小説

TOPへ戻る

ここではTMの歌詞を元にしたショートストーリーを描いています。
「小説」となっていますがそんなたいそうなものではなく、曲の詩から浮かんだイメージをそのまま載せたものだと思ってください。

タイトル(短編) 読む 「CAROL」Another story(長編) 読む
WE ARE STARTING OVER 読む 前書き&プロローグ 読む
HUMAN SYSTEM 読む 第1章 読む
Telephone Line 読む
Self Control 読む
WILD HEAVEN 読む
Be Together(3連作の第1章) 読む
Maria Club(3連作の第2章) 読む
Nervous(3連作の第3章) 読む
Castle in the Clouds(Yabe Ver.) 読む
DREAMS OF CHRISTMAS 読む

WE ARE STARTING OVER



「2年だけ、待っててくれないか?」
あの日そう言って故郷の町を出た俺。
あいつは何も言わず、笑顔で見送ってくれた。

小さな田舎町で俺たちはまるで兄弟のように育てられてきた。
小学校の頃、男の子たちに混じって山を探検したり木登りをしたり・・・
あいつは「女の子らしくしなさい」なんてよく言われていたみたいだけど
それでも俺達と一緒にいるのが楽しくて仕方なかったみたいだ。
俺たちの仲間でありアイドルでもあったあいつを
本気で意識し始めたのはいつ頃からだろう?
中学も高校も一緒にいるのが当たり前でこれからもずっと一緒にいるのが当たり前だと
根拠もなくそう思っていたあの頃、自分から離れていくなんて考えたこともなかった。

高校3年の春、それぞれの進路が決まり始める時期、この町の若いやつらならほとんどが大学やら就職やらで
大都市に出ていってしまうのだがあいつはこの町で、生まれ育った大好きなこの街で働きたいと就職を決めていた。
それからしばらくしたある日、俺はあいつを呼び出して自分の気持ちを告白した。
「お前のことが好きだ」そういうとうれしそうにうなずいてくれたあいつだが
俺はもうひとつ大事な告白をしなければならなかった。
「高校を卒業したら東京の学校へ行くんだ」
福祉の専門学校に通って将来は人々のために働きたい、それが俺の夢だった。
そのために東京へ行って勉強をしたい、そう伝えるとあいつは笑顔で
「うん、がんばってね」そういってくれた。
でもあいつが去り際に涙を見せたのはきっと気のせいじゃないはずだった。

俺が東京に旅立つ日、あいつは見送りに来てくれた。
いつもと同じ笑顔をたたえて。

”あれから2年か”
バスから見える町並みはあの頃から何にも変わっちゃいない。
盆も正月もあれから1度も帰ってこなかったのはきっとあいつに会うのが怖かったから。
学校を卒業してこの町での就職が決まった時も連絡しなかった。
”怒ってるよな、きっと。約束だって憶えていないかも”

夕暮れになってようやくバス停が近づいてきた。
”やっぱり何にも変わっちゃいない、変わったのはきっと俺だけ”
ふとバス停に目をやると人影が見えた。
長かった髪をばっさりと切ってはいるが見間違えるはずもない、あいつだ。
どうやって俺が帰ってくることを知ったのかは分からないがこうやってずっと待っていてくれていたのは
確かなようだった。
バスが止まり、俺が降りるとあいつが近づいてきた。
何も言わずに向かい合う。
どれくらいの時間が経っただろう、あいつがふいに
「おそいぞ」
まるで待ち合わせに遅刻してきた友達を責めるように頬を膨らます。
「ただいま」
そういう俺にうなづくあいつは何も変わっていなかった。

”なんだ、俺もあいつもなんにも変わってないじゃないか。変わったのは・・・
せいぜいあいつの髪形だけだ」
男の子のようなその髪をなでながら俺は思った。
このコーナーで最初に掲載したのがこれ。
実はそれ以前に書いていたものなのですがコーナーを作るにあたり
多少の修正をしたのがこれです。
最初にこれを選んだのはとにかく歌詞から光景がすぐ浮かんだ曲だから。
だいたいTMの曲って歌詞のワンシーンが心に浮かぶことが多いんですが
個人的には彼女と向かい合うシーンよりバスの中でいろんなことを思い返している
というシチュエーションがしっくりきますね。
当時友人と話しているときに「もし彼女に会いに帰ったのに結婚とかして
名前が変わってたりしたらどうする?」とか言ってて
それが書いてる間ずっと頭をよぎっていました(笑)。
さすがにラストがそれではギャグになってしまいますので(笑)。





HUMAN SYSTEM



少女は泣きながら目を覚ました。
良家に生まれ物に恵まれた生活、
しかしながら心はいつも束縛され自由のない生活を送っていた。
今日もまた朝起きて、学校へ行って、いくつかのお稽古事をして家に帰る。
それは同じ毎日、同じことの繰り返し。
ふと鏡を見ると昨日と同じ顔がこちらを向いていた。

少年はいつものように目を覚ます。
生きるために盗みを働き、寒さをしのぐため路地裏やマンホールの中で一夜を過ごす。
ただひとつ衣服のほかに彼が肌身離さず持っているナイフ、それをポケットに隠し握り締める。
朝焼けの中、人通りの少ない街を見つめながら唇をかみ締めていた。

少女は学校に向かうため車の中にいた。
貧富の差の激しいこの国では非常に目立つ車、その中で窓の外を眺めながらため息をひとつつく。
”自分はこんなに窮屈な生活をしているのに街の人たちはなんて楽しそうな、自由な生活をしているのだろう”
手にした教科書を開くと何日か前に書いた落書き、それはいつか自分もみんなも全ての人が笑って生活できるようにと願った歌だった。
そんな時、外に1人の少年を見つける。
自分と同じぐらいの年だろうか、睨まれたらそのまま切り裂かれてしまいそうな鋭い目。
なのにどこかさびしげな光が見える。
少女は少年から目を離せないでいた。

まるで自分たちの地位を誇示するかのようにえらそうに道の真ん中を走る。
少年にとって町を走る車というのはそんな存在だった。
もしくは金になるものを乗せて走る盗みの対象。
自分にとってもっとも憎むべき存在が今日も走っている、そう思って見ると後部座席には自分と同じ年頃の少女が乗っていた。
”生まれた場所が違うだけで自分とは正反対の生活をしている。
俺は飢えと寒さをしのぐためにどんなことでもしなくてはいけないのに”不意に中の少女と目が合った。
そこには自分と同じ光があった。
境遇も外見も生活もおそらくはまったく正反対な少女から自分と同じ感覚がする。
少年は少女から目を離せないでいた。

車はすぐに走る去る。
2人の出会いは時間を数えることもできないほんの一瞬。

She is here and he is there in the human system
たとえ2度と出会わなくても
今、少年はここにいて少女もまたここにいる。
この一瞬が2人のHUMAN SYSTEM
実はこれも以前に書いたもの。
「雑誌」コーナーで紹介したGBの1987年12月号にも
この曲のショートストーリーがいくつか載っているのですが
これを見て書いた記憶がありますね。
この曲は2人が車越しに目を合わせる瞬間の絵を
ずっと自分の中でイメージしていてそれを文章にしてみました。






Telephone Line



「はい、もしもし」
「あ、俺。今大丈夫?」
「うん、平気だよ。今ね、星を見てたんだ」
「星?」
「うん。今部屋にいるんでしょ?明かりを消して空を見てごらんよ、天の川が見えるんだよ」
「俺の部屋、周りが明るいから星なんて・・・
あ、天の川ってあれかなあ。織姫と彦星ってどこにあんの?」
「天の川の両端にあるんだけど・・・上手く説明できないよ」
「そっか。彦星って牛飼いだったんだっけ?なんかで読んだような・・・」
「そう、牽牛星だったかな。でもわし座の一等星でアルタイル。
ちなみに織姫はこと座のベガ。どう。結構詳しいでしょ」
「どうしたんだよ。遠距離恋愛でもしてんのかよ」
「そんなはずないでしょ。あんたこそ人恋しくなって電話してきちゃったとか」
「あのなあ。ラジオ聞いてても面白くないし、なんとなくだよ」
「ふーん。てっきりまた好きな娘でもできたのかと思ったのに」
「またってなあ・・・」
「あ、知ってるんだよ。去年だっけ?」
「う、うっさいよ。あれはもう終わったの」
「ふーん。じゃあ好きな娘、いないの?」
「あ、あのさ。俺・・・」
「ん?なに?」
「いや、なんでもねえよ。そろそろ寝るわ」
「そう?へんなの。じゃあまた明日ね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
せっかくこのコーナーを作ったんだからいろんなことをやってみたいと思い、
今回はセリフのみで作ってみました。
ヒントは「Crazy For You」なんですがこれを書こうとすると後日談とかに
なっちゃうと思ったので相手の言葉しか分からない電話での会話がいいかな、と思い
この曲を選んでみました。
じつは他にもいろんなことを考えていて2曲分の話を前、後編にしたりとか
結末を複数用意してみようとか、せっかく作ったコーナーなので
遊んでみようと思っています。







Self Control



本作品はいわゆる「サウンドノベル」形式で作成しました。
なので申し訳ないのですが以下のファイルをダウンロードしてプレイしてください。
なおファイルのダウンロード、解凍、プレイ中など使用に関して起きた
いかなるトラブルも作者は責任を負わないものとします。
ファイルはZIP形式で圧縮されていますので解凍してお使いください。

起動方法、ゲーム内容に関する質問、バグなどありましたら「TM掲示板」のほうに
どんどんお知らせください。
また、ゲームの操作方法その他はファイルに同梱した「readme.txt」にありますので
是非一度目を通していただければうれしいです。

ファイルをダウンロードする
readme.txtにも書いたんですが当時小室さんとみつ子さんの「Self Control」に対する考え方の
違いに目をつけ、「せっかくWEBで書くんだからLINKを使って面白いことはできないか?」と複数の
結末を用意しようと思ったのがこれを作り始めたきっかけです。
「通常の小説形式にして最後に2つ結末を作ろう」と書いていたのが一念発起、
このような形になりました。
たくさんの結末を作るのは結構大変だったのですが探していただければうれしいです。

一応選択肢はありますが「ゲーム」と呼べる代物ではないので(笑)「選択肢のある小説」と
してお楽しみください。
そうそう、前に書いた「Human System」といい、お嬢様が出てきますが別に
趣味ではなく(笑)、この曲を聴いて「君を連れ去る車を〜」って誘拐じゃん、と友達に言われたことがあって
「車で連れ去られる合法的な状況(笑)」を考えた結果です。








WILD HEAVEN



男がディスプレイの電源を入れると目の前に光があふれる。
そこに映るのはCGで作られた大都市の街並み、画面をクリックすると一部が拡大され表示される。
高いビルが並ぶオフィス街がきめ細かく描かれ、そこには無数の人間らしき点が
やはりCGで作られた駅から出てビルへと散っていく。
自動的に時間が流れ朝、昼、晩を演出して延々とつながっていく。
男がマウスを操作すると新たなビルが生まれ
思いのままに道路が形を変えていく。
”ここにハイウェイを作って・・・、せっかくだから
こんな形にしてみようか”
男の作ったハイウェイはまるでカジノのルーレットの様に螺旋を描き
その上を走る車はさしずめルーレットをころがる球にも見える。
きちんと順番を決めて等間隔に立ち並んだビルは倒されるのを待つドミノのようだ。
男が画面の中に作ったこの街はそれでも勝手に時間を刻み
操作とは関係なく動き続ける。
画面の中の点のような人間はかってに動き回り新しい建物ができればそこにも
足を運び、建物が消せばまるでそこには最初から何もなかったように
寄り付かなくなる。
男は自分の理想の街を思い描き、それを画面の中で実現させようと
マウスを動かし続けた。
”次はこの道をふさいでこっちの道を通らせよう。代わりにこの建物を置いて・・・”

「あれっ?」
会社に向かう道すがら俺はいつもと違う風景に目を凝らす。
「先週までここにこんなもの建ってたっけ?」
記憶が確かならここの道を通れば近道のはずだ。
「本当だ。ちょっと時間やばいけどこっちの道から迂回するしかないね。
なんかこの辺工事多いよね、いつの間にか知らない建物建ってること多いもん」
並んで歩いていた彼女がそう言う。
「うーん、せっかくだからさ。この建物の中突っ切っちゃおうぜ。
絶対そのほうが速いって」
彼女は目を真ん丸くして
「なに言ってんのよ、そんなことしたらやばいでしょ」
「いいじゃんいいじゃん、先週までここ通ってたんだし
俺たちはこんなことじゃあきらめないぞってことで」
「誰にそんなこといいたいのよ?意味ないじゃん」
「ほら、そんなこと言ってる間に時間やばくなってきたぞ」
そういうと俺はかまわず敷地に踏み入る。
「あっ、本当だ。これじゃ遅刻しちゃうよ。・・・しょうがないなあ
相変わらず頑固なんだから」
なんだかんだといいながらついてくる彼女、
「そういえば知ってる?会社の隣のビル来月でなくなっちゃうんだって。
なんかうちもやばいって噂だよ。どうする、リストラとかなったら?」
「いつも通りだよ」
「え?」
「いつも通り。周りの景色が変わっても会社がどうなっても自分らしくやるさ。
この世界、明日どうなってるかなんて知らないけど
自分らしいやり方を続けていけば迷うことなんてないさ」
「でもこのところそういうの多いよね。
なんか運命を神様にもてあそばれてるって感じ」
例え相手が神様でも俺は俺らしさを捨てないし迷路のような世界でも、
薄氷を踏むような思いでも、一歩も踏み間違わずにこいつと一緒に進んでやるさ。
そう思えば何も怖くなかった。

どれくらい時間が経っただろうか、男はいつの間にか眠ってしまったようだった。
気がついてあわてて画面を見る、そこには相変わらず自分の作った街並みと
勝手に動き回る点のような人間がいた。
”あれ?”
男はすぐに違和感に気付いた。
さっき道をふさいで作ったはずの建物が壊されそこを点のような人間が
平然と歩いていた。
他にもいくつか立てたはずの建物がなかったり逆に覚えのない
建物がたくさん建っていたりしている。
”まさか画面の中の人間が勝手にやったのか?”
プログラム上そんなことは絶対にないはず、男は苦笑いすると
”まあ、いっか”
自分が操作しなくても勝手に進んでいく画面を見ながら男はそう思った。
「シムシティー」というゲームをご存知でしょうか?
画面の中に建物を立てたり道路をしいたりして街を作っていくゲームです。
神様から見たら地球もそんなゲームのように見えてしまうのかもしれない(地球を
テーマにした「シムアース」なんてゲームもありました)、そんなことを考えながら
書いたのがこれです。
でもはっきりいって失敗しました(笑)、神様が作る街とそれに負けない人間を
書こうとしたんですが無理やり歌詞を詰め込んだせいか訳わからなくなっちゃいました(笑)。
ちなみに素直なこの曲のイメージは大都会の朝、学生時代新宿の学校に通っていたんで
そこの、まだ店などが動き出す前、朝日がビルのガラスに写り込むようななかを
歩く感じですね。
まあ恋愛物以外が書きたかったので選んだ曲ではあったんですが。







Be Together



英治は暗闇の町を車で走っていた。
いつもより少しスピードが上がっているのは
最近のストレスのせいだろうか。
大学で助教授をしている彼はどうも周りの教授とウマが合わなかった。
「ったく、頭固いんだよな。これだから最近の爺さんは・・・」
思わず悪態もついてしまうというものだ。
そんな英治だが昼間のことは早く忘れよう、
そう思っていた。
今日は中学校時代の仲間たちと久しぶりに会う約束なのだ。
あの頃から付き合っている初美とはもちろん会っていたがそれ以外の
仲間たちとはここしばらく会っていない、そんな中
自分だけ仏頂面では場も白けてしまうに違いない。
気の会う仲間たちと久しぶりの再会、思わずたまったストレスを
ぶちまけてしまいたくもなるが貴重な時間をそんなことで使ってしまっては
非効率的か・・・
そこまで考えて英治は自分の想像をかき消しながら
「俺も考え方が固くなってきたな」
思わず苦笑いする。
とにかく約束の時間までに初美を迎えにいかないと。
英治は恋人である初美の住むアパートに向けて走っていった。

一人暮らしの女性が住むには多少不安がありそうな場所に
初美のアパートはあった。
夜になるとやかましい連中が走り回ったり近くにたむろしているという場所で
英治は何度か初美に引っ越さないのか?と聞いたことがあった。
「別に気になんないよ。何かされたわけじゃないし」
あっさりと答える初美にあっけに取られたことを思い出して
苦笑いする英治。
だいたい実家が近いのにわざわざこんな場所に一人暮らしをする
彼女は変わっているんだ、そう言い聞かせる。
アパートの前に車を止めて初美の部屋の窓を見るとカーテン越しに
彼女の影が見えた。
”無用心だな”
そう思いながらもまるで踊るように動き回る彼女の影に思わず見とれてしまう。
英治はその動きにあわせるようにクラクションを鳴らす。
すると一発で自分を呼ぶ音と気付いたのか初美が窓から顔を出し
「英治ー、ちょっと待っててー」
大声でそう叫ぶとまた影が躍り始めた。
”あいつ、また探し物だな”
初美の部屋に入るたびにその散らかりように驚かされている英治には
部屋の中を必死に探す初美の姿が見えていた。

「だってー、久しぶりにみんなに会うのにお気に入りが見つからなかったんだもん」
しっかり15分は待たされた後転がるように姿を現した初美を乗せて
車は走り始めていた。
「ったく、迎えに来る時間教えてるんだから準備しておけよな」
思わず愚痴る英治の言葉など気にしていないように
「大丈夫だよ。誰もあたしが時間通り来るとは思ってないから」
言ってケラケラと笑う初美。
「あのなあ」
呆れてため息をつく英治だがこんな毎回でこんな状況に慣れてしまった
自分へのため息かもしれない。
「英治、最近疲れてるでしょ」
不意に初美が言う。
「だって、なんか恐い顔してるもん。分かった、教授の秘密を見ちゃって
口止めされてるとか。うーん、やっぱり定番は学生との不倫かな」
一人で盛り上がる初美。
「おいおい、勝手なこと言うなよ。ちょっと教授とそりが合わないだけだよ」
「やっぱり原因は教授かあ。あたしもなかなかの推理だね、こりゃ」
「その教授がさ、頭固いんだよ。なのに結婚記念日とかで
今日はさっさと帰っちまったけど」
「へえ、いい人っぽいじゃん。結婚記念日忘れないなんてさ」
「そんな記念日を祝う柄じゃないんだけどな」
すると初美は顔の前で指を振って
「あまいなあ、英治君。哲学者でもカサノバでも恋することには
違いはないのだよ」
言っておどけてみせる。
「なんだよ、カサノバって」
「イギリスの文筆家。女ったらしで有名なの。あれ、フランスだったかな?」
「お前、ただの馬鹿じゃなかったんだな」
「でしょー、って今馬鹿にしたでしょ!」
「ははっ、気付いたか」
「でも良かった」
「なにが?」
「英治、いつもの調子に戻ったから」
急にまじめな顔で言う初美の言葉の意味を少し考える英治。
「もしかして気を使ってくれた?」
「ん?別に。そんなことないよ」
照れているのか窓のほうを向く初美。
信号待ちで停止した車に流れる沈黙。
しばらくの後
「あ、信号青になったよ」
言って前を向いた初美の頬に軽くキスをした英治。
驚く初美を横目に走り出す車。
「まったく、いきなりなんだから。でもまあいいか」
笑顔の初美を見ると英治の顔も自然に笑顔になってくる。
「よし、今晩は盛り上がるぞ」
「おー!」
彼らの夜が始まった。

続く
楽しい夜の始まり
それが管理人の考えるこの曲のイメージです。
今回は3つの曲をつなげてみよう、ということでこれが第1章なんですが
そのせいで続きを気にしていろいろ考えすぎてしまったかも・・・。
まあ次回その辺が生かされるかどうかまったく分かりませんが・・・(笑)。
本当はこれから始まる長く、楽しい夜にドキドキするような気持ちを
書ければ良かったんですけどね。







Maria Club



街の明かりから少し離れたところにその公園はあった。
あまり人の出入りがないこの公園、しかもすっかり暗くなった
この時間とあっては普段なら人がいることなどないはず。
だがこの日は久しぶりに違っていた。

「もしかして俺たち一番乗りじゃね?」
隆彦は後ろから大荷物を抱えて歩いてくる友人の信二に
向かって言った。
「そりゃそうだよ。まだ約束の時間まで30分もあるんだよ」
信二はその大きな体を活かしてここまで運んできた大荷物を
地面に置いて言う。
「それにしても卒業してからもう10年だろ。よくこのまま残ってるよな、ここ」
「そうだよね、中学の卒業式のときに10年後にここで会おう、って
約束したときはそこまで考えてなかったもんね」
「だよな。でもまさか本当にこうして10年後にここに来ることになるとはな」
「なに?隆彦、来る気なかったの?」
「そうじゃねえけどさ、10年後なんてあんときゃ想像もつかなかったからさ」
「確かにそうだね」
2人が話していると遠くから別の話し声が聞こえてきた。
「お、ありゃ博子と優美じゃねえか?」
隆彦が声がするほうを見ながら言う。
「あー、隆彦!」
向こうも2人に気付いたのかこちらに走ってくる。
「隆彦!それから信二君も」
いい加減近くまで来ているというのに大声ではしゃいでいるのが
博子、そしてその後ろからやはり笑顔でこちらに来るのが優美だった。
「博子、お前ぜんぜんかわんねえなあ」
隆彦が博子に向かって言う。
「あら、まだ若いってことでしょ。そっちだって信二君は相変わらず
大きいし、隆彦はやっぱり生意気じゃない」
言って笑う。
「でも」
博子は後ろを振り返って
「優美はきれいになったでしょ」
「そんなことないって。みんなだって・・・」
そういう優美だったが隆彦も信二も彼女が
あの頃と比べてきれいになったのは一目瞭然だった。
「それより後来てないのは・・・」
博子の言葉に隆彦が答える。
「ああ、英治と初美だな」

そういったときだった。
4人をヘッドライトがまぶしく照らす。
その中から手を振り回しているのは初美だ。
「やっほー、みんな久しぶり!」
言うとまだ停車してない車から飛び降りる。
「初美!久しぶりじゃん」
博子の言葉に笑顔でうなずく初美。
「みんな元気そうだねえ。もちろんあたしも英治もね」
そういう後ろから車を止めた英治が歩いてくる。
「お前は特別だと思うがな」
言いながらやはり英治も笑顔が隠せない。
「それにしても」
言葉を区切って英治が言う。
「あれから10年もたつのにここはあのときのままなんだな」
「それが気付いたんだけど・・・」
信二が答えて公園の隣の建物を指差す。
「隣の教会がなくなってるんだ」
「あれ、ほんとだ・・・」
優美も驚いたように言う。
「ああいうのって簡単になくなったりするものなの?」
「さあね?案外幽霊でも出たんじゃねえの?」
初美の言葉に隆彦が冗談交じりに答える。
「ちょっと、やだ。そういういうの苦手なんだから」
優美がまるで幽霊を見たかのようにおびえながら言う。
「なんだそういうところは相変わらずなんだな。安心したぜ」
隆弘はいたずらっぽく笑うと
「さ、早速始めようぜ」
言って信二が持ってきた荷物をあさり始めた。

そこはいつの間にかあの頃の空気が戻っていた。
コンビニで買ってきた簡素な食事と飲み物、
それがあの頃の雰囲気を思い出させたのかもしれない
乾杯が終わるとみんな昔話に花が咲いた。
「それからこれを忘れちゃいけないよな」
隆彦は話が一段落すると持ってきたラジカセの再生のボタンを押す。
「わ、なつかしー。あの頃よく聴いたよねー」
初美の言葉に優美はうなずいて
「うん。私今でもたまに聴くよ」
「知ってる?このグループ最近復活したんだよ」
信二の言葉に
「ほんとに?全然知らなかったぜ」
英治が答える。
「新曲もいいけどこの頃の曲聴くとやっぱり
思い出すよな」
言って隣の教会があったはずの場所を眺める。
「あそこさ、夕方だとここからマリア像が見えたんだよな」
「そうそう、なにかあるとすぐお願いしてたよね。
神頼みならぬマリアだのみ」
「そうか、博子もよくお願いしてたもんな」
「でもそう考えるとちょっとさびしいね、なくなっちゃうなんてさ。
ジャングルジムもシーソーもあの頃のままなのに」
シーソーを一人で上下させながら博子が答える。
マリア像がなくなった今、右と左が交互に上下するそのシーソーは
まるでみんなが持つ悩みを象徴するかのようにゆれていた。
「でもまあ」
隆彦が口を開いた。
自分のラジカセを指差して
「歌ってるじゃん。「行かなきゃ駄目さ マリアなんていないのに」ってさ」
「だな。あの時はマリア像に助けられたけど今はそれがなくても
やっていけてるもんな」
英治はそういいながら明日からの仕事もがんばれる気がしていた。

続く
実はこれ、ちょこっと自分の体験談入っています。
中学校のときに生徒会なんてものに入っていたのですが
卒業するときにみんなで2001年に会おう、という話をしていて(確か9年後)
実際に2001年にみんなで飲んだ、ということがありました。
それにこの曲の中で個人的にすごく印象的な「同じ仲間の集まる場所さ」という
フレーズをあわせて考えました。
ちなみに場所が廃ビルなのは(この曲「DRESS」で最初に聴いたので)
近い時期に見た「ぼくらの七日間戦争」のイメージからです。
かといって「Seven Days War」という感じではないですからね。
でもそれ以外は全然歌詞と違うかも(笑)。








Nervous



英治は再び車を走らせていた。
初美を家まで送り届け、家に帰る途中。
さっきまでの楽しさ、にぎやかさに対して
今の静けさはちょっとさびしげだな、そう考えていた。
すると頭に浮かぶのはどうしても明日のこと、
仕事に戻れば毎日大変なことだらけなのだ。

”ついてないな”
信号につかまって交差点で停車する車、
ただでさえ今夜は外がさびしく感じるのに
なかなか家に帰らせてはもらえないらしい。
そう思いながら車の窓から外を見ると
結構な時間なのにもかかわらず、
小学生とおぼしき子供たちが数人道端で
しゃべっているのが見える。
こんな時間に・・・、塾帰りかな?
最近じゃ小学生も大変だ、
そう思いながらも彼らが英治から見ると
疲れた顔をしているのが気になる。
子供までがこんな時間に、しかも笑顔がない街。
2,3人の友達と一緒にいてもまるで1人でいるように
見えてしまうのは子供だけでなくきっと今の
社会全体なのではないか?
まあそんなことを考えても仕方ないんだけど
だからこそ他人を求めてやさしくなれるのかも知れない。
それがいいことなのか悪いことなのか分からないけど
でも自分にはそんな他人とは違う友人がいると信じたい。
実際さっきまで一緒だったみんなはそういう存在。
何も迷うことはない。
仕事だってそう、悪いことだけを考えてうつろに流れてるだけじゃ
自分の夢はいつまでたっても見えてこない、
そう考えよう。

いつの間にか信号は変わっていた。
後ろから車が来ていなかったのが幸い、
英治はほんの数秒前とはまた違った気持ちで
アクセルを踏み込んでいた。
軽い気持ちで3曲をつなげてひとつの話にしよう、と書き始めたこのシリーズですが
いざ書こうと思って歌詞を見直すとつながらない、つながらない(笑)。
結局強引なまま完結してしまいました。
一応「どんなに楽しい夜も帰るときは一人さ」というフレーズが
印象的だったのでそこを基に考えてみたんですが・・・。







Castle in the Clouds(Yabe Ver.)



夜の空気が恋しくなって俺は窓を開けた。
仕事に行き詰まるとこうするのは最近の癖だ。
一休みしてさっき受け取ったばかりの友人からの手紙に
目を通して返事を書くためにペンを持った。

手紙、届いたよ。
どうやらまだ生きてるみたいなんで一安心したよ。
仕事に行き詰って俺に泣きついていきなり
世界一周するなんて言い出したときはどうなることかと思ったけど
なんとかやってるみたいだな。
俺が仕事でつらいときには夜更けでもおどけた声で笑わせてくれたのに
自分がつらいときは何も言わなかったもんな、それで
いきなり旅に出るとはお前の度胸もたいしたもんだ。
今はいったいどこにいるんだ?
見知らぬ町、乾いた大地、冷たい空、
どこにいてもきっとお前なら大丈夫だろう。
お前がまたここに戻ってきたらきっと俺が
思い描いているような風景の話をしてくれると楽しみにしてるよ。
今ここを吹き抜ける風はきっとお前のところまで
つながっているんだろうな、そこにいるお前は
きっと名前もない道に自分だけの足跡を残して歩いているんだろう。
この心の迷いのような夜を抜ければきっときっと何かが見つかるはず。
俺もがんばれると思うからお前も心配しないで
永遠に続く自分の風を、自分の道を探してこいよな。
うまい酒を用意して待ってるから。
前回が3部作で苦労したので今回は軽めに。
毎回違うことをやろうと思って今回は「歌詞違い」の曲を選んでみました。
原曲が恋愛を歌っているならこっちの歌詞は(男同士の)友情というイメージが
あってこういう内容にしてみました(文中で相手の性別はあえて匂わせていませんが)。
この曲、アルバム「キヲクトキロク」ではフルコーラス収録されているわけではないのですが
あえてフルコーラス分の歌詞を使ってできるだけ歌詞の部分を多く使ってます。
もしかして今までで一番オリジナル要素が少ないかもしれませんね。
そんな中、「手紙の文面」というテーマを使ってみました。
今までも独白や会話のみなどいろいろやってきましたが
今回も難しいながら面白かったです。
というか手紙にしちゃ内容がキザ過ぎです(笑)。
一応主人公は夜、自宅で仕事をする職業
小説家とかをイメージして書いたので文面がキザなのは
そういう職業のせいだと思ってください(笑)。




DREAMS OF CHRISTMAS



クリスマスソングが鳴り響く町並み、世界中の全ての人が笑顔で過ごしているような今夜、自分ほど惨めな人間がいるだろうか。
そう思って女は足を止めた。
ありのままを思い出せるほど近い過去が最も思い出したくない記憶に変わっていた。
”もう君とは会わない”
もっともクリスマスイヴに似つかわしくない言葉を浴びせかけられ行く当てもなく店を飛び出したのが1時間前。
彼の優しい言葉と暖かいキャンドルライトの光はすでに過去のもの。
すれ違う人々はまるで自分のことなど目に入らないかのように−実際そうなのかもしれないが−急ぎ足でどこかへ向かう。
この雪交じりの木枯しも彼らにとっては喜ぶべきことなのだろうか。そう思うと思わずあふれそうになる涙をこらえながら女は再び歩き始めた。

”これから、つもるのかな”
寒さなど気にせず公園のベンチに一人座っていた女に突然声がかかる。
「メリークリスマス」
今の自分に一番似合わない言葉、まさかそれが自分にかけられた言葉だとは思わずにいると
「メリークリスマス」
もう一度同じ声がする。
顔を上げた女の前にはサンタクロースが立っていた。
正確にはサンタと思われるきぐるみが、であるが。
「メリークリスマス」
3度目のその言葉と共にサンタは風船を差し出した。
どこかの店のロゴが書いてあるところを見るとアルバイトで子供にでも配っているのだろう。
するとサンタは何事もなかったかのように行ってしまった。
「Merry Christmas for the people Merry Christmas to your love」
楽しそうに歌いながら。
それは女も聴いたことのある曲。
聞き覚えのあるその歌を口ずさみながら女は歩き始めた。
気のせいか肩に落ちた雪が自分を抱きしめるように優しく感じていた。
書いたのがクリスマスが近いこともあり「TM投票所」の「クリスマスに聴きたいTMソング」で1位だったこの曲で作ってみました。
毎度のことなのですが歌詞の内容を無理やり詰め込んでいるので話は強引ですがまあこういうのもありかな、と。
欲を言えばもう少し暖かい話がよかったんですけどなんか歌詞を読み返して最初に浮かんだのが「泣かないで あと少しだけ」の部分だったのでこんなのが出来ちゃいました(笑)。

TOPへ戻る