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財団法人海上労働科学研究所
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研究調査の概要昭和49年度1.船員の公害に関する調査研究(第2年度)
担当者 久我 昌男
(1)鉛について
船員の接触する重金属として考えられるものゝ代表的なものは,自動車専用船乗組員の排気ガス吸入からくる無機鉛の人体蓄積である。我々は沿岸フェリー3隻,遠洋専用船2隻,渡島フェリー2隻,計7隻について調査し,24時間尿,部分尿を各々検討し,船員体内鉛蓄積について検討した。
調査方法は,24時間尿を採取せしめた船舶2隻,部分尿で調査を行なったもの5隻を行ない,その各々に自覚症状アンケートと一酸化炭素汚染環境測定を併施した。
尿中鉛の平均は15μg/?〜80μg/?であるが,たかいものには300μg/?に及ぶものも1〜2名認められた。たまたまこのものは部分尿検査であるため明確な判断は不能であるが注目に価するものである。
自覚症状アンケート結果と尿中鉛量に関してはまったく関連性は認められなかったが,職種中,職歴と鉛量はあきらかに関連が得られる。
一酸化炭素汚染量と鉛量との関連はあきらかではなかったが,船艙内大気中,特に粉塵中の鉛量は予想外に大きい量を示していた。なお無機鉛中毒の判定法として本調査では尿中デルタアミノレプリン酸酵素定量を行なったが,尿中鉛量との相関定量値を認めた例が多い。
(2)漁船々員の体内蓄積水銀量について
漁船々員の体内蓄積水銀量について三崎港入港時の遠洋まぐろ船4隻について調査した。
調査方法は部分尿の分析によるものである。その際に一応臨床検査項目をも併施して水銀体内蓄積響を検討した。検査を行なった人員は40名であるが,臨床検査結果では蛋白尿の発生は多いが,水銀中毒に有意なウロビリノーゲン・ビリルビンの発生は少ない。
また尿中水銀量は平均18μg/?で意外に少ない結果を得ている。
職種,年令的には水銀量の変化は認められず現在の点では航海別に増減があると考えられるが,現在の調査時点ではあきらかでない。
2.騒音,振動の許容基準に関する調査研究(第3年度)
担当者 神田 寛,久我 昌男
タンカーM丸の乗船調査を中心として,その許容基準設定に資する実態把握と実験的研究を実施した。
(1)騒音,振動の物理的測定
航海中における機関室騒音のホン(A)値ならびに周波数分析,船員居住区の騒音レベルのホン(A)値,振動レベルVL値を測定した。
(2)セマンテック・ディファレンシャル法(S・D法)による判定を乗船で実施した。
騒音の音色判定用紙には13の形容詞尺度(前回の実船実験では6)を用い因子分析の結果,因子得点と物理量の関係を求めた。
振動評定では立位と臥位を実施し,物理量としてはVL,AL,VL(OB)max, VL(1/3OB)max,ならびに3次元振動のベクトルVLRを求め,それぞれの物理量と感覚量との相関々係を求め尺度化の検討をした。
一般に振動計測は,上下,前後,左右の各方向成分に分けて行なわれており,したがって心理量と対応する物理量として3方向のうち最大の方向の振動をとってきたが,今回は位相関係は無視して,単純に合成ベクトルの最大となる場合だけに着目した3次元振動ベクトルVLRを求めて,心理量との対応を検討してみた。
(3)現場の振動レベルをデータレコーダに記録してもちかえり,1/3オクターブ・バンド分析器により周波数分析して検討した。これまでオクターブ・バンド分析を使用してきた。ISOの基準では1/3オクターブ・バンドフィルタまたはそれ以下の狭帯域フィルタを用いることになっているが,これらのフィルタの違いによる評価値の検討が必要であった。今回の分析結果からこれらの関係が明らかになってきた。
(4)乗組員の各自室に対する騒音,振動に関する意見調査を実施し,各自室の物理量ホン(A),振動レベルVLとの対応を検討した。
設問45境目である。主軸法で因子分析し因子得点を物理量との対応でみると,物理量が増加すると苦情が増加するというはっきりした傾向がみられなかった。
(5)副腎皮質ホルモン測定結果
前年度に引きつづいて本調査においても尿中17ケトステロイドホルモンOHCSホルモンの判定を行なった。
測定条件については,24時間蓄尿について行ない,デュマイ入港中,川崎入港直前に採取してその比較を行なった。
17ケトステロイドホルモン量とOHCSホルモン量の対照は両者とも全般的に一般生理値に比し低い傾向がある。またデュマイ採取尿に対する川崎採取尿での両者ホルモン量は,デュマイ入港時に多く,川崎入港時に少ない。
職場別の両ホルモン量分布は明確を欠くが,機関部,司厨部の排泄量が他職種に比し少ない傾向を考えることができる。
(6)その他の検査結果
24時間尿で尿中クロールを定量したが,この場合は上記ホルモン量とは逆にホルモン量の少ない職場に多い排泄量が覗われており,職場内での温度環境と体液の移動が物語られている。
全員に採血による精密検査を行なったが有意なものとしては血球数減少性の貧血が多く見られ特に機関部にその発生が多い傾向があった。
3.有書物による船員健康検査基準に関する調査研究(第3年度)
担当者 久我 昌男
硫酸専用船について,その荷役時の環境測定を行ない,荷役中の環境条件を把握し乗組員全員の自覚症状を調査し,さらに採血,採尿を行ない貨物である硫酸が乗組員の人体に及ほす影響を調査した。
結果は硫酸からの発生ミストはポンプルーム,甲板,ハッチ附近も非常に少なかったので人体影響は考えられない量であった。
採血検査結果に全般的な症状として貧血と肝機能の低下せしもの,尿中蛋白尿の発生者が多かったが環境測定結果から硫酸の影響とは結びつけ難く,また硫酸と結びつけられぬ理由の証として尿中硫酸量は少なく積荷の影響による臨床検査結果ではないと考える。
4.超自動化船に乗組む船員の労働と生活に関する研究−新しい船員職業の設計(第2年度)
担当者 大橋 信夫,青木 修次,(波辺 俊道)
船員の将来像を考える場合,それがどんなものであれ,どんな変化を導入するのであれ,教育の問題を切りはなして考えることはできない。
そこで今年度は教育の問題を重点的に取りあげ,三つの観点からの分析を進めた。即ち,1)現在の学校教育における海事教育の内容とその水準,2)現在の企業内教育における海事教育の内容とその考え方,3)現在の新鋭船に至るまでの具体的職務の質的変遷と海事教育との関係,の三点からである。
これらの分析を通して,将釆なんらかの変化を導入する際の基本的方向とその導入の可能性,及び問題点の検討を行なった。
さらに,これらの検討の他に,これまで行なってきたいくつかの乗船調査の結果をもとにして,船内で具体的職務を円滑に遂行し集団としてのまとまりを得,安全を確保維持してゆく,などのために払われている船員の様々な工夫に関する整理を行なうと共に,船員を社会的存在として,”生活する人”という観念で把えることの妥当性を検討した。
5.漁船船内食料消費動向調査(第2年度)
担当者 小石 泰道
船員法食料表改正等に参考とする資料を提供する目的で実施された船内食料消費動向調査の第2年度として,漁船について行なった。
調査方法は,商船のように船社から購入伝票を借用することができないので,A,B二種類の調査票を作成し,対象船において記入してもらう方法をとった。A票には食品別の繰越,購入,残高を記録し,B票には実施献立,材料,分量を記録してもらい,A票の数量確認のための資料とした。
対象船舶は該当漁種を可及的に多く選び,これを全国の海運局に依頼して,調査票の配布回収にあたってもらった。
商船(外航船)の消費構造に近いものから漁船特有の片寄りのあるものまでその格差は大きく,この消費構造の格差が今後の問題となろう。
概して会社規模が大きく船も大きい場合は,献立の構成もよいが,船が小さいと献立の構成が悪るい船があり,何らかの教育指導が望まれる。
6.船員福祉に関する調査(第3年度)
担当者 篠原 陽一,青木 修次,服部 昭,小石 泰道,広田 弥生,(玉井 克輔)
(1)調査項目
@今年度は,−昨年来おこなってきた船員の休暇中の生活行動や趣味活動の調査も具体的な内容としてほりさげるため,中核2社の1都3県居住の船員の座談会(22人,延4回),および愛媛県西海町居住の船員の座談会(10人,延2回)を開催した。Aまた,船員の乗船・休暇交代制の第3の類型にあたる大型カーフェリー船員(4隻,250人)にたいし,休暇中の生活行動調査,および乗船による聞取り調査を実施した。B,一昨年来おこなってきた1都3県居住船員の住宅と居住性向・居住地域における生活行動も具体的な内容としてほりさげるため,若干の面接調査を実施した。さらに,主要な海運企業における従業員持家対策について,聞取り調査を実施した。C,船員の余暇施策の展開のための基礎資料として,船員の全国居住分布・地方自治体の船員行政について,アンケート調査や資料調査をおこなった。D,その他,今年度がこの調査事業の最終年度にあたるところから,いろいろな聞取り調査,資料収集調査,文献調査などを,広範におこなった。
(2)調査結果
今年度は,この調査事業の最終年度にあたるので,@,まず,総論・船員余暇白書をまとめた。その他,A休暇中の船員の座談会,B,首都圏に居住する船員の住宅と生活行動,C,大型カーフェリー船員の休暇中の生活行動,D,日本船員の全国居住分布と地方自治体の船員行政を,各論とした。
船員余暇白書は,まず船員の余暇問題とはなにかと題して,船員の年間休暇が70〜90日に増加しているにかかわらず,居住地域における余暇環境はきわめて劣悪であることから,船員特殊的な余暇環境の整備の必要性を強調し,つぎに船員の余暇活動の現状と展望と題して,調査資料を概括するとともに,船員の余暇活動の広範な展開の可能性を指摘し,船員が余暇環境の整備を強く要望していることをあきらかにし,さらに船員余暇センター構想の提唱と題して,船員特殊的な余暇環境の一つのあり方を,きわめて具体的なプランとして提唱した。
7.寒冷漁場における労働科学的調査(第2年度)
担当者 服部 昭
北洋寒冷漁場に出漁する漁船の作業過程,労働負担および生活実態を調査し,そこから労働科学的にみた問題点の整理,摘出を行なった。49年度は,2年度目として,昨年の遠洋底曳綱漁業(北転船)に引続いて,稚内港を根拠とする沖合底曳網漁業を対象にして,実施した。
操業中の船内生活は,漁労作業によって規制される。勤務時間の発生は,ランダムであり,また,その一連続の時間も一定していない。このような不規則制が,船内生活全体に影響を及ほしている。それとともに,乗組員にとって,やはり,漁模様が良いか,悪いか,それにともなっていつ帰港できるか,ということが,乗組員の心理的状態に大きくかかわりをもっている。
今回の調査時点を選定するに際して,船体着氷が発生しやすい時期を選んだが,除氷作業が行われたのは,1回だけであった。除氷作業それ自身の推定エネルギー代謝率は,高く,漁労作業と並行して,また頻発に行われるような状態になった場合には,その労働負荷は大きくなると予想される。現状では,船体着氷の予報面については前進がみられ、船体着氷注意報が地方気象台から発令されているが,現実に船体着氷が発生し,発達して行く過程で,いつ除氷作業を行なったら良いか,という判断を下すにあたって,より的確な情報が必要である。
8.船員の健康管理に関する研究
担当者 久我 昌男
船員の健康管理について施行した調査は,下記の如くである。
(1)健康調査票による調査 120名
(2)健康調査表を分析し,結果を診断し,さらに生化学検査を行なったもの 21名
(3)入社船員適性検査 29名
以上の結果,(1),(2)においては貧血,糖尿,消化器疾病の多発を認める。
3項の入社船員適性検査では,A,B,C,Dを階級別となし,Dは不合格とした判定結果では,A.5名,B〜C.20名,C〜Dは4名であった。
9.船員需給構造に関する調査(第2年度)
担当者 篠原 陽一
船員教育機関ごとの卒業者の船員定着状況や陸上転職状況についての調査は,いくつかおこなわれているが,商船高等専門学校卒業者については,いまだ1回もおこなわれてこなかった。そこで,富山商船高専を対象にえらび,2つの調査をおこなった。
まず,同高専卒業者が就職している海運企業にたいして,同校卒業者の定着状況と職位・陸勤状況について,アンケー卜調査を実施した。つぎに,戦後からの同校卒業者1,300人にたいし,学生時代の船員観,船員志望観,卒業後の船員観,定着観,定着性向,陸上転職者の転職理由,職業観についてアンケート調査を実施した。商船高専卒業者は商船大学卒業者にくらべ,労働力形成過程がかなりことなっていること,船員職業にたいする定着性向は高いが,企業にたいする定着性向はそれほど高くないこと,陸上転職にあたって学歴差が影響して不利であり,中小企業就職者が多いことなどがあきらかとなった。
10.操船情報処理の昼夜間の差について
担当者 大橋 信夫
瀬戸内海を航行する大型フェリーの船橋て交わされるコミュニケーションの分析を通して,操船のための情報処理が昼夜でどのような差があらわれるかについて調べた。
その結果,1)操船の難易度や処理すべき情報のひろがりをある程度あらわす指標として考案した情報密度も補助情報検索比も夜間の方が増大すること,2)他船の初認距離はレーダーで把握できない木船の場合は,夜間においてほぼ半分になること,3)同時に注意を払っている船の数は昼間は平均して1.24隻であるのに対し,夜間は1.54隻と多くなっていること,4)一隻に対する注意持続時間も夜間の方が長いこと,5)夜間の方が不確かな情報が増えるのでコミュニケーションのシークエンスが複雑になること,などが判った。さらに,昼間では,他船について交わされる情報のうち90%がいわゆる状況の報告であり,それは多くの場合はなんらかの動作と結びつくが,夜間の場合はそうした情報は70%にしかすぎず,残りの30%は,不確な情報をいくらかでも確かな情報に加工してゆくための質問・確認・再確認・そして推量というような機能を持つ情報であった。
また,昼間の場合は,情報の確認がなされなんらかの意志決定に至る前に推量という過程が入るが,夜間の場合はこの他に,確認に至る前の過程に堆量が重要な役割を果していることが判った。
このように昼とか夜とかいう環境条件の差が,人間の日常行動の中に大きな影響を与えるわけで操船の場合で考えれば,その影響が安全にどのように関係してくるか,技能との関連も含め,今後一層研究されなければならない。
なおこの研究は,Journl of Humam Ergology. Vol.3 p.29−43(東大出版)に英文で発表した。
11.船員の体育に関する研究
担当者 広田 弥生
某海運会社では毎年,船員労働安全衛生月間に全海上従業員に対し体力測定を実施している。
そして,その結果を安全対策や疾病予防対策を検討してゆく基確資料として利用すると共に,各人の自分の体力に対する自覚を高め,船内における体育・リクリエーションの振興にも役立てている。
この体力測定は,船内でも実施できてかつ一般陸上産業に従事する者の体力とも比較できるように,当研究所で考案し,さらに毎年各船から送られてくる測定結果を当研究所で分析し,全体的な把握及び経年変化について考察してきている。
今年度は過去6年間の実績をふまえて新らしい測定項目を追加し,より綿密な結果を得て,こうした全社的に体力測定を実施し,詳細な分析をすることの有効性を高められるように改善した。
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