去る平成15年6月24日付の読売新聞朝刊を発端とする報道について、当院の見解を表明致します。
この新聞記事では「科学的根拠なし」という刺激的な見出しがつけられておりましたので、カタリン点眼などの薬物が白内障に対して無効であるという誤った印象を受けられた方も多いのではないかと懸念しております。
この記事については近いうちに日本眼科学会および日本眼科医会から正式な公式見解が示されると聞いておりますが、6月28日に京都で行われた日本白内障学会の「白内障診療ガイドライン」シンポジウムに私自らも出席し、その発表内容と担当医師のコメントをじっくりと聞いてきた結果、この記事には新聞記者の理解不足とそれによる意図的か無意識的かはわかりませんが読者をミスリードするような文意の曲解があったものと想像されることがわかりました。
そこで、今回のシンポジウムの内容について誤解のないように、私の理解した要点を記載しておきます。
1.今回の研究は過去に(特に最近のものを主体に)発表された論文を検証したものであり、実際に薬剤の効果を検証したわけではない。
2.カタリン点眼などの薬物は1984年の時点で厚生省の再審査を受けた結果、以前同様に認可されている。つまりこの時点では科学的根拠があるものと厚生省により判定された、ということである。(実験のレベルで薬物の効果が確認されていることも白内障に対する薬物療法の有効性の根拠になりうるという意見が委員からも述べられた。)
3.その後白内障診療については手術療法の進歩が目覚ましく、薬物療法に関する研究は大規模には行われていなかった。白内障の薬物療法の効果を実証するためには多数の被験者を少なくとも数年以上追跡する疫学調査が必要であり、膨大な手間と費用がかかるため単一の医療機関レベルで行えるものではない。過去には大規模な調査も行われていたが、当時の白内障の程度判定基準は視力または写真の肉眼判定しかなかったため、検査器械の進歩した現在に問題なく適用できるものではないという判定が今回の検討によりなされた。
4.以上から、白内障の薬物療法について、その科学的な根拠を証明するためには現在の基準に照らして信頼に足る検査器械・判定基準を用いてその効果を実証する必要があるという今後の課題が提起された。
5.インフォームドコンセントの観点から、患者様に白内障の薬物治療の現状を説明して行く必要がある。
なお、今回の新聞報道では「白内障の薬物療法が欧米の先進諸国には存在しない」という意味の表現がありました。確かに米国では白内障の薬物治療は行われていませんが、ドイツやフランスなどの先進国では薬物治療が行われています。カタリン点眼薬そのものも数多くの国で採用されているそうです。つまり薬物療法は日本のみの特殊な治療法というわけではないという事実も付け加えておきます。
以上お示ししましたように、今回の検討は白内障の治療薬の効果を否定したものではありません。したがって、点眼治療によって何らかのプラス効果を実感されている方は継続されても全く問題ないと思います。しかし、この治療の有効性を確信できるほどの「科学的根拠」が現時点では存在しないのも確かですので、白内障の点眼治療に疑問を感じる方はご遠慮なくご相談下さい。