Maritime Labour Research Institute

財団法人海上労働科学研究所
    

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研究調査の概要

昭和48年度

1.船員福祉に関する調査(第2年度)

       担当者 篠原 陽一,青木 修次,服部 昭,小石 泰道,玉井 克輔
 今後の船員福祉のあり方を検討していくにあたって必要な基礎資料をうるため,昨年度につづき,各種の調査を実施した。
@船員の住宅と居住性向について昨年度にひきつづき,「船員の住宅と居住性向の現状」第2次調査を実施した。この調査は第1次調査が,船員家庭の分布および住宅を主とした居住性向を中心としたのに対して,主として住環境および住宅に関する意識と居住地域社会における人間関係および社会的活動の実態に重点をおき,船員家庭の地域社会とのかかわり方,その特殊性の有無について知ることを目的とした。調査対象は前年度調査対象者のなかから,世帯者のみ780家族をえらんだが,アンケート用紙の回収は436で55.9%であった。
A船員の趣味活動について
 船員がどのような趣味をもち,どのように趣味活動をおこなっているかを調査し,乗船,休暇というサイクルをうまく利用している趣味や,休暇を利用している趣味,乗船している時にこそできる趣味等,趣味自体のもつ特性を,船員がいかにうまく生活にとりいれているかを分析した。調査は,1973年11月におこなったが,その対象は1都3県居住の中核6社船員約200人,阪神,瀬戸内海地域居住の同船員約400人であった。調査結果からえられた知見は多岐にわたるが,趣味活動をおこなう船員とそうでない船員の落差がきわめて大きいという点にあり,前者においては船員という特殊性をいかして,積極的な活動がみられる。今後の船員福祉が,乗船,休暇のサイクルの利用,潜在的な趣味能力の開発,個人的な活動から集団的活動への指向などの観点をふまえて展開されるならば,その船員の余暇生活への貢献は大きくなろう。
B乗船中の生活行動について
 昨年度と同様な調査目的のもとに,内航労務協会加盟の内航船から,貨物船,セメント運搬船,自動車専用船,石炭運搬船,タンカー,合計20隻を選定,それら乗組員345名を対象に,生活時間・生活行動調査を実施した。内航船員の生活については,いままで調査が行なわれていなかった。
 そこで,単に停泊中の生活にとどまらず,航海中の生活についても調査を行なうとともに,前記調査対象のなかの貨物船1隻,タンカー2隻に,乗船調査を併せ行なった。
 内航船の航海期間は短かく,それに加えて,停泊期間が短かい,まして,専用船にあたっては,ますます停泊期間が短縮されている現状を考えると,今後,福祉活動に力を入れていかなければならない領域といえる。
C休暇中の生活行動について
 咋年度とほぼ同様な調査目的にしたがって,昨年度とは調査対象を変更して,休暇中船員の生活時間・生活行動調査を実施した。1973年11月時点における中核6社船員で,阪神・瀬戸内海地域に居住する中核6社船員約250入,全国に散在している内航労務協会船員約400人が,その調査対象である。その調査量がかなりぼう大なので,今後の詳しい分析にまたねばならないが,休暇取得形態のことなる外航船員と内航船員とのあいだで,また居住地とのちがいにおいて,生活時間の構成および生活行動の類型にかなりの相異がみいだされ,休暇生活の発展傾向をある程度・推察することができた。
 

2.有害物による船員健康検査基準に関する調査研究

                              担当者 久我 昌男
@目的
 前年度に引きつづき有機溶剤有害貨物(トルエン・キシレン)に注目し,さらに前年度の苛性ソーダに代る硫黄を対象とした。特に本調査結果から有機溶剤を運送する船員の健康管理上重要な使命をもつ健康検査項目についての検討を行なった。
A調査方法
 有機溶剤は大型船,小型船に分け,訪船し乗組員の採血採尿,血圧測定,自覚症状調査を行ない,生化学的,臨床医学上からその影響を測定し,なお有害物に対する代謝物の定量を行なって,その有害物接触量を測定した。硫黄に対してもその調査方法は有機溶剤の例と方針は同様である。なお大気中の汚染量測定は有機溶剤ではガスクロマトグラフィー定量法,硫黄は,比色法で行なった。
B結果
 有機溶剤について検診方法を検討し,硫黄においては有害防禦法を指示した。
 

3.騒音,振動の許容基準に関する調査研究

                         担当者 神田 寛、久我 昌男
 コンテナ船HT丸の乗船調査を中心にして,その許容基準設定に資するための実態把捉と実験的研究を実施した。
@騒音・振動の物理的測定
 航海中における機関室騒音のホン(A)値ならびに周波数分析,船員居住区の騒音レベルのホン(A)値,振動レベルVL値(騒音レベルのホン(A)に相当するもので,振動の大きさをあらわす感覚量)を測定した。
A心理学的手法による騒音・振動の評定法の検討
 セマンテック・デイファレンシャル法(SD法)による評定を実船で実施した。
 騒音ではSD法による評定尺度とホン(A)値の相関はきわめて高く,「どちらともいえない」の中性点は62.5ホン(A)となった。
 振動レベルとのSD法による評定尺度の関係においても高い相関が得られ,これらの資料と日本造船研究協会のSR112部会の振動感覚評定資料と合わせまとめ,VLによる評定尺度とISOの振動暴露基準との比較で検討することができた。「どちらともいえない」の中性点はVL 17dBであった。そして振動感覚評定上の種々の知見と振動評価法の目安が得られた。一方乗組員に対する騒音・振動に関する意見調査を実施した。
B機関部船員の聴力障害の検討
 HT丸の機関部船員の聴力検査と騒音暴露の実態を調べた。高令者2名に軽度の障害者がみられた。またM0チェック等機関室作業(1時間)前後における聴力変動を測定した。また,ISO Recomendation R1999「聴力保護のための職業性騒音暴露の評価法」との関係を考察し,HT丸その他機関部船員に考えられる暴露パターン別の評価例によって考察し,問題点を指摘した。
C脳波測定結果
 乗組員の年代を3段階に分類し就眠時の脳波について,就床時より起床時に至る全唾眠時間を,前頭,頭頂の単極誘導法にて測定した。分析については覚醒期(就床時),抑制期(ウトウト時),連波期,瘤波期(浅眠時),錘波期(中醒期,就床時),丘波期(深眠時)に細部に亘り分類し,さらに経過時間内の波型分布を計測した。
 結果は睡眠のパターンの観察上で年代の若年〜中年船員に瘤波期の出現が長く,錘波期,丘波期の出現が短い,また年令の加わるにつれてこの波型は反対に近い傾向が感じられた。
D副腎皮質ホルモン測定値結果
 17ケトステロイドホルモン・OHCSホルモンを24時間尿から定量した結果について,全般的な定量値では有意な値は認められなかった。但し作業前後の部分尿での変動では多少増加の傾向が認められていたが,本調査についてはさらに数多くの追試を必要とする。
Eその他の検査結果
 ウロペシン定量を行なったが特に有意な結果は得られなかった。但し尿中蛋白量及び一般血液臨床検査値は,一般船員と,機関部船員との区別し得る測定値を,全血比重,血色素値において認めたが,この点については本来の調査目的たる騒音,振動とはその結びつけができない。
 

4.船内食料消費動向調査(外航船)

                              担当者 小石 泰道
 船員法食料表改正資料を提供する目的で,外航船8集の昭和47年における年間購入食料の分析を実施し,つぎのような所見を得た。
(1)船員法食料表との比較
 各船とも食料表の規定量を上廻る食品群は油脂類・味噌・その他の野菜類で,これ以外の食品群では,規定量を下廻る船がみられた。
(2)年次比較
 同じ調査方法による昭和32年,41年の結果と比較すると,使用品目の多様化が目立つ。量的には,こく類では米・小麦粉の減少のなかで中華そばの増加が目立つ。動物性食品では,鮮塩魚介類の減少と獣鳥肉類の増加,乳製品,とくにエバミルクの増加がみられる。いも・野菜・果実類のなかでは,果実類が著しく増加している。
(3)一般世帯との比較
 一般世帯の階層別資料と比較すると,外航船は上位階層の消費構造と類似をみせるが,なお獣鳥肉類の消費水準が高い反面,乳・乳製品の消費は低位であるとか,果実類の消費量が少ないといった相異をみせる。
(4)船別差
 食品群別およびそのなかの各食品において,船別差が極めて大きいものが少なくない。そしてこの格差は航路等の補給事情によるとみられる部分は少なく,各船担当者の購入態度によるものとみられるので,今後の給食管理や教育指導が重視されてくる。
(5)冷凍および加工食品の利用状況
 各食品群にわたって使用品目数がふえているが,もち・麺・パンの成品購入,獣鳥肉類のカットもの,魚介類のドレスやフィレ,野菜・果実の缶詰・茶・調味料のインスタントものや,とうふ粉の使用などが目立つ。しかし,量的にはこれも船別差が大きく,その実態はまちまちである。
 

5.超自動化船に乗組む船員の労働と生活に関する研究−欧州諸国における将来の船員制度の調査研究の実態−

                        担当者 大橋 信夫,青木 修次
 本調査研究は今日までの諸研究調査の反省にもとづき,今後の新しい時代における船員職業のありかたを基本から再検討し,その方向づけを求めようとして企画されたものである。3年計画にわたるこの研究は第1年度である48年において,欧洲海運諸国にみるこの種の調査研究状況を把握することに中心をおいた。
(1)調査方法および対象
 ノルウェー,スエーデン,デンマーク,英国,西独,オランダ諸国における研究機関,政府担当者,船主,組合,教育担当者等々70人に面接し,特に将来における船員職業の方向づけとそのための政策,対策について話し合いの場をもち,多くの資料を得た。
(2)若干の感想
 1)今日,日本に伝えられている諸外国の情報について判断したり評価する時は,その背景等を十分配慮し,より深く検討する必要がある。
 2)いずれの国においても,この課題はかなり重視されており,課題解決のための研究はそのスタートラインに立ったばかりである。この意味では日本も立ち遅れていることはない。
 3)諸外国におけるいくつかの試みはかなり興味深いものであるが,これらの考え方,制度,方策は直接日本で応用できるとは考えられない。むしろ日本の状況にあった考え方,方法を着実に積みかさねてゆくべきであろう。
 

6.新鋭高速船における生活と集団機能との関連についての調査研究

                        担当者 大橋 信夫,青木 修次
 今後の船員職業を考えるにあたって必要な船内集団の社会的機能の展開の実態や,Mゼロ運航などにともなう作業態様(TASK)の変化がもたらすWORKの変化などを把握するため,NY航路のコンテナー船の乗船調査を行なった。調査方法も若干変更して,その時々の船内の情報の流れ,何事かが決定されてゆく過程とそれが各メンバーに及ほす影響,折々の会話,表情,感情の動きとその要因,などについて詳細に観察し記録することに重点をおいた。更に,我々の乗船前,下船後にも訪船を重ねて雰囲気の変化やその要因についてのFOLLOW UPも行なった。
 この調査は,会社及び乗組員の大変好意的な協力が得られたため,最初の試みとしてはかなりの成果を挙げることができた。結果の一部を要約すると次のとおりである。
(1)船内の雰囲気,人間関係などの社会的機能の良否は,直接的仕事の遂行に大きく影響する。
(2)船内組織のトップに居る人達が適切なリーダーーシップを発揮し,相互に良い人間関係を維持していれば,組織の末端に至るまでパートを越えた良い関係が維持される。
(3)職員・部員という階層を越えた好ましい関係も形成されつつあるが,これをより一層発展させるには,その時々トップの態度に影響されないように全社的な方向づけが必要である。
(4)集団維持,雰囲気づくりには少人数になる程パートを越えた仕事上の立場を相互に一層理解する必要があり,そのためには,相互に仕事を観察し勉強する機会のあることが望ましい。
(5)調査船では,機関部員のMゼロシステムに対する自主的・積極的な関与がみられたが,これも全社的な一致した方向づけがあれば一層有効である。
(6)船員職業を検討するためには,技術的問題もさることながら生活上の問題,社会的機能の展開の問題を,より一層深く検討する必要がある。
 

7.寒冷漁場における労働科学的調査

                               担当者 服部 昭
 北洋寒冷漁場に出漁する漁船乗組員の作業過程,労働負担,生活実態を調査し,そこから,労働科学的にみた問題点の整理,摘出を行なう。48年度は,その初年度として,遠洋底曳網漁業(北転船)を対象にして行なった。
 操業中の船内生活は,漁労作業によって規制され,不規則になる。漁労作業それ自身よりも,この不規則性によって機能低下がみられる。しかし操業期間が短かいために,機能低下の蓄積的な傾向は見られなかった。今回の調査期間中に発生しなかったが,船体着氷による除氷作業は,エネルギー代謝率が高いとともに,漁労作業にプラスされて行なわれる。したがって,船体着氷が発生したときの労働負担は,大きいと推測される。また今後の問題点として,漁獲量がすくなくなり,操業期間が長期化した時の労働負担の増加が指摘できる。
 

8.船員需給構造の調査分析

                              担当者 篠原 陽一
 今年度は,海運企業における雇用管理にかんする制度,その意識および若干の動態について,アンケート調査を実施し,その分析をおこなった。調査時期は1974年2月,調査対象は4つの船主団体加盟会社である。その調査結果は,現在分析中であるが,船員教育機関から安定的に新規採用を実施しうる企業と,そうでない企業における雇用管理の実態は,かなり大きな格差がみられ,また現在における雇用管理の再編成の時期にあたって,今後の雇用管理の原則的な観点については,それぞれの企業においてかなりの相異がみられはじめていることが注目された。
 

9.船員の体育に関する研究−1972年度体力測定の結果について−

                              担当者 広田 弥生
 1972年9月の安全衛生月間に行った体力測定の結果を報告する。この報告は1968年を初年度とし,今年で5回目になる。測定種目はこれまでと同じく,壮年体カテストの5種目であり,測定値の分析は5才区切り年令層で職員と部員にわけ,1971年の値、日本人平均値(文部省)との比較を行った。
 今回の報告で,従来は器具の精度の誤差等により測定値の分析が出来なかった握力が,初めて分析ができた。しかし他の4種目は,ほぼ60隻分の有効測定値があるのに対し,握力はまだ13隻の有効測定値しかないので測定値の詳細な分析は,来年度以降に見送らざるを得なかった。
 握力を除く他の4種目の結果の特徴は,1971年の傾向と同様であり、反復横とび,垂直とびは部員よりも職員がすぐれている年令層が多く,ジグザグドリブルと急歩は差がみられなかった。また垂直とびと急歩は日本人平均値にくらべて船員は劣っている年令層が多く,反復横とびとジグザグドリブルはすぐれている年令層が多い。

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