緑内障と一口にいってもいろいろなタイプがあります。
ここでは、ある程度詳しく緑内障の代表的な病型について述べてみたいと思います。
緑内障で視神経が障害される原因として、眼圧による機械的圧迫と視神経の血流障害という2つの説がありますが、現状では緑内障の進行を抑制することがはっきりしているのは薬物や手術によって眼圧を下げる治療のみです。したがって、正常眼圧緑内障(NTG)であっても、ある程度以上の眼圧であればこれを下げる治療が選択されます。しかし、NTGや進行した開放隅角緑内障(POAG)においては視神経の血流改善を目指した薬物療法も選択される場合があります。最近は視神経細胞が死ぬ現象(アポトーシス)の仕組みや予防に関する研究が精力的に行われており、将来はこのような観点から新しい治療法が開発される可能性もあります。
ほとんどの緑内障は慢性の経過をとりますので、多くはまず点眼薬による眼圧降下治療から始めますが、治療効果は視神経の状態や視野異常の変化を定期的に観察することによって初めて判定できます。したがって、定期的に検査を受けながら治療を継続することが最も重要です。
以下にタイプ別の特徴を示します。
| 原発緑内障 | 原発開放隅角緑内障 ( POAG) | 高眼圧症 | 正常眼圧緑内障 ( NTG) |
原発閉塞隅角緑内障 ( PACG) |
| 続発開放隅角 | ステロイド緑内障 | 偽落屑症候群 | Posner-Schlossman症候群 | 外傷性緑内障 |
| Ghost cell glaucoma | 術後の緑内障 | Schwartz症候群 | その他 | |
| 続発閉塞隅角 | 小眼球症 | 虹彩後癒着 | 悪性緑内障 | その他 |
| 開放・閉塞両方 | 炎症による | 血管新生緑内障 | 水晶体起因性 | 水晶体脱臼 |
| 先天緑内障 | 原発先天緑内障 | 他の先天異常 | 小児の続発緑内障 |
原発開放隅角緑内障(POAG)は緑内障の代表的な病型であり、高眼圧(22mmHg以上)・緑内障性視野変化・正常開放隅角が特徴です。両眼性で、眼圧上昇の原因となる全身異常や眼局所の異常が認められないものをPOAGと診断します。高眼圧は房水(眼球内の水分の一種)の流出障害が原因と考えられています。
40歳以上に多く、時に20-30歳代にも認められます。40歳以上の日本人における有病率は0.32%とされています。徐々に発病し、慢性の経過をとりますが、かなり進行するまで自覚症状がないことも多いため、検診による早期発見と早期の治療が重要です。治療としてはまず薬物(主に点眼薬)による眼圧降下を図り、効果が不十分な場合には眼圧を下げる手術を行います。
高眼圧のみが認められ、視神経や視野に全く異常がないものを呼びます。厳密には緑内障ではありませんが、特に眼圧が25mmHgを越える場合には10-30%(報告により差があります)の症例が将来緑内障になるといわれていますので、定期的な検査は必要です。ただし、どの時点で治療を始めるかについては一般的なコンセンサスはなく、個々の眼科医が自分の方針に従っているのが現状です。
正常眼圧緑内障 normal tension glaucoma (NTG)
正常眼圧緑内障(NTG)は眼圧が常に正常なことを除けばPOAGとほぼ同様の障害を来す疾患です。40歳以上の日本人における有病率は3.60%とされ、日本人の緑内障の病型の中では最も頻度の高いものといえます(30人に1人)。
POAGと同様に検診による早期発見が重要ですが、眼圧が正常であることからPOAGよりも見逃されやすく、注意深い眼底検査が必要です。眼圧が正常でも安心できないというわけです。
治療としてはPOAG同様薬物や手術による眼圧降下を考えますが、視神経血流改善のための薬物治療を行う場合もあります。
原発閉塞隅角緑内障 Primary angle closure glaucoma (PACG)
急激な眼痛・頭痛・視力低下の発作をもって発症する急性型と緩徐な眼圧上昇を示す慢性型があります。
50歳以上の女性に多く、遠視眼に多いのが特徴です。
原因は専ら解剖学的なもので、生まれついた眼の”つくり”の問題です。隅角、つまり角膜周辺部の裏側と虹彩周辺部のなす角が狭い(狭隅角眼)と発作を起こし易いのです。実際には、虹彩よりも後方(毛様体)で分泌された房水が隅角で排出されるまでの過程で必ず通らなければならない瞳孔と水晶体の間が狭いために房水の流れが悪くなること(これを瞳孔ブロックと呼びます)が根本的な原因です。眼科専門医が見れば発作を起こしやすいかどうかは一目瞭然です。特に発作を起こしやすい状態の狭隅角眼の頻度は一般には0.6%位、加齢とともにやや上昇して60歳以上では1%前後といわれています。(ただし発作を起こすのはこの中のごく一部です)2003年4月に発表された多治見スタディーでは、40歳以上の有病率が全体で1.12%、男性0.62% < 女性1.57%、40歳代で0.13%→70歳以上では3.36%と年齢が上がるにつれて上昇、という結果でした。
急性の発作の場合、眼科医が診ればすぐにわかりますが、頭痛や悪心・嘔吐などを伴うことも多く、眼が見づらいのに気づかずに脳外科など他の診療科に受診することもあります。初期の治療が遅れると重大な視力障害を残すこともあります(一晩で失明することもありうる)ので注意が必要です。
発作の治療は薬物療法で眼圧を下げた上で手術的治療を行います。手術は最近ではレーザー手術が主流ですが、眼の状態によっては観血的手術を行うこともあります。通常は他眼も発作を起こしやすい眼なので、治療が一段落したら、他眼の予防手術(レーザー)を行います。
慢性型の場合にはまずレーザーなどで隅角を広げる手術を行い、効果が不十分な場合には薬物や手術治療を選択します。
ここで、片目に発作を起こして緊急にレーザー治療を行い、後日反対目の予防的レーザー治療を行った方の写真を供覧します。
左眼の発作時の眼圧は80mmHg以上とかなり高く、受診までに半日以上激しい痛みが続いていました。このような状態でのレーザー治療は結構たいへんです。(高眼圧のために角膜は濁っていますし、前処置によって縮瞳した状態にある右眼と比べると肉厚な状態で穴をあけなければなりません。)レーザーが効かない場合には緊急手術を行うことも念頭において治療を行い、何とかレーザーのみで対処することができました。3枚目の写真はレーザーの数時間後に撮影したものですが、眼圧はほぼ正常に戻り痛みも完全に消失しておりました。ただし、高眼圧が持続していたために左眼の瞳孔は縮まなくなっておりました。これに対し、反対目の予防的治療はとても楽でした。
発作の方を見るたびに思うことですが、発作を起こしやすい方はできれば両眼とも予防的治療で済ませたいものです。
| 発作を起こして治療した左眼 | 予防的治療を行った右眼 | |
| レーザー前の前眼部所見 | ![]() |
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| レーザー前の細隙灯所見 | ![]() |
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| レーザー後の前眼部所見 | ![]() |
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| 穴の位置 | 瞳孔の真上やや右側の虹彩周辺部 | 瞳孔の左上の虹彩周辺部 |
混合型緑内障 mixed glaucoma
原発開放隅角緑内障と原発閉塞隅角緑内障が同一眼に生じたもの(つまり、隅角も狭いが、房水流出も障害されているということ)をこう呼びます。実際にはそれぞれの要素に対して必要な治療を行うということになります。
さまざまな眼疾患によって生じる緑内障の総称です。原発緑内障と同様に、開放隅角と閉塞隅角に大別されます。
眼圧を下げる治療も行いますが、原因の疾患に対する治療も重要です。
続発開放隅角緑内障
ステロイドホルモンを含む薬物を継続的に使用すると房水流出が障害されて眼圧が上がることがあり、これをステロイド緑内障と呼びます。ステロイド剤が原因であることを除けば病態は原発開放隅角緑内障(POAG)と同じです。ステロイドの中止によって房水流出が正常化して眼圧が下がることが多いのですが、もともとPOAGなどの緑内障が存在していたと思われるケースもあり、必ず眼圧が正常化するとは限りません。眼圧の状態によって降圧治療が必要になります。
この緑内障の起こりやすさには薬物の種類・投与方法と体質が関係することがわかっています。
ステロイドといっても様々な薬物がありますが、効果の強いデキサメタゾンやベータメタゾンは効果の弱いフルオロメトロンなどと比べると眼圧を上昇させやすいです。また、内服などの全身投与と比べると点眼や眼瞼への軟膏塗布などの局所投与の方が眼圧上昇をきたしやすいといわれています。眼圧が上昇しやすい体質の人をsteroid responder(反応しやすい人という意味)と呼びます。Responderの人は強いステロイドの点眼薬を1〜2週間続けただけで眼圧が高くなってしまうことがありますが、 responderでなくても長期にわたるステロイドの使用は眼圧を上昇させる危険があります。
ステロイド剤は白内障術後やぶどう膜炎などの眼内炎症の場合はもちろん、花粉症などのアレルギー性結膜炎やアトピー性皮膚炎などかなり広範囲の疾患に使用されていますので、連用する場合には定期的な検査が必要です。
偽落屑症候群(嚢性緑内障)Pseudoexfoliation syndrome(or capsular glaucoma)
高齢者の片眼もしくは両眼の瞳孔縁にフケのような白い物質が付着していることがあります。これを偽落屑物質と呼びます。この偽落屑物質は水晶体前嚢や隅角にも沈着していることが多く、しばしば高眼圧を伴います。
病態としてはPOAGに類似していますので、基本的にはこれに準じた治療を行います。
偽落屑を伴う眼では水晶体をまわりから支えているチン小帯という多数の細い線維が脆弱なことが多く、白内障手術の際にチン小帯断裂という合併症を起こしやすいことは眼科医の常識となっています。
Posner-Schlossman(ポスナー・シュロスマン)症候群
片眼の虹彩毛様体炎とともに高眼圧をきたす発作を時々起こす疾患です。20〜40歳の男性の片眼に好発します。非常に特徴的なので診断しやすい緑内障ですが、時にぶどう膜炎に伴う続発緑内障との鑑別が問題になります。発作の頻度は人によって異なりますが、1年に2〜3回以内のことが多いようです。発作を起こすと視力低下や虹視症、軽度の頭痛などを自覚します。眼圧はしばしば40mmHgを越えますが、眼圧上昇による激しい眼痛を自覚することはあまりありません。
ステロイド点眼に非常に良く反応し、ほとんどは1〜2日以内に眼圧が正常化します。眼圧降下剤も使用しますが、眼圧の値によっては点滴を用いることもあります。この緑内障は後遺症(緑内障性視野障害)を起こしにくいといわれていましたが、高度の視野障害を残す場合もありますので、発作のたびに適切な治療を早期に行って視野障害を予防することが重要です。
・出血を伴う鈍的外傷後の開放隅角緑内障
鈍的外傷によって隅角部の血管が損傷を受けると前房中に出血し、血液がたまります(前房出血)。前房出血の量が多いと血球成分が隅角の房水流出部につまって眼圧が上昇することがあります。通常は薬物治療を行いますが、効果が少ない場合には前房内の出血を洗い流す手術(前房洗浄)を行うこともあります。特に出血が多量で高眼圧が持続した場合には血液成分が角膜にしみ込む角膜染血症をきたすこともありますので、手術による血液の除去が必要になります。
受傷直後にはアトロピンという瞳孔を開く目薬を使って虹彩の動きを抑制し、眼帯を装用して安静を保ちます。受傷直後1週間(特に3〜4日間)は再出血の危険があり、再出血を起こすと緑内障になりやすくなりますので、医師の指導に従って安静を保つことはとても重要です。この間は必要に応じて眼圧を下げる薬物を用います。
いったん眼圧が正常化してもしばらくしてから次項に示す晩発型の外傷性緑内障をきたすことがあるので、定期的な検査が望ましいといえます。
・鈍的外傷による隅角損傷を伴う開放隅角緑内障
鈍的外傷によって隅角が損傷を受けると、数カ月〜数年を経てから房水流出が障害されて眼圧が上昇することがあります。隅角に外傷のあとがある人の中でこの緑内障を発症する人は1割前後といわれていますが、受傷時の隅角の損傷が大きいほどこの緑内障になりやすいといえますので、前房出血を伴うような鈍的外傷の既往がある方は定期的な検査を受けられることをおすすめします。治療はPOAGに準じて行いますが、若い活動的な人の場合には治療が効きにくいこともありますので、当初の受傷時にはできる限り安静を保ち、二次的な緑内障の発症を予防することが重要と考えています。
眼内手術後などで硝子体前面のうすい隔壁(前硝子体膜)が破れた状態の方に硝子体出血が生じると、変性して柔軟性を失った赤血球が硝子体から前房内へ流入し、隅角につまって眼圧を上昇させることがあります。これをghost cell glaucomaと呼びます。治療は薬物治療を基本に行いますが、効果が少ない場合には前房洗浄や硝子体手術による硝子体出血の除去が必要です。
術後の続発開放隅角緑内障(硝子体手術、白内障手術、角膜移植など)
手術後の炎症や手術操作に伴う隅角の障害が緑内障を引き起こすこともありますが、もともとの眼の状態の影響もありますので、一般的にはそれほど頻度の高いものではありません。
眼内異物による続発開放隅角緑内障
鉄を含有する異物が眼内に放置されて生じる眼球鉄錆症の1症状として緑内障が生じることがあります。
網膜剥離による続発開放隅角緑内障:Schwartz(シュバルツ)症候群
まれですが、網膜剥離のある眼に続発開放隅角緑内障が生じ、網膜剥離の手術によって改善する場合があることが知られています。これをSchwartz症候群と呼びます。網膜視細胞の一部が剥離網膜から遊離して前房に回り、隅角に目詰まりすることが原因ではないかという説がありますが、確定はしていません。いずれにしろ、眼圧が高い場合には網膜剥離の有無も確認する必要があるということになります。
隅角の極めて高度の色素沈着と虹彩の色素脱失を特徴とする通常は両眼性の緑内障です。白人の若年男子の近視眼に多いといわれますが、日本人ではかなりまれです。(私も見たことはありません。)
眼窩内圧や静脈圧の亢進による続発開放隅角緑内障
眼窩内の炎症や眼窩腫瘍による眼球突出の時には、房水が排出される静脈の内圧が高まってその流れがせき止められたり、眼窩内圧が上昇したりすることによって緑内障をきたすことがあります。眼球突出がなくても Sturge Weber症候群などの血管異常により静脈圧が亢進し、眼圧が上昇することがあります。
続発閉塞隅角緑内障
眼球の大きさには個人差がありますが、病的に小さいものを小眼球と呼びます。しかし、水晶体の大きさはそれほど小さくありませんので、眼球の容積に不釣り合いな大きさの水晶体が存在することになります。そのような場合、瞳孔ブロックを介して原発閉塞隅角緑内障と類似した緑内障をきたすことがあります。通常の原発閉塞隅角緑内障とは異なり、手術治療を行った場合に合併症が起こりやすいことが特徴であり、治りにくいタイプといえます。そのため、手術に際してもさまざまな工夫がなされています。
虹彩炎や外傷などに伴う炎症によって瞳孔縁の虹彩が後方に癒着することを虹彩後癒着といいます。通常は水晶体の表面に癒着しますが、白内障手術を受けている場合には眼内レンズや水晶体嚢、前硝子体膜などと癒着した状態を指します。瞳孔縁が全周にわたって癒着すると房水の流れがせきとめられて虹彩が前方に向かって膨隆し、眼圧が高くなります。この状態が持続すると虹彩の周辺部が隅角におしつけられ、やがて癒着します(周辺虹彩前癒着)。癒着した部位の隅角からは房水の排出はされませんので、手術によって房水の排出路を再建しなければ眼圧は正常化しないことになります。もちろん原因となった炎症などに対する治療も必要です。この過程は徐々に進行することが多いので、眼圧の上昇も急激ではなく、したがって、痛みを伴わない(つまり発見が遅れる)ことも多くなります。
前房が極端に浅くなって眼圧が上昇するため一見原発閉塞隅角緑内障(PACG)のような緑内障ですが、むしろPACGに対する緑内障手術後に生じることが多く、かつては難治性だったため「悪性」という名前がつきましたが、ガンなどのように生命予後に関わる意味での呼称ではありません。場合によっては通常の白内障手術後に生じることもあります。
現在ではその病態も明らかになり、対処のすべもわかってきました。簡単にいえば、毛様体で産生された房水が、通常は虹彩の方に流れなければいけないのに何かの原因によって後方の硝子体中に流れてしまうようになり、その結果、房水が硝子体中にたまって出口を失った状態ということになります。その結果虹彩は後方から前方に圧迫され、前房も浅くなり、あたかもPACGのような外見を示します。このきっかけは何らかの手術であることがほとんどなので、診断は比較的容易です。
薬物治療としてはアトロピン点眼や眼圧降下剤を使用しますが、効果が少ない場合には硝子体中に貯留した房水を抜き取る手術を行います。
眼底疾患に伴う続発閉塞隅角緑内障(網膜レーザー凝固、強膜短縮術、角膜移植など)
網膜レーザー凝固、網膜剥離手術、後部強膜炎、原田病、網膜中心静脈閉塞症などの眼底異常によって網膜の著しい浮腫や網膜・脈絡膜下の滲出液が生じると水晶体・虹彩・毛様体が前方に圧迫されて隅角閉塞をきたす場合があります。
前房消失・浅前房による続発閉塞隅角緑内障
穿孔性外傷・緑内障手術・白内障手術後などに房水の眼外漏出とこれによる低眼圧が持続すると、漏出自体または脈絡膜剥離の併発によって隅角が閉塞する場合があります。前房消失が長引くと周辺虹彩後癒着が形成され、房水の流出障害を残しますので、早期の前房再建が必要です。
虹彩角膜内皮症候群 Iridocorneal endothelial (ICE) syndrome
正常の角膜内皮細胞は増殖しない(細胞分裂しない)のですが、この疾患群では増殖能をもつ病的な角膜内皮細胞が角膜周辺部から隅角や虹彩に進展することによって隅角での房水排出を妨げ、緑内障をきたします。このICE症候群には次のような疾患が含まれます。それぞれについての詳細は省略します。
・進行性虹彩萎縮症(progressive iris atrophy)
・Chandler症候群
・Cogan-Reese症候群
開放隅角・閉塞隅角ともにありうる続発緑内障
虹彩炎・ぶどう膜炎など眼内に持続的な炎症が生じると、炎症細胞が隅角に目詰まりして眼圧が上がる開放隅角緑内障や、炎症によって周辺虹彩前癒着が生じて隅角がふさがる閉塞隅角緑内障をきたす場合があります。
原因である炎症に対する治療と眼圧に対する治療を並行して行います。閉塞隅角の場合にはレーザーなどによる手術的治療が必要なこともあります。開放隅角の場合には炎症に対して用いられているステロイドに反応して眼圧が上昇するステロイド緑内障との鑑別が問題になることもあります。
血管新生緑内障 Neovascular (or rubeotic) glaucoma
網膜の毛細血管が閉塞して血液が行き渡らない領域(無血管野)が生じると、そこから血管新生因子が分泌されることにより、虹彩や隅角に新生血管が形成されることがあります。この血管は血液成分が漏れやすいもろい構造であるばかりでなく、周りに線維性の膜形成も伴うため、隅角での房水流出が妨げられたり(開放隅角)、周辺虹彩前癒着を形成して閉塞隅角をきたすことがあります。非常に難治性で、治療に苦慮することの多い眼科医泣かせの緑内障です。原因として多いのは増殖糖尿病網膜症と網膜中心静脈閉塞症ですが、まれに網膜静脈分枝閉塞症でも生じることがあります。また、眼底出血がなくても、しばしば内頚動脈が閉塞または狭窄により眼球全体の血液のめぐりが悪くなって生じます。
このタイプの診断がついたらまず網膜光凝固(レーザー)によって無血管野の網膜を間引きます。同時に眼圧を下げる薬物治療を行います。早期であればレーザーにより改善が期待できますが、効果が少ない場合には手術が選択されます。ただし、この緑内障には手術は効きにくい上、手術の効果が持続せず再び眼圧が上昇することも多いのです(最近は手術方法の進歩によってだいぶましにはなってきましたが)。ですから、この緑内障は予防がとても大切です。つまり、糖尿病など前々から異常がわかっている場合には定期検査によって悪化していないかどうかチェックすること、万一この緑内障を起こしそうな状態であることがわかったら早めにレーザーを行って発症を予防することが必要になります。
前房内上皮増殖 epithelial ingrowth (or downgrowth)
角膜上皮細胞や結膜上皮細胞という本来眼球内には存在しない増殖能の旺盛な細胞が穿孔性外傷や眼内手術などによって眼球内に入り込み、増殖することによって房水流出が障害されることがあります。これらの細胞はシート状に増殖するのが特徴ですが、このシートが隅角をおおうと開放隅角、瞳孔をおおうと閉塞隅角の続発緑内障を生じます。眼内に進入した細胞をすべて除去するのは難しいため、治しにくい緑内障です。
水晶体起因性緑内障 Lens-induced glaucoma
白内障が進行すると、水晶体が真白になってしまいます。これを成熟白内障といいます。成熟白内障がさらに進行すると、水晶体嚢の内側の水晶体皮質が融解し、液状になります(過熟白内障)。このような状態になると水分バランスを調節することができなくなり、水晶体が眼内の水分を吸収して膨化します(膨潤白内障)。このような極めて進行した白内障を放置すると続発緑内障をきたすことがあります。この緑内障は早期であれば白内障手術によって治るのが特徴です。
・水晶体融解性緑内障(phacolytic glaucoma)
過熟白内障において液化した水晶体物質が水晶体外へ漏れ出すと、これが原因で強い炎症を生じ、水晶体物質や炎症細胞が隅角に目詰まりして続発開放隅角緑内障をきたします。診断は比較的容易です。白内障手術を行い、その際十分に前房洗浄も行うことによって眼圧は正常化します。
・膨潤白内障による続発閉塞隅角緑内障(phacomorphic glaucoma)
水晶体が膨潤すると虹彩が前方に圧迫され、その結果隅角が閉塞し、房水の眼外流出が妨げられて眼圧が上昇します。あたかも急性緑内障発作(PACG)のように見えますが、水晶体が極端に濁っていることから診断できます。前房が浅いため手術操作はやや困難ですが、白内障手術のみによって軽快することがほとんどです。ただし、治療の時期が遅れると虹彩の周辺が隅角に癒着してしまうため、緑内障治療が必要になります。
外傷や緑内障発作を契機としたチン小帯(水晶体を周囲から支える多数の細い線維)の脆弱化や部分的断裂によって水晶体が脱臼もしくは亜脱臼し、水晶体が前方に移動して虹彩を前方に圧迫し、phacomorphic glaucomaと類似した続発閉塞隅角緑内障をきたすことがあります。Marfan症候群などで水晶体の脱臼が明らかな場合は診断が容易ですが、亜脱臼の場合はPACGとの区別が難しく、レーザー虹彩切開を行っても状態が改善しないことから診断がつくこともあります。このタイプも水晶体摘出によって改善しますが、チン小帯断裂などの合併症が起こりやすいので細心の注意を要します。
一方、水晶体が後方に脱臼すると硝子体が前方へ移動して房水の流れを妨げて瞳孔ブロックを起こすことがあります。この場合には散瞳による瞳孔ブロックの解除が重要ですがレーザー手術などの外科的処置も必要になります。
眼内腫瘍による続発緑内障
眼は腫瘍の少ない組織ですが、眼内に悪性腫瘍(悪性黒色腫など)が存在すると腫瘍細胞やこれに対する炎症細胞が隅角に目詰まりして続発開放隅角緑内障をきたすことがあります。虹彩嚢腫に対するレーザー治療を行った結果、内容物が多量に流出して眼圧上昇をきたすこともあります。一方、虹彩や毛様体の悪性黒色腫や虹彩嚢腫など、腫瘍自体が虹彩を前方に圧迫して続発閉塞隅角緑内障をきたすこともあります。
原発先天緑内障 Primary congenital glaucoma
胎生期における眼球の発育過程において、隅角の発達異常が生じた場合、房水の流出障害をきたすと緑内障になります。生後まもなくもしくは幼児期に発症しますが、特に後者を発達緑内障developmental glaucomaと呼ぶことがあります。常染色体劣性遺伝の形式をとり、やや男児に多い傾向がありますが、遺伝子の発現頻度は低く、両親が保因者(キャリア)であっても生まれた子どもに発症する確率は低いと言われています。乳幼児は自分で症状を表現できませんので、早期発見・早期治療のためには次に挙げる初期症状を見逃さないことが重要です。
・乳児が光を嫌い、眼を固く閉じ、涙を流す。(他の原因でも出やすい症状なので早合点は禁物です)
・角膜浮腫:眼圧が上がると角膜が白っぽく混濁します。当初は泣いた時に症状が発現します。
・眼圧が上昇した状態が持続すると眼球が伸展されて大きくなり、角膜径も増大します。これを牛眼と呼びます。
鑑別すべきものとして先天巨大角膜(角膜が大きいだけで緑内障ではない)や他の原因による角膜混濁があります。
原発先天緑内障の治療は成人とは異なり、手術が第一選択です。薬物治療は手術までの間のつなぎ、もしくは手術後の補助的な治療として行われます。
早期の手術によって眼圧が正常化すれば視力予後は良好ですが、治療が遅れると重大な視力障害を残してしまいます。
前眼部(角膜、隅角、虹彩、水晶体など)の発達異常に緑内障を伴う場合があります。詳細は省略しますが、主なもののみ記しておきます。
・先天無虹彩症(congenital aniridia)
虹彩が先天的に欠損しているものをいいます。2/3は遺伝性(常染色体優性遺伝)で、残り1/3の散発症例には腎臓の腫瘍(Wilms腫瘍)が併発しやすいといわれています。網膜黄斑部の形成異常(黄斑低形成)を伴うと視力発達は不良となり、眼球振盪を伴います。半数以上に緑内障を合併するといわれますので、経過観察も重要です。
・Peters奇形(Peters' anomaly)
角膜裏面の中央部に虹彩が癒着するため、角膜中央部は白く混濁する先天異常です。両眼性のことが多く、半数以上に緑内障を伴います。
・Axenfeld-Rieger症候群
隅角付近の発達異常を主とするAxenfeld奇形、虹彩異常(瞳孔偏位や偽多瞳孔など)を主として歯や頭部の骨の発達異常を伴いやすいRieger奇形はともに遺伝性であり、同じ原因と推測されることからまとめてこのように呼ばれます。
小児期に好発する眼疾患に伴って発症する続発緑内障です。
・未熟児網膜症(ROP:retinopathy of prematurity)
未熟児網膜症の瘢痕期に水晶体後面の線維性血管膜が収縮することによって水晶体が前方に圧迫され、閉塞隅角緑内障をきたすことがあります。
・網膜芽細胞種(Retinoblastoma)
腫瘍が大きくなると水晶体や虹彩が前方に圧迫されて閉塞隅角緑内障をきたすことがあります。また、腫瘍細胞が前房内へ浸潤し、隅角につまって眼圧を上昇させることもあります。