Maritime Labour Research Institute

財団法人海上労働科学研究所
    

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研究調査の概要

昭和56年度

1.船員の健康スクリーニング検査の手法に関する研究(1年計画)

                 担当者 久我昌男
ボート免許講習資格取得時における聴力検査時に行なわれる秒針法は,最近の時計の構造が水晶発振のため,秒時音が低く,聴力検査を行なえない事例が多くなっていることが確認されている。
 当診療所においてボート免許者身体検査を行なう機会を利用して,聴力検査時に音叉法,?語法を行ない,さらにオージオメーター検査値に比較し,なおガルトン笛をも用い検査値の検討を行なった。
 結果は音叉法が簡便で且つ実用性が高いことが確認された。その他3メートル視力表,尿検査において,ビリルビン検査の必要性,カーフェリー船員における健康検査時には,排気ガス吸入の人体影響のスクリーニングを必要とすることを確認し,またスパイログラムによる1秒率測定を必要とすることを確認した。
 

2.蒸溜水、ミネラル添加水の飲用による人体影響に関する研究(1年計画)

                担当者 久我昌男                
(1)目的
 昭和50年に船舶飲料水の現状を調査し,その対策を検討し,昭和51年にはラット140頭を用いて,蒸溜水人体影響を実験した。今年度はさらに蒸留水に添加したクガオケアノスの人体影響はもちろん,蒸留水飲用の害で前回明らかな所有を確認できなかった病理学的所見,すなわちラット腎,細尿管析出蛋白質についての消長を検討した。
(2)結  果
 (a)成育実験は,蒸留水を与えて飼育したラットに成長の遅延があるのは確実であり,クガオケアノス添加水を与えて飼育したラットの成育にはムラが認められる。
 (b)腎細尿管析出蛋白質はクガオケアノス添加群では稀に認められるのみであって,添加物の有効性が明らかである。
 (c)生化学分析値・・・臓器分析値については前回実験と変化はないが,添加水群に影響が少ない。
 

3.機関部員の騒音性難聴の実態に関する研究(2ケ年計画第2年度)

                担当者 神田 寛 
昨年度につづいて471名の聴力検査を実施した。そして最終報告として商船の操機手と甲板手を中心とする,甲・機船員418名と,稚内沖底曳,北陸沖底曳漁船の甲機船員,銚子の沖底曳またはまき網漁船機関長の計223名の漁船員の聴力検査結果をまとめた。
 評価にあたっては,労働省の労災補償保険法で平均純音聴力損失といわれる六分法を中心として検討している。
 その結果としては,機関部船員に騒音性難聴がみられ,また甲板部員にも,機関部船員より軽度であるが,これが認められた。
 船員の騒音性難聴者の発生率と造船所従業員のその発生率の比較では,全体的には船員の方が軽度であったが,稚内沖底曳漁船の機関長,機関部員は労災補償の対象となるような者が34%も発生し,さらにこのうち機関長だけの成績でみると50%というようなきわめて程度の高い聴力障害の状態がみられた。このことから,船員の聴力障害度は,騒音にばく露される労働条件に左右されることがわかる。
 稚内沖底曳漁船は124トン塑の高馬力を必要とする漁船であるが,これに類する大型の沖底曳漁船でも聴力障害が特に心配され,聴力保護具の着用を急いで指導し,その着用を義務づける必要がある。
 稚内沖底曳漁船以外の商船,漁船は,これらに比べて軽度とはいえ,労災補償の対象に該当する者も少なからずみられた。機関部船員は勿論のこと,落し作業などの騒音にばく露される甲板部船員も聴力保護具の着用とその指導が必要である。
 商船機関部船員の10年前の聴力検査の成績と今回の商船機関部船員の成績とを比較することができたが,今回の成績の方が軽度であった。
このことは,舶用機関の自動化にともなう機関制御室の設置または夜間のMO当直の実施などによる当直員の騒音ばく露時間の短縮が反影しているものと考えられる。また,今回の沖底曳漁船で稚内に比べて北陸では聴力障害がきわめて軽度であったが,この原因は北陸沖底曳漁船は機関の自動化が進んでリモートコントロールできるようになっていることによると考えられる。これらのことから,騒音ばく露時間の短縮となるような設備の改善も聴力障害度を左右していることがわかる。
 

4.海上生活の特殊性にもとづく労働の評価法に関する予備的研究(1年計画)

                担当者 大橋信夫,服部 昭 
技術革新の展開によって,技能的にも,社会的にも大きく変容している海上労働の労働負担について,新しい観点から評価する方法を模索し,今後の研究の手がかりを求めることを目的として,予備的な研究を実施した。
 すなわち,関連文献の収集につとめると共に,これまでに我々が実施してきた船員の労働負担にかかわる研究によって得られている資料を再分析し,さらに現場船員に対する面接調査等を実施した。
 その結果,海上労働の労働負担の問題を考えるに際しては,負担によって生じている,いわゆる生理的・心理的・生化学的な生体反応を把えることも重要であるが,負担要因そのものを先ず記述することも必要であると考えられた。
 そこで負担要因とその相互関連について若干の考察とまとめを行ない,今後の研究の枠組を検討した。
 なお,この研究の実施にあたっては,筆者らがアクティブなメンバーの一人になっている産業衛生学会・産業疲労研究会の方々から,貴重な示唆を日常的に得ていることを記しておきたい。
 

5.船員需給と船員職業紹介の変せんに関する調査研究(1年計画)

                担当者 篠原陽一,青木修次,小石泰道 
船員労働力は,全国的な労働市場に依存しながらも,それと分断したかたちで,若年労働力の養成と吸収を通じて,供給されて来た。
 それを前提にして,その需要は海運産業の景気変動や戦争によって結果として,船員の余剰・不足というたえざる変動をくりかえして来た。
それでも1960年代末までは,船員の雇用量が長期的に減少することはなかった。最近の減少は,海運産業の国際化という,いままでにない構造的な要因にもとづくものである。
 そこで,1970年代における船員の需給について,まず全国的な動向については統計資料,具体的で地域的な動向については聞取り調査により分析した。
 現在,指摘されている船員不足は長期的にみて,伝統的な船員需給源地域の解体,若年労働力の減少,その就業傾向,海運産業の職業的魅力の減少,船員職業紹介の地域的な不均衡などからみて,相当深刻なものとなると予想される。
 

6.食料給与の方法研究(1年計画)

                担当者 小石泰道 
外航船の船内給食メニュー及び食材開発方法について調査研究を行なう計画になっていたが,船内食料研究会に諮った結果,食材開発の検討は未だ機が熟していないという観点から,現場における献立作成の参考資料となりうるものをつくることになった。その結果本年度はつぎの資料を作成した。
 (1)外航船用単位料理一覧表
 (2)これを用いた30日サイクルの献立例
 (3)外航船用食品群別荷重平均成分表の改訂版
 一方,近代化実験船の乗船調査結果から乗組員の実情をふまえたバランスのよい食餌摂取のあり方をまとめた。今後成人病予防を考慮した献立の作成,実行にあたっては,船員法食料表や労働協約面での改訂が前提として必要であり,新たな献立資料の作成については,今後の情勢堆移をみてゆくことで,船内食料研究会の決定をみた。
 

7.有害物による船員の健康障害に関する実態調査(2年計画、第1年度)

                担当者 久我昌男,村山義夫 
ケミカル輸送を専門に行なっている某社のケミカルタンカー船船員の危険物取扱い時健康検査を70名を対象に行った。
 方法は,環境測定をかねて血液生化学分析を行なった結果,荷役中の船上貨物ガスによる大気汚染は測定個所によっては許容濃度の数倍にも及ぶ実例が少なくないことが確認された。
 又人体影響については,検診時に明らかな中毒症状を示している被験者は認められなかったが,しかし中毒性代謝物に関する検査では,危険貨物ばくろを証明することができる異常値のものが各船に多数認められている。
 対策としては,甲板上や,ポンプルーム作業,タンク掃除作業時の貨物接触機会の注意,認識を各船員に徹底せしめ,さらには特珠検診の身体検査項目について各指定医に労働衛生学的認識をあきらかにするように指導する必要が急務である。
 

8.船員の健康管理

                担当者 久我昌男 
前年度にひきつづき神奈川県三崎の漁船々主から,近年多くなりつつある健康障害による出漁中途帰国者の予防のための健康管理の要請があり,今年度は2隻の合計42名を対象とした。
 結果において,最も注目されるのは循環器系とくに心臓疾患であり,治療を要するものも多い。今年度は長期出漁後の入港船について実施したため,下船中における治療の指示が有効となった。
 また,漁船員の出港直前または入港直後における標準値を知る上で有意義であった。特に血液系検査値は心臓疾患との関連で貴重な資料を得ることができた。

 

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