知らない世界

自身は漂っていた・・・・
深く、何物にも代え難い何かに
それはわからなかったし、わかる気もない
自分がそこにいればよかったんだ
ぼーっと時間が過ぎて行けばよかった
ここに時間という概念が存在すればの話だけど


  昼間、大学

俺は指にタバコをはさんで、空を見上げて息を吐き出していた
「はぁ・・・・だるい」
大学のキャンパス。人が目の前を通り過ぎて行く
笑い声が混じった楽しそうな声が聞こえてくる
けど、俺には関係ないことだ
実際、自分には他人だから、気にすることもないのだし
今は、自分はぼーっと空を見上げて時間が過ぎるのを待っていた
始業の鐘が鳴るが俺は気にしない
勉強なんて一時のもので、社会に出るためには特に必要ではないと俺は思ってる
生きていくならプータローでもなんでも生きてはいける
それに、いつかは自分自身が朽ちるんだから、無駄な労力は使いたくない
それよりも、昨日の夜に見た夢が気になっている
妙にハッキリ覚えているし、なんか不思議な夢だったから
何かに包まれている、それだけしかわからかなかった
自分自身の体は見えなくて、周りも何も見えなかった
触覚だけで世界を捉えていて、暖かく柔らかかった気がする
それは、本当に気持ちが良かった
何も考えなくて良くて、煩わしさなんて微塵もない世界
それが、自分の望みなのかもしれない。実際にこの世界には飽き飽きしている


  夕方・路上

結局、俺は講義には一度も出なかった
親には申し訳ないとは思っている
けど、俺は俺なのだから、構わないじゃないかとも思っている
・・・・・一日中、空をみて頭を空っぽにしてタバコを吸っていた
空虚な状態になっていた。何も考えたくなくて、考えるのを放棄していた
現実に惑わされ、煩わされることもない状態なのだから、俺はそれが楽だと感じていた
帰宅することにする
自転車にのり、帰り道を急ぐ
路上には猫が座り、あくびをしているし、右手には中年女性が井戸端会議に花を咲かしている
空は紅に染まり、帰宅するサラリーマンが運転しているのか道路は車で溢れている
「・・・・・酒でも買って帰るか」
そう独り言を言って、俺は進路上にあるコンビニに入ることを決めた
自転車を駐輪場に止めて、コンビニの店内へと入って行く
「いらっしゃいませ」
機械のような対応をする店員を横目に酒瓶が置いてある棚に向かって歩く
俺はそんなに飲むほうじゃないし、強くもない
何故飲みたいかわからないが、眠るためかもしれないと俺は思う
夢に溺れたいのだろう、あの幸せな夢の中に入って、何も感じずにすごしたいから
その分、今の大学生活には満足している部分もある
それは、キャンパスが大きい分、友人や知人に会う確立が少ないことだ
会ったら会ったで、挨拶が面倒だと思う
人付き合いは浅くでいいのだ、深く深く入れば入るほどに、踏み込めば踏み込むほど
相手の気持ちを知ってしまい、それを考慮しての言動になってしまうから
だったら、何も知らなくていい。知りたくもなくなる
表面だけ付き合って、そして楽しめればいいのだ、それが一番楽な方法
「856円になります」
つまみと焼酎を購入し、店員に代金を支払う
「ありがとうございました」
そう後ろから声が聞こえてくるが気にしなかった
自転車をこいで、自宅へ急いで帰った


  自宅

「ただいま」
言っても誰も返事はしない、当たり前なのだが
ここに居る人間は俺だけなのだ、一人暮らし
下宿で、学生マンションに住んでいる
自宅から大学へは十分に通える距離だったのだが無理を言って一人暮らしをさせてもらった
一人だから気楽に暮らしているし、問題もない
親と同居すると、あれやこれやとうるさいのだ
親とはいえ、他人・・・・他の人よりも多少何かの繋がりを持っているだけと思う
良く、親は子供を選べないというけど、子供も親を選べないのだから、煩い親からは逃げたかったのだ
そのほうが、互いを思って生活するよりも楽じゃないか
そろそろ、寝ようか
授業なんて覚えてるはずもないし、復習もする気はなかった
おやすみなさい。俺だけが居る世界に行こうか


  夢−再び−

再び俺はそこにいた
何かわからない世界に
今、感じているのは二つの感覚だけ
触覚と・・・・・・嗅覚か
たゆとう・・・何かはしらない、浮いている感覚、包まれている感覚
嗅覚は甘いにおい、いい香りを拾っている
視覚は俺に何も見せず
聴覚は何の音も拾わないし
味覚は俺に何も訴えかけず
触覚は暖かい何かに包まれている感覚を俺に与え続けていた
それだけで、俺は十分に幸せだった


  朝

「おはよう」
俺は誰かに言うわけではない
自分で他人は煩わしいと言っている割に、他人との付き合いを大切にする
その名残だろう
自分でも矛盾、意味不明で苦笑するしかない
とりあえずは朝食を済ませる
トースト1枚と珈琲1杯
今日はそれで十分だ。大学はないから家ですごす
外に出るのは用事がある時だけ
あとは部屋でタバコを吸い、時間が過ぎるのを待つだけ
それで良い
お気に入りの音楽をかける為にステレオの電源を入れる
この音楽が心地良い
あの夢について考えてみる、けど、漠然としすぎて何もまとまらなかった
・・・・視覚は俺に何も見せなかったけど
青い青い世界に見えたのが不思議だと思っている
色を感じる・・・・そう形容するしかないけど、そういう感じだった
その、夢を思い、夢を考えるだけで時間は過ぎていく


  夜

俺は最近まで、眠る気はなかった
疲れを取るだけなら、他にも手段はある
それなら、起きていてボーっとしているほうが好きだったから
けど、最近は眠りたいと思うようになった
夢のせいだろう
買ってきた酒を煽って、睡魔に身をゆだねる
さあ、俺を淫靡な世界・・・・夢へと誘ってくれ・・・・早く!!


  青

今日の夢は違って見えていた
見えていたと言うべきなのかはわからない
ただ、夢は見るものと言われているからそう言うしか無いのかもしれない
・・・・いや、俺の夢は感じるものだ
浮いている、包まれている、それは同じだった
けど、嗅覚は俺に何も与えなくなっていた
甘い香り、いい香りは消え去っているのか嗅覚が拾わないのかは知らないが
今回は、味覚が俺に強烈なアピールを加えている
甘い、甘い味。なんともいえない、甘い味が口に広がっていた
いや、口自体あるのかどうかもわからない
視覚はひたすらな青を俺に与えていた
自らのカラダがあるであろう場所には何も見えずに
青い青い・・・・原色ではなく、深みのある青
その色だけが圧倒的に俺に迫ってくる世界
世界といえるのか・・・・・青い世界
それだけが一面を支配し、青だけ、青よりも藍(あお)・・・・
藍が俺を誘っているように思えた
いや、すでに藍と同化しているように思える
世界と同化し、世界を見ている感じがした
ただ、あの幸せは感じていた
何かに包まれている暖かな幸せ・・・・・
それをもたらしているのは何だろうか、いや、考えまい
俺はその幸せを、今だけでも享受できるので満足だ


  朝

俺は唐突に目が覚めた
幸せな世界から放り出されたのは口惜しかったが
自分が存在するには何が必要だろうか・・・何が
朝になったからって起床する必要もないだろう?
自分自身が存在しているんだって自分が認識するだけで良いんじゃないかと思う
それには、他人からの認識は不必要だとも。影のような存在・・・気付かれない存在もいるんだから
にして、今日は一段と体がだるい
大学へは行かなければならないが、そう思う気持ちとサボろうとする気持ちが拮抗する
自分でも無意味だと思っている大学生活だが、親からの金ということで体面は考えなければならなかった
行かないと親が煩いのもある、まわりの人たちがやいやい噂を立てる
そういうのは煩わしい。関係ないと思って生活しても相手から認識されてしまうっていうのは困りものだ
食欲も沸かなかった。朝は抜くかな・・・・
そのまま着替えて原チャリに跨って大学へ向かう
バイクの速度が生み出す風は生ぬるかったが、それでも気持ち良いと思えた


  何か

大学でも俺はやる気は出なかった、いや出す気も無かった
出席を取る講義だけ顔をだす。ま、大半の大学生がしていることと同じことだ
あとは・・・講義の合間はタバコを吸って空を見ているだけ
バイトは何もしていない、する気もない、今で十分だと自身で思っている
生活費も授業料も親が払ってくれている
自身が使いたい分は節約すればどうにかなるものだし、そんな使う俺でもない
ソラを見上げた
目が少し光で痛かった
ふと・・・・青い青い世界がソラの光・・・色に見えてくる
幸せ?
そんな考えが脳の中を何度も往復する
頭を振ってその考えを打ち消す。俺が幸せになってどうする?
いや、幸せにはなりたい。が自身で関係を絶っている人間が幸福を求めて何になるんだ?
空を見上げる、色はさらに青い色に見えてくる、俺を誘う・・・誘う?
ソラと一緒になってみたい・・・幸せに慣れるんじゃないか?
・・・・・・・・・・・・・・
いや、そんなことはありえない
俺は大学の敷地に視線を戻す・・・その刹那
おかしいものを見てしまった・・・なんだあれは?
屋上にソレは居た・・・・・・ソレ?
女の子だ・・・ブルーの・・・いやスカイブルーのワンピースを風に翻す
小さい・・・本当に小さい女の子
顔は見えなかった、そりゃ屋上に居るんだから、見えるはずもない
だけど、手招きしていると直感する・・・・・・誘っている・・・・・・
「お兄さん。夢・・・夢の世界ってどう思う?」
頭の中に響く声。甘い甘い誘惑の声。
「夢?」
聞こえるはずが無いのにつぶやく・・・・・・俺自身に問いかけるように
「あれ?知らないはずない・・・。お兄さんが見ている夢だよ・・・・・青い青い・・・・・ユメ」
・・・・・・鼓動が跳ね上がる。口が水分を求めてパクパクする。
「な?」
そんな間抜けな声しか出なかった
「お兄さん・・・・・・ユメの世界へ行かない?」
甘美な誘惑。俺にとって・・・・それは抗いがたい声となって俺の頭の中を反駁する
そう、あの世界に居れば煩わしさとは無縁になる・・・
そして、何も考えずにあの幸せを享受し続けることができるのだ
自分はどうしたいのだろうか?
「お兄さん。あのユメの世界は空なんだよ
 空。上にある空。青い・・・・・・ソラ
 そう、雲なんか一切無い、真っ青な・・・ソラなの」
「空?」
「そう・・・・・・空なの。そして、ソラと一緒になりたいならなれるんだよ?」
・・・・俺に一番合っているだろう世界だと思う
「どうすればいい?」
俺はそう切り出していた・・・何も考えているわけではなく本能だけの返事・・・
幸せを追求するということに基づく行動
女の子は二コリと笑ったような気がした・・・
いや、笑っていた・・・・・・微笑んでいた・・・妖艶に
しかし、それは一瞬の事だった・・・
すぐにその微笑みは年相応とも思える可愛らしい微笑へと変わった
「こっちだよ・・・お兄さん」
女の子は走り出す


  同化

そこは屋上だった
空は相変らず青く俺を誘っている・・・誘っている?
「お兄さん・・・こうすればいいんだよ」
女の子はいつの間にかフェンスの上に居た
そして、飛んだ
文字通り飛んだのだ
重力に縛られていない・・・・・・宙に浮いていた・・・・・
不思議な光景だった
服の青が空の青に溶け込む・・・境界がぼやけていく
女の子は空と同化していった・・・・摩訶不思議な光景、だけど俺はそれを不思議と受け入れていた
少しづつ、女の子の姿が消えていく・・・・・・薄くなっていく
そこに存在しているというのはわかっているのに・・・姿だけが見えなくなる
そして、存在感を残して彼女は消えた
「お兄さん・・・・・・わかった?こうするんだよ」
風に乗って彼女の声が聞こえる・・・・・・
「俺でもそっちへいけるというのか?」
俺は尋ねる
「もちろん・・・・・・お兄さんが望むなら・・・・・ね」
そう女の子は甘く耳元で囁いた・・・・・・
首に手が回される・・・気がした
ゾクリとした
彼女は耳を舐め、噛み始める
「ふふふ・・・ねぇ、お兄さん?どうするの?」
再び妖艶な笑み・・・姿が見えないはずなのにそれを認識できた
「いこうよ?ね?幸せになるんだよ・・・お兄さんの望む」
俺は脚を踏み出した・・・屋上のヘリ
高さに眩暈がする・・・俺は飛べるのか?
その恐怖心も幸せを求める好奇心と彼女の誘惑にかき消される
そして、俺は飛んだ・・・・・・


  終焉

「ありがとうお兄さん」
彼女は笑っている。それは心からの笑顔だ
「ソラはね、自身が大きくて見えないから自分を認識できないの・・・
 だから、誰かに中から認識してもらうしか存在を保てない・・・
 お兄さんで19人目
 徐々に・・・何も考えなくなって意識も消えちゃうけど、その代価として幸せをあげる・・・
 ソレで・・・いい・・で・・しょ・・・・・・・・・・う・・・・・・」
徐々に声が聞こえなくなる
俺はソラに同化した、同化というより中に入り込んだ
ユメと同じ青い世界に包まれ、何も考えない幸せを貪り食う
そう、そのまま・・・ずっと・・・しあわ・・せ・・に・・・・・・




  −あとがき−

H.P.ラヴクラフトの影響バリバリの怪奇小説・・・のはず
久しぶりの小説執筆だったので少しどころか多々自信なし
これを元にして大学の漫研前期本の漫画を描いたわけなんですが
ページやら日程の関係上かなり端折ってます・・・ダメなんですがね、実際
で、まあ、書いた感想なんですが
楽しいのはありましたがやはり難しいなぁと思うわけですね
漫画も難しいですが・・・実際は
もうすこし最後のところを工夫できたかなぁとか今は思うわけで・・・
次はFATEのパロディとかオリジでも書こうかなぁとか思ってます
漫画版は大学の学園祭で前期本が無料配布されますのでソレを入手してください
・・・・多分、HPには乗せることは無いと思いますので
それでは!!相霞沙南でした