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〜 阿弥陀堂だより
目先のことにとらわれるなと、世間では言われていますが、
春になると、なす、いんげん、きゅうりなど、次から次に苗を植え、
みずをやり、そういう風に目先のことばかり考えていたら、
知らぬ間に九十六になっていました。
目先しか見えていなかったので、よそ見をして、
心配事を増やさなかったのが、よかったのでしょうか。
それが長寿の秘訣なのかもしれません。
畑にはなんでも植えてあります。なす、きゅうり、とまと、かぼちゃ、すいか。
そのとき体の欲しがるものを好きなように食べてきました。
質素なものばかり食べていたのが長寿につながったのだとしたら、
それは、お金がなかったからできたことなのです。
貧乏は有難いことです。
娘の頃は熱ばかり出していて、
満足に家の手伝いもできませんでした。
家の者誰もが、この娘は長生きはできないだろうと言っていたものです。
それがこんなに死ぬのを忘れたような
長生きになってしまうのですから
人間なんてわからないものです。
年をとればとるほど、
わからないことは増えてきましたが、
その中でも自分の長生きの原因が一番わからないことであります。
雪が降ると山と里の境がなくなり、
どこも白一色になります。
山の奥にあるご先祖様たちの住むあの世と、
里のこの世の境がなくなって、
どちらがどちらだかわからなくなるのが冬です。
春、夏、秋、冬。
はっきりした山と谷の境が
少しずつ消えてゆき、一年がめぐります。
人の一生と同じだと、
この歳にしてしみじみ感じます。
映画「阿弥陀堂だより」より
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