘックスウッド バウンダーズ “この世で最も邪悪なゲーム”
ウィルキンズの歯と呪いの魔法 バビロンまでは何マイル
海駆ける騎士の伝説 ぼくとルークの一週間と一日
魔法!魔法!魔法! ☆☆☆




※書籍データについては、出版者の公式サイト等、最新の情報をご確認ください。

  

魔法使いハウル



魔法使いハウルと火の悪魔 空中の城1 ( HOWL’S MOVING CASTLE 1986 )
西村 諄子 訳 1997 徳間書店 ISBN 4-19-860709-5

アブダラと空飛ぶ絨毯 空中の城2 ( CASTLE IN THE AIR 1990 )
西村諄子 訳 1997 徳間書店 ISBN 4-19-860751-6



 いつかそのうちきっとテレビで放映してくれるだろうとは思っていたけれど、こんなに早いとは思わなかった「千と千尋の神隠し」
2003年1月24日に日本テレビ系で放映され、伝え聞くところによると視聴率もすさまじい数字を記録したあの作品の次が「魔法使いハウルと火の悪魔」です。映画化権をスタジオジブリが獲得したというのもずいぶん話題になりました。地元の図書館の検索システム(あぁ、本当にいい時代になったもんです〜)で探したらみごとヒット!! その上、所蔵されている上記の関連図書のおまけつき。これは片端から読んでみなくてはなりますまいと手にとってみました。


 煙をはいて空を飛ぶ魔法使いハウルの城。四隅がそれぞれ別の色に塗られ、開けるたびに外の風景が変わるドア。主人公の荒地の魔女に呪いをかけられておばあさんになってしまう主人公のソフィー。ソフィーの生家は帽子屋さんで色とりどりの生地や造花があふれ、魔法使いハウルは、着道楽で長風呂で己の姿かたちに気をつかいまくるおしゃれさん。そして物語の後半、主人公の二人を取り囲むのはとてつもなく美しい花畑。

 ソフィーの姿かたちににクラリスもしくはナウシカをついあてはめてしまったのは私だけ?火の悪魔カルシファーがどんな姿をしているのかもえらく気にかかります。でも、「千と千尋の神隠し」の放送の最後に出てきた「城」の模型はちょっと私が思い描いていたイメージとは違いました。後半、この人がこんなにあっさりいい人でいいのか、と拍子抜けする場面もあるのですが、とにもかくにも、この作品は「絵」になります。また、作者はオックスフォードで「指輪物語」の作者トールキンに師事。そして、作品のここかしこにちりばめらた過去の名作の引用や伝承。これは日本語よりも英語の吹き替えや字幕でより威力を発揮しそうです。

 主人公の二人のその後が気にかかる方は、迷わず「アブダラと空飛ぶ絨毯 空中の城2」へどうぞ。アブダラと謎の姫「夜咲く花」の恋物語に空中の城が花を添えます。  

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ハウルの動く城 2004年11月公開



竹取の翁が物語の出でき始めの親ならば(言うだけ言っておいて出典を失念しました)筆者がファンタジーに開眼するきっかけをこしらえたのが、ハリーポッターシリーズ。ファンタジー開眼の中興の祖は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。映画ロードオブザリング三部作と指輪物語であらぬ深みにずぶずぶとはまったことのそれはそれとして……。


ダイアナ・ウィン・ジョーンズという、イギリスのファンタジー作家を知ったのは、著作「魔法使いハウルと炎の悪魔」が宮崎駿監督で映画化されると聞いたから。ここで原点にかえる。公開まもない平日に「ハウルの動く城」を鑑賞してきました。


平日にしてはかなりの入りの観客、前列の三人連れは多分大学生。いかにもこの映画を見そうな感じの方達でひとりでうけているうちに、映画が始まる。あぁ、雪をかぶった遠くの山々、汽車が通り過ぎる町並み。どの風景もすさまじく美しい。

もちろん、主人公ハウルもとっても男前。手の動き、とりわけ魔法をかけるときのしぐさが優雅できれい。首筋から鎖骨のくぼみにかけての線のなんとうるわしいこと。生身じゃこうはいきません。女の子の理想の男の子像を具現化した愛らしいもののうちの一つと言い切ってしまいましょう。

公開前から何かと話題の「声」は、声の主の面影を彷彿とさせるところもあり、そうでないところもあり、玉石混交。ハウルも髪の毛長いしなぁ。最初のうちはどうしても、はすにかまえた声の主のイメージがちらつきます。でも予想していたよりはハウルらしいかなというところでしょうか。

ソフィーもカルシファーもマルクルも荒れ地の魔女もみんな声がいい。ハウルの師匠サリマン様に至っては、あまりにも絵に似合っていて、柔らかな日射しの差し込む温室に反響するお声に聞き惚れてしまいました。

台詞ではないけれど、ひょんひょんひょんとでもいいましょうか、カブのかかしの足音も捨てがたいです。楽しみにしていたお花畑もちゃんとみせていただきました、ありがとうございます。


どんな映画でも、原作の要素をすべて詰め込むのは無理。この映画はあくまでも宮崎駿監督の「ハウルの動く城」で原作とは異なる物語。えっ、それでいいの?カブのかかしの扱われ方はちょっと納得がいきません。

帽子をこしらえているあたりはきちんとソフィーに見えていた主人公も、青い服をまとい、銀髪のショートカットが風になぶられるに至って、あんたはナウシカかい?と問いただしたくなりましたし。

うんと若いんだから多分そうなんだろうということで、これも説明はなし。ソフィーお義母さんの人物造型は、原作で納得いかなかった部分が出ていてすっきりしましたけれど。

前の席のお三人さん、堪能なさいましたか?最初から宮崎ワールドに耽溺することを目的になさっている方には、ものすごく良い映画なんだろうな。なんてことを考えながら劇場を後にしました。

※席は前日の午前中、早い時間に確保。「明日の○○時からの回、まだまともな席があります?」と窓口でたずねたら、あるという返答だったので。チケットと一緒に渡されたのは、通販も可、関連キャラクターグッズ満載のチラシ。だからトトロは載ってませんてば(笑)品定めしたものの現物をあれこれ見比べ、混み合う売店で目玉焼きを焼くカルシファーのメモを一つ買いました。

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大魔法使いクレストマンシー


魔女と暮らせば 大魔法使いクレストマンシー ( CHARMED LIFE 1977 )
田中薫子 訳 佐竹美保 絵 2001 徳間書店 ISBN 4-19-861461-X 
*1984年 魔女集会通り26番地(掛川恭子 訳 偕成社)として出版 


トニーノの歌う魔法 大魔法使いクレストマンシー ( THE MAGICIANS OF CAPRONA 1980 )
野口絵美 訳 佐竹美保 絵 2002 徳間書店 ISBN 4-19-861488-1


魔法使いはだれだ 大魔法使いクレストマンシー ( WITCH WEEK 1982 )
野口絵美 訳 佐竹美保 絵 2001 徳間書店 ISBN 4-19-861404-0


クリストファーの魔法の旅 大魔法使いクレストマンシー ( THE LIVES OF CHRISTOPHER CHANT 1988 )
田中薫子 訳 佐竹美保 絵 2001 徳間書店 ISBN-4-19-861435-0


魔法がいっぱい 大魔法使いクレストマンシー ※( Mixed Magics Four Tales of Chrestomanci 2001 )
田中 薫子 野口 絵美 共訳 佐竹 美保 絵 2003 徳間書店 ISBN 4-19-861663-9 



 大魔法使いクレストマンシーシリーズで面白かったのは、「魔女と暮らせば」と「クリストファーの魔法の旅」 
「魔女と暮らせば」の主人公は外輪船の事故で両親を亡くしたグェンドリンとエリック、幼いチャント姉弟。弟のいる「お姉ちゃん」て、確かにこういうところはあるかも。ううむ、思い当たるふしがあるようなないような……。というわけでみんなにキャットと呼ばれている弟のいるお姉ちゃんのグェンドリンに肩入れしたい所ですが、幸か不幸か彼女のように愛らしくも、すさまじく聡明でもないの凡人の身としてはちょっと彼女についていけそうにはありません。
 
 クレストマンシーというのは、大魔法使いの称号というか役職名で、物語の中に登場するのはこれまたおそろしくおしゃれな同一人物の紳士です。「魔女と暮らせば」の訳者あとがきによると、クリストファー・チャント少年が主人公の「クリストファーの魔法の旅」だけは他の三作とは時代がかなり隔たっているため(「魔女と暮らせば」より25年ほど前の同じ世界が舞台)クレストマンシーは伊達男のクレストマンシーの先代にあたる、白髪で背の高いやせぎすの別人になります。

 また、「魔女と暮らせば」と「クリストファーの魔法の旅」では、伊達男のクレストマンシーも主要な登場人物ですが、「トニーノの歌う魔法」と「魔法使いはだれだ」ではあくまでもお話の重要な鍵を握る人物の一人といったところ。このシリーズは、発行順にこだわらずどこから読んでも楽しめる構造になっていますが、順番はともかく「魔女と暮らせば」と「クリストファーの魔法の旅」は続けて読んだほうが、より物語の世界を楽しめると思います。

 作者が作品によって文体を変えているのか、作品によって訳者が異なるせいかさだかではありませんが、、四つの作品は微妙に味わいが異なります。クレストマンシーが前面にでていない「トニーノの歌う魔法」と「魔法使いはだれだ」は、登場人物の個性が見えてこない場合が多かったように思います。

 登場人物の多さとカタカナの固有名詞がすんなり頭に入ってこないことについては、本の冒頭の一覧表を熟読もしくは参考にすれば何とかなりました。ええと、リナルドとドメニコはモンターナ家の若者で……。「トニーノの歌う魔法」は架空のイタリアを舞台に敵対しあう名家に生を受けた恋人達!というわかりやすい図式の上であちら風の人名が動き回るのでまだ何とか了解。でも、「魔法使いはだれだ」はストーリー展開と登場人物の行動に整合性がなく、唐突な感じが最後までぬぐえませんでした。

 魔法と関わりのある一見英國風の寄宿学校が舞台になっているので比較しやすいのですが、ハリーポッターの学友のネビル・ロングボトム(おばあちゃんに育てられているという伏線がちゃんとあります)ならともかく、突然ラベンダー・ブラウンやパンジー・パーキンソンに物語全体を揺るがすような重大な使命を与えられても、読者はちょっと戸惑ってしまいます。

 
 そして、不思議なことや魔法は常に猫とともにあり。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの描き出す世界ではいずれも猫が重要な役割を果たします。

  ベンヴェヌート、ヴィットーリア フィドル、スログモーテン、ベシィ プラウドフット 真夜中 はねっかえり
 
 どの猫がどの世界でどんな役割を果たすのか、どうか一度御覧になってみて下さい。


※「魔法がいっぱい」はクレストマンシリーズの外伝。伊達男のクレストマンシー、キャットとトニーノが登場する四つの短編集です。単独で読める物もありますが、「キャットとトニーノと魂泥棒」だけは、「魔女と暮らせば」、「トニーノの歌う魔法」を先に読んでおいた方がおもしろいと思います。

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私が幽霊だったとき( The Time of the Ghost )
浅羽 莢子 訳 創元推理文庫 1993 ISBN 4-488-57201-4

九年目の魔法 ( Fire and Hemlock )
浅羽 莢子 訳 創元推理文庫 1994 ISBN 4-488-57202-2 



少女が主人公で、日本の図書館だとヤングアダルトコーナーに置かれそうなのがこの二冊。数が多いわりに登場人物もすっきり理解できるし、欧米の伝承譚ミステリーの要素も多分にあり。九年目の魔法で主人公が次々に読んでいく本もなかなか興味深い。こういうの嫌いじゃないんですけど、どちらもちょっと観念的すぎて読後感が今ひとつでした。

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ダークホルムの闇の君 ( Dark Lord of Derkholm )
浅羽 莢子 (翻訳) 創元推理文庫  2002 ISBN 4-488-57203-0

グリフィンの年( Year of the Griffin )
浅羽 莢子 訳 創元推理文庫 2003 ISBN4-448-57204-9



クレストマンシーシリーズと同様、独立した物語としても読めるけれど、このシリーズもできることならこの順番で続けて読んでいただきたい作品。どちらにも登場人物紹介はちゃんとありますが、そんなものでは足りません。

まず、「ダークホルムの闇の君」で、ダークとマーラの子供達の兄弟姉妹の順番、それぞれの特徴をきちんと頭に入れます。「ホビットの冒険」もドワーフの皆様の帽子と髭の色を色鉛筆で塗り分けて、名前を入れたメモを手にやっと読み進んだ筆者は、それだけで力尽きてしまいましたが、他の登場人物の把握もおろそかにしてはいけません。

「ダークホルムの闇の君」に登場するあんな人やこんな人が、「グリフィンの年」でも所狭しと活躍してくれますので、ここが踏ん張りどころ。物語世界に対する基礎体力をきちんとつけましょう。

大量の登場人物、錯綜するそれぞれの事情、思惑。それが最後にぴたりとはまるのはもうお見事としかいいようがありません。特に「グリフィンの年」は月に火星にその他いろいろ。こんなになっちゃってどう収拾をつけるのだろうと心配になりましたが、ジクソーパズルの最後の一つがぴったりはまったような読後感を覚えました。


オックスフォード大学セントアンズ校時代にトールキンに師事。他の作品でもよくありますが、このニ作品にも「指輪物語」の面影がほのみえます。

「ダークホルムの闇の君」には「ガラドリエル」という名前のドワーフが登場します。「指輪物語」よりは「ホビットの冒険」に近いドワーフの皆様と共に、黄金の冠とセットになった竜もちゃんと登場します。

「グリフィンの年」の主な舞台となる石造りの大学も、オックスフォードのそれを彷彿とさせるものなのでしょうか。板書した大見出し、小見出しをせっせとノートに取らせるだけのさっぱり役に立たない授業をするのは、最年少の教授ウェルマハト。

グリフィンの毛色だの、沼族と混血の緑色の肌の皇女を思い浮かべるには、想像力の羽を小型のグリフィン並みに広げなくてはなりませんでした。けれどもこの先生だけは別。上にはへつらい学生には横柄なウェルマハト教授は、ろくに魔法が使えないせいか妙に現実味がありました。

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魔法使いになる14の方法(THE WIZARD’ DEN 2001 ) 
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ フィリップ・プルマン他著 ピーターへイニング編 大友香奈子 訳 
創元推理文庫 2003 ISBN4-448-57205-7



著者 ダイアナ・ウィン・ジョーンズで検索すると、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ他著と表記され、著作リストによく登場するこの文庫。けれども収録されているのは「魔法がいっぱい」所収の四つの短編の中のひとつ「キャロル・オニールの百番目の夢」です。どおりで古本でよく見かけるわけだ(笑)

内容はハリー・ポッターに通じるファンタジーの短編を集めたもの。、ジョーンズ以外の著者は「ライラの冒険」シリーズのフィリップ・プルマン、ロアルド・ダール レイ・ブラッドベリなどなど。本を売る方にもいろいろご都合がおありでしょうし、「ハウルの動く城」にあやかったんだろうなぁ。ちょっぴり陰惨な色合いの物語はどれも読みごたえがあったので損をしたという気はしませんでしたが、やられた!という感じは否めません。

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いたずらロバート( Wild Robert 1989 ) 
槇 朝子 訳 エンマ・チチェスター・クラーク 絵 ほるぷ出版 1992 ISBN 4-593-59123-6



※2004年5月現在、新刊では入手困難らしい一冊。そんなこととはつゆ知らず、地元公共図書館の書庫本の児童書としてめでたく発見。

1989年の「今」、ナショナルトラストが管理している古く由緒あるイギリスの舘メイン館。いたずらロバートは350年ほど前、舘の当主の息子として生まれました。ロバートには腹違いの兄上がいて……。文字も大きくて、確かに子供向け児童書なのですが、読みすすむにつれて明らかになるロバートのおいたちに胸をつかれます。
制作はやはりBBC?夏休みのある一日の話ですし、NHKの子供向け単発海外ドラマでありそうな物語です。


ゲド戦記のアーシュラ・K・ル・グィンがグインだったり、ファンタジーではありませんがマルグリット・デュラスがデラスだったり、翻訳作品は著者表記が年代、検索ソフト等によって異なります。

ジョーンズの場合、最近はダイアナ・ウィン・ジョーンズが一般的ですが、この作品の著者表記はダイアナ・W・ジョーンズでした。書名が正確にわかっていれば問題はないんですけどね。著者名で検索する場合はファーストネームのダイアナで検索して、プリンセスダイアナと「魔法使いの卵」の著者ダイアナ・ヘンドリーの間からロバートを発見しなくてはいけませんでした。

※2003.10 ブッキングより新版発行 ISBN4-835-44075-7 ¥1,575(税込)

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マライアおばさん( BLACK MARIA 1991 )
田中薫子 訳 佐竹美保 絵 2003 徳間書店 ISBN-4-19-861766-X



ああ、嫌だ嫌だ。こういう女の人って確かにいる。たとえ己が歳ふりても決してこうはなるまい。ミグとクリスの家にしょっちゅう電話をかけてくるマライアおばさん。彼女ほどすさまじくはなかったけれど、とある遠縁のおばさまの電話の向こうの大きな声を思い出します。
こら、みんな逃げるなよぉ。ミグと一緒で彼女からの電話の相手をするのは私の役目でございました。今は子供だか孫の代に変わってすっかり疎遠になってしまいましたけれど。

作者がこの作品の発表を長くためらったのも、マライアおばさんのモデルが身近にいたからだと著者あとがきにあります。出版はモデルの他界後らしいですが、こういう人は自分がモデルだなんて爪の先ほども思いあたりはしませんてば。「おや、ひどい話もあったものだねぇ」なんて具合にどこかへ片づけられてしまうにちがいありません。

何よりも優先されるのは、マライアおばさんや町の女達が体現するもの。そして少し形は違うけれど町の男達がつかさどるもの。ミグとクリスの両親の不仲、通勤に使われる自家用車、鉄道。いかにもありそうな田舎町のたたずまい。魔法や呪文と縁のない今時のことがらが、じっくり読むと結構恐ろしいこの物語をより鮮明にしています。

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七人の魔法使い( ARCHER'S GOON 1984 ) 
野口絵美 訳 佐竹美保 絵 2003 徳間書店 ISBN 4-19-861785-6



さあ、みなさまメモのご用意はよろしいですか?七人の魔法使いは兄弟姉妹です。では、上から順に彼等の名前をあげていってください。

謎解きの妨げにならないように?登場人物紹介もきれいさっぱりないので、ややこしさは邦訳中随一かも。情報が決定的に不足しているのは読者だけでなくサイクス家の面々も同様。

美女のディリアンはシャインとハサウェイの間で、司るものはこれこれで。七人の魔法使いや他の登場人物の言葉だけをたよりに、サイクス家の人々と共に錯綜した人間関係をときほぐしてゆきましょう。

恐ろしく図体が大きいゴロツキがやってきて以来、サイクス家を襲う数々の災難。アンシア・ミルドレッド・ドロレス・サイクスという風雅な名前(たぶんそうだと思う)がちゃんとあるのになぁ。スサマジーというニックネームで呼ばれている下の子の叫び声だけでも手に余るというのに、なんとまあ。

ハワード兄ちゃん頑張れ〜。でも、ママの言いつけどおり、妹のスサマジーの面倒もちゃんと見るんだよ。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品に、悲惨な状況下の家族は数あれど、サイクス家のそれはまた一段とすさまじい。

一体次はどうなるの?音も色彩も華やかで息をもつかせぬ展開とはこのことか?2006年5月現在、BBC制作の連続TVドラマが「ハワードと7人の魔法使い」のタイトルで、DVD化(上下巻、レンタル有り)されています。


http://www.leemac.freeserve.co.uk/index.htm 

↑ダイアナ・ウィン・ジョーンズの公式サイト。「七人の魔法使い」の訳者あとがきから見つけました。
BBCのドラマの映像がいくつかと各回のあらすじがあります。「七人の魔法使い」の表紙の一つがとても愉快〜。シンプルな作りで見やすいし、英語はひとまずおいておいても(笑)あちこちながめるだけでも楽しいサイトです。

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時の町の伝説(A TALE OF TIME SITY 1987)
田中薫子 訳 佐竹美保絵 2004 徳間書店 ISBN 4-19-861876-3



時は第二次世界大戦下のイギリス。ガスマスクと名札のついた袋をしっかりと握りしめ、ロンドンから疎開して親戚のマーティさんに引き取ってもらうはずだったヴィヴィアン・スミスは「時の町」という名の異次元に紛れ込んでしまい……。

何がどうなっているのかさっぱり訳が分からない。名付けて主人公巻き込まれ型。ドラゴンやエルフの代わりに時間移動というSFな要素が華をそえ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの物語世界が展開されます。

しかも今回はヴィヴィアンを混乱に巻き込んだ少年たち、ジョナサンとサムにも、「時の町」が直面している危機がどんなものなのか分かっていなかったというおまけ付き。大人達の鼻をあかすつもりのちょっとした冒険が、より混乱を深めます。

ヴィヴィアンが間違われてしまった「時の奥方」は本当は今どこにいるのか?彼女の夫「時の町」をこしらえたと言われるフェイバー・ジョンの正体は?「時の町」にまつわる謎を解き明かすためにはどんなに些細なことも決しておろそかにしてはいけません。

それにしても、ダイアナ・ウィン・ジョーンズが意地悪な女性や少女を描き出すときの筆の冴えはただごとではありません。こんな親戚は確かに要らない!「いとこのヴィヴィアン」に対抗できる女の子は「魔女と暮らせば」のお姉ちゃんグェンドリンぐらいでしょう。この二人がどこかの次元で出会って意気投合したら、向かうところ敵なしにちがいありません。

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星空から来た犬 ( DOGS BODY 1975 )
原島文世訳 佐竹美保絵 2004 ハヤカワ書房  ISBN4-15250026-3



2004年秋、「ハウルの動く城」公開に合わせて、ぞくぞくと出版されているダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品のうちの一つ。
天狼星シリウスって、おおいぬ座でしたっけか。ハリー・ポッターに登場するシリウス・ブラックが黒い犬に変身するのはそういう意味だったのか。女形の胡蝶さん、アトム君や晶。名探偵、伊集院大介が登場する話ならひととおり呼んだのですが、星座やそれにまつわる伝説にはさっぱり疎いので。


星を司る者、おおいぬ座シリウス星の総督シリウスは、無実の罪で妙な刑に服することになります。妙な刑とは、彼が紛失の原因を作ったらしい、星を消滅させる程強大な力を持つ「ゾイ」を発見して取り戻すこと。そうすればシリウスは元の地位に復することができます。シリウスは「ゾイ」が落ちたと思われる星、地球のイギリスに仔犬として送り込まれます。

シリウスと一緒に生まれた兄弟達もその両親も、それぞれ愛らしく、またたくましい。でもやっぱりジョーンズさんて猫がお好きなのでは。シリウスが拾われたダフィールド家には先住民の三匹の猫。母親のティブルズ、その子供ロムルスとレムルス。しぐさひとつとっても表現がこまやかですし、猫の彼等の方がより生き生きと描かれているようです。

地球に生まれ出てはみたものの、母犬の恋の産物として他の兄弟達と川に沈められおぼれかけるシリウス。彼を拾ってくれたのは、ダフィールド家の居候、アイルランド人の少女キャスリーン・オブライエン。不穏な母国の情勢にからんで、父は服役中、母はアメリカへ逃亡。

ダフィールド家の当主、ハリー・ダフィールド氏はキャスリーンの母方の親戚で、妻のダフィーに一言の相談もなく彼女を引き取ると決めました。

ダフィールド夫妻にはバジルとロビンという息子がいて、キャスリーンを「アイルランド人」と言っていじめます。この兄弟はふちに赤い線の入った特別な灰色の服を着て、町の反対がわにあるお金のかかる学校に通っています。キャスリーンはいつものぼろ服を着て近所の普通の学校に行きます。1975年の作品なのでもちろんこちらの方が先なのですが、シリウスにハリーに意地悪ないとこ。ほんとにどこかで聞いたような話。

けれどもダフィーおばさんだけは、キャスリーンに優しくて……。なんてことはもちろんなくて、おじさんも息子達も根はそう悪い人間ではないのに、このおばさんだけは手がつけられません。

星を司る星人には伴星という名のつれあいがいて、シリウスの伴星もそれはそれは美しい人でした。地球という星の仔犬として成長するにつれ、シリウスの星人としての思考も徐々によみがえり、この物語ではソルと呼ばれる太陽と、地球の助けを借り、自ら封印していた記憶と対峙することになります。

太陽ソルがあまり快く思っていない、地球の闇の子どもたち。彼等と「ゾイ」の関わりは?鹿のような枝角の生えたその姿が登場する西欧の伝承を見つけたら読んでみようと思います。

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呪われた首輪の物語( POWER OF THREE 1976 )
野口絵美訳 佐竹美保絵 徳間書店 2004.7 ISBN4-19-861888-7 



霧のたちこめる湿原の塚に住む「人間」。彼等をして「良いドリグは死んだドリグだけ」と言わしめる敵対者。水の中に住まうドリグは人間をハイマンと呼んでおとしめ、両者のいさかいはいつ果てるともなく続いています。


ガー塚に住む少年ゲイアの父は、英雄でもあるガー塚の長ゲスト。ゲイア、姉のエイナ、弟のセリ。三人の子供達の母、賢女のアダーラがまだ幼かった頃から、呪われた首輪の物語は始まります。

アダーラの兄、オト塚の長オグの息子オーバンは、少しばかり(いえかなり)思慮に欠ける少年でした。オーバンはドリグの王の息子を殺し緑金の美しい首輪を奪ってしまいます。王の息子は死の間際すさまじい呪いを首輪に込めました。

不仲なりに保たれていた均衡が壊れ、首輪に込められた呪いは、オーバンや彼に連なるものだけではなく湿原全体に災いをもたらします。一番あとから湿原にやってきた「巨人」たちも首輪の呪いの影響を受けています。

オーバンの性格がねじ曲がっているのは、首輪の呪いのせいなのか否か?つれあいのカスタがアヒルのようにわめき立てる女だったこととか、唯一成長した※息子オンドゥーが自分に輪をかけてやな男の子なのも、首輪の呪いより本人の資質のなせる技のような気がしますけれど。

「巨人」たちは、ゲイアたちが思っているよりもっとたくさん数がいて、「ロンドン」という所に住んでいる巨人たちは暮らしに使う水が足りなくて困っています。必要な水を得るためには湿原を水没させて貯水池にしなくてはなりません。


ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品は最近のものから邦訳されています。このお話、なじみのある最近の作品なら「巨人」の視点、ジェラルドやブレンダを中心に物語が進行していそうです。でもそれだと※普通の伝説のおはなしになってしまうのかなぁ。

環境の保護より都市部の需要をまかなう水源の確保が急務だというのも、1976年当時の世相を反映しているみたい。同時期に発表された「星から来た犬」にも当時の社会情勢が盛り込まれていましたっけ。初期の作品だと思うせいか、ちょっと趣が異なるように感じました。


※ゲイアも「巨人」のジェラルドも、「オリグ」のハフニーも、思春期の少年に似つかわしく父親との関係に心を痛めています。同じ年頃なのにオンドゥーだけは、お父さんとの関係が決して悪くなさそうだなぁ。


※人間と、エルフと、レプリコーン。エルフとレプリコーンはいがみ合い、人間はアイルランドの風光明媚な鄙びた土地を観光開発するためにやってきて……。『レプリコーン 妖精伝説1999』(レンタル用ビデオは、ウーピー・ゴールドバーグin の副題あり。原題:The Magical Legend of the Leprechauns)羽の生えた妖精が出てくるところは異なりますが、呪われた首輪の物語を彷彿とさせる物語です。

訳者の野口絵美さんもあとがきでふれていらっしゃいますが、この本、表紙の絵がすてきです。細密でとても美しいけれどどこか陰鬱。じっと見つめていると湿った空気がこちらに向かって流れ出してきそうです。

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花の魔法、白のドラゴン (The Merlin Conspiracy 2003)
田中薫子訳 佐竹美保絵 徳間書店 2004.8 ISBN4-19-861901-8 2004.8



錯綜する異世界、もつれあう魔法。何故か知らねどそのただ中に送り込まれてしまったのは、現代の地球はロンドンに住むもうすぐ15才になるニック・マロリー。ニックは著名なホラー作家である養父テッド・マロリーと暮らしています。とんでもない事態に巻き込まれた場合、普通はあわてふためくものですが、ニックの場合はちょっと違います。

ニックは他の世界へ行って、魔法を使えるようになりたいという望みを持った少年でした。彼の本名はニコソデス・コリフォイデス。ええと、正式にはニコソデス・ユーサンドル・ティモスス・ベニゲティ・コリフォイデス。本当の父親はどこか別世界にあるコリフォニック帝国の皇帝で、ニックは王位継承者でした。

こんなに興味深いエピソードなのに、物語の中ではほんの少しふれられるだけ。決して本筋ではありません。異世界のうちの一つ、ブレストに住む宮廷付き魔法使いの娘ロディ(アリアンロード・ハイド)と友人のグランド(アンブローズ・テンプル)

自分たちの世界に張り巡らされた陰謀に気がついた二人。けれども周囲の大人は殆ど誰もとりあってくれません。ロディが魔法を使って異世界に助けを求めたら、それに応じてくれたのが異世界の狭間でもがいているニックで……。


ロディとニックの視点でかわるがわる語られることの顛末。訳者後書きによると原書はロディとニックの項で書体が異なるそうですが、邦訳ではページの端にそれぞれのイニシャル、RとNが美麗な飾り文字(見返しによくわかる拡大版あり)であしらってあります。

あちらこちらに周到に張り巡らされたことがらが、一つ残らずきちんと収束してゆくのは、さすが、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。けれども視点がめまぐるしく変わるせいか、それぞれの世界の描写が少し浅い気がしました。それでも主な舞台となるブレストは、イングランドにまつわる数々の伝説と相まって情報量が多く、物語の冒頭にこれでもかと情報が詰め込まれていますけれども。

あの人もこの人も、あの子もこの子も、たいそう嫌な奴なことは確か。されど、悪玉側の人々は誰をとってもちと情報不足。特にロッジアの祈祷師長とお付きの二人、ジョエルとジョイフェスについてはもうちょっと知りたかった気がします。


「もういや!離婚だの別居だのって、大っきらい!……」


ロディが、ウェールズに住む母方のグゥインお祖父様に向かってこう叫ぶのも道理。説明はないけれどもしかして他の世界もそう?少なくとも現代の地球にはかなりあてはまるかもね。この作品で避けて通れないのは、魔法ともう一つ、宮廷周辺における、破綻した結婚の多さ。

ロディの祖父母は父方、母方共に離婚。二人いる父方の叔母さんジュディスとドーラも、これまたどちらも離婚。姉のジュディスは双子の娘イザドラとイルザビルを、妹のドーラは一人息子のトビーをそれぞれ手元で育てています。グランドの両親も離婚していて、グランドと姉のアリシアは宮廷付きの位の高い魔法使い、母親のシビルと一緒に暮らしています。

ブレストの王様も王国の安泰を保つために、国中を移動する「巡り旅」を続けていらして、ウィンザー城にいるデンマーク生まれの王妃様とは実質別居状態。外国生まれの王妃様は、決まった場所でずっと暮らせないことがたいそうお気に召さないからというのが宮廷のうわさなのですが……。

なぜどうして、あなたは、この女性(魔女とも言います)を娶って伴侶となし、子を設けたのか?男性陣の首根っこを捕まえてそう問いただしたくなるのは私だけ?


いや、彼女が悪いわけでは決してないんだけれど、迫力にあふれるグウィンお祖父様よりも誰よりも、この人の内側にめり込んだ心のありようがすさまじく恐ろしかった。

ドーラ叔母さんと彼女の元つれあいジェローム・カークだけは、似たもの夫婦で別れる必要はさっぱりなさそうに見えましたけれども。出会いも別れもすべては、ブレストの魔法があるべき場所に収まり、また他の世界の均衡や秩序が保たれるために必要なことだったのでしょうか。


邦題にある「花の魔法」は、ロディがいにしえの魔女から授かったものです。それぞれの魔法はコンピュータのファイルのように分けられていて、一つ一つに乾いた感じのくせのある植物のの名前が付いています。

ほう、プリベットって毒性のあるこんな木なのか。心にかかった花の名前を、現代の地球の魔法のインターネットを使ってあれこれ検索してみるのも、この物語の楽しみ方の一つかもしれません。

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魔空の森ヘックスウッド ( Hexwood 1993 )
駒沢敏器訳 小学館 2004.12 ISBN 4-09-290401-0



「バナス」の力と「森」の魔法によって作り出された「場」の中で繰り返される時間、この登場人物達が、出会うのは一体何度目か?物語の舞台は、全宇宙がレイナー・オーガーニゼーションに支配される世界。レイナーにとって貴重な物質「フリント」を算出する辺境の星地球で異変が起こり、五人のレイナーの監督官は次々と地球に向かいます。

バナスにフリントにスタス。こういうのを創作用語でマクガフィンっていうんでしたね?物語の鍵を握るものがてんこもりで、何がどうなっているのか、頭の中を整理して読み進まなくてはなりません。

湖のほとりにたたずむ、跳ね橋のあるお城。城主、アンビダス王の許嫁の名はモーガン・ラ・トレイ。魔法を使うことができる謎の男、モーディオン。彼が面倒を見る少年ヒューム。エクスキャリバーみたいなウォームブレイドという剣。アーサー・ペンドラゴンという名の登場人物も物語の終盤にちゃんと出てきます。

レイナーの現在の監督官たちは、正規の手続きを経て選ばれ、その地位にあるわけではなさそうです。そのいきさつを知るのは、監督官達のリーダー、レイナー1。彼の本名は、※オーム・ペンダー。あれ、さっきまでアーサー王伝説だったのに、ゲド戦記になっているぞ。

ボディは銀色、ヤマハ式のロボット、ヤム。彼は、オズの魔法使いのブリキの木こり、もしくはスターウォーズのC3POみたい。気が付いていないだけで、他にも過去の名作ファンタジーへの献辞があるのかも。

ロンドン郊外のヘックスウッド農場のそばに住む病弱な少女、アン。彼女の頭の中に住む 奴隷・王様・囚人・少年。彼らの名称にはどれもも深い意味が秘められています。この四人をはじめとして、物語の中で語られるエピソードは一つ残らず収束へ向かいます。

王様や騎士が出てくる物語を別の物語としてきちんと読みたい気もします。けれども、カバーに描かれた魔空の森の中、行きつ戻りつする時間を堪能するのも決して悪くはありません。


※ゲド戦記に登場する竜の名前は、オーム・エンバー。ぺンダーは、ゲド戦記がくりひろげられる多島界(アーキペラゴ)にある島の名前のひとつです。

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バウンダーズ “この世で最も邪悪なゲーム”(The Homeward Bounders 1981)
和泉裕子訳 PHP研究所 2004.11 ISBN 4-569-63624-1



家族は両親と弟のロブ、妹のエルシー。ある大きな都市であまり裕福ではないけれどごく普通に楽しく暮らしていた少年、ジェイミー・ハミルトン。12歳の彼は、ちょっとした好奇心から街中の三角形をした緑地に建つ三角形の建物に近づきます。


建物の中には、灰色のマントらしきものをまとい、怪しげな機械を操作している<あいつら>の姿が。ジェイミーの存在に気づいた<あいつら>は、自分たちが興じているゲームの中に、ジェイミーを放り込んでしまいます。

様々な要素が重なりあい、多面体のサイコロなども使われるゲーム。アンフェア・ハザード(不当な危険)、ディスカード(捨てる)、そしてバウンダーズ(故郷に向かう者)。耳慣れない用語が飛び交うこのゲームは、テーブルトークロールプレイングゲーム、 ウォーシミュレーションゲームと呼ばれるもののようです。

「境界」に呼ばれ、「境界」を抜け、さまざまな人々に出会いながらゲームの中をさまようジェイミー。「境界」と同じ作用を持つ錨のついた鎖に捕らわれた「あの人」。ハゲワシに胸をついばまれる彼の名はプロメテウス。


ゲームになじみがないのが敗因か?「私が幽霊だったとき」「九年目の魔法」に一脈通じる観念的な世界観が好みではなかったか。本好きとしては夏場だと湿気を吸いそうな本文の紙質も、このお話を楽しめなかった理由のひとつかもしれません。

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ウィルキンズの歯と呪いの魔法 ( WILKIN'S TOOTH 1973 )
原島 文世 訳 佐竹 美保 絵 早川書房 ISBN 4-15-250040-9



30年ちょっと前に出版された作品で、作者は白人の女性作家。「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」には、あからさまに貧しげな人や変わった子はたくさん登場しますが、裕福な人やまっとうな人はほとんどみあたりません。原語の持つ雰囲気は損ないたくない、されどしかし。訳者は日本語の表現にあれこれ腐心なさったのではと拝察されます。

買ったばかりの椅子を壊したために、夏休みまでおこづかいはなし。四か月もお金が手に入らなくなってしまった、ジェスとフランク、ピリー家の子供たちが始めた「仕返し有限会社」ようやく舞い込んだ依頼が波乱を巻き起こし、また別の依頼を引き寄せる。やっとひとつ解決したかと思えばそれは新たな混乱の始まり。

ジェスの正式な名前はジェシカ・ピリー。フランキーと呼ばれているのも、フランシス・アダムズという女の子。フランシスがフランキーだとややこしくて仕方がないと、弟のフランクも言っている。子供たちの名前のわかりにくさも物語の混迷に拍車をかけ、ジェスとフランクの「仕事」は、子供の手に負えないとてつもなく恐ろしいものになってゆきます。


たとえどんな理由があろうとも、仕返しは邪悪なこと。一見良いことをしているように見えても決してそうではない。悪意の上に成り立つものはすべて、物語の主な舞台となる河原のように、よどんだ腐臭を放ちます。


他の作品の表紙でも、ついダイアナ・ウィン・ジョーンズの世界を思い浮かべてしまう、佐竹美保さんの絵。邦訳作品と佐竹さんの絵はもはや切り離して考えられません。

表紙の左下にはさっぱり流れている気配のないどろりと濁った川水。中央には仁王立ちしている女の人。女の人の髪型や服装は、へんてこりんでこっけいで、おかしい。けれどもこの女の人、なぜだかとても恐ろしいのです。


ジョーンズ作品に、思いこみの激しい、怖い女性はたくさん登場しますけれども。いちばん最初の復讐がなされた理由が、若い女性(多分そうだったと思う)のはてしなく内側にめり込んだ心というのは、ちょっとやりきれない感じがしました。

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バビロンまでは何マイル 上下(DEEP SECRET 1997)
原島文世訳 挿画・挿絵 後藤啓介 東京創元社 ISBN4-488-01941-2 ISBN4-488-01942-0



花の魔法、白のドラゴン(The Merlin Conspiracy 2003)の前日譚。出版社が違うんだから仕方ないんでしょうけど。図書館の新刊を順に読んでいる身には結構切実な問題。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品に限らず、翻訳物はなるだけ原作の発行年順に出版していただけると嬉しいのですが。


もちろんどちらも独立した作品としておもしろく読めます。でも花の魔法、白のドラゴンを先に読んでしまうと、異世界コリフォニック帝国の混乱の鍵を握る人物が誰なのか、少なくとも一人は確実に解ってしまうわけで。どちらも未読の方は、ぜひバビロンまでは何マイルを先にお読みになることをお奨めします。


ただし、鍵を握る人物が一人判明しているくらいで即座に理解できるほど、異世界コリフォニック帝国の混乱は生やさしいものではありません。北欧系のものすごいハンサムも、目の覚めるような美女もそうでない人も、怪しいといえばみんな怪しい。少しの間筆者は、まったく見当違いな人物を疑い続けていました。


そうそう、一見まっとうに見える人と、わかりやすくマニアな人という分類も加えておきましょう。時はイースターの週末、場所は英国の都市ワンチェスターにあるホテルバビロン。ここで開催される予定の催しは、イギリス幻影大会。ガンダルフでも、マーリンでも、もっと地味な魔法使いでも可。フード付きの魔法使いのローブを一着準備して会費を払えば、誰でもこの催しに参加できそうです。


ファンタジー愛好者の集まりの最中なら、本物のケンタウロスが血を流しながらホテルの正面玄関から飛び込んできても、良くできたコスプレということで何とかごまかせる。こういう同業者が実際にいたのでは?パネルディスカッションの下りは、作者の創作に対する姿勢がうかがえると思っていたら、下巻巻末の解説一覧を読んで納得。


絶やしてはいけない蝋燭の灯、冥界を思わせる場所に続く細道。そういえばあのひと、花の魔法、白のドラゴンには登場しなかったっけ。悔い改めることのない、邪悪な魂。どんな魔法で補強したのか知るすべはないけれど、作者が築き上げた異世界はゆるぎない力強さを放ちます。


英語ではどんな表現なのでしょう。大いなる意思とでも呼ぶべきものが、上の衆と訳されているのも一因でしょうか。このお話にはなぜかしら東洋の香りが漂います。

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海駆ける騎士の伝説( Everard's Ride 1995 )
野口絵美 訳 佐竹美保 絵 2006.12 徳間書店 ISBN 4-19-862276-0



突然ですが、丘の上の王子様はお好きですか?ナルニア物語はどうでしょう?この本をジャケット買いなさるのは、騎士と姫君、アーサー王伝説を愛でる方のようにも思いますけれど。

ヴィクトリア朝の現世には、中流階級の社会的進出があり、海辺に漂う霧と流砂の彼方では、この異世界を統べる大公を巡る諍いがあり。このお話の「丘の上の王子様」正確には異世界の騎士は、オレンジ色のマントを羽織っています。現世において繁栄する中流階級があれば、没落する上流階級があり。新旧それぞれの階層及び家族の間には、多少の行き違いはあるのですけれど誰も悪くはありません。


また、異世界には何たら卿という肩書きの人物がたくさん登場します。現世も、中産階級のホーンビー家の姉弟、12歳のアレックスと姉のセシリア姉弟はともかく、コーシー卿という貴族のお家は三男五女の子だくさん。謎解きな要素はほとんどないので、興をそぐようなことはなかったと思うのですが。何たら卿・異世界何々の伯爵 こういう簡単なものでいいから、欲をいえば主要登場人物一覧が欲しかった気がします。


あとがきを読むと、この作品は著者のデビュー前の習作の一部なのだそうで。良い意味で麗しい騎士の出てくる正統派なたたずまいが感じられるのはきっとそのせいでしょう。少年少女、兄弟姉妹が活躍するあたりはやっぱりダイアナ・ウィン・ジョーンズですけれども。


この後の物語について触れている箇所がいくつかあるので、続きが読めるのかと一瞬期待。でも、日本の読者向けの著者あとがきによると続きはすでに処分されていて、残念ながら手に取ることはできそうにありません。けれども、「海駆ける騎士の伝説」はこれだけでも読み応えのある一つの物語。登場人物の行く末に思いをはせながらページを繰るのも悪くありません。 

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ぼくとルークの一週間と一日  (EIGHT DAYS OF LUKE 1975)
大友香奈子訳 佐竹美保絵 2008.8 東京創元社 ISBN978-4-488-01961-7

他に身寄りがなく、親類に虐げられる男の子というのは絵になる、いやお話になりやすいのでしょうか。寄宿学校にちゃんと通わせてもらっているだけ、眼鏡のだれかさんよりはまし?この作品の主人公、デイヴィッド・アラードはまあそういう少年です。

彼がでたらめな呪文で呼び出した、炎と共にある少年ルークの正体は?親戚は意地悪、ルークを追う者たちは一人残らず怪しげで。途中から筆者もあそこらへんの方々ではないかなと見当がついてきましたけれど。北欧・ヨーロッパの神話や伝承がお好きな方にはお勧めの作品です。

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魔法!魔法!魔法!
(Unexpected Magic Collected Stories 2004 / Stopping for a Spell 1993)

野口絵美訳 佐竹美保絵 2007 徳間書店 ISBN 978-4-19-862467-5

原題の出版年から察するとおり、いろんな時期の短編が新旧取り混ぜて収録。「魔法猫から聞いたお話」と「第八世界、ドラゴン保護区」

この二つはジョーンズぽくてなかなか良かった。短編じゃなくてもう少しふくらませた形でたっぷりしっかり読みたかった気もしますが。。一番最後に収録されている「ちび猫姫トゥーランドッド」は、犬派の筆者が言うのも何ですが、猫好き・猫派の方にはお勧めだと思います。

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