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財団法人海上労働科学研究所
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平成15年度研究概要
(2年計画 最終報告)
第1編 外国人船員マネジメントの諸相
A 外国人船員の職業的能力とマネジメントの課題
1 国際経営の人的資源に関する話題
1.1
資料にみる国際経営の人的資源についての議論
外航海運は、これまで営業、技術、労務の全てを統括していた船会社本社の機能を、経済活動の現場に近いところに運営組織を置き、それにふさわしい人材を配置する「適地主義」といわれる経済活動の原則に従って分社化してきた。その一つに船舶の技術的サポートをする船舶管理会社があり、
一方で、本社(インハウス)の役割見直しで経営に積極的に参加する道をつけ、その得意分野をさらに活かそうという発想が起こっている。しかし、これを担う後継者、特にエンジニアの不足が起こっており、従来の船員育成とキャリア発達を見直す意向が表明されている。
船舶管理会社は、外国人船員と多様化する造船国との接触を容易にするために、外地で外国人スーパーインテンデント(SI)が担うようになっているが、マニュアルや会社の運営について英語の情報や勤務時間外の生活や催しなど船内集団運営について、社や派遣会社の課題が指摘されている。これらの課題については、コミュニケーションの失敗が多く、この問題は依然としてあると考えられる
海運とほぼ時期を同じくして陸上産業の海外進出も盛んで、3カ国の現地日系企業を訪問し、日本人に使用言語、日本的経営の内容の関連、準拠集団などについてアンケート調査をしている。この調査やその他多くの報告が、準拠集団は現地人が日本へ、日本人が現地へシフトするようすや、アジアの日本化、日本のアジア化といった交互作用を指摘しており、アジア人特有のメンタリティーが定着や仕事ぶりに作用することを示唆している。
1.2 ある船舶管理会社の問題意識
日本国内でマンニングを含む船舶管理会社の社長に外国人マネジメントの課題についてヒアリング調査した。その内容は以下の通りである。
自社は、日本に会社をもって、フィリピンの小さなマンニング会社と提携して、登録船員のデータベースを元に船主のニーズにあった船員を選別する。
マネジメントの大半が外国に移っており、集荷のみが日本での仕事になりつつあり、どうマネジメントするかよりマネジメントするビジネスチャンスを喪失しつつあるのをどうするかが問題である。
外国人の定着は98%で、ほとんどが船主のニーズを満たしており、日本人に何ができ何が必要なのか、例えばSI教育によるライセンスなど、具体論が必要である。
SIは沖修理屋のような仕事が多く、外国人の資質がよい。若いときから1年毎に繰り返し教育して質の向上を図ってきた結果、若い優秀なSIに育っている。日本人は。これまでオペレータとしての能力評価が多かったが、オーナー(経営者)の立場としての能力評価が必要である。
外国人船員の評価は得点化して、モチベーションにつながるような内容を重視した方がよい。評価法はインフォーマルな対話などを含め、技術は平準化しているので、学習意欲や仕事の志向などについて行う。評価は運営にも反映でき、働き易さ、処遇などによって変えることができる。クルーマネージャーとしてのSIが管理している。
会社の壁を超えた海事従事者の育成が必要である。低く成ってしまっている海事従事者のステータスを高くしなければならない。
2 国際経営の人的資源管理に求められる調査研究
2.1 人材と国際経営専門家の議論
実務を研究フィールドとする自由な討議を行った。以下にその内容を要約する。
@グローバルな組織とその運営
アウトソーシングよる船舶管理のスケールメリットの増大、情報技術によるコストパフォーマンスの向上などは一層進むであろうが、それだけでうまく行くとは思われない。インハウスの役割見直し、本社機能をグローバル展開の情報拠点として強化する必要がある。
グローバル組織ではEvolving
Conceptが唱えられるが、これは得意な分野を担うということで、海運のインハウスの見直しは、その得意分野をさらに活かすという点で、共感できる。製造はモノが基本で日本人は得意である。しかし、サービス産業は交渉が基本だが、日本人はそれが苦手で日本人同士で進めてきたのが実際である。
日本人はコミュニケーション下手で、これまではやれることを伸ばしてきたといえる。その根底には言葉の問題がある。さらにその根幹には、人の考えに対して自分の考えをもつという姿勢が希薄で、皆で考えてコンセンサスの中で行動するということがある。
A技術移転
船員が国際化するなかで、現場なりSIなりが経験を活かして対応している。情報を共有できる形にして提供する必要がある。
製造業でも現地で技術指導にはコミュニケーションが型式知は伝えやすいが、もう一つ重要な点は日本の職人芸的な技術にある暗黙知であり、日本人船員が現場で一緒に仕事をしながら身につけた暗黙知が、外国人間ではどうなるのか考える必要がある。
B人材確保
大手の日本船社でも採用しようとしているが、なかなか学業成績と面接成績は一致せず、採用数が少ないのが現状である。ノルウェーなどの船主が在学中全体に奨学金を支給し、欧米は職員と部員の待遇が大きく違い自負心を満足させている。日本はプロモートが遅いということなどが不利と指摘する人がいる。
C船内マネジメント
日本の企業は管理者が現場に出向くために、大トラブルを未然に防ぐことがよくあるが、外国人は上に行くと現場を任せっきりにして大トラブルになることがある。混乗船のトラブルはコミュニケーションの失敗が多く、その場合、トップの日本人が代わって対処している。その背景には、「船は日本流」相手は「日本流」を受け入れようとはするが異文化ゆえのギャップがある。日本人船員が行うマネジメントは、あらゆる面で「属人的」で共有化されない。
D組織のマネジメント
日本は組織としても「属社」的で共有しようとしない。外国が日本を分析して一般化し、日本が逆輸入するというパターンが多い。
最近日本も海外進出が多くなり、準拠集団が現地人は日本へ、日本人は現地へシフトするなど、異文化のギャップを縮めている。アジア人特有のメンタリティーである「恩」が準拠集団の共通部分、船会社にとって重要かと思う。心理的距離の短縮があるようだ。
船内マネジメントで気遣うのは勤務時間以外の方で、勤務時間は別の人がカバーできるが、船内集団がまとまらないと危険な状態を作ってしまう。生活面は準拠集団の側面が強く出る部分で、国際化にとって大きな問題で、船でも日本全体でも自覚的に取り組まれてこなかったようだ。組織的活動も問題は同様で、特に大手の会社では、かつての成功体験があるだけに、自分流からなかなか抜け出られない状況にあると感じている。
Eこの調査研究の重点事項と枠組み
外航船は、外国人無では運航できない状態であり、日本人船員職業の概念を越えた国際的船員を対象とし、そのマネジメントに係わる文化、組織、経営など、波及する範囲をこの調査研究対象としたい。(1)なぜ外国人マネジメントが課題になるのか、(2)職業あるいは職業的能力の観点は日本人と外国人で違うのか、(3)技術の移転はどのように進むのか、(4)マネジメントには何が必要なのか、を明らかにして、その解決の方向を探り提案を目指す。
2.2 国際化のスタンス
国際化とマネジメントに関する文献調査から、本研究のスタンスを検討した結果以下の事柄を重視することを提案した。
@グローバル化と組織
経済活動のグローバル化進展は経営組織のありようを左右する。これまで変遷してきた国際化的組織をマルチナショナル型モデル、インターナショナル型モデル、及びグローバル組織モデルに分類できる。そしてグローバル組織モデルは資源と生産と市場を拡大を目指す他の組織モデルと違い、「グローバル市場への対応に適した水平・垂直国際分業体制を採って経営資源を配分」するもので、本国本社機能の強化により、中央からのコントロールで効率的展開をすることがその特徴であるが、最近の動向として、本社を頂点に海外子会社が雁行的に連なるものであったのが、海外子会社で発生した展開や革新(イノベーション)が本国親会社に逆移転したり、他の海外子会社に水平移転していることである。
北米自由貿易協定、欧州連合条約、東南アジア自由貿易連合などリージョナリゼーション(地域主義化)がある。グローバル組織に不可欠な現地化がその地域内での展開を促すとしている。そして、「組織やシステムを整えて、世界に広がる従業員の求心力を高めるコーポレート・カルチャーを築くことが求められる」と言われる。
Aグローバル化と人
グローバル組織は各地域の文化的、社会的背景をもち態度や行動様式の特徴が異なる人々の多元的世界であり、この接触はイノベーションも摩擦も生み出し易い。現実には日本人は個人主義社会を超える生産性を確立してきた。人の関係に生ずる軋轢(コンフリクト)を小さくしようとする作用によって決まるとし、集団の行動を熱力学の関係式で説明した。これによるとインセンティブ作用が強く働く欧米型の集団ではそれによって一様に行動レベルが変化するが、コンフリクト解消の作用が強い日本型集団はインセンティブが低い場合は状態が高レベルか低レベルかのいずれかになり、インセンティブが高くなると低レベル行動は一気に高レベルにジャンプし、もともと高レベルの集団にはあまり影響しない。
人と人の関係を重視する傾向は日本独自のことではなく、米国人のシーリーらはゼロックス社のSEが彼ら同士の共同作業や雑談を含む話し合いからマニュアルによるよりはるかに豊富で効率的な技能を身につけていることを紹介している。このような現場で有効に機能している方法から方針を決めるボトムアップ方式は状況に即して柔軟な組織運営を可能にするという利点も指摘している。
海運はこれまで、失業と低賃金労働という背景から生まれる経済的インセンティブ志向が高い大量の発展途上国の船員に頼ってきた。しかし将来は、ただそのようなインセンティブでは高い行動レベルを期待できない。彼らを動機づけるインセンティブや、彼らとの関係、彼ら同士の関係が行動をプラスにするような方策を講じることが必要になる。
(執筆担当:村山義夫)
B 国際経営から見た外航海運の課題
1 海運の国際経営の進展
1.1 海運企業の国際性
海運業がどれほど国際経営を意識しながら展開しているのかは、それぞれの企業の戦略、オペレーションの状況とマネジメントの形態や志向によって大きな違いがある。まず戦略面では企業が国内の顧客を主たる対象とするのか、市場を海外に求めて進出する場合の業務が国内で行われかである。次に海外における営業を含めたオペレーションなどの業務を自ら行うのか、あるいは外部業者への委託で行うのかである、オペレーション自体が海外で行われていても、マネジメントは全て国内で自己完結的に行うことも可能である。
さらにグローバルなマネジメントは現地への権限の委譲や外国人社員の積極的な活用が行われているのか、国内の本社で策定された戦略や重要な意思決定に基づいて、現地の判断は現場のオペレーションに留まるのか、様々な形態が考えられる。
国際的な企業と考える理由としては、海運の国際競争の市場環境やグローバルな業務が挙げられ、国際的ではない理由としては日本人による日本中心的な考え方が示されていた。オペレーションはグローバルに行われているけれども、あくまでも日本を中心とする国際展開であるのだが、海外に地域統括拠点を設置するに及んで、大きな意識の変革が進んだと考えられる。
1.2 国際ビジネスの段階
国際経営に関する日本の海運企業の性向と実態には、企業によって大きな差異がある。
日本の海運業が国民経済の及ぼす影響としては、第一に諸外国への経済依存度の低い米国やフランスは、自国の海運業の存在意義は沿岸航路の運営であり、その目的は内国貿易の援助としている。第二に輸出入貿易などの外国への依存度の高い国では、対外航路を運営しながら、外国貿易の援助を主たる目的としている。第三に対外的積極性に富む北欧などの海運業は、外国間航路を運営しながら、国際運賃の取得を主要目的としている。それぞれ国内輸送中心の海運国(第T型)、輸出入貨物中心の海運国(第U型)、三国間航路輸送主力型の海運国(第V型)と解釈されている(佐々木
1996)。
日本の海運業は比較的近年まで第U類型の性格を有していた。三国間航路の運営を拡大し、第V型の海運業の特色を持ち始めた。
日本の多くの海運企業では、船舶の所有、船員、保船が最も海外にアウトソーシングされている度合いが高い。船員のマンニングは専門業者に委託されるか、マンニングの拠点を海外に設置するケースが見られる。保船も同様に、海外の主要なシップ・マネジメント業者に委託される場合と自社で国内外に設置した独立組織にアウトソースされるケースがある。
日本の海運企業の将来像として、機能総合的経営が示唆されている。海運企業の多くは、早くから生産手段と経営資源を海外に依存している。次に外国人船員の雇用であり、海外での資金調達である。また投資行動を分析すると、大手海運企業は、海外に連結対象子会社を保有し、代理店業務からターミナルの運営や物流倉庫の運営などを行っている。
今日これらの企業は、多国籍企業に含まれると考えられる。しかし海運の中核的な機能は依然として本社に置かれており、またそれ以上に社員の意識においては、いまだに国際的なビジネスに従事するけれども、必ずしも多国籍企業とは認識されていないのではないか。
1.3 グローバル・オペレーションの4つの形態
日本の海運企業のグローバル化は、大きく分けて、以下の4つに分類される。
@意図せざるグローバル・オペレーション
大手海運企業の、原料ソースが日本から遠く空船の状態が増えると航海の区間を最小化するべく、他の貨物と組み合わせる輸送が考案された。しかし、海運企業自らによって、積極的な拡大は意図されてこなかった。
A受動的なグローバル・オペレーション
原材料の調達ソースや製品の販売先の多様化が、日本の海運企業の不定期船事業の海外進出を促していることである。海外で生産される完成車や紙製品の第三国への輸出や、日本企業の現地法人が調達する原材料の輸送の多くは、日本の海運企業が担っている。日本の製造企業の海外展開に追随した結果もたらされた「受動的なグローバル・オペレーション」と考えられる。
B能動的なグローバル・オペレーション
積極的に海外に展開する「能動的なグローバル・オペレーション」も増加している。これは外国荷主を対象とした外国間のトレードの拡大であり、当初の契約段階を除いては、日本の本社の関与は少ない。不定期船の輸送は比較的早くから一部に参入が見られた。最近ではLNG輸送に参入して以来約20年に及ぶ安全運航の実績とノウハウの蓄積を基に、日本海運企業が積極的に参入を果たしている。日本の海運企業の三国間輸送の拡大を促している。
C顧客追随のグローバル・オペレーション
定期船分野において不定期船の二番目と同様に、顧客の海外進出に伴うグローバル・オペレーションの拡大と戦略的提携(アライアンス)の進展を契機とするグローバル化である。日本メーカーの製造拠点の海外展開に伴って、日本企業が海外で生産する製品と海外で調達する原材料の外国間の移動などの顧客のロジスティクスをサポートするための体制作りが進んだ。
1.4 地域統括拠点の考え方
日本の海運企業が、日本を起点とするオペレーションからグローバルなオペレーションに拡大してきたが、現在でも全体としてはあくまでも日本の本社を中心としている。それでも三国間のビジネスが成長すると共に、日本からの遠隔のマネジメントには制約があり、現地の市場への浸透には限界があることが明らかになりつつある。そのために、アジア市場に現地法人を設立し、またそれらを統括する本社が設置されている。海外の現地法人を束ねる地域統括本社(拠点)が設置され、自律的な戦略を構築し、戦略の組織間融合を目的とした世界三極・四極体制は、広く日本の多国籍企業でも採用されてきた。
現地市場に即した経営を行う目的で権限を委譲した権力分散型連合体のマルチ・ナショナル型組織モデル、現地に能力、権限、意思決定権を分散しながらも本社の戦略を現地と調整の上実行する調整型連合体のインターナショナル型組織モデル、本社のグローバル構想に基づいて現地でオペレーションを行う中央集権的グローバル組織モデルである。日本企業の多くは、本社が世界本社として世界の拠点をコントロールする中央集権的なグローバル組織モデルが見られる。
日本の多国籍企業が、地域統括本社が成立する要件としては、(1)当該地域においてライン権限をもった責任者が現場で指揮命令を行うこと、(2)地域全体の事業展開に最適であるように経営諸機能がマトリクス的に調整されていくこと、(3)地域戦略と世界本社のグローバル戦略が密接にリンクして構成されていることである。日本企業の多くでは、本社から派遣された役員が各組織の代表を兼務するケースが多いものの、個別の機能を持つ本社が地域の中で並立していることが多い。統合機能が地域統括会社に求められる必要要件であるとすれば、日本企業の現地法人の多くはこのモデルに当てはまらない。
日本の海運企業の海外組織は、一部の自社の現地法人を除いては、寄港地の代理店を本社と繋ぐ海外ネットワークを基本としてきた。元来資本関係のない現地企業に代理店業務が委託されてきたが、1980年代半ばの外航海運業の構造変化により、新しい企業戦略に対応するべく自営組織化が進められた。
@定期船の地域統括拠点
定期船部門の地域拠点は、各社共に、北米、欧州、主要市場の中心に設置されている。それらの設置理由は、(1)複合一貫輸送サービスの展開、(2)外国間航路の航路運営、(3)グローバルに展開する日本の顧客のサポート、(4)現地顧客への対応のためである。
統合機能が地域統括会社に求められる必要要件であるとすれば、日本海運企業の現地法人の多くは、現地への権限の委譲やグローバル展開は、必ずしも企業のレベルではなく事業レベルに留まる。
A不定期船の地域統括拠点
不定期船のグローバル・オペレーションは、海外拠点は、リエゾン機能から自律的な自己完結的な判断機能を有した拠点に変化しつつある。かつて海運企業のニューヨークやロンドンなどの主要海外支店に置かれていた不定期担当者の職務は、主に国内の顧客のサポートや本社では扱いきれない水域に運航されている船舶の運航業務などに限定されていた。今日海運企業三社は、これらの組織を発展的に解消し、それぞれに不定期船事業の現地法人をアジア、北米、ヨーロッパの海外主要拠点に設置している。三国間の不定期船輸送の多くは、スポット・マーケットでの取引であり、専門性と信用力が求められる問題があった。さらに権限委譲ができない日本人の特性から、現地人スタッフを積極的に起用することも、彼らを管理することも容易ではなかった。日本の不定期船事業が国内顧客を志向していたために、海外に設置された地域統括組織を中途半端な位置に置かれてきたといえる。
一方で、日本を起点とせず三国間航路をシャトル運航される専用船の出現や、海外顧客を対象とする現地市場への参入には、従来の組織では限界があることが認識されつつある。そのため不定期船の海外現地法人を顧客に近接した地点に構えることにより、新たな市場への浸透が試みられている。自己完結的なビジネス遂行能力を持った拠点に大きな一歩を踏み出しつつある。
これらの不定期船の海外現地法人の活動の特徴は、人材の現地化を進めて地域市場に参入し、さらに自己完結的なオペレーションを目指していることである。具体的には、現地法人に一定量の船隊が委託されて、自己完結的にビジネスが行われることが志向されている。
不定期船事業のオペレーションとマネジメントの関係は、第一に標準化されたサービスを提供するバルカーは、市場原理に基づいて契約が行われ、運航が外部に委託されることが多い。そのためグローバルに運航されるバルカーのマネジメントは、外部組織のサポートを得ながら、本社を中心に行われる。第二に、日本国内の顧客との専用船などの長期契約は国内で行われ、日本を起点とする運航やきめの細かい顧客対応が求められる。本社での一元的なマネジメントが不可欠である。第三に、三国間の限られた区間を運航される自己完結性の高いサービスについては、本社で意思決定や基本契約が締結された後に、更改契約やオペレーション業務は現地で行われる。航路も顧客も海外にあり、現地市場での対応が不可欠である場合には、現地法人に権限が委譲され、契約を含む意思決定からオペレーションまでが、現地を中心に行われる。意思決定、契約を含む営業活動、運航業務の三つの機能が置かれる最適地を考えると、下記のように類型化できる。
図表1 不定期船ビジネスの適地
意思決定 営業活動 運航業務
バルカーなどの標準的なサービス
本社
本社 * 本社
国内荷主向け長期契約に基づくサービス
本社
本社 本社
専門性の高い三国間輸送サービス
本社 本社・現地
本社
現地市場志向のサービス
現地 現地
現地
(*
外部委託)
B多極展開による現地化の進展
本社の意思決定および権限の分権化の動きが明らかになったが、企業レベルの戦略の決定は、現時点でも本社が中心に位置していることは共通している。つまり、日本の海運企業として、船舶の投資計画や事業戦略などの高度な意思決定は本社で行われており、オペレーションは自己完結的にそれぞれの最適地で行われる傾向にある。
またマネジメントの状況を概観すると、海外の自律的な組織の中では、日本人が中心となり、日本人のマネジメントの下で外国人社員の活用が図られていることから、「人の現地化」の進展の度合いは低い。またサービス創造や経営資源の海外調達において、現地の潜在能力が期待されて、海外の拠点から本社にフィードバックされるケースも少ない。コストの削減、新規市場への参入、ビジネスとの適合性のなどの観点から、本社の一極集中の体制が変化しつつあるが、グローバル化の進行の中にあっても、日本の海運企業は本国中心のエスノセントリックなマネジメントの形態を堅持している。
日本の海運企業の将来展望としては、日本の荷主との長期契約を主として選択し、外国企業あるいはスポット契約を従とした戦略を追求する限り、日本の本社の重要性に変化はなく、本社自体の海外移転には繋がらない。
2 日本企業の国際経営の難しさ
2.1 日本企業のコンテクスト特性
安室(1982)は、日米の経営システムの比較において、Hall
(1976)の提唱するコンテクスト概念を用いて、日本を高コンテクスト社会、米国を低コンテクスト社会との比較の上で特徴付けている。「人間同士の関わりの度合い」と説明されるコンテクストが高い日本の企業組織では、構成員の中に行動の道筋を決定する所定の情報が内在化されており、伝達されるメッセージ自体には最小限の情報で事足りる。一方で米国のようなコンテクストの低い構成員には、共有される価値と規範を含む情報がないため、構成員の機能は個別化、分断化、専門化され、伝達されるメッセージ自体に重要な情報が盛り込まれる必要がある。
同質性が高い日本にあって、さらに日本企業は社員に協調性の高い人材を求めて、また入社後に自社の独自の教育を施してきた。海運企業はそれらの一般的な日本企業の中でも特に、同質性が高く高コンテクストな社会を形作ってきたと考えられる。その理由として、全体の社員数が少ないこと、毎年の採用も少数であり企業内において緻密な研修プログラムが組まれていること、海上社員をはじめとして限られた出身校からの採用が行われていること、定期的なローテーション制度で全体の業務を一定のレベルで把握するジェネラリストが養成されていること、競争的というよりも協調性を重んじる社風であり人事制度であることなどである。つまり社員相互に、多くの情報が交換されることなく、十分な意思の疎通が図られる環境が維持されている。
日本人中心の国際経営が、代理店を通じた間接統治方式で行われていた時には、そのスタイルは大きな変革を求められることなく通用してきた。日本人の意を解した外国人の代理店員が、現地で通用すべく咀嚼して、行動に移したからである、しかしオペレーション自体が、海外の現場の隅々の業務にまで拡大して、直接的に関与することになると、外国人の積極的登用による異文化経営が避けられない。外国人船員の雇用に関する様々な課題は、まさにその典型例である。
外国人船員を含む外国人社員との連携の難しさに、日本人あるいは日本の海運企業が培ってきた同質性が作用しているとすれば、前述した同質性を醸成する理由の中から、特に海上社員の採用と社内のローテーション制度が大きく影響していると考えられる。日本の海運企業では、海上社員として国内の二つの商船大学と商船高専などの卒業生を中心に採用されている。これらの学校では、講義と同時に航海実習、スポーツ、寮生活などを通じて、まさに「同じ釜の飯」を食べた卒業生が同期として、また代々先輩後輩として同じ企業に勤務している。さらにジェネラリストを養成する目的で、陸上社員を中心に一定期間を脈絡無く異動させるローテーション制度が採用されてきたために、社員は社内の多くの部門を経験しながら様々な業務についての該博な知識を得ることになる。社員がお互いについての何らかの知識がある上に、それぞれが共通基盤として、あるレベルの知識を共有するために、職務に関する詳細が自己完結的にマニュアル化されることなく、業務が遂行されてきた。
そのような環境の中で、日本人社員の間では、職務概念と組織行動が規定されることの必要性が感じられなかった。その結果、個人ごとの職務の分担が不明瞭であり、境界領域においては自ら率先して処理をするか、相互依存の暗黙の了解に任された。社員に期待されるそれらの弾力的な職務行動は、非明示的であり、固より外国人には受け入れられにくい体質が根付いていたといえる。
2.2
「内なる国際化」
日本の海運企業のグローバル展開では、日本人が本社においても現地においても中心的な役割を果たしており、外国人社員に実質的かつ高度な決定権限が与えられているケースは限られている。また分権化傾向とはいえ、本社から権限を委譲された日本人が、現地で本社の意向に基づいて与えられた範囲の中で権限を行使しているに過ぎない。しかし、もはや日本人社員の知識や能力の限界を超えるオペレーションが現地で展開されている時、少なくともオペレーショナルなレベルでの外国人社員の積極的な活用と権限の委譲なくして、現地経営は成功しない。
吉原(1992)は、日本の企業が多国籍企業として発展するためには、「日本人による経営」から脱して、「内なる国際化」の必要性を指摘している。日本人による経営と日本の親会社中心のあり方を変えて、真のグローバル経営を目指した体制作りには、現地人参加の拡大と英語化にあるとしている。具体的には、現在内なる国際化を阻害していると考えられる不便、不安、不信を解消するシステム作りの必要性である。まず意思の疎通がうまくいかない不便さを積極的な英語の導入により、円滑なコミュニケーションに転化させることである。次に外国人を積極的に受け入れる際の不安や不信を解消するレポーティング・システムや職務権限の明文化や透明性の高い業績評価制度の導入である。同様のことが、日本人にも求められる。
日本企業がグローバル化し、異文化経営を円滑に促進する上で、様々なシステム化が重要な課題となっている。これらの考え方を海運企業の船員の雇用に即して考える。まず職掌と職務権限を明らかにすることが、第一に挙げられる。元来個人の境界領域が曖昧な日本の組織においては、不明確な領域を含めて広く職務をカバーすることが求められており、相互の暗黙の了解の中で円滑に遂行されている。コンテクストが低く、同質性という曖昧さに期待できない外国人社員に対しては、明確さと透明性と公平性のある職掌が提示される必要がある。二番目には、従来はその必要性を認めてこなかった業務のマニュアル化が求められている。知識の蓄積や経験のレベルの異なる外国人船員については、業務の範囲の明確化と共に、業務の方法の明確化も不可欠となる。限定的な期間雇用の形態をとる場合はなおのこと、属人的な業務の手法を廃し、誰でも職務を遂行する際のよりどころとなる業務マニュアルが整備される必要がある。三番目に、公平な評価システムが、円滑な業務環境の整備には必要となる。規定された範囲と方法に基づいて遂行される業務が、客観性を持って評価される基準の設定である。これらが船員の契約の更新や再雇用に明確にリンクする必要がある。また高いモティベーションをもち、期待以上の成果を出す人材についての処遇が、明示されることも考慮されるべきである。システム化にあたっては、単に本社のおかれた社会や文化を反映させた制度をそのまま置き換えて導入するのではなく、低コンテクストの環境において対象者が理解しうるレベルと自己完結性が必要になる。
これらの業務のシステム化は、単に外国人社員との対応策としてだけではなく、実は国内においてもその必要性は増大している。なぜならば、派遣社員の雇用が一般化している中で、国内外を問わず業務のアウトソーシングを適切に進めるためには同様の考え方が必要であり、ISO9000シリーズの取得のためには継続的な見直しを含めて本格的な検討が考えられるからである。
最後に共通語としての英語の必要性についても触れておきたい。日本企業の円滑な異文化経営を阻害している要因のひとつに、英語が挙げられる。経営のグローバル化を推し進める上で、様々な国籍の顧客や社員とのコミュニケーション・ツールの英語の必要性は、当然のことと考えられる。しかし日本の代表的な国際ビジネスと目される総合商社、航空会社、海運企業においても、日本人社員の英語が大きな異文化経営のハンディキャップになっている事実がある。自分の求めることを相手に適切に伝えられないこと、相手の質問や要望を正確に受け止められないことは、さきに述べた業務の形式知化を進める上で、曖昧さを残す原因になる。
国内の本社と日本人を中心に行われてきた日本の海運企業の国際経営が変わりつつある。しかしその本質は日本人中心であることに変わりは無く、海外市場をターゲットに入れた現地への一部権限の委譲に限定されている。今後オペレーションのグローバル化が、現地化と共に進展するとすれば、現地の人材の活用なくして地球規模のビジネスは不可能になる。
吉原が日本企業のグローバル化に向けて、日本人の意思決定の過程の改善について指摘するように、日本の海運企業の外国人の雇用には、従来の考え方の延長線ではなく、「システマティックに、よりフォーマルに、よりビジブル」な対応が求められている。
(執筆:星野裕志、要約:村山義夫)
C グローバリゼーションと異文化マネジメント
1.混乗船経験に見る異文化間マネジメントの問題
1.1 混乗船の出現
わが国の外航海運において、混乗船という配乗方式・運航形態が出現しはじめたのは昭和40年代の後半からであり、混乗船出現の当初はまさに予期せぬトラブルの続出で、船内当事者はもちろん陸上の海技スタッフも翻弄され、こうした混乱状況は昭和60年代まで続いた。
1.2 混乗船社会と異文化間トラブル
船内集団は小さいながらも法的に独立した社会であり、海上を移動する生活共同体、危険共同体である。船籍国の社会であり、法制上はその管轄下にあるが、実質的には船主または運航者の支配下にあり、また船内社会の運営も社会の長である船長に委ねられる。
この状況が、異文化間のさまざまな個人的集団的葛藤・摩擦が日常的に発生させている。異文化間トラブルの多くは双方の当該事態に対する認識枠組みの違いから発生し、相手の認識枠組みが理解できなかったり、また発生原因を間違って推定することから発生する。
1.3 トラブルの類型と発生メカニズム
@日本人クルーの態度
日本人の役割は相手国クルーのマネジメントにあり、従って「命令に従うのが当然」という論理と「言えば伝わるはずだ」の日本的了解方法が相俟って、相手側の論理が見えにくくなる。
契約会社では、マネジメント上の指示命令とは、「目的・方法・期待成果を明示し、所期のの目的を達成すること」が常識であり、従って、日本人マネジャーの指示・命令不適切がトラブルの直接的原因となる。「言われなくてもやる」という「暗黙裏の了解」は日本的コミュニケーションの神髄であり、「察しの美学」もって善しとする価値・文化が根づいているからである。この越え難い障壁をどのように克服するかが「異文化との共存」の基本的課題でもある。
A予期せぬトラブル−コミュニケーション(言語)をめぐって
混乗船においても言語観の違いから発生するトラブルは「言えば分かるはずだ」という言語観が相手にどのように受け止められているかを確認していない。「言った事はそのように伝わるはず」の無意識的思い込み、つまり日本的言語観にも問題がある。コミュニケーションの有効性は第一に発信者の意図・想いがどの程度適切にメッセ―ジ化されているか、メッセージを相手がどのように受け止めているかの確認の有無にある。混乗船現場では言語能力、さしずめ英会話能力の向上は当然の対応策であるが、それだけでは十分でなく、ダブル・チェック方式や文書伝達方式など伝達手段が必要である。
B予期せぬトラブル−コミュニケーション(非言語)をめぐって
ことばは思いを伝えるメデイアであるが、しぐさ・ゼスチャー・アクセントなども重要なメディアである。これら非言語手段はボディ・ランゲージ、パラ言語とも言われ、言語以上に思いが伝わる場面もしばしばである。習慣や慣行のなかで身についた文化であるので、同じ動作やしぐさであっても文化により異なって意味づけることが大いにありうる。
C異文化との共存課題−差別・偏見
(優越感と差別)をめぐって
自民族や自文化に誇りをいだき、それが郷土愛や愛国心を育む。しかし、自民族や自文化に強く撞着し過ぎると、他民族や他文化が相対的に劣っているように感じ、行き過ぎると他者蔑視・差別となる。また他者蔑視・差別は劣等感に対する無意識的反動から生じることもしばしばある。いずれの場合でも、差別や蔑視は「する側」の思いとは関係なく、「される側」の被害意識から判定され、相手がそれは差別・蔑視だと感じ不服を表明すれば成立する。
D異文化との共存課題−差別・偏見
(ステレオタイプ)をめぐって
相手に対する基本的態度は、特定の対象に対して先ずはそれが好きか嫌いか、という単純な感情レベルの評価から始まり、さまざまな状況で繰り返しチェックされ修正が加えられて安定的評価となって固定する。そして一旦形成された態度はその対象を見るメガネとなり、それで評価しようとする。
E異文化との共存課題−差別・偏見
(国情の違い)をめぐって
日本人が欧米人を見る目とアジア人を見る目は違う。前者は文明を吸収して追いつく対象となった人々、後者は発展の支援をする対象としての人々に対する目である。アジアの国々に対する過小評価(偏見)や不当評価(差別)、すなわち「日本人の謂われなき優越感」が無意識に生まれる。無意識的であることがこの問題を根深くし、日本人のヒト国際化の内なる課題として指摘されてきた。
図表2 混乗船トラブルの類型と発生因
コミュニケーション 差 別
指示理解違い ←「察し」は特定集団
他者蔑視 ← 準拠集団撞着
言語理解違い ← 語彙のスレ違い
決めつけた評価 ← ステレオタイプ
非言語理解違い ← 慣習が規定する
優越感 ← 社会経済環境
2 異文化マネジメントの課題
2.1 グローバル化による異文化接触
90年代以降、企業の海外進出が進行し、特に工場の現地化にともなう技術・技能の空洞化とその伝承問題は日本の誇るモノづくり立国に警鐘を鳴らし、今日においてもその対応に苦慮している。また現地化に伴う人事管理や経営管理における日本的経営手法の限界も露呈し、コミュニケーション課題、マネジメント課題がクローズアップしてきた。世界の拡大や国際人としての人格形成など、このチャンスを生かすためには、外国人とのつき合い能力・対人能力が前提となり、いくつかの障害条件をクリアしなければならない。
2.2 文化をめぐる基本的課題
@異文化間葛藤・摩擦は避けられない
ヒトはいずれの民族・国籍であろうと、文化というメガネから自由ではない。文化はある社会・集団に固有な生活様式の総体であり、したがって所属集団が異なれば価値観や習慣・慣行なども異なってくる。また異文化接触場面は言葉や信念・価値観の違う人々の出会いの場であるので、相互理解の範囲には自ずと限界があり、その結果としてさまざまな社会的葛藤を経験することになる。この意味では、混乗船社会にみる異文化間葛藤は日本人クルーの課題であると同時に、日本社会の多文化・多民族型社会への移行期における日本人一般の異文化間課題と重複するところが多い。
A人は文化を生きる
「異文化」つまり、文化とは(1)後天的に学習・獲得され、(2)その社会のメンバーに共有され、(3)それは伝達・蓄積される、という3つの要件をみたす生活様式の総体ということになる。
ヒトはある特定の民族・社会で生まれ育つ。そして物心がつく頃までに、その社会を生きていく上での基本的文化を身につけてしまう。自分が所属する社会集団のメンバーとして期待される基本的行動様式である。異文化トラブルの多くはお互いに相手の行動を自文化の枠から解釈してしまうところから発生する。
異文化間葛藤・摩擦を回避するために、とりあえず出来ることは、自文化のメガネの構造やその仕組みを知ることである。しかし、日本社会は自文化そのものを相対化する必要性が希薄であったので、異文化音痴たらざるをえないハンデキャップを負う。
B言葉の壁
異文化間トラブルの多くは「ことばの壁」であり、言語が異なれば、思考(世界観や価値観)も異なってくるし、社会的行為(行動習慣・規範など)は言うに及ばず、物理的環境や自然現象に対する意味づけ・解釈まで異なってくる。
パラ言語(手振り身振り・表情・抑揚・間合い)など非言語手段も大いに活用する。ボデイ・ランゲージやジェスチャーは勿論のこと、場面次第では「沈黙」も重要な意味をもってくる。
C異民族との接触体験の欠如
わが国は有史以来、戦争や民族移動などを契機とする他民族の大量侵入・流入とその結果としての他民族との融合混合の経験はない。そしてわが国は有史以来、海外文化・文物の国内摂取に関しては極めて貪欲・積極的であったが、ヒトの受け入れに関しては抑制的消極的であった。
「異質を排除し、同質は強化すべし」は小さな集合体である村落共同体維持の典型的社会規範である。これら規範意識の背後にある社会的仕組み“日本的集団主義”はそれほど簡単に消滅しないであろう。
21世紀が多文化主義や多文化社会を標榜するならば、先ずは内なる国際化課題克服を意識したさまざまな試みを速やかに着手すべきであろう。
3 日本人は日本的か
3.1 自己相対化の試み
「日本人論」や「日本文化論」の量は膨大である。それらは二軸に整理できる(青木保)。一軸は日本人の国民性や日本文化の「特殊性」か「普遍性」を強調する特殊―普遍の軸、二軸はこの特殊性を「肯定的」に評価するか「否定的」に評価するかの肯定―否定の軸である。日本人の国民性や文化の優越性や希少性を論述する著作が多く、またこれら著作は往々にして厳密な文化比較の手続きを経ない主観的論述の傾向が強いことを指摘している。そして、部分の拡大解釈や歴史性の軽視・無視、そして自己相対化努力の不足→特殊性の思い込み、といった自文化中心主義の弊害に陥りがちであることを警告している。従って、今日のグローバル社会における文化論の再構築が急がれる。異文化理解の第一段階は自文化そのものの理解にあり、その方法の一つは他の文化との比較から自文化を相対化すること(自文化への気づき)である。
3.2 53カ国価値観比較から
文化は“集合的に組み込まれた考え方・感じ方・行動の仕方のメンタル・プログラム”であり、個人レベルのパーソナリティに強く影響する(G.ホフステード)。所属する集団(社会階層・年代・性などのカテゴリー集団)毎に形成されるという文化の重層性も強調し、いずれの社会においても無視できない行動の基準として4次元に絞り込んだ。
(1)権力格差の受容尺度・・・・・・・
社会的不平等を許容する程度
(2)個人主義―集団主義尺度・・・
個人と集団に対する依存度
(3)男性性―女性性尺度・・・・・・・
性役割への期待度
(4)不確実性許容尺度・・・・・・・・・
あいまい性を許容する程度
これらの次元で、個人の社会心理的解釈及び客観指標との関連から各国の特徴を以下のように示した。
a.各国の権力格差受容度は平均的で特徴は見られない。リーダーシップ・スタイルの選好も専制的タイプと民主的タイプに別れ、個人差が大きいことを示唆している。
b.日本人が集団主義志向か個人主義志向かに関しては、どちらかと言えば個人主義志向に傾く。アングロサクソン系に目立つが、世界のほとんどの国は個人主義志向でなく、集団主義志向といえる。
c.日本人の男性性スコアーは他の国に抜きん出て高く、競争社会を受け入れ、進歩を尊び、結果として出世志向と物質的成功を強く志向する。
d.日本人は不確実性に対する許容度は低く、曖昧であることに不安を感じる度合いが強い。日本社会・日本人は競争社会を受容しているものの、その結果として社会的緊張や不安傾向が強い。
e.欧米の価値観は世界の中心ではなく、南欧ラテン系民族と北欧系民族間の価値観ギャップも大きい。
f.アジア諸国は概して一群のグループを形成するが、日本はやや外れた位置にある。
3.3 日本的価値観とは何か
生命保険文化センターの「日本人の生活価値観調査」は、戦後日本人の生活行動の背後にあり日常的世界を裏で操る日本人の深層意識・価値意識を"大人主義"として位置づけ、またその検証を試みた。大人主義は「戦後民主主義を受容しながらも、ホンネでは伝統的な家族・ミウチ意識や世間を強く気にする身辺的利害優先の生活価値観」と定義づけられている。つまり、民主主義をタテマエとして標榜しつつ、一方ホンネでは、伝統的なミウチ意識や人情の世界を捨てきれず、むしろそこに安心立命の境地を得ようとする矛盾した顔をもつ日本人像である。
さらに1991年の調査では、日本人の生活価値観は「大人主義」と「自分中心主義」に大別され、前者の大人主義は「人情志向」・「家族志向」・「自立志向」の下位領域からなり、後者の自分中心主義は「自己顕示志向」・「安楽志向」の下位領域からなるとしている。
最近、筆者らが同様の調査を、東アジア諸国、漢字文化圏である日本・韓国・台湾・中国の4ヶ国大学生を対象に実施した結果、過程で在日アジア系留学生は日本人学生に比べ、「大人主義」価値をはるかに支持しているとの意外な結果を得た。
日本人学生は韓国・台湾・中国の各学生に比べ、大人主義得点及びその下位尺度であるミウチ(家族)志向、人情志向、世間志向のいずれの志向得点においても著しく低いスコアーを示し、大人主義が日本社会に固有の生活価値・価値観であると断定することはできない、というものであった。また、日本人に固有の行動特性と見なした「上下意識」、「感情抑制」、「ガマン主義」など儒教的価値観との関わりが強いこれら行動特性も日本人学生の方が明らかに低い、という結果である。
この事実は「大人主義が日本人に固有の生活価値観」という前提と矛盾する。一方、アジア系留学生にとって、“日本的”生活価値観・行動規範は支持され有効に機能している。この結果をどのように解すべきであろうか。この見解は筆者らの調査結果と矛盾するものではない。つまり、「日本的」と信じてきた、むしろ思い込んできたその底流は「儒教的価値観」と深くかかわりをもっていた、とも言える。
儒教的価値観を底流とする生活価値観は今日の若年層においては急速に希薄化したが、韓国・台湾・中国など儒教文化圏においては、若年層においても依然として機能している。つまり、今日の日本社会は儒教的価値観を逓減させる方向に向かっている。終身雇用制の崩壊と結果としての短期的成果志向、家制度の崩壊と結果としての家族や身近な人々との関係希薄化、経済的豊かさの達成・経済的価値優先の仕組みと結果としての物質主義重視といった社会変化や社会規範の変化等によって、日本人若年層は自らの行動指針や行動規範となりうる価値・価値観をもてないでいる。
4 東アジア文化圏に生きる
若者が自らの目指す方向を見出し得ないという傾向は、将来の日本の方向性を暗示する。先の混乗船経験では日本人の「自文化」押しつけの問題が浮かび上がったが、今度は文化の土台喪失に通ずる。これは異文化接触の根底の喪失であり、文化的交流の困難さに通じるので、文化的土台の構築または再編が必要である。
文化の構築はそう容易いものではなく、潜在的価値・価値観を再編成する方がはるかに現実的である。潜在的価値観のうち有望な一つは、これまで触れてきた儒教的価値・価値観であろう。儒教的世界観・価値観を今日の状況下で再確認し、このスタンスから「日本的生活価値観」を再吟味することは意義ある作業であろう。
儒教的価値・価値観に注目する第一の理由は儒教または儒教イデオロギーは2000年以上の年月を生きぬいてきたという事実である。第二の理由は儒教の広域性である。儒教的価値・価値観及び世界観は中国社会だけでなく、台湾・韓国・日本といった漢字文化圏、またベトナム及び東南アジア華僑社会等においても、日常生活の基層として今日息づいている。
第三の理由は、自然支配を正当化する人間中心主義の一神教的自然観とは対照的に、人間と自然の限りない共生関係をその根幹とする自然主義的思想・哲学であり、21世紀の環境問題など国際レベルの緊急課題解決のキー概念になり得ることである。第四の理由は儒教の実践性にある。儒教は生命の連続性という時間軸を核とする思想体系・世界観であるが、親子・兄弟というより身近な人間関係を優先し、その後次第にその関係性が周辺に及んでいく、という個別志向的関係を強調する。
第五の理由は儒教・道教思想の現実志向性である。日本人の生活価値・価値観は歴史的に三教と深く関わりがあり、改めて儒教的世界に関心を抱き、その価値観を今日的環境に適応的に更新できれば、孤立国家日本からの脱皮は可能と思われる。
(執筆:青木修次、要約:村山義夫)
D 陸上産業における異文化組織マネジメントからの示唆
1 陸上産業におけるアジア展開と準拠集団
1.1 日系製造業の現場における「二重の社会化」
異文化社会の中で活動することは、海外に赴任したスタッフには精神的・肉体的な負担をもたらす。その社会学的要因としては、異文化社会では社会化の対象であった社会・文化システムそのものが変更されるため、「新たな社会化」が必要になる。
日系製造業がアジア地域に工場を立ち上げ生産活動を行う場面では、赴任した日本人スタッフサイドでは、当該地域に適応するための新たな社会化が開始される。一方、日本的経営スタイルによって構成される現地工場(ミニ日本社会)の中で雇用される現地人従業員サイドにおいても新たな社会化が開始される。つまり、日本人スタッフの当該地域(異文化社会)への適応と現地人従業員の日本企業(ミニ日本社会)への適応といった「二重の社会化」が発生することになる。異文化組織マネジメントの根本的な問題は、この二重の社会化をどのようにバランス良く行い、組織内での葛藤を如何に軽減できるかにある。
1.2 準拠集団の3つの機能
この二重の社会化の問題は、社会学における準拠集団論で説明できるかも知れない。準拠集団には、第一に社会的行為の基意味での規範機能(normative
function)、第二に他集団と自分が所属する集団との比較を行う場合の基準という意味での比較機能、第三に自分の社会的行為の方向づけという意味で見通し機能がある。
実際の日系製造業の現場では、「二重の社会化」が存在していることと同時に準拠集団自体も日本人スタッフにとっての準拠集団と現地人従業員にとっての準拠集団といったように2つの集団に分かれており、複雑な人間関係が形成されていると見て良いだろう(図表3参照)。
図表3 日系製造業における二重の社会化と2つの準拠集団
日系製造業の進出国
日本社会
日系製造業
現地人従業員の準拠集団 日本人の準拠集団
日本人スタッフの現地社会への社会化と現地人従業員の
日系製造業への社会化が同時に発生する「場」となる
1.3 現地人従業員の新たな社会化の
ケース
@ケース1:基本的なQCサークルの導入による規範機能の形成
日系企業(A社)が、日本的生産活動の基本的考え方を花壇づくりといった基本的なQCサークルをとおして、日本人スタッフが期待する役割を現地人従業員に理解してもらうといった方法は、現地人従業員にとっての新たな準拠集団となる上で、規範機能を重視したケースである。
Aケース2:日本での国内研修による比較機能の形成
日本国内での研修期間は多種多様であるが、現地人従業員は、日本の社会・文化システムの中に自ら身を投じることになり、研修期間をとおして日本人のものの考え方や行動様式を学ぶことになる。同時にこの研修期間は、自分の母国の社会・文化システムを日本という国から相対的に見つめ直す機会ともなる。日本国内での研修期間が長期になるほど信頼関係が深まり、その結果、現地人従業員は帰国後において日本的経営スタイルを当該国に移転する上での重要な担い手になってくれる可能性が高いと評価されている。
Bケース3:日系製造業の「現地化」と
不十分な見通し機能
東アジア地域で活動する日系製造業の共通問題の一つが現地人従業員のジョブホッピングである。深刻なのは長年手塩にかけて育て上げた幹部候補生における転職である。この背景には米国企業と比較し、日系製造業の場合、現地人従業員の昇進にはある段階で「壁」が存在しているという意見もある。現地人従業員が将来にわたり日系製造業で働くことで、どのような地位を獲得できるのか、どのような役割を実践できるのかが不明瞭である場合には、その日系製造業は現地人従業員にとって将来を見通す機能を発揮しているとは言えないのである。より可能性の高い外資系企業(欧米企業)があれば転職してしまうのは当然と言える。
しかしながら、日系製造業における見通し機能の不足は、単純に解決できる問題ではない。というのは、日本的モノづくり自体が、きわめて日本の社会・文化システムと密接に絡み合っている。日系製造業(現地子会社)の幹部は、日本本社とのコミュニケーションを円滑に進めることが第一義とされる傾向が強いからである。これは日系製造業の「現地化」の問題の一つでもあるが、日本的モノづくりが海外でモノづくりを展開する上で、どのような企業ネットワークを形成しているのか、どのような国際分業体制を構築しているのかといった問題とも関わっており、単純に現地工場の組織内問題とは言えない根深い問題である。
日系製造業における現地人スタッフへの「権限委譲の問題」は、実は、日本国内の本社がどの程度海外子会社に権限委譲を行っているのかいった問題と連動しているのである。日本企業における「権限委譲問題」は今後ますます“システム”としての改善・改良を迫られることになるものと予想される。
1.4 日本人スタッフの新たな社会化の
ケース
@ケース1:日本的感覚による対応が
もたらす規範機能の低下
日本国内では、従業員のミスがわかった場合、その場で叱ることも多々あるが、タイでは人前で叱られることは本人にとって日本人が想像する以上に屈辱的なことなのである。こうした慣習を理解せずに「安易に指導」することは、感情的には相互にとってマイナス効果となり、結果的に組織内の規範機能(相互の役割を理解するための機能)を低下されるだけでなく、さまざまな組織内葛藤を発生させる原因となる。
Aケース2:比較機能がもたらす日本人の権威主義化
準拠集団はそのメンバーが他の集団を見る場合の比較基準となるが、日本社会を頑なに準拠集団の比較機能として捉え過ぎると現地人従業員とのトラブルが発生する。日本以外のアジアの人々を軽視・軽蔑する傾向が現地に赴任することで増幅するケースがある。こうした権威主義化の問題は、過去の歴史的出来事も含めて日本及び日本人が他のアジアの人々からどのように見られ、どのような期待をもたれているのかを深く考えることなしに赴任した場合の「日本人(日本)にとっての悲劇」と言わざるを得ない。
Bケース3:見通し機能により日本には戻らないでアジアに骨を埋める
アジア地域の日系製造業で活動している日本人スタッフには、アジアの魅力に取り憑かれて日本には帰らないといったように人生の方向転換をした人が少なくない。これは「ケース2」の権威主義化とは全く反対の現象で、日本的モノづくりをアジアの中で立ち上げることに将来の自分の居場所を設定したという意味で、当該地域あるいはアジアでの活動自体が見通し機能を発揮したケースと言える。
2 陸上産業の異文化組織マネジメントの特徴
2.1 日系製造業におけるコミュニケーション言語
実際にアジア地域で活動している日系製造業の現場における特色の一つにコミュニケーション言語の問題がある。日系製造業におけるコミュニケーション言語に関する調査結果の概略を示すと以下のようになる。
@タイ日系製造業における場面別のコミュニケーション言語
タイ日系製造業の場面別のコミュニケーション言語の特徴は、想像以上にタイ語の使用頻度が高いが、役員会議や契約等々の場面では英語の使用頻度が高くなっている。また、工場現場や“飲みニケーション”の場面では日本語もある程度使用され、タイ語、英語、日本語といった多様な言語によるコミュニケーションが展開されている。
Aマレーシア日系製造業における場面別のコミュニケーション言語
マレーシア日系製造業では、殆どの場面において英語をコミュニケーション言語として使用しているが、部門内ミーティング、工場現場及び“飲みニケーション”等では日本語もある程度使用されている。一方、中国語を使用するケースも若干ではあるが見られるなどマレーシアの民族的多様性を反映した結果となっている。
Bシンガポール日系製造業における場面別のコミュニケーション言語
シンガポールの場合は、公用語が英語、中国語、マレー語、タミール語と多岐にわたっていることもあり、殆どの場面において英語が使用される頻度が高い。また、作業現場や広報・営業・契約書関係においては中国語が使用されるケースも比較的多くなっている。
アジア地域で活動する日系製造業の場合、コミュニケーション言語の傾向には違いが見られる。さらに、日系製造業という「異文化組織」の各種の場面で使用される言語にも多様性を確認することができる。こうした場面毎のコミュニケーション言語の多様性とは、異文化社会の中で活動する日系製造業にとって必要とされる「人材」とも関係している。というのは、各場面は、言い換えれば「セクション」及び「組織内の地位」の違いを意味しているからである。
例えば、現場の作業マニュアル・掲示板あるいは工場現場で使用される言語では「母国語」の比率が高く、役員会議で使用される言語では、「英語」が使用される頻度が高い。これらの事実は、組織内のセクション及び地位と使用される言語の関係性を示唆している。そこで、東南アジア地域で活動する日系製造業の組織構造とコミュニケーション言語の関係を一般化してみると図表4のようになる。
図表4 東南アジアの日系製造業における組織構造とコミュニケーション言語の関係
役員・幹部層 基本的に英語を使用
日本人役員同士は日本語※
中間管理職層 英語、日本語、現地母国語
組織外とのコミュニケーション (広報・営業・契約)殆どが英語
製造現場層
現地母国語、日本語 中国語
作業マニュアル・掲示板:
現地母国語
“飲みニケーション”の場面では、英語を中心としながらも、現地母国語、
日本語、さらに中国語と様々な言語が飛び交う
2.2 日本的スタイルの導入状況の相関
タイ、マレーシア及びシンガポールで活動して日系製造業が日本的経営・生産スタイルをどの程度導入しているか、日本的経営・生産スタイルを構成する項目間の偏相関係数を求めた結果、3カ国で活動している日系製造業における日本的スタイルの導入状況は「稟議制度」「小集団活動(QCサークル)」及び「Off-JT」の3項目(変数)が中心的役割を果たしており、日本的スタイルの骨格を形成しているものと推察される。
2.3 導入状況の相関ダイアグラム
上述の結果による日本的スタイルの導入状況の相関ダイアグラムは、図表5のようになる。日本的スタイルの導入状況は「稟議制度」、「年功賃金・昇進システム」、「経営理念の徹底」及び「経営面への提案制度」といった日本的経営システム的側面と「小集団活動」、「社内の結束強化策」、「On-JT」及び「Off-JT」といった企業内の凝集性及び製造技術的要素から構成される日本的生産システム側面の2種類のクラスターによって構成されている。
また、前述したようにこのような位相の中で「稟議制度」、「小集団活動」及び「Off-JT」の3項目(変数)が重要な位置を占めており、特に「小集団活動」は日系製造業の日本的スタイルの導入において、日本的経営システムと日本的生産システムの各項目(変数)リンケージする機能を果たしているものと推察される。
図表5 日本的経営・生産スタイルの導入状況の相関ダイアグラム
2.4 技能の伝承・移転の問題
技能の伝承と移転を総合的に捉えてみると図表6のようになる。技能には「タテの伝承」と「ヨコの移転」というルートが存在している。つまり、「タテの伝承」とは、企業組織内における技能の世代間伝承を意味し、具体的には日本国内での若手技能者の育成を如何に効果的に実践するかといった問題である。一方、「ヨコの移転」とは、企業組織内における現地人従業員の育成の中で技能伝承をどのように位置づけるかといった技能の国際移転の問題である。
所:北嶋(1998)を加筆修正。
さて、このタテの伝承とヨコの移転には、技能内容の記述化・外部化という対応策がある。具体的には、技能のマニュアル化、テキスト化、さらにIT(情報技術)の活用である。特に高度技能を担う熟練技能者は、その高度技能を「身体」で習得しているため、それらを簡単に記述化・外部化することは困難な点が多い。いわゆる「暗黙知(tacit
knowledge)」の領域をどう扱うのか、それをどのようにして形式知(explicit
knowledge)に置き換えながら伝承・移転するのかが重要な課題となっている。しかし、この「暗黙知を形式知に置き換えること」の意味は慎重に検討すべき
ものであると筆者は考えている。
つまり、高度な技能を実践している熟練技能者の持っている技能を伝承・移転する場合に「身体」の重要性をどの程度認識しているかが異文化組織マネジメントの中で技能を位置づける場合にも重要となってくるのである。技能という知識構造の一部を如何に記述化・外部化しながら、身体を通じて伝承・移転するかが重要となる。
3 アジア地域との関係深化が及ぼす影響
3.1 グローバル化の進展の中での国内
のモノづくりの重要性
異文化組織マネジメントを効果的に実践する以前に製造業(陸上産業)では、グローバル化の反作用として、国内でのモノづくりを如何に継続して行くのかという地域産業及び地域雇用と関わる問題を無視することができない。
また、こうした経済・産業のグローバル化の進展は海上産業においても同様と思われるが、国際競争力を維持・向上させる上でもアジア地域と日本国内での企業活動における「棲み分け」を図ることは陸上産業のみならず海上産業のグローバル戦略にとっても重要である。
3.2 中小製造業の技術力比較
(財)機械振興協会経済研究所の調査では、日本の中小製造業から見たアジア中小製造業の技術力が3年後に日本よりも優位に立つ国・地域は存在していない。
しかしながら、国・地域別の3年間における評価点の上昇幅について見ると中国・中小製造業の技術力評価点が急速に上昇しており、特にその傾向は中国華南地域において顕著で2005年の評価点はシンガポールと同水準となり、これはASEAN諸国のみならず台湾よりも高い評価点である。
このように日本中小製造業(経営者)は、華南地域を中心とする中国・中小製造業の技術力が急速に向上して行くものと予想している。
3.3 中小製造業の得意な技術と空洞化
している技術
(財)機械振興協会経済研究所が中小製造業を対象に「自社が最も得意としている技術」及び「既に空洞化が始まっている技術」について調査した結果は以下の通りであった。
@自社が得意としている技術の分野
「自社が最も得意としている技術」(3つまでの複数回答)は、「MC(マシニングセンタ)による加工」が最も多く、次いで「NC旋削加工」、「設計」、「NCフライス加工」及び「電子・電気組立」、「固定砥粒による研削加工」といった順で、工作機械による加工技術が上位を占めている。また、他の加工分野としては、例えば「打抜きプレス加工」、「溶接」、「冷間鍛造」などがあるが、レーザー加工分野や金型分野は思ったほど多くない。
A空洞化が始まっている技術の分野
既に空洞化が始まっているとされる技術は、「鋳造」が最も多く、次いで「NC旋削加工」及び「電子・電気組立」、「MCによる加工」及び「溶接」、「樹脂射出成形」及び「プラスチック成型用金型」、「NCフライス加工」及び「打抜きプレス加工」といった順である。
B得意技術と空洞化技術の相関
「得意な技術」と「空洞化している技術」の回答データについて相関係数を求めてみるとR=+0.52となり、比較的高い正の相関を示した。
以上の調査結果の要約とそれから浮かび上がる課題は以下の通りである。
・現在、日本国内の中小製造業では、「(これまで)自社が得意としてきた技術=国際競争力のある技術」とは決して言えない状況にある。
・日本の中小製造業は、その得意とする技術分野自体が日本からアジア地域等の海外に移転・流出しており、その結果、複数の技術分野においてアジア中小企業等との競争が激化している。
・既に、この競争関係は今後も益々激化して行くことが予想され、アジア中小製造業が凄まじい勢いで日本中小製造業を猛追している。
C中小製造業の技術戦略とアジア地域(企業)との棲み分け
・モノづくりの工程間分業による棲み分け
日本国内では、研究開発、設計あるいは仕上げといったモノづくりにおける「川上部分」と「川下部分」の両極のいずれかにおける「特化型企業」となることである。「川中部分」は海外に任せ、そのためには、海外企業との積極的な連携活動が不可欠な要素となるので、ローカル企業との交渉能力を磨く必要がある。
・より高度化なモノづくりによる棲み分け
国内及び海外他社が追随できない高度な生産システムや新素材の加工等を追求することで量産、非量産に関わりなく国内での生産活動を持続する。
・機械設備+熟練技能による棲み分け
極めて小規模企業の場合、「決して事業規模を拡大しない生業であるが故の利点=希少性」を活かしながら、高度な熟練技能集団に徹することで生き残りを図ることも一策かも知れない。そのためには、既述のように「機械設備(機器・道具)+熟練技能」を担う人材の獲得及び育成(技能伝承)が不可欠である。
4.陸上産業の分析による海上産業への示唆
4.1
異文化組織マネジメントの次元
からの示唆
陸上産業、すなわち機械関連製造業のアジア展開に伴う日系製造業の異文化組織マネジメントに属する事例分析及びアンケート調査結果から海上産業への示唆となると思われるインプリケーションについて整理すると以下のようになる。
@「二重の社会化」及び「2つの準拠集団」の存在
日系製造業では、その企業規模に関わりなく、生産拠点となった工場内においては、日本人スタッフの現地適応という「新たな社会化」と現地人従業員の日本的経営・生産スタイルへの適応という「新たな社会化」といった二重の社会化が存在している。さらに、日系製造業では、この二重の社会化と連動する形で「2つの準拠集団」が存在しており、この2種類の準拠集団による構成員間の葛藤が発生する場合がある。
ところで、このような「二重の社会化」及び「2つの準拠集団」という現象は、長期的な海外赴任が避けられない海運産業においても共通した問題と言えよう。特に「混乗船」のマネジメントにおいては、マニング会社の構成員及び混乗船の乗組員、さらに、全体をコントロールする海運会社(マネジメント会社)等々は多国籍化の様相を強めており、準拠集団は2つとは限らない状況にある。さらに、「混乗船」の船員の管理は基本的に24時間体制であり、そのマネジメントの全責任は船長に委ねられているため、準拠集団の種類とその構造及び船員スタッフ全員の社会化の方向性をつぶさに見極めることが不可欠となっている。このように、海上産業では陸上産業よりも複雑な異文化組織マネジメントが要求されるものと推察される。
A海上産業でも重要と思われる準拠集団の見通し機能
陸上産業のケーススタディでは、準拠集団の3つの機能について、現地人従業員にとっての機能と日本人スタッフにとっての機能の2つの側面から分析した。
現地人従業員のケースでは、日系製造業という組織体が期待する役割をしっかりと認知してもらうこと、つまり準拠集団の規範機能を発揮する方法として、基本的なQCサークルを導入している点が紹介されたが、これは日本的経営・生産スタイルの導入に関する統計的分析結果(図表5)においても重要性が指摘されており、異文化組織マネジメントを成功させる一つのヒントを提供しているものと推察される。
一方、現地人従業員にとって日系製造業に不足している準拠集団機能として「見通し機能」が指摘されたが、この問題は日系企業がどの程度の「現地化」を展開しているのか、企業全体としてグローバル経営をどのように位置づけているのかといった経営戦略と深く関わる問題であった。日系企業が現地人従業員にとって「将来も期待できる企業である」と認知してもらえる経営環境の構築が大きな課題であることが示された。
以上のような日系製造業における見通し機能の不足については、海上産業における異文化組織マネジメントにおいても共通する問題と言えるのはないだろうか。特に「ガラス張り天井」という言葉に象徴されるような「昇格システム」のあり方については、陸上産業のみならず海上産業でも、「何事も日本本社にお伺いを立てるといった意味での“日本的経営”」の体質が残されている可能性があるのではないだろうか。
BQCサークル及びOff-JTとしての日本研修の効果的活用
日系製造業の日本的経営・生産システムの現地への導入において重要となる要素として、QCサークル及びOff-JTが重要な役割を果たしていた(図表5)。特に、日系製造業のモノづくりの背景にある「規範」を理解してもらう上で、QCサークルは効果的な方法の1つであることが指摘された(現地人従業員の社会化のケース1を参照)。また、日本での研修の重要性、その滞在期間の持つ意味なども確認された。
以上のような陸上産業での異文化組織マネジメントにおけるQCサークル及びOff-JTとしての日本研修の効果的活用は、海上産業においても参考になる方法と思われるが、どのようなメンバーを対象に、どのようなプログラムによって研修等を実施するかは、製造業といった陸上産業以上の工夫が必要となるのかも知れない。
C
技術・技能の国際移転の次元からの示唆
陸上産業のみならず、海上産業においても「技術者不足」は国内外で深刻化しているようである。また、内航海運における高齢化や産業・技術の「空洞化」も深刻化していると聞いている。こうした産業を支える技術及び技能に関わる問題は、「人材問題」と言えるが、海上産業に必要とされる高度な技術や技能を如何に教育・伝承するのか、さらに、それらを「誰に教育・伝承」することがベストな対策なのかを体系的に考える時期にあるのではないだろうか。その際に大学や研究機関が果たす役割は非常に大きい(例えば、陸上産業では技能の伝承・高度化を重視した「ものつくり大学」が設立されている)。
なお、技術・技能の記述化・外部化・IT化と「身体」の活用という点も陸上産業と共通する課題を含んでいるのではないだろうか。特に、記述化・外部化・IT化においては、どのような国の「言語」に置き換えるのか、IT(情報技術→情報通信技術といった方がより正確であろう)の進展と教育・訓練とのバランス、さらに「身体」における修得をどのような割合でプログラムして行くのかといった問題については、「国際標準」を睨んだ上での「発展的・革新的プログラム」の構築が望まれる。
4.2 日本企業(産業)のアジアとの棲み分けの次元からの示唆
陸上産業では、生産拠点のみならず市場としての中国の台頭が著しく、日本のモノづくりは、日本、東南アジア及び中国といった「アジア内での3極化」の時代に入っており、この3極がどのような棲み分けを図り、どのようなネットワーク化を行うかによって企業競争力(国際競争力)が決定されると言っても過言ではなくなってきている。このような産業競争力の視点から見たアジア地域における「棲み分けの方法」は、陸上産業のみならず海上産業においても環境変化という意味で類似性を持っているものと予想される。
海上産業においては「ノルウェイ・スタイル」が教育・訓練・採用・企業マネジメントにおいて「日本・スタイル」とよく比較され、また「ノルウェイ・スタイル」の優位性が指摘されるが、さらに今後は当該産業分野においても中国企業の台頭は十分に予想されることから、「中国・スタイル」と呼ばれる新たなビジネスモデルが登場する可能性も否定できない。故に、海上産業では当該産業を取り巻くビジネス環境の変化、特にアジア地域におけるビジネス環境の変化を精査しながら、例えば「日本・中国の融合スタイル」といった独自のビジネスモデルを構築することで「ノルウェイ・スタイル」に対抗するといったような「戦略的連携と国際的棲み分け」を視野に入れたマネジメント戦略が必要なのではないだろうか。
(執筆:北嶋 守、要約:村山義夫)
E キャリアーコンピタンシー
1 流動化する外国人船員に対する将来的な人事労務管理の課題
1.1 雇用の流動化と船舶職員不足
日本の支配船の外航船員の圧倒的多数は外国人船員であり、大手外航船社では、フィリピン現地に船員教育訓練所を設立し、スカラーシップ制度の実施や、訓練生の受け入れなど、フィリピン人船舶職員の安定的な確保とともに質的な向上に努めてきている。
しかし、職員に対する需給状況は船員不足が伝えられ、流動化も以前から指摘されてきた問題点である。現在のフィリピン人船員を取り巻く状況から、彼らが今後とも日本船に乗船すると考えるのは安易であり、将来的な職員不足を念頭に置いた外国人船員の人事労務管理の方向性を模索しておく必要があるだろう。
1.2 外国人船員の将来的姿と流動化のコスト
日本人船員については、船員のライフサイクルそのものが従来のものと大きく様変わりし、船舶管理を海上面からも陸上面からもトータルに捉えられる人材が必要とされるようになってきている。経験・実績を積んだ外国人船員の海運界からのドロップアウトがもたらす損失はコスト的にも時間的にも計り知れないと思われる。比較的余裕のある現段階でこそ、将来的な視点にたち、海運企業のみならず、日本の海運界にとっても、重要な課題となる外国人船員の定着について考えていかなければならない。
1.3 流動化への対応の視点
流動化によって他産業・他企業にあった人材を獲得しうるチャンスが増えたのであり、そうしたチャンスをいかに有効に生かすかが、当該産業・当該企業にとってポジティブな課題である。いま、従来の採用基準の見直し、ハイパフォーマンスを生み出す行動特性をコンピテンシーという概念で捉え、採用希望者がどのようなコンピテンシーを有しているかを測定するという方法が採られることもある。期待される潜在的能力を持つ人材を確保し定着するには、コストの面からも、従業員あるいは社員のモチベーションの維持向上の面からも、彼らにとって充足するような方策が採られる必要があるだろう。
1.4 前提の変化
アジアに進出している日系企業の場合、人材の獲得の困難さや人材流出が極めて日常的な現象であると言われている。アジア地域が、単純労働力の供給源から、消費地域へと変わりつつあるという点を、人事管理の点から見て、過小に評価しているところにあるのではないだろうか。日本の外航海運においてもアジア各国を安価な労働力の供給源として見てきたが、その根底を支えてきたアジア諸国=労働供給国という図式に安易に頼ることができない状況が、すぐそこにやってきていることに気づかなければならないように思われる。
1.5 流動化への新たな対応の模索
外国人船員の定着を考える場合、当該国の消費社会性の程度や固有の文化性を考慮しつつ、入職時のミスマッチを極力抑える努力が必要であり、さらには、定着を促進する要因がどこにあるのかを探り、それを企業の側、あるいは海運界全体の側でどの程度充足できているのかどうかなど、複眼的に検討していかなければならない。
人材輩出企業を目指す経営を「知的資本経営」と呼び、企業においてますますコーポレートガバナンスが重視される時代になる。
2 陸上企業に見る人事人労務管理の将来的な課題に対して
2.1 能力開発について
能力開発は、企業の目標達成のために必要な人材の育成という観点が重視されるが、それだけでは、価値観が多様化し、雇用の流動化が常態化した現在、優秀な人材をできる限り留保しておく必要に迫られた企業にとって十分とは言えないだろう。
2.2 人事考課
人事考課についての考え方は、米国などで人事考課(merit
rating)から評価
(appraisal)へと呼称が変化し、その目的も個人の性格特性的なものから仕事の結果や達成、業績へと変化してきた 具体的には、能力については、基本的な能力としての知識・技能、習熟能力としての課題適応能力(理解力・判断力・企画力・開発力・決断力)、対人対応能力(表現力、折衝力、指導監督力・管理統率力)など、実績については、仕事の質と量や成果、課題・重点目標達成度、業務改善、指導・育成、統率・調整など、態度については、規律制、積極性、企業意識などが挙げられる(小野、1997)。
2.3 評価の方法
無作為に列挙すると、評定尺度法、プロブスト法、成績順違法、指導記録法、人物非核法、記録法(勤怠、産出、業績報告)、執務基準法、行動基準評価法、図式尺度法、自己評定、成績評語法、多項目総合評定法、クリティカル事例評価、チェックリスト、相対比較法、人物評語法、定期試験法、強制選択法、分布制限法などがあり、このうち評定尺度法や図式評定尺度法が最も普及している。
2.4 考課者訓練の重要性
考課者(上司)が被考課者(部下)を評価するわけであるが、考課者は評価のプロというわけではないため、そこには様々なバイアスが存在しうる。考課者の評価と被考課者の自己評価とが著しく食い違う場合などは、考課そのものへの不信を増大しかねないだろう。このため、考課を2段階に分け、一次考課者として直属の上司が、また二次考課者として、隣接部門の上司が、それぞれ評価を行い、バイアスを除去しようとする工夫も見られる。
目標管理と結びついた考課面接は、「共感、成熟した敬意、平等、支持的な情報の付与などによって特徴づけられ」、「考課者と被考課者が友好的な立場で同じレベルで話し合えるものでなくてならず、働く人々の尊重要求や成長要求を十分に満たすものであることが要求される」ということであった(小野、1997)。
3 コンピテンシーの概要
3.1 コンピテンシーという考え方
こうした能力開発の中核として現在最も注目を集めているのがコンピテンシーという概念だと言えるだろう。
仕事に対して最低限求められる要件と本来求められる要件とが明確にされた「コンピテンシー辞書」に基づいて会社は適材適所をはかり、戦略を実現し、個人はキャリアプランの実現を目指すことがコンピテンシー・マネジメントの仕組みである(富士ゼロックス)。
コンピテンシー辞書の基本の構成は、まず職種を超えて専門知識やスキルを使いこなす能力を「共通コンピテンシー」と名づけ、全社共通にしたうえで、各職種固有の専門知識やスキルは「専門コンピテンシー」と位置づける。さらにその上に、組織長や役員など大きな権限を委ねる人を決定する際には、個の自立と協同の精神をその内容とした「プライマリー・コンピテンシー」を定義する。
こうした動向を、「会社−個人対等型人材マネジメントへの流れ」と捉えている(小杉俊哉、2002)。社員が自ら学習し、自分のキャリアを考え、自分で責任を取ってもらう、すなわち自律してもらわなければならないのである。
3.2 コンピテンシーモデルとは
コンピテンシーとは、人間の行動や思考における有能さを捉えるための概念である。コンピテンシーは知識やスキルを用いて実際の成果や業績を生み出していく行動特性を重視し、単にどれほど知識やスキルを所有しているかを問うものではない。
ボイヤティスは優れたマネジャーのコンピテンシーとして21の項目を指摘し、それを6つのクラスターにまとめている。
@目標と行動の管理
:効率性指向、主体性の発揮、コンセプト分析、影響力への関心
Aリーダーシップ :自信、口頭によるプレゼンテーション、論理的思考、概念化
B人的資源管理 :社会的影響力の行使、他者をポジティブにとらえる、グループマネジメント、正確な自己評価
C部下への指揮命令:他者の育成、一方的パワーの行使、自由奔放さ
D他者指向 :自己管理、客観的認知能力、スタミナと順応性、親密な関係への関心
E専門知識 :専門知識、関連知識または用いられた知識
3.3 コンピテンシーモデルの設計
コンピテンシーの体系化については3つのアプローチが考えられている(古川、
2002)。
@リサーチベース・アプローチ
このアプローチは、「高業績者モデル」を提示し、その中で成果業績を上げている人材と平凡な業績しか上げられない人の差異を分析するものである。インタビューの結果を分析・整理して両者の相違を抽出する方法を採る。
A戦略ベース・アプローチ
未来や変革に必要な能力をモデル化しようとするものである。基本的には、企業のビジョンや戦略に沿ったコンピテンシーの開発を指向しており、組織のトップや組織のキーパーソンが想定する将来の挑戦的事項や機会とその実現に最も重要で緊要性の高いコンピテンシーを仮定する。
B価値ベース・アプローチ
これは経営理念型モデルとも言われるが、社員にはこうあってほしいという経営理念や企業独自の文化規範を具体的な行動指針に落とし込む手法である。
ボイヤティスのモデルを元に、外国人船員に求められるコンピタンシーを私論的に挙げるとすれば、次のような項目が指摘できるだろう。これは主として専門技術職のコンピタンシーの分析に基づくものである(スペンサー&スペンサー、2001)。
・達成重視
・インパクトと影響力
・概念化思考
・分析的思考
・イニシアティブ
・自己確信
・対人関係理解
・秩序への関心
・情報の探求
・チームワークと強調
・専門的能力
4 船員の人材開発
4.1 キャリアについて
日本の外航船社は、外国人船員と直接雇用契約を結んでいるわけではなく、彼らは、マンニング会社と期間雇用の契約を結び、日本の外航船社の支配船に乗船する。日本人船員とは雇用関係の質が根本的に異なる。従って、日本人船員が有するような意味での船社へのロイヤリティはそもそも持ちようがないと言えるだろう。将来に渡って、優秀な外国人船員のリピートを確保するためには、ロイヤリティをより高めるための方策だけではなく、彼らのキャリア開発の中で捉えていく発想が今後求められていくのではないかと思われる。
通常、キャリア開発には、3つのアプローチが考えられる(小杉、2002)。
@ジョブ・デザイン先行型
現在のジョブを中心に考えるキャリア開発のアプローチ。仕事の幅を広げる、深堀する、全く異なる仕事に就くなどの目標のたて方になる。企業に勤めている人が一番取りやすいアプローチ。
Aキャリア・デザイン先行型
最初にキャリアのビジョンををもち、そこに至るにはどのようなスキルや経験を積むか、という順番で考えるアプローチ。例えば、マーケッティングのプロになるとか社長になるというビジョンをもち、そこに至るにはどうしたらよいかと考えていく。
Bライフ・デザイン先行型
自分のしたい生活、人生のあり方をまず考えて、それを実現するにはどういうキャリアにするかというように考えるアプローチ。例えば、両親と一緒に故郷に住むにはどういう仕事があるかというように考える。
フィリピン人船員などの場合は、Bのライフ・デザイン先行型が多いように思われる。将来は自分の事業を興すとか、店を持つとか、そういった人生の目標がまずあり、そのために高収入を得る船員職業を選んだと考えられるケースが多いのではないか。また、家族共同体への思い入れが強いことが知られているが、家族に関わる何らかのインセンティブを与えることでリピートを確保するといった方策は、日本の外航船社において採用されているようである。彼らがどういったキャリアを描いているのか、それを正しく捉えることによって、彼らの希望や要求に応えられる人事管理が可能となる。
4.2 人材のポートフォリオ
企業にとって必要とされる人材のポートフォリオはいろいろなタイプに分類することができる。例えば、人材開発に要する期間が長期化か短期か、人材獲得コストが低いか高いかで、コア人材・世話人・職人・ポテンシャルの4つに分類している (ウイリアム・マーサー社、2001)。
原井は、運用−創造の軸と組織成果責任−個人成果責任の軸をクロスさせ、次のような4タイプの人材ポートフォリオを提示している(原井、2002)。
個人成果責任
「企業の永続的発展をリードしていく人材」と「定型業務を通じて貢献する人材」の2つのタイプは計画的な育成が必要とされ、「派遣・パート」といった人材と「特定の専門性で貢献する人材」の2つのタイプは報償による処遇が必要になると言う。
外国人船員の場合、聞き取り調査から伺える現状は、部員については「派遣・パート」、職員については、「特定の専門性で貢献する人材」といったタイプ分けができるかもしれない。外航船社は、マニラやシンガポールに教育訓練センターをおき、様々のプログラムを動員して外国人船員の海技知識やスキルの向上に努めていることは周知のことである。外国人船員が今後、組織成果責任をになうような人材になっていくのか、あるいはあくまでも個人成果責任の範囲で企業に貢献するのか、現状からは後者の可能性が高いようにも思われるが、即断はできないように思われる。
(執筆:金崎一郎、要約:村山義夫)
F 船長の経験にみる船内マネジメントの側面
船長として長年、フィリピン人船員との混乗船を経験した大野は自らの実践とそれを支える資料を収集して2冊の本にまとめた。その内容と本委員会の討議を以下に要約する。
1 職務能力
1.1 フィリピン人の特性と背景
日本人はフィリピン人船員のことを「単純労働に適している」とか、「日常的に行なう作業は任せていられるが、突発的な作業には適正がない」などと言われることがよくあるが、果たしてこの判断は正しいだろうか吟味してみたい。
@何故、単純労働に適しているのか
単純労働にまじめに取り組むことを、辛抱強い、我慢強い、自分の職務の責任感が強いという意味にとることができる。非日常的な作業には適性がないといわれるが、そのようなことはなく、少なくとも船長の意向、船主、用船者、船舶管理会社、検査機関など陸上側の立場を説明しておくことが必要で、日常的に情報を公開しておけば判断を大きく誤ることはない。
A何故、ミスを認め謝罪しないのか
ミスをした場合、謝罪をしないという指摘はあたっているが、その背景には日本人にはない精神性、すなわち「真の謝罪は神に対して行う」という宗教性が考えられる。
B何故、注意すると嫌がるのか
一般的に欧米人は職務の途中経過よりは結果を出すことを重視し、日本の社会では結果を出すまでの努力を含めて評価の対象にする。自分に与えられた職務について結果を自ら出すことを重視するために、結果が出る前に、誰かに注意を受けることには抵抗がある。
1.2 フィリピン人の職務能力
@何故、均一化されにくいのか
個人主義社会は成果主義、結果主義、実力主義などと言われ、お互いが競争関係になる。教える人が呼びかけなければ近づいてはいけない習慣がある。したがって、日本人が公平に知識・技術・ノウハウを教えると彼らは非常に感謝する。この実力主義は年功を超えて昇進する場合、お互いに人としての長所・短所でその結果昇進に差がついたと理解し、日本人が考えるような差別とか、不平等という感覚はほとんどなく、むしろ差がついているからこそ平等だと考える。
A何故、知識・技術・ノウハウを共有しにくいのか
その理由の一つは職務に対する自己責任感の強さが作用していると考えられる。結果として日本人が考える以上に貧弱な引継ぎをすることになるが、補うのは個人の努力、後任者の努力でしかない。なぜならば、自分の職務に対する自己責任を覚悟しているからである。
二つには自分の能力評価を堅持しようとする傾向がある。関係者の助言を得ようとしないために錯誤や盲点が発生しやすく、危機管理上の弱点になる。経験不足な人はどうしても見よう見真似の作業をしやすく、感覚的な作業になったり科学的な裏づけがなく作業する。
2 マネージメントへの提案
2.1 管理の実際
@管理者と部下の姿勢
フィリピン人から見てよい指導者とは部下を信じて、事故防止、緊急時を配慮しながら責任を持たせ、作業責任者に恥を欠かせないで、やる気を起こさせるように導くことができる人と考える。
日本的に叱咤激励することは逆効果で、叱ることは相手に責任逃れをさせるか、相手を萎縮させるか、もしくは相手が反発するかである。しかし、必要な注意・指摘はしなければならないので、先ず褒めながら、そこに注意・指摘事項を加えるか、タイミングを外しても、後日個人的に説明をするか、書面にして部屋に置いておくか、などの工夫が必要である。
A段階的な作業監督
作業計画は情報を収集し、手順をよく練って、なるべく作業自体を急がせない工夫が求められる。急がせることは指導者にそれだけの先見の明がないと理解される。そして作業は順序よく段階的に確認しながら実施させる。
B睡眠不足にさせない配慮
睡眠不足が蓄積すると極端に思考力が低下して次のようなことがよく見られる。
一桁の数字の加減算ができなくなって電卓を使ったり、二桁の船内電話番号が思い出せない、使い慣れた言葉を誤る。危険性が認識できずに安全対策がおろそかになったり、作業を合理的に行えず、的はずれな安全対策に人材を投入し過ぎて、多くの乗組員が睡眠不足に陥り、人為的ミスが発生しやすく、重大事故に繋がるおそれがある。これを防ぐには管理者自身が自分のエネルギーを消耗しないようなるべく部下に任せること、逆に状況に応じて管理者が部下に代わって仕事をして部下の負担を減らすなど睡眠不足にさせない配慮が大事である。
Cフィリピン人に教えてもらう
フィリピン人船員から教えてもらうことが指揮命令系統に支障を来すことはない。日本人船長が情報を公表してくれたこと、加えて、自分たちを無視して一方的に規則を提示しなかったこと、乗組員から意見を求めたことなどが大いに彼らの機嫌をよくすることになる。それに船長の真剣な訴えと協力を求める態度に共感も育まれる。フィリピン人は自信を持って報告するようになり、自然とよい船内雰囲気になり全員が誇りを感じながら職務に励むようになる。人間関係が自然で潤いが感じられるし、人間関係の潤いが事故の可能性を軽減する要因になる。
D その他
(1)職員と部員を同一視しない。
(2)個人的な相談に丁寧に対処する。
(3)事故の前兆を全員で見つける。
(4)船内生活にメリハリをつける。
(5)海難事故などは英文の新聞雑誌などを
即刻入手して公開する。
(6)喜怒哀楽は言葉でなくともよい。
(7)フィリピン人船長、機関長を海陸の板
ばさみにしない。
(8)船員の常務と常識は異なる。
(9)説得ではなく納得させること。
2.2 コミュニケーションへの提案
@ ていねいな表現
英語によるコミュニケーションをする場合にはなるべく丁寧な言葉と表現が必要になる。理由の一つは、緊急時、予定が急変した時など命令調に乱暴になりがちだが、日頃丁寧な言葉を使うと感情を和らげ、緊急時にはその重要性が伝わる。丁寧な表現は厳しく困難で嫌がる仕事でも断りにくい背景ができる。三つには、丁寧な表現のために質問や確認したい事項があれば、笑顔で簡単に質問をしてくれることである。四つには、丁寧な言葉づかいであれば意見の対立は生じたとしても感情の対立は緩和され、話し合い、情報を集め、分析でき問題解決しやすい。
A 英語力の乏しい場合
(1)簡単な感謝や丁寧な用語を使う
please,
thank you ,nice, good、
sorry, pardon, excuse
me, 程度を頻繁に使うように心がければ、特別に英語力がなくても十分に職務を伝え部下を指導することができる。
(2)掲示物の注意事項
公共の場所の整理整頓を掲示する場合には単に「整理整頓されたし」と掲示するよりは、前後に「please」、[thank
you]などの一言を加えることにより見違えるほどよい掲示物になる。
(3) 相手(君)を主語にしない
一般的に主語を相手にすると表現がきつくなるので、主語を相手(君)にするよりは自分を主語にして「私は未だ君の報告書を貰っていない」「I
havn’t received your report yet」の方が好ましい。
2.3 よい人材の確保への提案
@奨学金制度の検討
フィリピン国内での就職難があり、労働者だけではなく広い分野の専門家、例えば医者、看護師、建築家、学者など海外に進出する人は多くいる。一般的に船員を志す若い人々には経済的には恵まれていない人が多く、在学中にアルバイトをしなければならない。ノルウェーなどでは奨学金制度を活用して優秀でよい人材を確保しているようである。
A 昇進制度の検討
キーパーソンは日本人に限定した船社で、二等航海士が一等航海士の免状取得後すぐ退職してヨーロッパの船会社に転職し、後任の二等航海士は一等航海士の免状を取得しようというチャレンジ精神はないといった例がある。昇進の機会が限られることは仕事意欲を萎えさせる。
B 勤務評定の検討
多少経験のあるフィリピン人船員は勤務評定書の評定項目を理解しており、この背景を積極的に活用することができる。評定は仕事ぶりのみならず、習慣や態度に関するものを含めることによって、職務以外の船内秩序に指示がなくても自然に徹底する。
2.4 今後の見逃せない課題
経験が少ない人たちが指導・教育・監督せざるを得なくなり、緊急時に具体的にどうするかは不安な面が多い。その場合大切なことは、指示・命令は明確に具体的にしておくことが望まれる。
(執筆・要約:村山義夫)
第1編 まとめ
@グローバル化の視点の見直し
外航海運は一層グローバル展開が進む中で、経営の専門分化と現地移転、外国人船員と陸上スタッフの多国籍化、国内本社の技術力展開とそのスタッフ確保育成など多くの課題を抱えている。これらを考える際、「日本的経営」にこだわらずに、異質さが醸し出すシナジー効果や、特質とされた日本的経営の普遍的側面などを視野においた新しい目が必要である。
A国際経営の「内なる国際化」
我が国のこれまでの海運国際経営は、本国荷主を基点とするサービスの国際展開であり日本人による運営であった。しかし、現地生産と外国消費地の拡大に伴って増大する外地のサービス需要の把握やその提供といった最近の動向に対しては、国際的な運営が求められる。それには、これまで凝集性の高い高コンテクスト集団で通用した属人的で標準化されない業務内容の標準化と共通言語化(英語化)を進める必要性があり、スタッフには経営を含め幅広い範囲で現地と密接な関係をもつ人材の国際化が求められる。それらは、現地企業のみならず本社でも進めること、すなわち「内なる国際化」が必要である。
Bアジア文化圏に生きる
日本人の国際化はそう簡単なことではなく、混乗船の経験でも数多くその基本的問題が見られた。大きくはコミュニケーションと差別の問題であり、前者は、日本人の「察し」、日本語と英語の語彙の違い、非言語コミュニケーションの意味の違いについて文化的・社会的背景が異なる異文化接触機会が乏しいという日本人の特徴に由来する。後者は、日本人が同質性の高い安定した社会集団であることと、大戦と高度経済成長の経験ことによって、東アジア文化圏の人々に対して無意識の差別感になりがちなことに由来する。一方、日本人は東アジア文化圏の儒教的価値観が弱くなっているとはいえ、依然としてあり、異文化交流の経験が少ない日本人にとって東アジア文化圏の人々との交流をしやすくする文化的背景にある。この価値観を自覚的に理解することが、東アジア文化圏での交流とひいては欧米その他多様な文化と交流する安定したスタンスになりうる。
C 日本企業の現地化と役割
陸上産業も85年のプラザ合意以降の円高を契機に海外進出を盛んに行った。日系企業は現地人社会と日本人社会の二重社会が現出し、QCサークルや日本工場での研修などを通じた現地人の日本化、日本人の権威主義化や逆の現地志向がみられ、総体的には相互が接近してきた。その程度は職階、参加者の範囲、会議内容など集団と場の種類における使用言語に現れるが、次第に英語を基本とするように標準化が進んできた。経営スタイルは稟議制度をとる企業を中心に他の面でも日本的スタイルが強く採用されている。技能は日本からアジアへの「ヨコ移転」は進んでおり、時系列的な「タテ移転」には課題が多く、日本国内では空洞化が懸念されており、国内の技術開発「川上部分」と熟練工仕上げ「川下部分」の伝承と外地の流れ生産「川中部分」といった棲み分けが重要になる。協同する社会の形成、そこでのキャリア形成見通しやQCサークルと日本での研修による定着策、空洞化を来さないための技能教育・訓練の充実、人材開発と雇用の欧州海運との差別化などの陸上産業の取り組みは、海上産業でも共通する部分があるだろうと思われる。
D コンピテンシーによる人材開発
多様な人材を多様な職域で活用する必要性は次第に増してきている。人材開発は、有能な従業員の確保や就労意欲の発揚に影響し、ミスマッチは流出などの損失をもたらす。効果的な人事考課として、客観的で具体的な方法を確立する必要がある。そのための考え方がキャリアーコンピテンシーである。職種あるいは企業の戦略に応じた人材毎に、動機、資質、スキルを明確にして客観評価する方法である。船員には継続的に技能を蓄積して周囲を管理する立場や定型業務を一定期間達成する業務など多様であり、特に前者の安定的な展開が求められる。一般の技術職に求められるコンピテンシーを、これまで作業分析で明らかにされた職務内容から具体的評価事項を定めることによって可能となる。
E 海運マネジメントの実践例
一般に流布しているフィリピン人評価は日本人との比較による場合が多く、技能の向上意欲の弱さや失敗の隠蔽、技能の不均一や共有しにくさが指摘される。しかし異なる社会的、精神的環境を理解すればそれなりの意味を見出すことができる。一つは日本の集団主義的プロセス重視に対する個人主義的成果重視であり、二つには儒教的実利重視に対する一神教的神との契約重視である。このような特徴を考慮して実際のマネジメントを行う必要がある。それは個人を尊重し合う関係、個人の技能レベルを考慮した段階的作業、心身に過負荷を与えない作業計画、人格を尊重する姿勢である。多くの問題が生じるコミュニケーションでは心情的反発を来さない丁寧な表現、よい人材確保では奨学金、やる気の醸成では昇進可能性の明示が望まれる。
F おわりに
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