トカゲ男の十字路

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 街で声をかけた女の子はリビングデッドだった。かわいい上に甘い腐臭がするので素敵だと思った。頬から小さな蛆虫がのたくりでてくるのでちゅるっと引き抜いて出てるよ、と教えると恥ずかしそうにうつむき、ありがとう、と言って蛆を受け取り口に運んだ。肩に手を回して僕も君の蛆虫を食べてみたいな、とささやいてみた。そうして僕たちは付き合いはじめたのだった。
 蜜月は瞬く間に終わった。彼女が人間大の蛆の集積物と化すのに時間はかからなかった。不思議なことにのたくる蛆どもは決してまとわりを崩すことなく、僕がリビングにいればソファの横に盛り上がっているし、キッチンに行けばわさわさと椅子にまとわりついて椅子を引き、座ってるみたいな形を取って椅子ごとテーブルににじり寄ったりする。別に蛹化するわけでもなく数が増えるでもない蛆の固まりに、戯れに手を突っ込んでみると、奥をまさぐっているときに何かに噛まれたような痛みが走った。だが抜いた手には歯形も傷痕も付いてなかった。不思議なこともあるものである。

 アパートの近くには小さな十字路があって、トカゲ男が見張りをしている。トカゲ男はアベックが嫌いで男女が連れ立ってその十字路を通ることはできない。恋人がいたころは通ることのできなかったその角を、どうしても通りたくなってスーパーに出かけた時、遠回りをして行ってみた。以前と変わらぬ様子でトカゲ男は四つ辻に真ん中に陣取っていて、抜かりなく周囲に目を配っていた。トカゲ男の装備は鎖かたびらと広刃の剣で、戦闘ではのたくる強靭な尾も同時に攻撃してくる。とてもかなう相手ではない。
 びくつきながらもできだけ平静を装ってすれ違おうとすると、トカゲ男は牙のはみ出た顎を開いて、「ダメ、トマレ」といかにも爬虫類らしい声で言った。どうしてだ、と疑問に思ったがとりあえず言うことを聞いて立ち止まってみた。するとトカゲ男は「カムヨ」と言って僕の腕を掴むと牙をつきたてようとした。牙からは雑菌だらけの唾液が滴り落ちている。どのくらい噛まれるのかはわからないが、少しでも傷つけられたら病気になる。僕は嫌だ、といってもがいた。トカゲ男は「ゼッタイ、カム」と言ってしばらく腕を放そうとしなかったが、なおももがくとパッと僕を解放してくれた。トカゲ男は道の交差地点から離れられないので、僕は十字路の交差部分の手前まで飛びすざってから、なんのつもりなんだ、と叫んだ。トカゲ男はもう微動だにせず警戒態勢に入っている。
 これはたぶん死体を恋人にしたこととか蛆の固まりを飼っていることとかと関係があるのだろう。そう思った僕はアパートに帰って蛆を全部ごみ袋につめて捨ててきたのだけれど、またトカゲ男に噛まれそうになった。行けないとなると当然のことながら、トカゲ男の背後に延びる道がとても良いものに思えてきた。輝きすら帯びているようだ。どうするか。トカゲ男も自分がアベックになれば十字路から離れざるをえなくなる。こうなったらトカゲ男をデートに誘うしかなかった。





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