Maritime Labour Research Institute

財団法人海上労働科学研究所
    

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研究調査の概要

昭和52年度

1.騒音振動の許容基準に関する調査研究(振動視覚)(3年計画第3年度)

                               担当者 神田 寛
 前年度までは,振動をうける眼球がどのような機序によって視力の減衰を生ずるかという基本的問題に重点をおいて結論をうることができた。本年度は,本来の目的である振動の許容基準の検討に発展させることができた。
 a.姿勢・全身振動レベルと振動数の視力への影響:姿勢は姿勢安定用脊もたれを使用したところの座位,立位,自動車用シートを使用した座位,やや自由な姿勢の立位である。最終的には,ISOの国際基準であり,また日本産業医学会の全身振動の許容基準ともなっている「疲労一能力減退曲線」を示す図に,直接プロットできる等視力減衰率曲線(または等視力効率曲線)を求めることができた。なお,視力減衰をおこすゾーンを,この国際基準に示すことができた。
 b.全身振動の読物の読みやすさに及はす影響:乗物に乗って新聞などを読もうとするとき,座位または立位の姿勢で,上下,水平の振動を全身にうけることによって読みにくくなることを経験している。このような全身振動の読物の読みやすさの程度をあらわす判断カテゴリが,振動加速度と振動数とどのような関係にあるかを実験的に求めた。そしてISOの基準を示す図に直線プロットできる読みやすさの段階を示すカテゴリ曲線を求めることができた。
 c.全身振動の双眼鏡視力に及ぼす影響:船橋における船長,航海士の作業能率に振動が影響する一つの具体的事実として,双眼鏡を使用する際,対象物が上下にいちじるしく変動して見えるため支障を生じることがある。これらの事実を全身振動における加速度と振動数とどのような関係にあるかを検討した。そして,これらの関係をISOの基準を示す図に直接プロットできる等双眼鏡視力曲線を求めることができた。
 d.全身振動と視標振動における視力減衰の比較検討:上下方向の正弦波振動を人体に加えると,見かけの視標変動が静止した視標をみた眼に生ずる。この見かけの視標変動幅を挟む視角をmil値であらわし,各振動数において等mil line における視力の変動を測定した。静止した人が上下方向の正弦波振動する等変位振幅,すなわちその等mil lineにおける視力の変動を測定した。そして両者の視力変動を比較することによって,振動と視機能の関係を検討した。この結果は視標が振動する場合の影響を検討する場合の基本的な事柄を示すものである。
また,眼球の飛越運動による眼球運動によって,2HZ以下において振動する視標が追跡されるところの眼球の視標追跡現象をアイ・マーク・レコーダによって解析することができた。
 

2.技術革新に対応した船舶司厨のあり方に関する開発研究(3年計画第3年度)

                              担当者 小石 泰道
 3年計画の最終年として,主として(1)調理工数の分析と,(2)船員の食事欲求に関する調査を実施した。
 調理工数に関しては,過去に多くの作業測定資料をストックしているので先ずこの資料の再集計を行なった。その結果,調理工程別の単位工数,単位工程時間の目安案と,それを用いた料理別の201食分の工数および工程時間の目安案を得た。料理数は462種で大型船に出現する料理の大半を占めている。これは今後の献立立案の基礎となるが,なお数値の信頼度を高める必要がある。
 食事欲求に関しては,外航船25隻にアンケートを依頼し,これを集計分析した。調査内容は,肥満度,健康度と食事制限,飲酒量,私物食品,献立や食事形式に関する希望意見を問うとともに,98種に分類した「まとまり料理」ごとの月間希望回数を記入してもらった。約500人の回答を得たが,(1)肥満者は10%,(2)20%以上の船員が健康や年令などで喫食制限をしているにも抱らず,料理の欲求回数には反映していなかった。欲求差は個人的な嗜好の違いによるものと考えられる。なお詳細をみた上,今後の献立や加工食品の検討に反映させたい。
 

3.海上労働災害の原因究明に関する調査研究(第2年度)

@労働災害の事例研究                     担当者 服部 昭
 労働災害の事例を数多く蒐集することによって,そこから災害発生の原因を知る手がかりを得ようとして実施した。運輸省の船員災害疾病発生状況報告によれば,漁船のなかでも沖合底びき網漁船に災害が多くみられる。そこで,今年度は,前年度に引続いて,沖合底びき網漁船員を対象にして,根拠地をかえて災害事例の蒐集を行なった。
 
A船員の酸欠事故原因究明に関する調査研究           担当者 久我 昌男
 船員の酸欠事故はいつも繰り返されるような状況で思わぬ機会に発生し,さらに事故の救助にあたって発生するこ二重事故も多い。このような酸欠事故の原因を究明する目的で次の調査を行なった。
 a.チップ船船内酸素量
・北米積チップ船の未開放船を選定し,艙内大気を採取し分析を行なった。その結果は炭酸ガスが最も多く,次いでアルコール系ガスが多く,普通含有きれる酸素は駆逐されて酸欠の状態を呈していた。しかしハッチの開放によって数分の後に正常状態に復したが,荷役中に生じるチップの凹所では酸素量が13%以下になる場合が多いことがわかった。また艙内温度の上昇は酸素駆逐の原因となりやすく,炭酸ガスの発生を多くする。
 b.石炭船船艙内酸素量
 石炭の場合には,艙内の荷物量には関係が少ない。荷物の型が粉炭の場合は塊炭に比し酸素量は安全であるが,メタンガスの量にも注意が必要である。メタンガス発生による酸素駆逐によって酸素欠乏となり,その度合いは艙内の湿度に比例するように考えられる。
 以上の調査結果から,荷役前の換気を充分に行ない,酸素濃度の測定を荷役中にも数回実施し他ガスの発生による酸素の駆逐は充分に監視する必要がある。
 

4.船員の心肺機能に関する調査研究(3年計画第1年度)

                              担当者 久我 昌男
 近年フェリーボートの就航便数も利用者も増加しており,搭載自動車の排気ガスによるフェリー船内環境汚染が注目されて来ているが,一酸化炭素等の排気ガスによる影響にもまして気中の粉じんの害を考えなければならない。現在フェリーボートの乗組員について,粉じんに関した健康管理の問題はないが,このような問題は長期に亘って人体影響が考えられるものであることから調査を行なった。
 調査の方法は,陸上産業塵肺法の一次検診ならびに二次検診の一部を採用した。レントゲン胸部直接撮影,スパイロメトリー法による秒率,努力性肺活量等による心肺機能検診ならびに血圧測定を併施し,90名について実施した。
 結果は,胸部レントゲンでは塵肺の明らかな所見を認めたものがないが,放置できないものに,秒率肺活量値の低下にみられる肺機能低下を示すもの数名が認められ,また肺のレントゲンにも軽く早期,又は軽いカーボン塵の所見を感じるものがあった。
 

5.船員福祉の理念とその具体策に関する調査研究(3年計画第3年度)

       担当者 篠原 陽一,青木 修次,服部 昭,小石 泰道,広田 
@船員家族に関する実態調査
 船員家族に関する実態調査は,1956年,1961〜66年におこなわれている。最近,船員家族をめぐる環境変化にはめざましいものがあるので,その実態調査をおこない,今後の船員福祉のあり方を検討する参考資料とすることにした。
1977年11月,神奈川,岡山,石川県に居住する各500人の船員家族(妻)にアンケート調査を実施し,それぞれ296人,292人,213人の有効資料をえた。さらに,補足調査として,休暇中の船員(夫)に対してもアンケート調査を実施し,320人の有効資料をえた。
調査内容は,家族・家庭生活,留守にともなう問題,主人の職業問題,結婚問題,家庭生活,子どもについて,妻の職業や余暇についてである。
 この船員家族調査によってえられた知見を列挙すれば,次の通りである。
家族形態の核家族の傾向がつよまっている,居住地は親との結びつきがつよい,子どもの大学志向がみられる,持家傾向がつよい,家事の親依存がみられる,夫の船員継続希望がつよまっている,船員を夫とすることへの迷いは少ない,情緒的な夫婦関係への欲求がつよい,夫の子どもへの関与評価が少し低い,長期休暇にともない家族内情緒のつよまりがみられるが,他方夫婦間の緊張や家計の圧迫がみられるとしている,約30%の妻が働いている,その就業理由は生活費の補助や無為にすごしたくない,趣味・スポーツへの志向がつよい,夫の妻に対する評価は低い,夫の妻の就労への拒否傾向がみられるなどである。
A港湾都市と船員福祉に関する調査
 近年,外航船員を中心として,大港湾都市への集中定住化の現象がみられる。そこで横浜市を例にとり,(1)地域別の船員家庭分布(2)そこに住む現役船員の福祉欲求と(3)定年退職した船員出身者の福祉欲求を調査した。現役船員では22%がスポーツを,35%が趣味を縦続的に行なっており,地域船員施設を望む者が多い。
また63%が地域の相談窓口を望んでおり,10%の家庭に要介護者がおり,ボランタリーへの参加希望者も少なくなかった。退職船員では,60才台では就労意欲がさかんで,25%が「就労相談」の経験をもつ。75才をこえると,本人の不健康,妻の死亡や不健康がふえ,孤独者や要介護者がふえていく。交友者なども年令とともにふえ,不健康者では70%も交友が途絶えてゆく。
 

6.船員制度近代化対策のための調査

                   担当者 大橋 信夫,青木 修次,服部 昭
 船員制度近代化調査のため,運輸省(船員制度近代化対策のための調査),日本海技協会(船舶の航行安全に関する調査研究)・船員制度近代化調査協議会(将来の新船員制度策定のために必要なMゼロ船の船内就労実態の調査・海外動向調査並びに各種資料の収集)から委託されて,コンテナー船・鉱石船・タンカーの3隻における一航海宛の実船調査,イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンの4ケ国に関する2週間にわたる海外調査,これらの関連調査を実施した。なお調査は,当研究所の研究者だけでなく,労・使から当研究所に嘱託として派遣された調査員をはじめとし,多くの関係者の協力によって実施された。
 

7.遠洋漁船乗組員の就労実態及びライフサイクルに関する調査研究

                         担当者 服部 昭,大橋 信夫
 沖合底びき網漁業(兵庫県城崎郡),遠洋底びき網漁業(宮城県塩釜市,石巻市),以西底びき網漁業(福岡県福岡市)に従事している漁船乗組員及び過去に当該漁業に従事していた漁船乗組員を対象にして,年間就労状況,職業歴,漁業歴,将来の職業設計等について,アンケート調査,現地での面接聞取り調査を実施し,その結果をとりまとめた。
 なお,この調査研究事業は,社団法人大日本水産会が当研究所の研究員に委嘱するという形式で実施したものである。
 

10.船員の健康管理

                              担当者 久我 昌男
@漁船々員の健康管理
 遠洋まぐろ延縄漁船2隻を三崎港において集団検診を行なった(人間ドック形式)結果は腰痛者26名を認めた(40人中)。原因は複雑なものが推察されるが,やはり血清脂質代謝の異常が前年度に比し変らず,脂質の異常が強くこの点から来る原因を無視することはできない。
A水先入会健康管理
 東京水先区水先人会人間ドックを行なった結果は血液条件の良好なことを中心に体力の充分なることを認めており,胃のレントゲン検診においても異常なものがみとめられない。B大型カーフェリー船員の健康調査
 沿岸カーフェリー会社28社の船員5,000名を対照に健康調査表による調査を行ない,うち1,013名の自覚症状50%以上のものに対して,尿中鉛定量を行なった結果は次の如くである。
 尿中鉛平均     32.55μg/?
  その内訳 甲板部 33μg/?
       機関部 30μg/?
       司尉部 35μg/?
 以上の結果から車輌を直接取り扱う甲板部に尿中鉛の定量値がたかく,さらに船艙内へと乗客を案内する司厨部に尿中鉛定量値が多いことが認められるが,いずれも正常他の範囲を超えてはいなかった。
C某海運会社海上従業員の体力の分析
                               担当 広田 弥生
 船上で実施した海上従業員の体力測定の結果を分析した。今年で10年度になり,あわせて個人の自主的健康管理と健康状態についても実態を知ることができた。
 
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